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福田雄一が引き継ぐコントバラエティの伝統 『今日から俺は!!』OPから作り込まれた世界観を読む

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リアルサウンド

 『今日から俺は!!』(日本テレビ系)が好評だ。

 日曜夜22時30分から放送されている本作は、『少年サンデー』(小学館)で連載されていた西森博之の少年漫画をドラマ化したものだ。物語の舞台は80年代。主人公は千葉県にある市立軟葉高校に転校してきた三橋貴志(賀来賢人)と伊藤真司(伊藤健太郎)の二人。三橋は髪を金髪に、伊藤は髪をトゲトゲ頭にし、不良として高校デビュー。不良たちと次々とケンカを繰り広げながら、同級生のスケバンや風紀委員とも仲良くなるというラブコメテイストのヤンキーモノである。

【動画】主題歌・男の勲章ノーカット引きカメラ映像

 脚本とチーフ演出を担当しているのは福田雄一。テレビドラマでは『33分探偵』(フジテレビ系)や『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)、映画では『銀魂』などのコメディ作品で知られるヒットメイカーだ。

 一時期は深夜ドラマに必ず一作は福田作品があるという状況が続いていたが、福田ドラマはワン・アンド・オンリーの存在で、特に、自分で書いた脚本を自分自身で演出するようになってからは、その独自性が際立っている。

 その意味で、コメディ作家であると同時に、優れた映像作家だと言えよう。『今日から俺は!!』でも、映像に対するこだわりは健在だ。本作を見て何より驚くのは、舞台となる80年代を再現しようとする作り込みの深さだ。

 例えばOPの主題歌を歌うライブ映像。80年代にデビューし、本作でもナレーションを担当しているタレント・嶋大輔の代表曲「男の勲章」をドラマ出演者で結成した“今日俺バンド”がカバーしているライブ映像が流れるのだが、このライブ映像が本当に素晴らしい。テロップは大きめで映像は少し粗く、まるでブラウン管で80年代に放送されたものを見ているかのようである。

 こういった作品の世界観を作り込む映像へのこだわりは、同じ80年代を舞台にした『アオイホノオ』(テレビ東京系)から強まっている。福田が脚本と演出を兼任しているからこそ、ここまで細部のディテールを追求できるのだ。

 それは役者の見せ方においても同様である。福田は俳優の魅力を引き出すのが、とても上手い。『今日から俺は!!』では主演の賀来賢人と伊藤健太郎を筆頭に、清野菜名、橋本環奈といった女優陣もアクションとコメディを通して、今までにない魅力を引き出すことに成功している。特に橋本環奈は『銀魂』以降、福田作品になくてはならない存在だ。「千年に一人の逸材」と言われる美少女アイドルの橋本に、白目を向くような顔芸を演じさせることで、コメディエンヌとしての才能を開眼させたのだ。

 また、福田ドラマの2トップと言える佐藤二朗とムロツヨシが、屋台骨をしっかり支えているのはもちろんのこと、鈴木伸之、太賀、矢本悠馬といった若手俳優もいい仕事をしている。小栗旬、柳楽優弥、山田孝之がカメオ出演したのも話題となっているが、彼らは過去に福田ドラマで主演を務めた俳優で、福田ドラマをきっかけにコメディの才能を大きく開花させた。

 映像も芝居も充実している福田ドラマだが、今、彼の作品に注目が集まるのは、滅びつつある、コントバラエティの伝統を、結果的に引き継いでいるからだ。テレビ黎明期から、作り込まれたコントバラエティはテレビにおける花形だった。しかし、手間と予算がかかりすぎるため、今は『LIFE~人生に捧げるコント~』(NHK)がかろうじて残っているくらいで、お笑い番組の主流は、低予算で量産することができる『電波少年』(日本テレビ系)以降のドキュメンタリー型や、『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)のようなショートコントや漫才を対決形式で見せるもの、そして『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のような、ひな壇で複数の芸人が延々と喋るものとなっている。

 これは他のジャンルでも同様のことが起きている。歌やお笑いといった芸よりも、それらを武器にプレイヤー同士が戦うゲーム的状況や楽屋裏のコミュニケーションを見せる方に娯楽の主流が移ってしまったのだ。

 そんな中、例外的にコントバラエティ的なものが成立しているのが、テレビドラマである。堤幸彦演出の『TRICK』(テレビ朝日系)や宮藤官九郎脚本の『木更津キャッツアイ』(TBS系)、古沢良太脚本の『リーガルハイ』(フジテレビ系)、バカリズムが原作・脚本を担当した『架空OL日記』(日本テレビ系)等は、テレビドラマという枠組みを用いることで、コントバラエティとしても成立しているが、結果的にそれをもっとも体現しているのが福田のドラマである。

 ドキュメンタリーやトーナメント型のゲームで見せる対立型のお笑いを全否定するつもりはないが、どこか殺伐としたものを感じて居心地が悪い。本来、お笑いとはもっと人の弱さや愚かさを優しく包んでくれるものではなかったかと思うのだ。くだらない脱力系の笑いを繰り広げながら、役者の魅力を引き立てる福田のドラマが持つ包容力は、作り込んだ虚構性があってこそ成立する現代の楽園ではないかと思う。

(成馬零一)