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父・松本白鸚も演じた『花の御所始末』に幸四郎が挑む 『三月大歌舞伎』初日レポート

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歌舞伎座新開場十周年「三月大歌舞伎」

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歌舞伎座新開場十周年『三月大歌舞伎』が3月3日より開幕し、坂東玉三郎をはじめとする多彩な顔ぶれが趣の異なる演目を上演。その初日レポートが到着した。

第一部は、宇野信夫作『花の御所始末(はなのごしょしまつ)』。“昭和の黙阿弥”と称される劇作家の宇野信夫がシェイクスピアの『リチャード三世』から着想を得て、松本白鸚に向けて書き下ろされた本作は、昭和49年(1974) に帝国劇場で初演され、かつて二度演じられたのみの伝説の舞台。40年ぶりに上演される今回の公演では、父・白鸚が勤めた足利義教に松本幸四郎が初役で挑む。

舞台は、庭いっぱいに花木が植えられ人々から「花の御所」と呼ばれる足利幕府の室町御所。中央には美しく枝垂れる柳の大木が印象的に佇む。そこへ憤慨しながらやってきたのは太政大臣・足利義満の次男・足利義教(松本幸四郎)。美しく逞しいその姿に人々の視線が惹きつけられる。義教は自身が落馬したのは臣下の安積行秀(片岡愛之助)の責任だと叱責。その様子を見た畠山左馬之助(市川染五郎)は行秀を庇い、自らの命を差し出そうとするも、義教の怒りは収まらない。やがて管領・畠山満家(中村芝翫)と二人きりとなると、義教はある計画を打ち明ける。実は、将軍の座を手に入れるべく計略を巡らせている義教は、満家と手を組むと、自身の妹・入江(中村雀右衛門)と左馬之助を結び付け、世継ぎである兄の義嗣(坂東亀蔵)も陥れる。さらに妾との時間を楽しむ父・義満(河原崎権十郎)を寝所で殺害。義教の白い衣裳に赤い血汐が飛び、不敵な笑みを浮かべる様子が人々に強烈な印象を残す。ついに思惑通り将軍の座を手に入れた義教の独裁はエスカレートし、ついには手を結んでいた満家をも手にかける。月日は流れ、自らが殺めた父や兄らの亡霊に毎晩苦しめられる日々を送る義教のもとに突如一揆の者たちが乱入し……。

冒頭から最後までどこか不穏な空気が物語を包み、「花の御所」で次々と繰り広げられる冷酷な殺しの場面。美しさと残酷さが共存し、独特の魅力を放つ。取材会で「父と宇野先生が、お互い持っているものをぶつけ合った作品だと思うので、その精神を大切にしながら、積極的に自分の『花の御所始末』にすることを目指したい」と意気込みを語った幸四郎。暴君と恐れられ、目的のためには手段を選ばぬ冷酷非道な足利義教と男の栄光と末路、劇的な生き様がドラマチックに展開し、「悪の魅力」が歌舞伎らしく、美しく描き出されている。

第二部は、歌舞伎三大名作の一つ『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』の「十段目」。討入りを直前に控えた赤穂浪士を支えた人物・天川屋義平を主人公にした物語で、単独での上演は珍しい武士にも勝る義平の義俠心を描く一幕だ。

舞台は廻船問屋の天川屋。主人の天川屋義平(中村芝翫)は大星由良之助の依頼を受け、ひっそりと赤穂浪士の討入りに必要な武具の調達する。討入りの情報が洩れぬよう女房と離縁し実家に帰す徹底ぶり。しかしある夜、離縁したはずのおその(片岡孝太郎)がやってきてその理由を問いただす。冷たくあしらいおそのを追い返した義平の元へ、浪士たちへの武具調達の嫌疑により捕手が押しかける。息子の命を引き合いに出されても知らぬ存ぜぬを通す義平。そこへ一人の意外な人物が現れ……。

今回初役で演じる義平について、「男のなかの男」と取材会で表現した芝翫。長持の上にどっかと座り「天川屋義平は男でごんす」と、名セリフを聞かせるとその清々しく男らしい様子に客席からは大きな拍手が。松本幸四郎演じる大星由良之助の心情厚い計らい、女房おそのとの夫婦の情愛と共に、討入りを影で支えた人々の姿、討入りの背景を描く熱い一幕が繰り広げられた。

続いては、新古演劇十種の内『身替座禅(みがわりざぜん)』。狂言の大曲をもとにした松羽目物の舞踊劇で人気演目として上演を重ねる本作。本公演では、尾上松緑が初役で山蔭右京を勤める。

愛人の花子から恋文を受け取った大名山蔭右京(尾上松緑)は、奥方玉の井(中村鴈治郎)の目を盗み会いに行こうとする。右京は一計を案じ、ひと晩持仏堂で座禅をすると嘘をつき玉の井の許しを得ると、家来の太郎冠者(河原崎権十郎)に衾(ふすま)を被らせ身替りにすると花子のもとへと嬉々として出かけていく。しかし身替りを知った玉の井は、太郎冠者と入れ替わって右京の帰りを待ち構えることに……。そうとは知らず浮かれた様子の右京と、怒りに打ち震える玉の井の対比が面白く描かれる。

筋書で「右京は非常にチャーミングな二枚目」と語る松緑。鴈治郎も玉の井を「右京に惚れ込んでいる、可愛らしい女房としてお見せできたら」と語った。そして二人そろって大切にしたいと話すのは「品格」「品の良さ」。喜劇味溢れる中にも、松羽目物らしい品格もただよう、歌舞伎らしい可笑しみを堪能できる一幕だ。いつの時代も変わらぬ夫婦のやり取りがユーモアたっぷりに描かれた名作に劇場は明るい雰囲気に包まれた。

ひときわ舞台を明るく照らす玉三郎の夕霧

第三部は、漂泊の歌人・吉井勇が描いた異色の作品『髑髏尼(どくろに)』。源氏による平家の公家狩りが行われる京都。我が子を殺され泣き叫ぶ者、おびえる人々が行きかう一條万里小路、烏と話すことができるという烏男(市川男女蔵)は、烏は死んだ平家の者たちの血で生きている、戦を呪っていると源氏の武士たちに語りかける。そしてまた一人の子供が源氏の武士に連れ去られていくと、現れたのは我が子壽王丸を探す美しき上臈・新中納言局(坂東玉三郎)。阿証坊の印西(中村鴈治郎)に我が子の行方を聞くと、おぼつかない足取りで壽王丸の血汐をたどっていく。烏男が口ずさむ歌が聞こえる中、印西はこの世の無常を嘆くのだった。時は流れ、奈良の尼寺へ入った局は、亡き息子・壽王丸の髑髏を傍らに過ごす様子から、髑髏尼と呼ばれるように。この寺の鐘楼守の七兵衛(中村福之助)という醜い男は、美しい髑髏尼に恋焦がれる日々を送っている。秘法を手に入れた髑髏尼はついに愛しい夫平重衡(片岡愛之助)に一目会うことが叶い……。

昭和37年以来の上演となる本作。当時の上演をよく覚えていると話す玉三郎は、戦乱の為に最愛の夫や我が子と死別した髑髏尼を描く本作で「人間の根源的な部分を見つめ直し、そこに現世では成就できない者同士である髑髏尼と七兵衛の関係性を盛り込み、諸行無常の味を出せたら」と筋書で語っていた。戦乱の非常さ、虚しさ、人々の孤独にスポットを当て再編成され、現代にも通じる普遍的な物語となった本作を、秘法による幻想と現実が美しく混ざり合う、妖しく艶めかしい一幕としてお届けする。

続いては、上方和事の名作『廓文章 吉田屋(くるわぶんしょう よしだや)』。大坂新町の吉田屋へやって来たのは、編笠をかぶり紙衣姿に零落した藤屋の若旦那伊左衛門(片岡愛之助)。放蕩三昧で勘当されながらも、恋する遊女夕霧に会いたい一心でやってきた伊左衛門を、吉田屋の亭主喜左衛門(中村鴈治郎)と女房おきさ(上村吉弥)は座敷に迎え入れる。そわそわと待ちわびる伊左衛門のもとへ、ようやく夕霧(坂東玉三郎)が姿を現すが、二人は痴話喧嘩を始める始末……。

舞台に、玉三郎演じる夕霧が登場するとパッと華やぎ、ひときわ舞台が明るくなったよう。艶やかさと儚さをたたえた夕霧の美しさに、観客も伊左衛門と共にその登場を待ちわびていたことが分かる拍手に包まれた。本作を自身の家(松嶋屋)の大切な狂言と語る愛之助は、まさに「和事」の主人公の代表ともいえる伊左衛門を、みすぼらしい身なりでも失われない品格と可笑しみたっぷりに勤めあげる。華やかな廓を舞台に、上方の香り漂う美しく優雅な一幕に酔いしれるひとときとなった。

『三月大歌舞伎』は3月26日(日) まで歌舞伎座で上演される。

写真提供:松竹(株)
※無断転載禁止

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