ジョン・ノイマイヤーが芸術監督最後の来日公演、ハンブルク・バレエ団での50年は「毎日が“新しかった”」
ステージ
ニュース
左からアンナ・ラウデール、エドウィン・レヴァツォフ、ジョン・ノイマイヤー、イダ・プレトリウス、菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ。
3月に上演されるハンブルク・バレエ団2023年日本公演「ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023」「シルヴィア」に向けて、本日2月28日に東京都内で開幕記者会見が行われた。
ハンブルク・バレエ団の5年ぶりの来日公演となる今回は、芸術監督ジョン・ノイマイヤーの退任前最後の日本公演となる。公演では、日本でも過去2回上演された「ジョン・ノイマイヤーの世界」の内容を刷新した「ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023」と、1997年にパリ・オペラ座バレエ団のために創作された日本初演の「シルヴィア」が披露される。
会見にはノイマイヤーのほか、菅井円加を含むハンブルク・バレエ団のプリンシパルダンサーらが登壇。同席した日本舞台芸術協会(NBS)高橋典夫専務理事は、本公演が「総勢102名という、おそらくコロナが始まって以来の最大規模の海外バレエ団による公演」であると言い、その実現に協賛・後援団体に謝意を示しつつ、長年にわたるハンブルク・バレエ団との良好な関係にも感謝を述べた。
2021年に予定されていた来日公演がコロナで中止になった経緯を明かしたノイマイヤーは、「ハンブルク・バレエ団を率いる立場として最後となるシーズンに、日本を訪れずにはおれないという気持ちがありました」と招致を喜ぶ。その思いもあり、演目には頭を悩ませたそうで、芸術監督を50年務めた身として「同じものばかりをお見せしたくないし、クリエーティブなハンブルク・バレエ団のいろいろな側面を体験していただきたく、ガラのような『ジョン・ノイマイヤーの世界』なら私の創作を理解していただけるのではと。今回は私自身が日本の皆さんのためにレパートリーを選択してきました」と言い、同時上演となる「シルヴィア」のプレビューのほか、NHK BSプレミアムでも放送された「アンナ・カレーニナ」などの演目が組み込まれることを説明した。
また、ノイマイヤーはコロナ禍での創作についても言及。大きな窓のあるハンブルク・バレエ・センターで、コロナ対策に特化した少人数制・短時間の創作を行った経験から、ペアで踊る「ゴースト・ライト」が生まれた。さらに「ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023」にラインナップされた同作は、能のエッセンスが織り込まれているという。
一方、「シルヴィア」では、野心を持った女性と愛にあふれたシャイな男性との関係が描かれる。「2人の時間の流れを描く作品ですが、ミニマリスティックな舞台装置となっています。日本の皆さんなら、その素晴らしさを理解してくれるのではないかと思っています」と期待を寄せた。
続いて、会見に登壇したダンサーたちが一言ずつコメント。アンナ・ラウデールは「東京に来られてうれしいです。あの美しい劇場で再び踊ることを心待ちにしています」、エドウィン・レヴァツォフは「昔の友達、仲の良い友達に再会するような気分で、素晴らしい環境の中で踊らせていただきます」と喜びをあらわにした。初来日となるイダ・プレトリウスは「興奮して夜は眠れなくて、今朝も朝日が昇る様子を見て『日本に来たんだな』と感じました。『ジョン・ノイマイヤーの世界』で踊る『アイ・ガット・リズム』は衣裳もかわいくて楽しい作品です」と述べた。
「シルヴィア」でタイトルロールを務める菅井は「今回はハンブルク・バレエ団プリンシパルとしてカンパニー全員で来日できたことを本当にうれしく思います。母国で『シルヴィア』を踊らせていただくことは私にとって本当に大きなこと。家族や友達、バレエの先生、全員を招待して観ていただくぶん、自分で自分にプレッシャーを与えてしまった気持ちです。『マーラー交響曲第3番』他よりのパ・ド・ドゥは音楽が伝えてくれる何かを私の身体で表すというような、ずっと踊っていたい作品で、『ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023』の最後にふさわしいパ・ド・ドゥになるんじゃないかと思います。カンパニーはみんな日本が大好きで、公演を楽しみにしているので、素敵な時間をシェアできたら」と微笑む。また、アレクサンドル・トルーシュは「アリーナ・コジョカルと『椿姫』からのパ・ド・ドゥを踊りますが、風に乗って美しく踊るようなピースです」と説明した。
記者からの質問で、モーリス・ベジャールとのエピソードを聞かれたノイマイヤーは、その出会いを「ベジャールの、時代に関連性のある表現と、クラシカルなバレエ技術に感銘を受けました。お互いのカンパニーを1年間交換しないか?と持ちかけられたことも……」と、互いに感性を刺激し合った思い出を振り返る。また、後進育成への思いを尋ねられると、「私は“メンター”でありたいと思ったことはありません。私という存在の中心にあるのは、コミュニケーションを核とするクリエーションです。以前、京都で“踊りとは感情の生きた形である”という話をしましたが、バレエは劇場で踊るためのもので、劇場はステージ上に居る者と観客がお互いを“理解し合う”ための場所。相手の感情をくみ取り、共鳴することがクリエーションにつながると考えているので、私の行動から学んでもらいたいと思っています」と語った。
最後に、今後の展望を聞かれると「ハンブルク・バレエ団を率いて50年、カンパニー全体のことを考える一方で、自由を求める気持ちもありました。自分のことだけを考えて過ごせたらという思いと、本当にそれで良いのかという葛藤で、自問自答のうちにとうとう50年が過ぎてしまいました。クリエーションとは常に何かの始まりです。この50年、毎日が“新しかった”と感じています。『芸術監督退いても創作を続けるか?』と聞かれたら、答えは“イエス”。これからも作品を作り続けたいですし、ハンブルク・バレエ団の新しい芸術監督にもぜひ私を呼んでいただきたいと思っています(笑)」と語り、会見を締めくくった。
公演は「ジョン・ノイマイヤーの世界 Edition2023」が3月2日から5日まで、「シルヴィア」が10日から12日まで、東京・東京文化会館にて行われる。
ハンブルク・バレエ団2023年日本公演「〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉 Edition2023」
2023年3月2日(木)~5日(日)
東京都 東京文化会館
音楽:バーンスタイン、ガーシュウィン、チャイコフスキー、シューベルト、ショスタコーヴィチ、ショパン、ドリーブ、サイモンとガーファンクル、マーラー ほか
振付・演出・語り:ジョン・ノイマイヤー
出演:ハンブルク・バレエ団
ゲスト:アリーナ・コジョカル
ハンブルク・バレエ団2023年日本公演「シルヴィア」
2023年3月10日(金)~12日(日)
東京都 東京文化会館
音楽:レオ・ドリーブ
振付・ステージング:ジョン・ノイマイヤー
指揮:マルクス・レティネン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
出演(10日、11日18:00開演回、12日)
シルヴィア:菅井円加
アミンタ:アレクサンドル・トルーシュ
ディアナ:アンナ・ラウデール
アムール / ティルシス / オリオン:クリストファー・エヴァンズ
エンディミオン:ヤコポ・ベルーシ
出演(11日13:30開演回)
シルヴィア:イダ・プレトリウス
アミンタ:ヤコポ・ベルーシ
ディアナ:パク・ユンス
アムール / ティルシス / オリオン:フェリックス・パケ
エンディミオン:アレッサンドロ・フローラ