ヒット作はこうして生まれた! 「RRR」宣伝・松本作インタビュー
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「RRR」場面写真
「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリが監督を務める「RRR」。日本では、これまで公開されたインド映画の興行記録を24年ぶりに更新した。
ヒット作の裏側を関係者に取材する本企画。今回は「RRR」の配給会社であるツインの宣伝部・松本作にインタビューを実施した。初めて本作を観たときから“ヒットする予感”がしていたという松本。ヒット実現に至るまでに行った宣伝施策や、「RRR」の魅力を語ってもらった。
取材・文 / 尾崎南
字幕がなくても画力だけで楽しめる
──本日はよろしくお願いします。松本さんの経歴について教えていただきたいのですが、これまでも映画関係のお仕事をされていたのでしょうか。
そうですね。宣伝会社から配給会社のほうに移って、角川エンタテインメントやCJ Entertainment Japanに勤めていました。これまで担当してきた作品だと、韓国映画「王になった男」のヒットが印象に残っています。
──今回「RRR」に関して、宣伝部ではどのような業務をされたのでしょうか?
「RRR」は、マンハッタンピープルの原悠仁さんが宣伝プロデューサーを務めています。なので、我々宣伝部と原さんで、作品の売り方や宣伝方針を話し合いました。
──松本さんが初めて「RRR」をご覧になった際の率直な感想を教えてください。
以前「バーフバリ」シリーズをうちで配給したので、S・S・ラージャマウリの最新作という点で期待はありました。実際に観たときは想像以上のシーンが満載だったので、本当にびっくりしました。しかも一番初めは字幕なしで、テルグ語で観たんですよ。
──そうだったんですね!
なかなかセリフの意味はわかりませんでしたが、それでもすごく面白かった。字幕がなくても画力だけで楽しめたので、ヒットするなと思いました。
──では初めからヒットする予感がしていたのですね。
そうですね。「バーフバリ」シリーズのファンも多いですし、基盤となるお客さんがいるということでヒットするだろうとは思っていました。ただここまで記録を塗り替えるとは思っていませんでした。「バーフバリ」シリーズくらいはヒットさせたいというのと、あわよくば「ムトゥ 踊るマハラジャ」の記録を超えられればと目標にしていましたが……。少しでも近づければと思っていました。
ラージャマウリの作品は“インド映画”というジャンルを超えている
──宣伝方法を考える際は、「RRR」のどんなところをアピールしていこうと思われましたか?
まず“ラージャマウリの最新作”である点は一番大きな柱になってくると思いました。あとは映像ですよね。すごいシーンが満載なので、いかに本編映像を出し惜しみせずに宣伝し、観客の期待を高められるかと考えていました。
──日本ではインド映画になじみがない人もいると思いますが、その点で不安はありましたか?
ラージャマウリの作品は“インド映画”というジャンルを超えていますよね。別格だと思っています。「RRR」ではダンスシーンも物語の流れに沿って登場するので、普段インド映画を観ない方でも入り込みやすかったのかなと思います。うちは韓国、中国などアジア系の作品を取り扱うことが多いですが、国ごとに宣伝方針を変えている訳ではなく、それぞれの作品の内容に沿った宣伝を打とうと考えていますね。
キラーシーンを出し惜しみしない
──実際に行った宣伝の施策で印象に残っているものを教えてください。
今回はスクリーンで映画を“体験する”ということが一番の売りになっていたので、マスコミの皆さんにも大スクリーンで観ていただきたいという思いがありました。そのため大きなスクリーンがある試写室で回すなどの施策をしました。あとはコロナ禍ということもあり、皆さん直前まで予定を立てない傾向になっているとレポートがありましたので、あえて公開日直前に宣伝を集約しました。公開付近はどのメディアを観ても「RRR」が出ているくらいの勢いで(笑)。もともと認知度が高かったわけではないので不安もありましたが、我慢して最後に集中した露出ができたのは大きかったです。
──宣伝施策に対する反応はいかがでしたか?
キラーシーンを出し惜しみしない宣伝を心掛けたことで、YouTubeで公開した本編映像は再生数がよかったんですよ。「魅惑の高速ダンス編」が33万回、「猛獣アタック編」が35万回、「最強の肩車編」は42万回再生されて(2023年2月中旬時点の再生回数)。そこから「なんかすごい映像が流れる映画があるぞ」という声が広まりました。
──宣伝部からしたら本編映像をたくさん露出するのは勇気がいることだと思うのですが、映像で興味を引こうという作戦でしょうか。
そうですね。度肝を抜くシーンが映画の柱だと思うので、観てもらって「なんじゃこの映画」と思ってほしかった。そこから興味を持って、劇場に足を運んでもらうという作戦がうまくいったのかなと思います。さらに今回は、主演のトップスターが2人とも来日したことも大きいと思います。普通だったら取材のために早めに来るところ、あえて公開日にあわせて呼んで、舞台挨拶に登壇してもらいました。その様子をSNSなどで発信できた効果はあったと思います。公開日の翌週から、ウェブ記事やテレビで知る情報、劇場で観た人の口コミ、宣伝の相乗効果で「RRR」が広まっていった感じですね。
──来日された際のS・S・ラージャマウリの印象はいかがでしたか?
監督は、「バーフバリ」シリーズの舞台挨拶で、日本の観客が熱をもって歓迎してくれたことがとてもうれしかったようです。今回は俳優の2人にもその熱狂を味わわせたいと声をかけてくださり、3人で来日したんです。ラーム・チャラン、N・T・ラーマ・ラオ・Jr.も日本の熱狂度がすごいと感動していましたね。
──では、やりたかったけど実施できなかった宣伝施策はありますか?
うーん……やり尽くした感がありますね。だからこそヒットにつながったのかな。後悔しない宣伝ができてよかったなと思います。
10分に1回はクライマックスが訪れる
──宣伝施策の効果に加えて、「RRR」はSNSの口コミでどんどん評判が広がっていく印象がありました。
「バーフバリ」シリーズのときもそうだったので、SNSで口コミが広まるというのは、ある程度見込みがありました。ただ今回予想外だったのは、お笑い芸人の間で火がついたこと。パンサーの向井(慧)さんやチョコレートプラネットの長田(庄平)さんの口コミから、さらに広まっていきましたね。長田さんは、宣伝隊長のように自ら「RRR」のことを発信してくださったので感謝の限りです。また、もともと本作のメインターゲットは20~30代だったのですが、それが10代にまで広がったのは口コミのおかげだと思います。そこまで年齢層が下がったのは予想外でした。若い方が劇場に来てくれないと、大きなヒットは生まれないと思っているのでうれしかったです。
──観た人の感想ではアクション、音楽、踊り、ストーリーなど、さまざまな観点から注目されているのが印象的でした。
すべてがキラーショットになるような映画ですよね。10分に1回はクライマックスが訪れる(笑)。179分の映画なんだけど、「体感45分」と言う人が多かったのは、注目ポイントが多くて中だるみしないからだと思います。アクションや踊りだけでなく、笑えるところもあって、要素の多さで観客を飽きさせない。
──松本さんのお気に入りシーンは?
「猛獣アタック」シーンですね(笑)。ビームが虎を捕まえていたシーンもあったし、すべてのこのシーンにつながっていたんだな……と(笑)。熊やヒョウ、鹿までいるんだ!と。しかも飼いならしているのかなって思ったら全然違う(笑)。動物たちがビームだろうがイギリス兵だろうが構わず襲ってくる、野生のままなところが面白かったですね(笑)。このシーン大好きです。
友情・努力・勝利
──2023年1月20日からはドルビーシネマ版が公開されています。当初からドルビーシネマでの上映も考えていたのですか?
最初は考えていませんでした。観客の反応を見ていたら、IMAXでの上映が好評だったんですよね。動員がよくてもっと広めていきたいという思いがあったので、途中からドルビーシネマに挑戦しようという話になりました。我々も初の試みだったのですが、チャレンジしがいのある映画でした。「RRR」は音にもこだわっていますし、夜のシーンもあります。ドルビーシネマは黒がすごくきれいに発色するので、ぴったりでした。
──私もドルビーシネマで拝見したのですが、終映後に拍手が起こっていました!
そうですか! 生感があるんですかね、劇場型というか。演劇を観たあとのような気持ちになったのかな。ライブ感が強いのだと思います。だからこそ劇場で観たいという声が多いのかもしれません。
──「RRR」の魅力をたっぷりお伺いしてきましたが、ズバリ日本でここまでヒットした理由を挙げるとしたらいかがしょうか。
週刊少年ジャンプに登場するような「友情・努力・勝利」という日本人に刺さるテーマが、ばっちり入っていることでしょうか。「RRR」は劇画のタッチに近い部分もあります。例えば突然スローモーションになり決まるシーンがありますが、マンガで「ドドーン」と効果音が描かれていたり、歌舞伎で見得を切るような表現に近いのかな。現実世界で考えたら不自然なんですけど、面白みがありますよね。あとは音楽ですね。シーンにビタッと合う音楽が使われているので、高揚感が半端ないです。
──これから「RRR」を観る方にメッセージをお願いします。
「RRR」は劇場でこそ“パワー”を感じられる映画です。そういう体験を、ぜひ劇場のスクリーンで味わっていただければと思います。
「RRR」(全国で公開中)
舞台は1920年、英国植民地時代のインド。捕らわれた少女を救い出す使命を背負ったビームと英国の警察官であるラーマは、互いの素性を知らぬまま唯一無二の親友となる。しかしある事件をきっかけに、究極の選択を迫られることになるのだった。N・T・ラーマ・ラオ・Jr. がビーム、ラーム・チャランがラーマを演じた。S・S・ラージャマウリが監督を務める。
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