忘れられないあのライブ 第6回 Aマッソが語る、熱量高かった「バスク」や原点といえる「尻ペチカ」の思い出
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お笑い好きの私たちに「忘れられないあのライブ」があるように、芸人にもそんなライブがあるだろうか? ウケた、スベった、隣の芸人が爆笑を取って悔しかった……出演者として体験した「忘れられないあのライブ」、そしてお客さんとして心揺さぶられた「忘れられないあのライブ」について、芸人たちに聞いてみる。第6回はAマッソ。間近に控えた公演「滑稽」についても語ってもらった。
取材 / 塚越嵩大
忘れられない“出た”ライブ
熱量が高かった「バスク」、原点の「尻ペチカ」
加納 一番記憶に残ってるのは、3~4年くらいやってた主催ライブ「バスク」。芸人が面白いと思う芸人を呼ぶライブで、出演者たちがほかの出演者のことをみんな大好きな感じとか、全組の袖がギュウギュウで楽屋がすっからかんな感じとか、とにかく全体の熱量が高かったです。最若手くらいの真空ジェシカが、最初から最後まで袖でネタを見ていたこととかを覚えてます(参考:真空ジェシカが語る、地獄みたいなライブや芸風が歪み始めたライブ)。当時は周りの芸人みんなに「出してくれ」と言われたし、出演者は「バスク」のために作ったその日限りのネタとか新ネタをやってくれました。お客さんも男子大学生みたいな人ばっかりで、前のめりすぎて全員背もたれを使ってなかった(笑)。あとエンディングが30分くらいあったんちゃうかな。
村上 あったあった(笑)。あんたがMCやったけど、出演者が先輩ばっかりやから。
加納 おしゃべりをやめへんのよ。暴れるし(笑)。100キャパで1000円とかでやってたので、収支はずっとマイナスやったんですけど楽しいライブでした。
村上 あとはなんのライブやったか覚えてないんですけど、棺桶を自分たちで作った記憶だけあって……あれはなんやったっけ?
加納 2014年くらいにやった「尻ペチカ」というコントライブですね。
村上 そうや。「YAMAHAから出た棺桶」っていう設定じゃなかった?
加納 そうそう! 楽器がいっぱいついていて、参列者が鳴らすみたいな。お金がなくてレンタカーも借りられないので、5駅分くらい棺桶を押して運んだ記憶があります(笑)。
村上 作るのも運ぶのも大変やったけど、今思い返してもめちゃめちゃ好きな設定です。
加納 「尻ペチカ」の会場は阿佐ヶ谷プロットでお客さんは30~40人くらいやったかな。後輩の森林子と、うらじぬのという役者の子も呼んで、「ダブル落語」というネタをやりました。上方落語と江戸落語を混ぜるとどうなるかという(笑)。
村上 混ぜたら最終的にエビチリになるという意味不明なネタでした(笑)。
加納 「尻ペチカ」は第1回単独ライブをやるよりも前のコントライブで、そこで初めてちゃんとした映像や小道具を作りました。実はそこで映像を使う漫才も作ってたんです。私たちの原点みたいなライブですね。
優勝するとカラスをもらえるライブ
加納 ライブ中に一番笑った記憶があるのは、天竺鼠・川原さんの「10800秒大喜利ライブ」。タイトルの通り、大喜利ライブなんですけど、3時間で2問くらいしか進まないんです(笑)。ランジャタイの国ちゃんとかスーパーニュウニュウのふるやちゃんとかがいて、みんな好き勝手やるし、登場してから自己紹介まで30、40分くらいかかりました。いきなり中東あたりのバースデーソングがかかって、誕生日じゃない人が10分くらい祝われたり、めちゃめちゃなんですよ。
村上 私が思い出に残ってるのは、10年くらい前に千川びーちぶでやっていた「千川国際ファンタスティックコント祭」っていうカラスがもらえるライブです。
加納 私もそれ言おうか迷ったわ。マジでお客さん10人もいなかったですね。錦鯉さん、マツモトクラブさん、チャーミングさん、銭億円とかが出ていて、優勝したらカラスがもらえるんです。誰も欲しがってないし、「いらんわ」みたいなツッコミもしないし、ただただそういうものとしてみんな受け入れてました。
村上 実際に優勝してカラスをもらいました。もちろん本物ではないですけど、ギリ本物くらいの。で、楽屋に置いて帰りました(笑)。
加納 あとはハクション中西さんの「おまんじゅう食べたのに食べてないみたいな顔する選手権」。会場におまんじゅうが置いてあって、中西さんがライブ中に「俺は今からお出かけをするけど、おまんじゅうは食べるなよ」と言い残してどこかに行くんですね。でも、私たちは「わかりました。お留守番しておきます」と言っておきながら食べちゃうんです。で、中西さんが帰ってきたら食べてないフリをするという。このライブに出るためにわざわざ大阪まで帰りました(笑)。
忘れられない“観た”ライブ
加納 2014年くらいに、なかの芸能小劇場でハリウッドザコシショウさんの単独ライブを初めて観たときに衝撃を受けて、5年くらい通いました。「こんな人と同じ職業とか無理かもしれない」と思うくらい圧倒されました。
村上 その頃、私たちは一緒に住んでいたので、シショウのフライヤー、ステッカー、ボールペンとかが机の上に置いてあった光景を覚えてます。
加納 シショウはグッズにもこだわってたし、当時からセルフプロデュースがすごくうまかったんですよ。ビックリマンシールみたいな少年心をくすぐるグッズも作ったりしていて、「プロやなー」と思いました。映像もすごかったです。最低な内容ではありましたけど(笑)。あとは忘れられないのは、朝10時半に観た牛女の単独ライブ。最高でした。
村上 忘れられない観たライブ……。サーカスでもいいですか? シルク・ドゥ・ソレイユとかボリショイサーカスほどメジャーではないサーカスを観に行ったら、おっちゃんが無表情でライオンを操ってたんですよ。サーカスってもっとニコニコするもんだと思ってたんですけど、ニコニコしてない感じがよかったです。
加納 私も同じやつを観に行ったんですけど、バイクが回ってるだけの時間あったよな?
村上 3台くらいな(笑)。すごいけど、それよりも「うるさい」のほうが勝つんですよ。思い描いていたサーカスと少し違ったのがおもろかったですね。
ライブにまつわるあれこれ
間近に控えたライブ「滑稽」について
加納 2月25日からやる「滑稽」というライブは、「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」(BSテレ東)のプロデューサーの大森時生さんとやるライブです。番組内での我々はVTRを見るだけの役割だったんですけど、もう少し携わりたいなと思って「また何かやりたいですね」と話していたら、一緒にライブをやることになりました。内容はあまり明かせないんですけど、今言えるのは「来たお客さんに笑顔になって帰ってほしい」ということだけですね。“笑顔になってほしい人たち”がお届けするライブです。
村上 私はまだ何も知りません(笑)。やることだけわかってます。
加納 ほかのジャンルとの化学反応みたいなことに期待してもらってもいいかもしれません。お笑い好きじゃない人、もっといえばAマッソが好きじゃない人が来てもいいと思います(笑)。単純に大森さんが作るものを見たい人とか。
ライブシーンにおける注目の芸人
村上 ムラムラタムラですね(笑)。存在は知っていたんですけど、先日のライブで初めてネタを見て、「りーもこちゃん」だけやってんねやと思ったらめちゃめちゃ面白くて、笑いました。
加納 若手だと豆鉄砲。ネタが面白いです。「バスク」の時代だったら確実に呼んでました。ああいうライブがあったらいいやろなとお節介ながら思ってます。最近はお笑いライブを制作する団体が豊富になってきたので、芸人が自分で会場を押さえて主導していくライブが減った気がしますが、「バスク」のような芸人主導のライブの空気感と合う芸人もいると思うので、そういう人たちも報われるといいなと。
配信がライブシーンに与えた影響
加納 配信が増えたことによって、人気ライブとそうじゃないライブがよりはっきりと可視化されて、お笑い好きの中には「とりあえず売れてるライブを押さえておけばいいや」みたいな意識が根付いてる人も多いと思うんです。それによって、評判のライブはどんどん売れて、そうじゃないものはまったく売れない、という2極化が進んでいて。私らが全然お客さんが入ってないライブに出ていたからこそわかるんですけど、売れてないライブの中にも、実はスルーしないほうがいいものっていっぱいあるんです。なので評判だけで観るかどうかを決めるのは勿体ない。ぜひ小さいライブにも注目してほしいです。
Aマッソにとってライブとは
加納 手放したらあかんものですね。我々はライブから出てきたので軸になっているし、久々に出たらちゃんと緊張する。やすともさんも「3カ月休んだら戻すのに3カ月かかる」と言ってました。
村上 ライブはウケたときが一番楽しいし、すぐに返りがあるのがいいですよね。
加納 最近のテレビ収録は観覧のお客さんがいないので余計にね。この前、幸福について研究しているアメリカの大学の記事を読んだら「真の意味の幸福は、仲間と仕事において結果を出しながら認め合うこと」みたいなことが書いてあって、ライブのことやんって思いました。売れてる人もみんな“ライブ現役”ぶりたいじゃないですか(笑)。ライブに勝る幸福はないと知っているからなんでしょうね。
Aマッソ
村上(ムラカミ)
1988年6月16日生まれ、大阪府出身。
加納(カノウ)
1989年2月21日生まれ、大阪府出身。
小学校の頃からの幼なじみで、2010年にデビュー。2020年から3年連続で「女芸人No.1決定戦 THE W」(日本テレビ系)の決勝に進出した。冠ラジオ番組「AマッソのMBSヤングタウン」(MBSラジオ)が毎週木曜に放送中。加納は書籍「イルカも泳ぐわい。」(筑摩書房)や「これはちゃうか」(河出書房新社)を上梓したほか、「小説新潮」でエッセイ「行儀は悪いが天気は良い」を連載するなど、文筆分野でも活躍している。
滑稽
東京公演
2023年2月25日(土)12:00開場 13:00開演 / 17:00開場 18:00開演(配信あり)
2023年2月26日(日)12:00開場 13:00開演 / 16:30開場 17:30開演
会場:東京・草月ホール
大阪公演
2023年3月13日(月)17:00開場 18:00開演
2023年3月14日(火)17:00開場 18:00開演
会場:大阪・IMP ホール
料金:会場6000円 配信2500円
チケット:会場チケットは各プレイガイドで販売中(東京公演は完売)。配信チケットはPIA LIVE STREAMで販売中。
<出演者>
Aマッソ ほか