岩橋良昌(プラス・マイナス)×村上純(しずる)×バイク川崎バイクが演劇に挑戦!『5BRAIN~脳・能・濃・悩・know?~』
ステージ
インタビュー
2月26日(日)まで、下北沢の小劇場 楽園にてYOSHIMOTO STAGE『5BRAIN〜脳・能・濃・悩・know?〜』が上演されている。
作・演出を手掛ける芸人たちは、岩橋良昌(プラス・マイナス)、福島善成(ガリットチュウ)、村田秀亮(とろサーモン)、村上純(しずる)、バイク川崎バイクの5人。彼らが漫才やコントで磨いた腕は、演劇作品にどのように発揮されるのだろうか。5人のうち岩橋、村上、バイク川崎バイクの3人に作品について聞いた。
――みなさん、演劇作品の作・演出を手掛けるのは初めてですか?
村上純(以下、村上) 実は僕とBKBは脚本の経験があって。でも僕はこうしてちゃんと脚本から演出までやるのは初めてですね。
BKB 岩橋さんはまったくの初めてですよね。
岩橋 そうなんですよ。
BKB 聞いてますよ、岩橋さんの手探り具合(笑)。
村上 僕やBKBのようにコントを書いている人間ならまだしも、岩橋さんはふだん漫才ですもんね。
BKB 明転暗転、照明音響も初めてってことですよね?
村上 書き方がわからないから、最初原稿用紙に手書きで書いてたって聞きましたよ?
岩橋 そうなんよ。最初はもう脚本の書き方自体わからないから、小説書いちゃって。
村上、BKB (笑)。
岩橋 同期の赤松新(脚本家)くんに脚本の形に直してもらって、なんとかできたんやけど……。だから、面白いオファーをされたなあと。
――そんな岩橋さんの作品が、いちばん登場人物が多いんですよね。
岩橋 6人出ます。それもちょっと恥ずかしい。少人数でやるほうがかっこいいなと思うんですけど。
BKB いや、たくさんの人が登場するほうが難しいですよ。それだけいるってことは、ストーリーが緻密ってことです。
岩橋 (満足げに)ま、小説始まりやから。
村上 え、岩橋さんって小説自体は書いたことあったんですか?
岩橋 ないない。
BKB 初めて尽くし。そんなひねったやり方したんですか(笑)。
芸人が芸人を描き、芸人が役を演じる?
BKB 岩橋さんの作品のタイトル、めちゃくちゃかっこいいですよね。
岩橋 蝉の抜け殻の意味で『蝉殻(せみがら)』。
村上 この時点でもう二重丸ですよ。
岩橋 いつも「オーシャンビュー!」とか、音の響きを大事にしてるから。「蝉の抜け殻」より「蝉殻」のほうがいいかなと思って。
村上 どんな話なのか、想像もつかないですよね。
岩橋 ぼくは20年間芸人をやってきて、この世界しか知らないので、お笑いを目指す人の紆余曲折の話にしました。
――村上さんの書かれた脚本は?
村上 以前、元コウテイの九条ジョーと吉本新喜劇のレイチェルによる二人芝居を僕が書いたことがあって。それはたった1公演でもったいないなと思っていたところを、「あの作品、もう一度上演してみませんか?」と言っていただいたんです。今回に合わせてだいぶ加筆修正しましたが。
――どんなお話ですか?
村上 「シンセキのにいちゃん」というタイトルで、親族の話。舞台は斎場で、静かにはじまる物語です。コントとは違って、二人のキャラクターを描きたいと思って書きました。ものすごくわかりやすく言っちゃうと、「泣ける話」をめざしています。
岩橋 おおー。
村上 関西弁なので、スタッフさんとも話して大阪出身の米原(幸佑)くんがいいだろうと。もうひとりは芸人さんがいいなと思って、同期の守谷日和にしました。
――BKBさんはどんなお話を?
BKB 僕、ショートショートを70篇くらい書いていて、その中から演劇になりそうなものを選びました。岩橋さんとちょっとカブっちゃうんですけど、芸人の話なんですよ。でも、普通芸人のドラマとかマンガって、ぜんぶコンビの話じゃないですか? ピン芸人っていつも脇役なんです。それはやっぱり一人だと、友情とかすれ違いとか、そういうドラマができにくいからなんですよね。 でも僕はピン芸人なので、たった一人で暴れてるピン芸人の話を書きました。
――このピン芸人役は、実際にピン芸人として活動されている大谷健太さん。
BKB ちょうど村上にキャスティングの相談をしていたんですよ。で「大谷がいいんじゃないか」という話になったんですが、ピン芸人のリアルを描いているんで、もし僕がこれ頼まれたら嫌やなと思ってたんですよね。
村上 大谷の体を借りてBKBが言いたいことを言う作品だから(笑)。
BKB 「どうしよう」と言いながら二人でルミネ(theよしもと)のエレベーターを降りたら、そこに大谷がおったんです。大谷はふだんルミネにめったにいないのに! それでもうそのままお願いしました。
村上 あれは運命的だったよね。BKBは乗ってきたエレベーターから降りずに、大谷くんを乗せて降りていった。
BKB 「しんどそうだけど、俺しかできない」と思ってくれたみたいで。……稽古のたびに大谷くん、泣いてくれるんですよ。
岩橋 すごいやん!
慣れない演出で見えてきたもの
――みなさん経験の少ない演出のほうはどうですか?
村上 この「小劇場 楽園」という劇場は、けっこう使い方が難しいですよね。
BKB 二方向に客席があるからね。それが一番悩んだ!
村上 でも僕、「この劇場だからこそ」という演出がうまく見つかったんです。「うまく伝われば「もう一つの方向からも見たい!」と思ってもらえるはずです。
岩橋 うちは6人だけど、たぶん全員同時には出ないから。
村上 たぶん……? 演出してるんですよね?
岩橋 赤松やスタッフがバリバリにやってくれるから、けっこう僕黙ってるよね。
BKB 原作者みたいな存在(笑)。
岩橋 まさに。ただ、みんなが稽古を重ねるにつれてキャラクターを愛するようになってくれていて。僕が書いた内容を離れて独り歩きしてる感じがするんですよ。作品が僕のもとを旅立っていった感覚。
BKB 岩橋さんの手元には蝉の抜け殻だけが残ったわけですね。
岩橋 うまい! ちゃうねん(笑)。僕は漫才の稽古をするとき、間とかタイミング、言い方はすごく細かく相方に伝えるんですよ。だから演劇の経験はなくてもそこだけはけっこう細かくお願いしてるし、漫才で20年間培った部分を生かせてるんじゃないかなと思います。
――(笑)。BKBさんは、毎回大谷さんが泣くとのことですが……。
BKB キャストのみんなが演出を超えるような演技をしてくれたりして、めちゃくちゃやりがいがありますね。後輩芸人役のネルソンズ岸もいいですよ。あと、こぴちゃんという歌手の子が作品内で歌うんです。これは泣けると思う。
村上 あ、ちょっと! それならうちもいいですか? 僕、今回のためにトニーフランクに曲を作ってもらったんですよ。
岩橋 すごいやん!
BKB 本当にいろんなブレーンが結集してできあがってる公演ですよね。
どの組み合わせがおすすめ?
――5作品のうち、公演ごとに2作品が上演されるという形式ですが、おすすめの組み合わせはありますか?
BKB それこそ芸人の話どうし、僕と岩橋さんの作品を見比べてもらうのもいいと思うんですよね。
村上 たしかに。お笑いファンで、あまり演劇を見慣れていない人にもいいかもね。あと、僕、守谷、BKB、大谷って全員4月から20年目を迎える同期なんですよ。そういう組み合わせでも見てもらえたら。
岩橋 でも公演やってる2月中はまだ僕が20年目やからな!
BKB なんか対抗してきてる(笑)。
村上 今日ここにはいないですけど、ガリットチュウ福島(善成)さん、とろサーモン村田(秀亮)さんの作品もだいぶ面白そうですしね。
――福島さんは「異色の学園ラブコメディ」、村田さんは「ある少年との出会いが生み出す愛の物語」だそうですね。
BKB そうそう。僕とか村上、岩橋さんの作品と、福島さんや村田さんの作品の組み合わせもバランスがよさそう。
村上 福島さんのは絶対笑えるし、村田さんの作品、聞いたらもうすぐにドラマになりそうな設定だったので、僕も見るのが楽しみで。
BKB 僕演劇けっこう好きなんですけど、2時間超えると「長いな……」と思っちゃうんですよ。でもこの作品は1話1時間弱の作品が2本なので、すごく見やすいと思います。
村上 2作品の合間には転換もあってちょっとブレイクできるから。
岩橋 2作品で5000円て安くない?
村上 テレビショッピングみたい(笑)。
岩橋 ウエストランドが『M-1グランプリ』の漫才で言ってたやん、「前売5500円、高いよ!」って。でもこの公演はふたつの全然違う話が見られるわけやから。
BKB そういう考え方もできますね。
村上 たしかに。今日僕はゲネプロだったんですけど、ゲネで初めて見る演技が出てきたりして、何十回も稽古したはずなのに最後にちょっと泣いちゃって……。だから楽しみにしてほしいです。
岩橋 すごいな!
BKB 僕も泣いてます、村上も泣いてます。岩橋さんは?
岩橋 ぼくもジーンとはしましたよ。
村上 ちょっと弱い(笑)。
『5BRAIN〜脳・能・濃・悩・know?〜』
2月26日(日)まで
小劇場楽園 (東京都)
取材・文:釣木文恵
撮影:川野結李歌
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