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公共劇場の役目は新たなフェーズに、世田谷パブリックシアター2023年度ラインナップ

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2023年度ラインアップ発表会より。左から白井晃、小林香、前川知大、女屋理音、横山拓也、瀬戸山美咲、森新太郎。(撮影:大野洋介)

「世田谷パブリックシアター2023年度ラインナップ発表会」が本日2月24日に東京・世田谷パブリックシアターで開催され、小林香、前川知大、女屋理音、横山拓也、瀬戸山美咲、森新太郎、そして芸術監督の白井晃が登壇した。

同劇場の主催公演としてまず4月から5月にかけて上演されるのは、「フリーステージ2023」。5月にはインバル・ピント「リビングルーム」の来日公演、6月は白井演出による音楽劇「ある馬の物語」が続く。7月から8月には「せたがやこどもプロジェクト2023」と銘打ち、「せたがや 夏いちらくご」やアミューズ×世田谷パブリックシアター ミュージカル「カラフル」、ラルンベ・ダンサ「エアー~不思議な空の旅~」、「メルセデス・アイス MERCEDES ICE」が、10月には毎年恒例の世田谷アートタウン 2023「三茶de大道芸」、その関連企画としてフランス×日本 現代サーカス交流プロジェクト「フィアース5」が上演される。

さらに11月は前川の新作、12月にはシアタートラム・ネクストジェネレーション vol.15-フィジカル- room. Onaya Rion「Pupa(仮)」、来年2・3月には横山の作、瀬戸山の演出による新作「う蝕」(仮)、3月にはアメリカのダンスカンパニー・Ate9が代表作「Exhibit B」「Calling Glenn」を引っ提げて来日するほか、3月には森演出「メディア / イアソン」、そして「地域の物語2024」がラインナップされた。そのほか学芸事業としてコミュニティプログラムや地域連携プログラム、専門家育成、出版物の作成など多彩な事業が多数行われる予定だ。

「カラフル」の上演に向けて小林は「世田谷パブリックシアターで初めて作品を手がけられることがうれしいです。子供から大人まで楽しめる作品をということで、森絵都さんの小説をミュージカル化します。不登校とかいじめといった重い題材を背景に持ちつつもミュージカルの力で明るくユーモラスな再生の物語にできれば」と意気込みを述べた。

前川は2009年以来世田谷パブリックシアターと日本や西洋の古典を現代の感覚で語り直す作品を手がけてきた足跡を振り返り、「今回は2019年に上演した『終わりのない』の延長線上にある作品。ギリシャ劇の時代の大テーマである“運命”を真ん中に置いて作品を作ろうと考えています。現代を舞台に、人生の中で重要な決断とか、自分の力ではどうすることもできないことにどう向き合っていくのか。運命と自由意志がどう拮抗するかが描けたら」と思いを語った。

小学生の頃からシアタートラムで観劇をしてきたという女屋はタイトルの「Pupa」について「“さなぎ”を意味しています。痛覚を持たないとされる昆虫と、それを感じることができる人間との比較を通して振付を考えていきたい」と構想を語り、さらに「これまでの作品ではセリフを話したり、道具を使うなど演劇的なシーンも多用してきました。演劇が多く上演されている劇場だからこそ、そういった表現も受け入れていただけるのではないかと思っています」と話した。

「う蝕」(仮)の脚本を手がける横山は、シアタートラムで作品を発表するのが3回目と話し、「3回目だからこそ大きくチャレンジできることがあるのではと思っています。最初の打ち合わせで、瀬戸山さんに『横山さん、ストーリーにいかなくて良いですよ、セリフでどんどん進行してくようなものが作れないでしょうか』と言っていただき、これは面白くなりそうだと思いました。そこから“不条理劇”というイメージにたどり着いたんです。今回はとある荒廃した土地に5人の歯科医が集められて、歯のカルテを使って遺体を照合していくという設定を考えています。でもそこからどのようになっていくのか、まだ僕もわかりません。まずは書くことを楽しみにしているところです」と笑顔を見せた。

瀬戸山は「横山さんが新しい挑戦をされるときに演出としてご一緒できるのが楽しみです」と言い、「不条理なことも多い現実ですが、現実を変えていくような不条理劇ができれば。わかりやすさを求められがちですが、わからないことを面白いと思えるような作品にできればと思っています」と意気込みを述べた。

森は今回、一般的に知られている「王女メディア」の物語に、その前日譚ともいうべき夫イアソンとの物語を含めた「メディア / イアソン」を立ち上げる。「脚本のフジノ(サツコ)さんから、2人の愛の始まりから終わりまでを描くことで、2人の新しい物語が見えてくるのではないかと提案を受け、興味をそそられました。凄惨とか残酷と言われがちなメディアの物語ですが、2人の固い絆やそれが壊れたときに見えてくるものが描けたら」と意欲を見せる。さらに「イアソンが大航海するシーンは大蛇や人魚が出てきてかなりファンタジー。演出家としてはそういったシーンをどう表現するかという野心もあります。悲劇だけではない喜劇性も感じられるような叙事詩が生まれるのではないかと。世田谷パブリックシアターでは何度も作品を上演してきたので、劇場の構造をすべて使って、自分でも見たことがない新しい光景が作れたらと思います」と自信をのぞかせた。

白井は進行と全作品の紹介をしつつ、自身が演出する「ある馬の物語」について「3年前に新型コロナウイルスの影響により中止を余儀なくされました。この作品はレフ・トルストイの作品を原作にマルク・ロゾフスキーが脚本を手がけた作品で、今回は音楽監督に国広和毅さん、振付に山田うんさんを迎えてリメイクします。人間に使われる馬が、人間に対して強烈な批評性を持つという音楽劇。詩的な部分もある作品ですが、がんばって作っていきます」と話す。また「メルセデス・アイス MERCEDES ICE」についてはフィリップ・リドリーの児童小説をもとに、かつてTCアルプで創作した作品を新制作する意欲作だと話した。

そのほか世田谷パブリックシアターでは多数の学芸事業が展開。また2023年度から劇場として専門家を招いたハラスメント講習を行うことを明かした。さらに白井は「公共劇場が果たす役目が新たな段階に入った」と言い、その理由として「この3年間、不要不急という観点で舞台芸術がどういう位置にあるのかということを突きつけられてきました。しかし私は、劇場は心の病院だと思っていて。劇場という場所が人々にとって絶対に必要なインフラだということを皆さんに認識していただきたいと思っています。そのためには私たちも、区の行政の1機関という位置に留まらず、我々のほうからも自分たちがどういう役割を果たしているかを積極的に見せていく段階にきているのではないかと思いますし、ここから発信するだけでなく、劇場から出向いていくことも大事だと思います」と語った。

記者から世田谷パブリックシアターの芸術監督になって1年経ち、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督時代との違いがあるかと問われると「県の劇場と区の劇場では全然違います。区の劇場は住民の方とより密接感があるので、その点でも世田谷パブリックシアターが開館以来25年実施してきた学芸事業により目を向けるようになりました。キャロットタワーがランドマークではなく、その中にある世田谷パブリックシアターがランドマークだと思ってもらえるようにしたいと思っています」と話した。

世田谷パブリックシアター2023年度ラインナップ

「フリーステージ2023」

2023年4月29日(土・祝)~5月7日(日)
【世田谷クラシックバレエ連盟・ダンス部門】
東京都 世田谷パブリックシアター

【音楽部門】
東京都 シアタートラム

インバル・ピント「リビングルーム」

2023年5月19日(金)~21日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター

振付・衣裳・舞台美術:インバル・ピント
出演:モラン・ミュラー、イタマール・セルッシ

音楽劇「ある馬の物語」

2023年6月21日(水)~7月9日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター

原作:レフ・トルストイ
脚本:マルク・ロゾフスキー
音楽:マルク・ロゾフスキー、国広和毅
詞:ユーリー・リャシェンツェフ
翻訳:堀江新二
訳詞:白井晃、国広和毅
演出:白井晃
出演:成河、別所哲也、小西遼生、音月桂 / 大森博史、小宮孝泰、春海四方、小柳友 / 浅川文也、吉崎裕哉、山口将太朗、天野勝仁、須田拓未 / 穴田有里、山根海音、小林風花、永石千尋、熊澤沙穂

※吉崎裕哉の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。

せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》

「せたがや 夏いちらくご」

2023年7月17日(月・祝)
東京都 世田谷パブリックシアター

出演:春風亭一之輔 ほか

せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》

アミューズ×世田谷パブリックシアター ミュージカル「カラフル」

2023年7・8月
東京都 世田谷パブリックシアター

原作:森絵都「カラフル」(文春文庫)
脚本・作詞・演出:小林香
作曲・編曲:大嵜慶子
出演:鈴木福、川平慈英 ほか

せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》

ラルンベ・ダンサ「エアー~不思議な空の旅~」

2023年7月28日(金)~30日(日)
東京都 シアタートラム

構想・振付・演出:ダニエラ・メルロ、ファン・デ・トレス
出演:マド・ダレリー、ルシーア・モンテス

せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》

「メルセデス・アイス MERCEDES ICE」

2023年8月
東京都 世田谷パブリックシアター

原作:フィリップ・リドリー
翻訳:小宮山智津子
演出:白井晃
出演:細田佳央太、豊原江理佳、東野絢香、松尾諭 ほか

世田谷アートタウン2023「三茶de大道芸」

2023年10月21日(土)・22日(日)
東京都 キャロットタワー周辺

世田谷アートタウン2023 関連企画 フランス×日本 現代サーカス交流プロジェクト「フィアース5」

2023年10月27日(金)~29日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター

構成・演出:ラファエル・ボワテル
出演:浅沼圭、長谷川愛実、目黒陽介、吉川健斗 / 山本浩伸、安本亜佐美 ほか

新作 前川知大作品

2023年11月
東京都 世田谷パブリックシアター

作・演出:前川知大

シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.15-フィジカル- room. Onaya Rion「Pupa(仮)」

2023年12月
東京都 シアタートラム

振付・演出:女屋理音

「う蝕」(仮)

2024年2・3月
東京都 シアタートラム

作:横山拓也
演出:瀬戸山美咲

Ate9「Exhibit B」「Calling Glenn」

2024年3月
東京都 世田谷パブリックシアター

振付:ダニエル・アガミ

「メディア / イアソン」

2024年3月
東京都 世田谷パブリックシアター

脚本:フジノサツコ
演出:森新太郎

「地域の物語2024」

2024年3月
東京都 シアタートラム

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。