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【ロング対談】スターダスト☆レビュー×怒髪天『さよならNAKANO SUNPLAZA音楽祭』で初対バン「ライブバンドたる所以をしっかり見せられたらいい」

音楽

インタビュー

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左から)増子直純(怒髪天)、根本要(スターダスト☆レビュー) Photo:小境勝巳

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5月1日(月) から7月2日(日) の2カ月間にわたって開催される『さよならNAKANO SUNPLAZA音楽祭』。数々の名演の舞台となってきた中野サンプラザのフェアウェルイベントとしてゆかりのアーティストたちが続々ブッキングされている中、一際異彩を放つ対バンがこちら。5月11日(木) に行われる「スターダスト☆レビュー×怒髪天」だ。フロントマンである根本要と増子直純を招いて、今回の対バンの経緯を枕に、ようやく重なり合った世代の違うバンドマン同士による魂の言葉の応酬をお届けする。

気になってツアースケジュールを見ると、マジかよ!?っていうくらいの数やってて、毎回目ん玉飛び出てますよ(増子)

――おふたりはすでに面識はあるんですか?

根本 ちゃんとお話しするのは初めてですね。

増子 ちょっとご挨拶程度っていうのはあったんですけど。

――今回対バンをする経緯で言うと、まずは『さよならNAKANO SUNPLAZA音楽祭』から怒髪天へと打診があって、せっかくの機会にやるならば、ということでスターダスト☆レビューにオファーをしたと。

増子 そうです。なかなか自分たちで呼ぶにはデカすぎますからね(笑)。ここは中野サンプラザの最後の力を振り絞って、そこに乗っかって行こうかなと。以前テイチクに所属されていて、僕らと一緒だったんで、前からご一緒したいっていうのは言ってたんですけど、社内的なものによって全然話が通じてないということがわかって。話したやつがもう会社にいないっていう(笑)。相当言ってたんですけどね。何がやりたいってもうスタレビパイセンと対バンしてみたいと。やっと夢が叶いましたね。

根本 うれしいですね、それは。僕らもこのお話をいただいた時は、面白いね!っていうことしかなかったですから。僕はそんなに怒髪天のことを知っているわけではないんだけど、でも似たような道を歩んできたバンドだなっていうシンパシーは持っていたし、世の中への出方はまた違うかもしれないんだけど、精神的な部分とか目指しているものっていうのは近いところにいるなっていうのは気づいていたので、テイチクにいる頃から一緒にやってみたいなっていうのは僕らの方も実は思ってたんですよ。

増子 ありがたいです。ほんとにバンドのあり方みたいなものは確かに近いものがあると思うんですけど、でもだいぶん格が違いますから(笑)。

根本 何言ってんの! 僕らは何が誇れるかって言ったら、長くやってることだけですから。そういうなかで、僕らの音楽や存在がいつの間にか浸透していって、それなりにお客さんを集められるようになったっていうだけですから、いわゆる成功を収めたっていうタイプのバンドやミュージシャンとは違うんですよね。怒髪天もまさにそういうバンドで、で、僕らみたいなのって業界の中では珍しい存在だと思うんですよ。みんな単純にバンドが好きで、この仲間と一緒に音を出したいからやってるっていうだけで、天下を取ってやろうとか有名になってやろうとか、そういうことではないんですよね。

増子 我々もツアーでは結構地方のライブハウスを細かく回るんですけど、地方でライブが終わった後に宿に戻って風呂に入って寝る前にテレビをつけると、まあスタレビをよく見るんですよ。いわゆる事業枠っていうんですかね、その地方のコンサートを宣伝するCMがよく流れているじゃないですか、それにスタレビが出ている確率がかなり高い(笑)。で、気になってツアースケジュールを見ると、マジかよ!?っていうくらいの数やってて、毎回目ん玉飛び出てますよ。先輩があの数やるんだったら我々が疲れたなんて言ってられないよって。

――現在のツアーも2024年まで続きますもんね。

増子 恐ろしいですね!

根本 ていうかもともとね、アルバムを半年なり1年かけて作って、2カ月しかツアーやらないってどういうこと?って思ってたんですよ。アルバムのキャンペーンってだいたい発売の1カ月前くらいから始まって、で、発売して一週間もすれば誰もなんにもやらないんですよ。じゃあ俺たちが持って回るしかないだろと。行った先々で演奏して、アルバムを語れるわけですから。それが1年やれば1年アルバムを語れる。そういう当たり前のことを自分たちでやりたいなと思って独立して、少しずつ自分たちの理想に近づいて来ているっていうことなんですよね。

増子 今のお話を聞いただけでも、本当に音楽が好きでやっているんだなっていうのがすごく伝わってきますよね。我々は3年間活動を休止した時期があったんです。バンドブームが完全に終わってから東京に出て来たんで、お客さん全然入らなくて、これだったら電車の中で言いたいことを言ってる方が伝わるんじゃないかって(笑)。誰もライブハウスに来なくなって、みんなクラブへ行くようになっちゃったんですよね。で、休止して、その時にほかのバンドに誘われたりもしたんですけど、そこで気づいたのは、バンドをやりたいんじゃなくて、この4人で怒髪天をやることが楽しかったんだなっていうことだったんですよ。だったらもう一回やろっかっていう。

根本 いや、あのね、さっきも言ったけど今回対バンが決まって、怒髪天のプロフィールを読んだり、改めて聴かせてもらったりしたんですけど、なんでこんなに売れないのかが不思議だよね(笑)。

増子 自分でも不思議です(笑)。

根本 売れる要素は両方の指じゃ足りないくらいあるのよ、怒髪天は。わかりやすいし、筋が一本ちゃんと通っているし、敬遠される要素がひとつもない。だからなんでこいつらが売れないの?って思うんですよ。

増子 やっぱり90年代のCDがバンバン売れた時期に休んでたっていうのが一番の原因じゃないですかね。何にもしてませんでしたから(笑)。後輩のバンドとかもそうですけど、あの時ちゃんと努力なり苦労なりを積んだやつはその後が違いましたよ。我々、大阪にすら行ったことありませんでしたし、毎日飲んで遊んでましたから。

増子直純(怒髪天)

根本 僕らは僕らで売れない要素っていうのはあるっていうのを自覚しているんだけど(笑)。例えば音楽性とかキャラクターみたいなのをどんどんわかりにくくしているから。で、今の話を聞いて僕らと怒髪天の違いで大きいなと思ったのは、年代の差ですよね。僕らが出てきたのは80年代だったけど、インディーズなんてなかったから、いざデビューってなったらレコードメーカーがそれなりのお墨付きを与えてくれたんですよ。これだけの難関を経て、さあいよいよデビューですと。我々(レコードメーカー)が認めた素晴らしいバンドですよと。だからそうだなぁ、アルバムで言ったら3枚目くらいまでは売れなくてもリリースできることが保証されてた。3枚ってことはだいたい2年くらいの間は地味かもしれないけどそれなりにプロモーションしてもらえたんですよ。でも90年代に入ってからは、それこそインディーズブームっていうのがあって、よくわからないことになっちゃったよね。

増子 そうですね。だから要さん世代のバンドはもちろん、歌手の方やアイドルの人たちって、本当に選ばれし者たちなんですよ。いわゆるプロ。でも90年代くらいからは、そこへのカウンター意識もあってか、素人がやるものもまた違う価値観があって面白いよねっていうふうになっていって、それが行き過ぎたというか。もう、嘘だろ!?っていうのいっぱいいましたから(笑)。

根本 目立ったもん勝ちみたいなところがあったよね。それって今もそうですよね。ネットの世界なんか見てると。だからこそ、音楽が好きだとかバンドが好きだっていうベースの部分っていうのかな、それが大事になってくると思うんですよね。もちろん考え方はそれぞれだとは思うんだけど、全国に行って、自分たちの音楽を聴きに来てくれる人たちがいて、それで生活ができるんだったらこんなに幸せなことはないなって思いますよ。

根本要(スターダスト☆レビュー)

増子 ほんとそうですよ。

根本 僕らの目指すものってそれでしかない。

増子 ただスタレビにはちゃんとヒット曲がありますから(笑)。我々はもう本当にニッチで、強引に「我々のヒット曲」って言ってるだけですから(笑)。

根本 僕らの場合もヒット曲じゃないのよ。宣伝してもらっただけで、まったく売れてないんだから。「ザ・ベストテン」なんて一度も出たことなかったし。僕たちの唯一の自慢は「ザ・トップテン」の「もうすぐトップテン」というコーナーに一度だけ出たっていうこと(笑)。翌週はもういなかったから。

増子 でもみんなスタレビ知ってますよ。

根本 それはだから、たまたまCMソングに使われたっていうのもあるんだけど、一番効いているのは、さっき増子くんが言ってくれた地方の事業枠CMかもしれないね(笑)。とにかく何度も行くから、そしたらその度に夜中にCMが流れて、いつの間にか刷り込まれてるんじゃないかな(笑)。

増子 スタジオ盤ももちろんいいんですけど、ライブ盤が最高で、聴いていると本当にスタレビのライブに行きたくなりますもん。

たぶん僕も増子くんも説明しなくていいところまで説明して、相手がわかったようなわかんないような気持ちになっちゃうというか。それが僕らの共通の弱点だよね(根本)

根本 僕ら埼玉の出身で、例えば若い頃に大阪なんかに呼ばれてライブをしに行くと、バンド名の後に“from TOKYO”って書いてあるんですよ。僕らも人を呼びたいから東京のバンドのフリをして行くんですけど、実際にライブが始まったらまずはそこの釈明からするんですよね(笑)、実は埼玉のバンドでって。でも増子くんたちは札幌でしょ? 大都会じゃない。

増子 いやいやいや。都市部って言っても札幌中心部の5Km圏内くらいですよ。

根本 でもビルが立ち並ぶ光景っていうのはあるわけじゃない。

増子 まあそうですね。

根本 今でも僕らの地元でライブをやるとスタッフなんかは必ず「空が広いですね」って言いますから(笑)。だから東京に行くのに橋を渡る時はつり革を握った手に力が入るんですよ。

増子 はははは。

根本 でも、大学も東京だったし、何かコンサートを観に行くってなったら東京だったし、そういう意味では東京の文化圏ではあったんですけどね。

増子 うちのギターの上原子は留萌っていう町の出身なんですけど、まず高卒で札幌に出て来た時に、東京に出てくるのと同じ覚悟で出て来たって言いますから。北海道の場合は、まず札幌に出て来るっていうハードルがあるんですよね。そういう人たちが、じゃあ東京に出て行くってなったらどういう気持ちかって言ったら、ニューヨークに行くようなもんだと(笑)。そんな我々にしたら、埼玉どころか栃木も茨城も含めて全部東京ですよ。

根本 でもさ、その“東京に出る”っていう覚悟は相当なものとしてあるわけでしょ。僕らの場合は、言ってもそこがぬるいわけですよ。確かに橋を渡るときにはつり革を握った手に力は入るけど、在来線で日帰りで行けちゃうわけですから。アマチュアの頃に、渋谷屋根裏に出られることになったんですよ。当時の屋根裏って言ったらRCサクセションがやってて、で、方や新宿ロフトは山下達郎さんなんかが出てた。もちろんそういう有名な人たちは夜で、僕たちは――当時は「アレレのレ」っていうバンド名でしたけど――昼間なんです。

増子 アレレのレ(笑)。

根本 そうそう(笑)。で、僕たちはポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)で賞をもらったりしたこともあって、人が入るようになったんですよ。と言っても20人くらいですけど。ある日、ブッキングの人に呼ばれて、「そろそろ夜やってみないか?」って言われたんです。これはもう、RCと同じところに出られるわけですから、やった!と思ってメンバーのところに行って興奮しながら話したんですよ。そしたら、「夜って何時からやるんだよ?」って訊くから、「7時と9時だよ」って言ったら、「9時に出て終わって片付けとかしてたら夜中の1時くらいになるよな? それはやめといた方がいいんじゃないか」って。

増子 なんてことを!(笑)。

根本 いまだにこの話はよくするんだけど、ひっくり返りそうになったもん(笑)。話をくれたブッキングの方も――のちに子供ばんどのマネージャーさんになるんだけ――ぽかんと口開けてた。「そんな理由で断ったやつらいないよ」って。だからね、僕らには増子くんたちみたいに、ニューヨークに出るような気持ちで東京に出て来るような、そんな気持ちはまったくなかった(笑)。

増子 僕らの時代は、屋根裏はもう下北沢でしたからね。ここじゃねーんだよな、とか思いながらも(笑)、本当によくしてもらいました。

根本 ライブハウスって育ててくれるよね。今はチケット売ってこいってノルマがあるって言うけど、昔そんなこと言われたことなかったけどな。

増子 いや、なかったですよ。

根本 だから今は、成功したら自分のもので、失敗も全部自分のせいっていうような割り切り方になっていて、そこがどうも音楽というカルチャーを浅く狭くしているような気がして仕方がないんですよね。

増子 システム自体がビジネス寄りになっちゃったというか。今は、これは俺が育てた!って言いたくなる人もいないというか。それはそれで大変なんですけどね。昔は、どこに行っても誰かが自分たちを育てたって言ってるっていう(笑)。いったい誰に育てられたんだよ、おれたちはって。でも、ロフトに出られた時はうれしかったですね。まだ小滝橋にあった頃ですけど、やっぱりロフトは敷居が高い感じがありましたから。カセットテープの審査があって、そこで「まだまだだけどいいぞ」って言ってもらえるのが本当に自信になりましたよね。お客さんが全然入らなくても、大丈夫だって思えましたから。そこからずいぶん時間がかかりましたけど(笑)。結局メンバー全員バイトをやめられたのって40歳を過ぎてからですから。でも、そもそもバンドで食おうっていう気もそんなになかったというか。月半分働いて楽しくバンドをやれてたらいいっていう。本当にTHE MODSの悪い刷り込みですよね。“あいつらの歯車になるな!メジャーはクソだ!”って。そうかー!って中学生の時に思っちゃって。

根本 でも怒髪天って本当に稀有な存在だよね。僕らもそうだけど、持続系だよね。ただただこのメンバーで一緒に音楽をやりたいから続けているっていうさ。そういうのを若い世代にも目指してほしいっていうふうに思うんですけどね。

増子 ただ僕らからするとスタレビパイセンの背中はかなり遠くにあるので(笑)。素晴らしいですよね。ライブのクオリティもそうですけど、曲も歌も演奏も。そりゃあ続くわというか、1回観た人は絶対にまた行きたいって思いますもん。楽しいし。いくらでも聴いてられるというか。

根本 それは僕が怒髪天に対して思うことでもある。だからこれをなんでもっと多くの人が聴かないんだろう? 観に行かないんだろう?って。僕らの結論は、ビジュアルの間違いがあったんだよ(笑)。

増子 それは我々もかなりありましたよ(笑)。

根本 いや、怒髪天が歌ってることとイメージってかけ離れてないじゃない。僕らもルックスはこんなだから、そこは最初から諦めてロックバンドとしてやっていけたらいいかなって思ったんですよ。なんて言うか、売れないRCサクセションというか、志の低いムーンライダースというか(笑)。

増子 そんなことはないでしょう(笑)。

根本 まあ自分たちではそんな感じでやれたらいいかなと思ってた。それで全国回れたら最高だなって。

増子 我々の若い頃の写真なんて見せられないですよ。見た目と音楽性が違い過ぎて笑っていいのかわからないっていう。

根本 たぶん僕も増子くんも説明しなくていいところまで説明して、相手がわかったようなわかんないような気持ちになっちゃうというか。それが僕らの共通の弱点だよね(笑)。

増子 喋らずにはいられないですからね(笑)。

根本 そうなんだよね(笑)。とにかく楽曲を聞いてほしいから、克明に説明するわけですよ。で、いざやろうとするともう聴き終わったような顔をしてるお客さんがいますから(笑)。

100回に1回歌える歌を目指すよりは、100回歌える歌を目指しているのかもしれない(根本)

――奇しくもこの1、2年でスタレビ、怒髪天ともに過去作品のリテイクを行なっていますよね。スタレビは『ブギウギ ワンダー☆レビュー』(2022年10月リリース)、怒髪天は『痛快!ビッグハート維新'21』(2021年12月8日リリース)。これは、どういうモードだったんですか? やはりコロナで思うようにライブができないという事情が大きかったんでしょうか?

根本 それはね……作るのがめんどくさくなってきたから(笑)。

――はははは!

根本 だって40年もやってると、そんなにホイホイ出てこないんですよ。たっぷり時間をかけたら話は違うんでしょうけど。僕らの場合は、ツアーが終わるとすぐにまたツアーのスケジュールが入るから。レコーディングのスケジュールだけで1年とか空けてくれるんだったらそれに没頭すると思います。でも、個人事務所で1年間レコーディングに費やしたら正直インカムがなくなっちゃうんですよ。だからやっぱり僕らは日雇いのように日々労働して幾ばくかを稼いでこなきゃいけないわけだけど、そうするとまとまってなかなかレコーディングできないじゃないですか。というところで、編み出したのが過去作品にホーンを入れたりしてリテイクしようかということだった。だから僕は個人的にミュージシャン気質じゃないのかもしれない。やっぱり人がいれば楽しくなって演奏したくなるし。だって、自分の作った曲を人が聴いてくれて、演奏したら喜んでくれるわけじゃないですか。こんないいことってないわけですよ。しかも、新曲よりも昔の曲をやった方がよろこんでくれるっていうんだったらなおさら、わざわざキツい思いして新曲作るよりも、ねえ(笑)。だから旧作をリテイクしようと。怒髪天はどうだったの?

増子 うちはコロナ禍になってから、さらにCDが売れなくなって、これはヤバイんじゃないかと思って、じゃあレコードメーカーに金があるうちにやっておいた方がいいなと思いまして(笑)。終活じゃないですけど。今まで曖昧にしていたものを全部ちゃんと見直そうと。もう若い頃に作ったやつなんて、歌メロに正解がなくてめちゃくちゃ苦労しましたけど。間違ってないこれ?っていうところばっかで。コーラスの度も合ってないし、ドラムの拍違わね?っていうようなところなんかを、しばらくライブもたくさんはできないからこのタイミングで一個ずつ直して行こうやと。またこの曲やる機会があるかもしれないからってやったんですけど、昔こういうことがやりたかったんだろうなっていうことが、多少技量が上がってできるようにはなったので自分たち的にはうれしかったですね。

根本 あ、そうね。バンドってあからさまに成長しますよ。あくまで当社比というか自分たちの中での比較にはなるけど、5年目と10年目ではまったく違うから。悪い癖が出て来ることもあるけど、本気でバンドをやっている人たちは確実に上手くなる。

増子 それは間違いないですね。今年押さえられたコードが来年押さえられなくなることはないですからね。

根本 練習は嘘をつかないからね。

増子 うちのドラムにいつも言ってますけど、「楽しいうちは練習じゃないぞ」と(笑)。「もういいだろ、もうやりたくないって思ってからが練習だぞ。俺は先に帰るけど」(笑)。

根本 はははは。ボーカルのリハってどれくらいやるの?

増子 2時間のライブだったとして、それを丸々やることはないですね。喉に負担がかかっちゃうんで。

根本 楽器の場合は回数をやることで体に覚え込ますっていう側面があるんだけど、歌って自分で作った歌だと余計にそうなんだけど歌詞さえちゃんと入れば歌えるから、あんまりリハーサルで付き合うことはないんですよね。でもうちは僕がギターも弾くから何度もやるわけ。しかも結構真剣に歌うから、そのうちに喉がどんどん強くなってきたっていうのはありますね。強くなったというか、アベレージを下げてくるっていうのかな。100回に1回歌える歌を目指すよりは、100回歌える歌を目指しているのかもしれないね。

増子 そのクオリティがめちゃくちゃ高いんですけどね。

根本 いやいやそんなことはないんだけど。バンドにおけるボーカリストってどういう立ち位置にいるのかなっていうのがちょっと気になる。

増子 自分でこれはやらなきゃなっていう歌に関しては何回もやりますけど、全部が全部って感じではないですね。でも喉を潰したことはほぼないです。1回だけですね。昔、本当に若い頃に熊本にツアーに行く時に、まず大阪でバカ飲みして、そこから車で移動だったんですけど、好きなバンドのアルバム3枚分かけて酔っ払いながら大声で歌いながら行ったら、次の日カッサカサになってて(笑)。初めての熊本だったんですけど、ライブハウスの店長にも「ガッカリした」って言われました。

根本 ははは。それ以来ないんだ。

増子 ないですね。今の方がキー高くなってるんですよ。

根本 それは歌い続けてるからだよね。

増子 僕の今キーはCなんですけど、要さんはどこですか?

根本 僕はどこでも出るから。大体ギターのフレット分全部出る。

増子 恐ろしいですね。

根本 ボーカリストってさ、スタッフに一番気を遣われるじゃない。いい声出すために歌わせなくするんですよ。もうやめときなさいって、増子くんみたいに自分でペースを作れる人はいいんですけど、そうやってチヤホヤされたりするとちょっとその気になるじゃないですか。もうホテルには加湿器が必要で、楽屋には喉をケアするためにあれがこれがって。僕はそういう恵まれ過ぎた環境にいると歌うことが嫌になっちゃうんじゃないかなって思うんですよ。

増子 ああ。

根本 一時期、刺激物をとるなって言われたの、スタッフに。

増子 よく言われますよね。

根本 でしょ。僕、カレーが大好きで、でもツアー先でみんなカレー食ってるのに、僕だけ禁止されるわけですよ。めっちゃくちゃストレス溜まるの。でもいい歌を歌うためだしなって思って我慢するんだけど、ある時もう我慢できねえと思って、カレー食ったんですよ。それで歌ったらすげえ調子良かった(笑)。

増子 関係ないですからね。

根本 そう。だから今僕はステージに出る前は必ず辛ラーメン食ってから出てます。

増子 それは辛すぎるんじゃないですか?(笑)。

根本 全然調子いいんだけど、なんかあった時に、しょうがないよ、辛ラーメン食ったんだからって言えるなと思って(笑)。だから僕は自分の喉には何の期待もしていないというか、ボーカリストってどんどんハードルを上げられるんですよ。だから歌う方もいろいろ気になって自分でハードルを上げて行っちゃうんだけど、僕はそんな歌は歌えるはずがないって良い意味で割り切ってるんです。

増子 若い頃にいろいろ聞いて喉にいいことを試したりしたこともありましたけど、結局甘やかさないことが一番いいんですよね。僕も今、何にもやってないですから。

根本 毎日歌ってる人間の強みだよね。甘やかしたって甘えるだけだって思えるのは。でも、例えば「今日は調子が悪いので歌うのやめときます」って言えちゃう人がいるわけだよね。

増子 考えられないですよね。お客さんがアーティストの機嫌を伺うみたいなことがほんと嫌で。なんかちょっと今日機嫌悪いんじゃないかなみたいな。そんなもん、金払って観に来てるのに何言ってんの!と。こっちがお客さんの機嫌を伺うくらいじゃないと割に合わないでしょって思いますよ。

根本 アンコールに出てこないやつはろくなやつじゃないっていうのがうちの持論なんで、アンコールはすぐに出るっていうのがバンドのルールになってます。だって、やる曲も決まってるのにお客さんを待たせる意味がないじゃないですか。

増子 うちも時間を押すことは絶対にないですね。終演時間も予定時間で書いてありますから。ただMCがちょっと延びちゃって終演時間を越してしまうってことがたまにあります。石川県の山奥の温泉地で毎年ライブをやってるんですけど、そこで1回バスがなくなったってすごいクレームきましたから(笑)。ちょっと喋り過ぎちゃって。

うちはもうメンバーもスタッフもスタレビのライブを見るのを本当に楽しみにしているので、早く終わって観たいです(笑)(増子)

根本 いやあでも、こうやって話してきて、こんなに同じ感覚で音楽をやっている人たちと出会ったことなかったからうれしいですね。「AVERAGE YELLOW BAND」って曲にも書いてるんだけど、誰かひとりが浮かれるようなバンドってすぐに終わっちゃうんですよ。

増子 うちは俺自身が楽器を全くできないので、歌詞しか書けないんですよ。だから全部分業になってて、自分ひとりじゃ何もできないんです。バンドじゃないと成立しないようになっているんですよね、そもそも。

根本 歌い始めたきっかけは何だったの?

増子 最初はベースだったんですよ、パンクバンドの。パンクって言ったらベースじゃないですか、やっぱりシド・ヴィシャス(セックス・ピストルズ)。弾かなくてもかっこいいみたいな。高校の時に一緒にやってたボーカルのやつがわりと歌がうまくて、そいつの従兄弟の兄ちゃんがやってるバンドに引き抜かれちゃったんですよ。それで、もう決まってるライブがあったんで、どうすんだよってなって、しょうがねえじゃあ俺が歌うしかねえなってことになって、そこからですね。あんまり歌いたくなかったんですけど。ベースは後ろで暴れてるくらいでちょうど良かったんですけど(笑)。で、ボーカルやって大暴れしたら、当時のライブハウスの人にすごい褒められて、パンク向いてるって。今までずっと怒られてきたのに、暴れて褒められんの!?ってなって(笑)。

根本 ははは。

増子 コロナ禍になってすぐかな、ライブできなくなってきて、これからどうするってみんなで集まって話たことがあったんですよ。これから本当に食えなくなるかもしれないって。そしたらうちのドラムが、「パン工場で夜中シール貼るバイトの時給1500円だったよ!」って。そしたらうちのベース「おお、それ俺も行くわ」って。もうバンドをやめるっていう頭がまるっきりなくて、小学生の娘がふたりいる頭じゃねーなっていう(笑)。こいつらすげーなって思ったんですよね。バンドがどうにかなってしまうっていう心配がまるでないというか。「いや、じゃあバイト行こうよじゃなくて、バンドで何ができるかって話だよ」って(笑)。

根本 ずっと一緒なんだね、37年。

増子 一緒ですね。

根本 僕らは81年のデビューで、その前に70年代に活動していた日本のバンドを見てきた中で、ちゃんと売れてるバンドってひとつもなかったんですよ。いわゆるロックバンドはさっきも言った渋谷屋根裏とか、そういうところでやってたんですよ。だから僕らにとってもそれがせいぜいの目標だったんです。そういう言い方をすると失礼になるかもしれないけど。でも今増子くんの話を聞いていて、少なくとも僕が最初に目指していたものもまったく同じだったなって思います。

増子 うちは30周年の記念で武道館をやった時に、その2年ほど前にマネージャーが「もし武道館をやるんだったらこのタイミングしかないですよ」って言ったんですよ。それ聞いた瞬間「やんないよ」と。自分のビジョンの中でも日比谷野音がマックスでしたから。それこそRCとキャロルがやった場所ですし。でも野音もやったし、それ以上デカイところでやるなんて全然想像してなかったんですよ。そしたらうちのギターが急に「武道館でやるのは夢だった」なんて言い出して。ベースも「俺も夢だった」なんて乗っかってきたりして。うちのドラムはどっちの意見でも「そうですね」って言うので(笑)。でもどうすんだよと。あの時でマックスの東京の動員が2000人くらいだったので。「2000人しか入らないのに、この1年でそれが5倍になると思うか!?」と。「いやいいんだ。それでもし借金を抱えるようなことになっても、またバイトでもして返していきゃあいいじゃん」って聞いた時に胸を打たれて、「よし、じゃあやろう!」と。死んだ気になって1年間必死にプロモーションしようってやって、おかげさまで満員御礼になったんですけど。

根本 それは、僕も外側にいる人間として怒髪天が武道館を成功させたっていうのを聞いて、素晴らしいと思った。でもさ、簡単に武道館って言うけど、もちろんやったらやったですごくいいんだけど、矢面に立つ立場になったら大変だよね。

増子 そうなんですよ。延長料1時間100万円!? 小学生が考えた罰金じゃねぇんだから! 終わったらすぐに帰るぞって(笑)。

根本 その金銭感覚って大事だよね(笑)。

増子 我々はバンドマンですからね。アーティストなんてもうおこがましくて。いつも言ってるんですけど、一生懸命働いた皆さんの遊興費の中からいただいているわけですから、「お前らついてこい」じゃないんですよ。よく言うなと思って(笑)。

根本 ほんとだよね(笑)。

増子 全然下ですからね、皆さんの。「いやぁ、今日はよくきてくださいました。お疲れでしょう。1曲パーっといきましょうかね」なんてね(笑)。

――本当にこの2組がここまで精神的な部分で繋がっているとは思いもよりませんでした。

根本 そうなんですよ。ここまで同じ波長で動いていたなんてって思いますよ。しかもそれが2、3年しか違わないバンドだったらともかく、10年くらい違うわけですからね。デビューは何年?

増子 デビューですか?

スタッフ 91年です。

根本 じゃあやっぱちょうど10年だ。

増子 東京来た次の週に事務所潰れましたけどね(笑)。夜逃げされちゃって。そんな準備してるんだったら言ってよ!って。こっちはワクワクして上京しちゃってるわけだから。

――さて、話は尽きませんが(笑)、中野サンプラザのフィナーレの一環として行われる今回の対バンですが、どんな内容になりそうでしょうか?

根本 この2バンドが一緒にやるっていうことは、はい先にどっちがやりました、後からどっちがやりました、じゃなくて、どこかで絡みあえるようなことをやらなきゃいけないって思ってます。ただこの2バンドの音楽性の中で噛み合うところは少ないので(笑)、そこをどうまとめていくか、逆にどっちかに寄っても面白いと思いますけどね。ライブバンドがちゃんと顔を見合わせられるようなことをやりたいと思います。

――2つのバンドのファン同士が会場でどのようにひとつになるかに興味津々です。

増子 そうですね。

根本 変な分かれ方をすることはないと思うんですよ。

増子 どっちのファンも相当にいい大人なんで。

根本 僕は僕なりに怒髪天のファンの人たちを、増子くんは増子くんなりにうちのファンの人たちを気遣うMCになってくると思うので(笑)。

増子 間違いなくそうですね。

根本 ひとつだけ懸念しているのは、MCだけが変な取り上げられ方をされるところですね。そこは嫌だなって思います。MC対決みたいになるとね。

増子 それは別のイベントを組んだ方がいいですね。

根本 お互いのライブバンドたる所以をしっかり見せられたらいいなと思います。

増子 うちはもうメンバーもスタッフもスタレビのライブを見るのを本当に楽しみにしているので、早く終わって観たいです(笑)。

根本 音楽だけ考えたらとてもじゃないけど共通点を見出せない2バンドなのに、実は根っこの部分でこんなに共通点があったんだっていうのは非常に稀有なパターンですよね。よくぞこの2バンを企画してくれたなと思います。

――中野サンプラザありがとう、ですね。

増子 ほんとにそうですよ。最後に死力を振り絞ってくれてありがとう(笑)。

Text:谷岡正浩 Photo:小境勝巳

<公演情報>
『さよなら中野サンプラザ音楽祭』

2023年5月11日(木)開場17:30 / 開演18:30
会場:中野サンプラザ
出演:スターダスト☆レビュー / 怒髪天
料金:全席指定7,800円(税込)
※チケット一般発売日:4月1日(土) 10:00
https://www.sayonaranakanosunplaza.com

関連リンク

スターダスト☆レビュー 公式サイト:
https://s-d-r.jp/

怒髪天 公式サイト:
http://dohatsuten.jp/

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