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分断の記憶が残る街で小学生が哲学を学ぶ「ぼくたちの哲学教室」5月公開

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「ぼくたちの哲学教室」ビジュアル

北アイルランド・ベルファストの男子小学校で行われている哲学の授業を記録した「Young Plato」が、「ぼくたちの哲学教室」の邦題で5月27日より東京・ユーロスペースほか全国で順次公開される。

プロテスタントとカトリックの対立が長く続いた歴史があり、一部の武装化した組織が今なお存在し、若者の勧誘に余念がないというベルファスト。ホーリークロス男子小学校で校長を務めるケヴィン・マカリーヴィーは、新たな憎しみの連鎖を生み出さないために、学校の主要科目に「哲学」を取り入れている。宗教や政治の対立の記憶と分断が残る街で、哲学的思考と対話による問題解決を探るケヴィン校長の挑戦と、異なる立場の意見に耳を傾けながら、自らの思考を整理し、言葉にしていく子供たちの姿が捉えられた。

NHKが主催する教育コンテンツのみを対象とした国際コンクール・第49回日本賞の一般向け部門で最優秀賞(東京都知事賞)を受賞。第18回アイリッシュ映画&テレビアカデミー賞では最優秀長編ドキュメンタリー賞に輝いた。監督を務めたのは、アイルランドで有名なドキュメンタリー作家のナーサ・ニ・キアナンと、ベルファスト出身の映画編集者デクラン・マッグラ。両監督によるコメントは下記に掲載した。4月には授業を担当するケヴィン校長の来日キャンペーンを予定している。

ナーサ・ニ・キアナン コメント

西洋社会では、少年たちの無差別暴力が不穏に広がっています。異なる視点への共感を生み出すことで、コミュニティ間の偏りが減り、「他者」に対する寛容さが増すかもしれません。フェイクニュースの時代には、クリティカルシンキングの重要性が不可欠になっています。私たちは、大勢の人々が自分たちの利益に反する行動を取るように簡単に操られること、間違った人々を権力の座につかせるように説得されることを、目の当たりにしてきました。もし、幼い頃から哲学や批判的思考を教えることが例外ではなく、普通になれば、次の世代は人生をうまく切り抜け、よりよい選択をすることができるようになるかもしれません。今、人類が直面しているすべての課題、もし私たちが生き残る可能性があるならば、ケヴィンのマントラ「シンク、シンク、レスポンド!(考えて、考えて、答える!)」は、私にとってかなりよい最初のレッスンのように思えるのです。

デクラン・マッグラ コメント

アードイン、そして北アイルランドでは、自殺率が異常に高い状態が続いていて、心理学者によるとこれはおそらく紛争を経験したことが原因だろう、と言われています。しかし、もっとも驚くべき事実は、北アイルランド紛争が正式に終結した1998年の停戦宣言以降に生まれた若者の自殺が特に多いということ。科学者たちは、紛争後のトラウマが社会に悪影響を及ぼすだけでなく、そのようなトラウマが世代を超えて受け継がれる可能性があるとみています。生まれる前に両親や祖父母によって行われていた紛争の影響によって、それを直接体験していない子供たちが、残酷なまでに苦しめられているのです。それは、断ち切ることが困難な、ひどく不公平な苦しみの連鎖なのです。できあがった映画が教育の力を示し、そして紛争後の社会が過去の束縛から解放され、若い世代が古人の考えを用いて自分たちの未来を作ることができるという希望と、心温まる高揚感のあるものになればと願っています。

(c)Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI