隼太からHAYATAへ 第8回 5歳児に振り回される竪山隼太、家族写真の撮影に大奮闘
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原っぱで佐野家の集合写真を撮影する竪山隼太。(撮影:平岩享)
舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」で活躍中の俳優・竪山隼太が、もう1つの夢であるカメラマンへの道を目指す本企画。プロカメラマン・平岩享の指導のもと、第1章では竪山と親交がある俳優たちが被写体となり、それぞれの魅力を引き出す撮影に挑んだ。第2章ではより実践に近い形で、竪山にとって初対面の相手、初めて訪れる場所での撮影に臨む。第1回のテーマは「家族写真」。下は5歳から上は12歳まで、3人兄弟を含む5人家族のベストカットを、竪山は無事撮影することができるのか?
取材・文 / 熊井玲
家族写真を撮るポイントは?
撮影の数日前、竪山隼太とカメラマン・平岩享はオンラインで打ち合わせを行った。この時点で竪山に共有されている情報は、「男の子3人兄弟の5人家族を公園で撮影する」ということだけ。ぼんやりと頭の中でイメージしつつも当日の動き方を具体的に想像できていない竪山に、平岩は被写体である家族とどんなコミュニケーションを取れば良いかなどアドバイスした。
平岩はまず「家族撮影で僕が大切にしているのは、撮影するお父さん、お母さん、子供たちそれぞれの名前を前もって確認し、覚えていくということです。当日は子供はもちろんですが、お母さんも『お母さん』じゃなくて名前で呼んであげたほうが良い。名前で呼ばれたほうが、きっとうれしいと思うんですよね」と説明。「あとはどういう場所で撮るのかがあらかじめ決まっていたら、例えば『公園、家族写真』とかってネットで検索して良い構図はないかということをイメージしておく。で、当日1時間前ぐらいに現場へ行ってロケハンし、太陽の光の具合なんかを確認しておくと良いと思います」と話した。
さらに「スタート時間になって家族と対面したら、みんな緊張していると思うのでまずは子供を中心にコミュニケーションを取りつつ、家族の雰囲気とか関係性をつかみます。例えば子供が言うことを聞かないと親が焦ったり、怒ってしまうパターンがあるから『無理に言うことを聞かせなくて良いんですよ』と声をかけたり。それから予定していた撮影時間中、目いっぱい撮影しなくても良いんです。例えば1時間中たった10分しか撮影できなかったとしても、家族写真は家族の良い瞬間が撮れればいいので」と家族写真の“極意”を明かすと、竪山は真剣な表情でメモをとりながら「はい! まずは場所のリサーチから始めます!」と即座に返答。
続けて竪山が「質問なんですけど……僕が一番最初に平岩さんに写真を撮ってもらったときって、『こんなイメージで』っていうサンプルを持って行きましたよね? その逆で、『こういう感じの家族写真が撮りたいです』って家族の方たちに見てもらうサンプルを用意するのはルール違反ですか?」と尋ねると、「違反では、ないです!」と平岩。「隼太くんがそうやってみたいならやってみれば良いんじゃないかな。大事なのは頭の中のイメージをどう伝えるかで、役者さんだったら伝わるかもしれないけど一般の人には伝わりにくいっていうことは確かにあるかもしれない。その前提で接したほうが良いかもしれないね。ただ、思い通りに行くと思ったら大間違いみたいな(笑)、うまくいかないことを楽しむ感覚も大事ですね」と答えると、竪山は「うう、はい(笑)」と苦笑いした。
撮影の鍵を握るのは5歳児の三男くん!
撮影当日は、とても冷たく強い風が吹く快晴だった。撮影開始の1時間以上前に公園にやって来た竪山と平岩は、原っぱや遊具、ふとした物陰などにカメラを向けて撮影のイメージを練っていた。開始時間の11時になると、モデルになっていただく佐野さん一家が現れた。12歳、10歳、5歳の3兄弟である佐野家は、お父さんの史尚さんも含め男性陣はレッドとブラックのチェックでコーディネート。お母さんの由佳里さんはラフなパンツルックと、5人5様の休日感あふれるスタイルだ。
簡単な自己紹介を終え、竪山がさっそく一家をロケハンで想定したルートへいざなう……はずが、5歳の三男くんが突如、ラジコンのスイッチをオン! 全員がラジコンと三男くんを追いかけるような形で、原っぱへと移動することになった。予想と違う滑り出しだったが、竪山は移動の間も長男くんや次男くんに積極的に話しかけ、関係性を築こうとしていた。
原っぱの真ん中までくると「じゃあ、まずはここで!」と竪山が声をかけ撮影がスタート。木枯らしが吹く中、佐野家の5人がコートを脱ぐと竪山もさっとコートを脱いでカメラを構えた。まずは家族が横並びになったカットを撮影。最初は楽しげにカメラを見つめていた三男くんだったが、5分も撮影しないうちに身体を前後左右に揺らし始め、5人の横並びは早々に崩れた。そして遊具に向かって駆けて行く三男くんを追いかけて、また移動することになった。
次のポイントでは、ピラミッドのようなロープでできた三角錐型の遊具を使って行われた。遊具に乗ってほしいと竪山が伝えると、長男くんと次男くんがまずはさっと登り、続けて三男くんとお父さんも登った。最後にお母さんが登ろうとすると「登れる?」と子供たちがちゃかしたり、ロープをわざと揺らしたりして和やかな空気が流れた。そんな家族の様子に「プレシャスタイム!」とシャッターを切る竪山。
しかし三男くんの表情は徐々に曇っていき、最後は「降りたい!」を連呼し始めた。そして遊具を降りるなり三男くんは、少し離れた別の遊具へさっと走っていく。子供たちの遊んでいる姿をなんとか捉えようと必死の竪山を気遣って、長男くんと次男くんは三男くんをうまく誘い、写真が撮りやすい位置に立ってくれた。おかげで竪山は、なんとか3人一緒の姿をフレームに収めることができたのだった。
その後、三男くんはもと来た道を逆走。当初予定していたコースの3分の1しか進めないまま、再び最初の原っぱに戻り、史尚さんと次男くんはサッカーを、長男くんはネジで動く鳥のおもちゃで遊び、拗ねて土の上に座り込んでしまった三男くんを由佳里さんがなだめていた。5人それぞれの時間に、「さあ、カメラマン・HAYATAはどう対処する?」と竪山に目をやると、竪山はじっと5人の様子を見つめたのち、再びシャッターを切っていった。さらに子供たちが遊んでいる隙を見て、夫妻の2ショットも撮影。当初の予定とは変わってしまったが、さまざまなバリエーションの撮影ができたと、その日の撮影は終了となった。
家族写真は、「きっちり撮れば成功」ということでもない
撮影後、場所を移してすぐ、今回の撮影を振り返った。竪山は「お会いした瞬間にいきなり三男くんがラジコンを追いかけて行ったときは『わー!』と思いましたね(笑)。ピラミッドの遊具のところで撮影しているときに、『このあと、あっちで撮ろう、こっちで撮ろうと言っても無理だろうな』と思ったので、遊びたいところで遊んでもらって盗み撮りしよう、という意識に変わりました。また兄弟でも長男くんはマイペース、次男くんは撮られたい感じがあって個性が出るなって思いましたね」と撮影の感想を述べる。
家族写真の撮影経験も豊富な平岩は「やっぱり幼稚園児を撮るのは難しいですね。僕も経験あります」と言いつつ、「今日の撮影は、最初の原っぱのところでどれだけ撮れていたかが重要だったと思います。原っぱの撮影が良い感じだったから、カメラマンとしては『この調子でどんどんいけるだろう』って思っちゃうんだけど、その後予想もできないことになって……(笑)。プロとしては、そういったことも想定して、最初でいかにちゃんと撮れているかがポイントになります」と話す。竪山は「確かに、『この先もっと良い感じの写真が撮れるかも!』って思ったんですよね(笑)」とうなずき、「最初は、撮ったものを佐野家の皆さんにお見せしながら撮り進めていこうと思っていて、構図や背景も習ったことを意識して撮ろうと思ってたけど、そんなことを考える余裕はなくて……」と反省すると「いやいや、家族写真は『きっちり撮れば成功』ということでもないと思う」と平岩。「それより、隼太くんの様子を見た長男くんと次男くんが三男くんを巻き込んでくれたときは4人の共同作業になっていてさすがだなと思いました。あと撮影開始のときに、被写体の人たちがコートを脱いだら隼太くんも自発的にコートを脱いだのは重要だったなと。被写体の人が寒い中でもがんばってくれているのにカメラマンがめちゃくちゃ防寒してるのは、ちょっとね(笑)」と竪山の行動を平岩が褒めると「何にも考えてなかったです(笑)」と竪山は苦笑いした。
続けて実際に撮影した写真を見ながら振り返った。竪山の写真を見た平岩は、「ここはすごく良い」「よく撮れている」と褒めつつ、子供たちの表情に寄ったカットについては「これは隼太くんの弱点が出ているかも」と指摘した。「隼太くんはやっぱり人に興味があるから、(撮影が)面白くなるとどんどん人に寄っていってしまうんだよね。でもここまで寄ってしまうとシチュエーションがわからず、全体の雰囲気が掴みにくくなる。そうすると、例えば雑誌の巻頭ページや年賀状の1枚としては使いにくいものになってしまうんだよね。それよりは少し引いて、空や遊具の一部を入れたほうが汎用性の高い写真になる」とアドバイスすると、竪山は真剣な表情でそれを聞いていた。
最後に平岩が「第2章のスタートとしては今回、最高の被写体だったと思いますよ。『そんなもんじゃないぞ、プロの世界は』って三男くんが隼太くんに教えてくれたと思う(笑)」と言うと、竪山も「いやあ、本当に最高でしたね。やり切りました(笑)。技術的なことはまだまだですが、とりあえず佐野家の皆さんが、今日の撮影は面白かったな、写真って良いなって思ってくれたら良いな」と笑顔を見せた。
プロフィール
竪山隼太(タテヤマハヤタ)
1990年、大阪府生まれ。2000年に劇団四季ミュージカル「ライオンキング」ヤングシンバ役でデビュー後、「天才てれびくんワイド」にレギュラー出演し子役として活動。2009年に蜷川幸雄率いる演劇集団さいたまネクスト・シアターで活動。最近の出演作に「Take Me Out 2018」、「ガラスの動物園」(上村聡史演出)、さいたまネクスト・シアター最終公演「雨花のけもの」(細川洋平作、岩松了演出)、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」ロン・ウィーズリー役など。
平岩享(ヒライワトオル)
1974年、愛知県生まれ。フォトグラファー。時代の顔となるポートレートを数多く撮影。岩井秀人が代表を務める株式会社WAREのサポートメンバー。近年はドローンを使った動画など、新しい手法にも取り組んでいる。