クリープハイプ、大歓声に包まれた大阪城ホール公演「前に進め、不規則な生活リズムで」
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クリープハイプ「アリーナツアー 2023『本当なんてぶっ飛ばしてよ』」3月26日公演の様子。(撮影:渡邉一生)
クリープハイプのアリーナツアー「本当なんてぶっ飛ばしてよ」が3月26日に大阪・大阪城ホールでファイナルを迎えた。
開演前、ホールに鳴り響くラヴェル「ボレロ」。交響曲は徐々にその音量を増し、大阪に集まった1万2000人の期待を高めていく。曲が終わると同時にホールの照明が落ち、舞台袖からメンバー4人が登場。客席に大歓声がこだました。
ギターのフィードバック音が響き、鮮烈に幕を開けるライブ。尾崎世界観(Vo, G)は「身も蓋もない水槽」の歌詞を「緊急事態宣言から約3年 大阪城ホールには張り詰めた空気が漂っていて 本当さっきの歓声最高だったな 待っていてくれて 来てくれて ありがとう」と替え、早口でまくし立てる。フロアを駆け巡る無数の照明と、空間を切り裂くように鳴り続けるハイハット。尾崎は吠えるように言葉を紡ぎ、「しょうもな」「一生に一度愛してるよ」を畳みかけると突然無言に。たっぷり間を空けてから「言葉が出てこないね。本当に、待っていてもらえてうれしいし、来てもらえてうれしいし、最高の気分です」と話し始める。コロナ禍を経て、ひさびさの歓声を受け取った尾崎は「ステージからの景色も歓声もすごいから、自分はすごい人なのかなと思ったけど、明日17時に歯医者を予約しています。口を開けて、マヌケな状態で歯をいじられることを想像すると、普通の人間だなと思う」と客席を笑わせた。
ピンスポに照らされた尾崎が歌い出したのは「君の部屋」。サビの最後の一節は「“クリープハイプ”で出来てた」に替えられ、客席からは大きな歓声が上がった。「月の逆襲」と「グレーマンのせいにする」では、尾崎が長谷川カオナシ(B, Cho, Key)と掛け合いを披露。その後、ステージ上に薄い幕が出現し、そこにグリーン、ピンク、ブルーなどのビビッドな色味が投影される。4人は妖艶な雰囲気の中で「キケンナアソビ」を演奏した。
尾崎はデビュー前のバンド活動を振り返り「バンドメンバーがいない状態で活動をしているときは、弾き語りでライブをするしかなくて。大阪のライブハウスに自分で電話をかけて『今度大阪に行くんですが、ライブをさせてもらえないですか』と交渉をしたら『そういう人、本当多くてね。ライブをしたい気持ちもわかるけど、こっちも遊びでやってるわけじゃないから』と言われて。めちゃくちゃ悔しかったし、腹が立った。こっちも遊びでやってるわけではないんだけどって、そのとき強く思った。だから絶対に辞めずに、続けてやろうと思いました。それからメジャーデビューして、自分で電話をかけなくても、いくらでも大阪でライブができるようになった。求められて大阪でライブをするというのは、本当にかけがえのないことです。毎回大阪に来るたび、ありがたいと思っています」と感謝を口にした。
ご機嫌なイントロで「本当なんてぶっ飛ばしてよ」をスタートさせた4人は、クリープハイプの前途を明るく照らすようにメロディを紡いでいく。曲の中盤では長谷川がベースのリフを弾き、小川幸慈(G)のギターソロが炸裂。観客は手を高く掲げ、体を揺らしながら聴き入った。「愛の標識」では大阪にちなんだ小ネタも。尾崎は「君の故郷を代表する“802”は」という一瞬の替え歌を差し込み、客席にいるFM802リスナーたちを唸らせる。曲終わりで尾崎が「死ぬまで一生愛されてると……思っててもいいですか?」と問いかけると、観客は大歓声でそれに応じた。
「いつも捻くれたことをしてるから、シーズン真っ盛りにベタなことをするのは死ぬほど恥ずかしいけど」という尾崎のひと言で始まったのは「栞」。照明がフロアを桜色に染め上げ、小川がイントロのギターフレーズを高らかに響かせる。春めいた空気に包まれながら手拍子を送る観客。小泉拓(Dr)が性急なビートを生み出し、ホールの天井からはハラハラと花びらが舞い落ちた。長谷川が「炎上の歌を歌います。よろしくお願いします」と告げるとフロアの空気は一変。真っ赤に照らされたステージで、彼は尾崎とともに「火まつり」を歌い上げた。「社会の窓と同じ構成」「HE IS MINE」ではコールアンドレスポンスが繰り広げられ、満員の大阪城ホールに「セックスしよう」という黄色い声がこだました。
尾崎は「どうすればずっと好きでいてもらえるか、こうやってライブに来続けてもらえるか、考えることがけっこうあるけれど、今日のライブでその答えがわかりました」と切り出す。「当たり前のようにいい曲を書いて、ただそれを正直に、まっすぐに歌っておけばいいと思いました。自分は当たり前のようにいい曲が作れるし、クリープハイプのメンバーは当たり前のようにいいアレンジをする。別に普通のことです。だからこれからも、そう思って付いてきてください」と語りすぐに「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」のコードをかき鳴らした。「さよなら」と歌う尾崎の声に深いディレイがかかり、残響が悲しげにアリーナを飛び交う。「イノチミジカシコイセヨオトメ」では「生まれ変わったら何になろうかな」という歌詞に続き「生まれ変わってもまた当たり前に クリープハイプになりたい」という一節が歌われ、ファンは歓喜の声を上げた。
この日のラストナンバーは「二十九、三十」。バックスクリーンには、コロナ禍の大阪が映し出される。誰もいない商店街、閑散とした電車、臨時休業の看板。しばらくすると映像が切り替わり、この日の客席がリアルタイムで映されていく。1つの空席もないホール、涙を流す観客の表情。コロナ禍を乗り超えたファンに向けて4人は「前に進め」というフレーズを繰り返し届けた。
クリープハイプ「アリーナツアー 2023『本当なんてぶっ飛ばしてよ』」2023年3月26日 大阪城ホール セットリスト
01. 身も蓋もない水槽
02. しょうもな
03. 一生に一度愛してるよ
04. 君の部屋
05. 月の逆襲
06. グレーマンのせいにする
07. キケンナアソビ
08. ボーイズENDガールズ
09. 明日はどっちだ
10. 傷つける
11. ナイトオンザプラネット
12. 本当なんてぶっ飛ばしてよ
13. 一生のお願い
14. チロルとポルノ
15. 愛の標識
16. 栞
17. イト
18. 火まつり
19. 週刊誌
20. 社会の窓と同じ構成
21. HE IS MINE
22. ポリコ
23. おやすみ泣き声、さよなら歌姫
24. イノチミジカシコイセヨオトメ
25. 二十九、三十
※記事初出時、観客の人数に誤りがありました。お詫びして訂正します。