「若い役者たちに負けていられない」ムロツヨシと宮沢氷魚が体感した現場のエネルギー
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宮沢氷魚、ムロツヨシ 撮影:川野結李歌
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すべて見るWBCの優勝で日本中が湧いたが、煌びやかな舞台に立つことができる限られた選手たちも元を辿ればスカウトマンの“眼”に見出された存在である。クロマツテツロウによる漫画を原作として4月8日から放送・配信されるWOWOWの連続ドラマW-30『ドラフトキング』は、そんなスカウトマンにスポットを当てた作品だ。
剛腕スカウトとして独自の視点で原石を見出す主人公・郷原眼力をムロツヨシが演じ、郷原に困惑しながらも成長していく新米スカウト・神木良輔を宮沢氷魚が演じる本作。選手役には野球経験のある役者たちが“野球オーディション”も経たうえで起用されただけあり、現場には若いエネルギーが満ち溢れていたという。
郷原の考え方は、プロの役者である自分にも通じるものがある
──ムロさんは原作の11巻まで読んだ次の日に本作のオファーの話を聞いたとのこと。本作に「“いっちょ噛み”したい」と思っていたとコメントされていましたが、原作を読んでいるときはどの役をイメージしていたのでしょうか?
ムロ 面白い作品に出会ったときって「どの役でもいいから絡みたい! この世界にいたい!」って思うんですよね。だから「特にこの役をやりたい」というのはなくて。でも、まさか主役のオファーをいただくとは思ってもいませんでした。「どこのチームの監督役だろう? 楽しみだな~」ってね(笑)。
──それほど原作に魅了された理由とは?
ムロ これまで読んできた野球漫画には描かれていなかった“スカウトマンの視点”というのがとても新鮮でした。これだけ多くの野球漫画がある中で、「まさか40代になって初めて出会うような、新しいアプローチがあるんだ!」と驚きましたし、僕もそこに関わることができるのが嬉しかったです。
──ムロさん演じる主人公の郷原眼力(ごうはら・おーら)は、並外れた“眼”で隠れた原石を見出す剛腕スカウトです。そんな彼を演じることになったときに感じた、郷原というキャラクターと役者・ムロツヨシの親和性は?
ムロ プロのスカウトマンとしての郷原の考え方は、プロの役者である自分にも通じるものがあるんじゃないかと思いました。プロの役者を目指し始めた頃の自分も「プロになるとはどういうことか」を考えましたし、これまでもプロとして自分なりの答えを見つけて試行錯誤を繰り返してきましたから……今回郷原を演じさせていただいたときに、そういった自分とも繋がっていることを感じて嬉しかったですし、一層やりがいが増しました。
──宮沢さん演じる神木良輔は、高卒で横浜ベイゴールズ(郷原や神木がスカウトを務めるプロ野球球団)に入団するも通用せず、引退後に転身した新米スカウトマンです。宮沢さんご自身も野球をずっとやっていたとのことですが?
宮沢 大学までの18年間、大好きな野球をずっとやっていました。中学生くらいまでは本気でプロになりたかったんですが、怪我などもあって道が途絶えてしまったので……僕の中には神木とすごくリンクするところがありました。プロに入って夢をかなえたと思いきや、試合に出場できず結果を残すことなく引退する彼のもどかしさや、自分が思っているレベルまでパフォーマンスを上げられない、成し遂げたいことを成し遂げられないフラストレーションもよく分かります。
──そんな神木が新米スカウトマンとしていろいろなことを新鮮に感じ取っていく姿も印象的でした。
宮沢 郷原をはじめ、先輩のスカウトマンたちにキツいことを言われて普通だったら心が折れてしまうかもしれないのに、彼はどんどん前向きに進んでいく。その姿を見て「神木は本当に野球が大好きなんだな」と思いましたし、僕自身も今は野球をやっていませんが、大好きな気持ちは変わらないので……神木が思っていることややりたいことが僕自身とリンクして、彼に対する理解がより深まりました。
撮影初日のムロさんの言葉で気づきを得ることができた
──今作のように漫画原作がある作品で役を演じる際に意識することとは何でしょうか?
ムロ すでに漫画で描かれているからこその“やりがい”と“プレッシャー”があります。大好きな原作で大好きなキャラクターですが……映像化するにあたってまったく同じようにやろうとすると塗り絵になってしまいます。原作で描かれている、例えば郷原の姿勢や指の使い方などは忠実に再現しつつも、「自分が演じる理由とは何だろう?」と考えながらプラスアルファの要素を加えていくことを意識しました。原作を真似するのではなく、自分が演じる意味を作っていく。一番気をつけたことですし、忘れてはいけないことだと思っています。
宮沢 僕が演じた神木は、漫画だともう少し表情や雰囲気がデフォルメされているんですよね。でも、映像化したときにそれをなぞってしまうと、ちょっと浮いてしまう可能性もあって。神木が生活している日常にリアリティを持たせるうえで、漫画のベースはおさえながらも周りから浮かないように。そのあたりの微調整は特に意識しました。ただ、神木の内面が垣間見える瞬間……例えば何か言われてイラっとする感じとかは、普段自分がやっているお芝居よりもオーバーに表現したつもりです。
──神木は“心の声”で突っ込むことも多い役でしたね。
宮沢 そうなんです。これまで出演した作品の中で一番モノローグが多くて、かなり試行錯誤しました。モノローグで神木がコミカルに突っ込んだりするんですが、その度合いが難しくて……何パターンも録って、最終的に監督がいいと思ったものが採用されています。神木のモノローグは時にスパイスとなって物語に効いてくるので、とても重要な要素でもあるんですよね。あれだけの量のモノローグは初挑戦でしたが、自分なりに考えてバランスに気をつけながら収録しました。
ムロ 大変といえば、僕は髪型ですね(笑)。あのサイズとバランスに辿り着くまで、すごく時間がかかりました。原作の郷原みたいに面長じゃないので、ヘアメイクさんと相談しながらいろんなウィッグの毛量を調べて、地毛とのバランスを考えてフォルムを作り上げました。原作は平面だけど、実際は立体ですから、あらゆる角度から見ても違和感のないように。とてつもない時間をかけて辿り着いたことは、ぜひこの取材で言わせていただきたいです!(笑)
──山本透監督のコメントに「ムロさんは現場で常にアイデアをくださった」とありますが、例えばどんなアイデアを出したのでしょうか?
ムロ 脚本家やプロデューサーのみなさんで作りあげてくださった台本をもちろん絶対的に信頼しているんですが、郷原を演じる人間として、また原作の1ファンとして、「原作のこのセリフは活かしたいです」といったことを相談させていただいたり、氷魚くんとふたりだけで話すシーンの距離感などをみんなで話し合いました。野球のスタンド席で話すシーンが何度かあって「この距離感って、実は人間ドラマとして今回大事になってくる部分だよね」とか……。きっと監督は僕が原作と台本を持って近づいてきたら逃げたかったと思います。「またアイツなにか言い出すぞ」って(笑)。
宮沢 撮影初日に郷原と神木が出会う第1話の冒頭シーンを撮ったんです。神木がまだ高校生で野球の練習をしているんですが、元々の台本だと郷原に敬語を使っていて。そのときにムロさんが、「ここはタメ口でちょっと強気に出た方が、神木のキャラクターが立つんじゃないか」とお話しされていたんですね。僕もなんとなくは思っていたんですが、台本もあがっているので「言っていいのかな?」と躊躇していた中、ムロさんが「やってみようよ!」とおっしゃってくださったのが印象的でした。「こうやって自分が思ったことや、こっちの方がいいんじゃないかと感じたことは積極的に言っていいんだ」と気づきを与えてくださいました。
──おふたりは今回が初共演ということで、最初にお芝居を掛け合ったときにどんな印象を持ちましたか?
ムロ すごくナチュラルな部分を持っていらっしゃるなあという印象と、聞く耳をお持ちなんだなっていう……会話が成立するかどうかって、相手に自分の言葉がきちんと届くことが重要なんですよね。もちろんお芝居自体も大事ではありますが、相手の言葉をしっかりと聞くことが大事だという思いは、初めてお芝居を掛け合ったときから「一緒だな」と感じることができました。
宮沢 僕はもう、とにかく初日からすごく楽しかったです(笑)。ムロさんが到着された瞬間から現場がワッと明るくなる感じがあったので、その雰囲気の中で生き生きとお芝居することができました。
──ちなみに、お会いするまでのお互いの印象は?
ムロ 僕らの世界ってきっと、どんどん印象を持たなくなるんですよね。会ってから印象が変わっちゃうのも嫌だし、あんまり決めつけていない気がします。でも、願望としては「頼むから好青年じゃないでいてくれ!」って思いました。ははは!(笑) だって、これで好青年だったら参っちゃいますから。でもやっぱり好青年だったし、一緒にお酒を飲んだらペースがまったく一緒で気が合いすぎるっていう(笑)。
宮沢 すっごく楽しい会でしたね。僕はお会いする前から「ムロさんはすごく楽しい人」と周りから聞いていて。
ムロ 全然違う(笑)。
宮沢 違いませんよ!「もう絶対楽しいだろう」と思って、何の不安もなく初日を迎えて。実際にお会いしたら、やっぱりすごく楽しかったんです。誰に対しても優しくフラットに接していらっしゃって、「そりゃあみんなムロさんのことを大好きになるよな」と思いました(笑)。
ムロ すべて計算です!
宮沢 ははは!(笑)
ムロ 僕の腹黒さですね(笑)。
人の感想や評価を気にして出すお芝居は一番危ない
──こうして取材していても息がぴったりのおふたりですが、バディものとしての良さを感じたところはどこでしょうか?
ムロ 神木の成長に対して冷たく接している郷原は、期待しているのか、期待しているようでしていないのか、よく分からない印象の繰り返しなんですよね。その中で変わっていく神木に対して、郷原が発言を促したりするやり取りは楽しかったです。そこに自分自身の役者としての経験も重ねて、氷魚くんに少し伝えたいことがあったりもしたし……まあ、郷原はずっと責め立ててたんですけど(笑)、氷魚くんとお芝居を重ねている時間は「いいなあ」と思っていました。
宮沢 郷原も神木も最初はお互いのことが分からずそれぞれで動いているんですが、どんどん距離が縮まっていって、神木も成長していく感じがまさにムロさんと僕の、役者同士の関係性とリンクしているなと感じていました。何よりも、撮影期間はほぼ毎日一緒にいたので。ここまで濃い密度で共演する役者さんとご一緒する現場ってなかったので……ムロさんのその日のコンディションがパッと見て全部分かるくらいになりました(笑)。
ムロ 前の日にちょっと飲みすぎちゃったのがバレちゃうくらいね(笑)。
宮沢 それくらい濃密な時間を過ごすことができました。
ムロ あと、バディもので今回苦労したのがふたりで並んだときのビジュアルですね。「氷魚くんとの身長差と顔の大きさのバランスがおかしい」って役者仲間から言われました(笑)。
──ビジュアルのインパクトが大きい郷原ですが、「芸能人は歯が命、スカウトマンは眼が命だ」といった名言も印象的です。そういった名言を郷原として語る際に意識したことはありますか?
ムロ お芝居全般についてそうだと思うんですが、人の感想や評価を気にして出すものは一番危ないと思っているので……1回「麻痺させる」という言い方をしますが、忘れるんです。そうして自分を出しきることを意識します。「スカウトマンは眼が命」も印象的ですが、それ以上に僕は「裏金もってこい!」のくだりが原作を読んでいて響いたんです。だからぜひ、みなさんの感想を聞かせてほしいなあ。ポーズも原作を真似しつつ、自分の中に落とし込んで演じたつもりではいるので、すごくやりがいがありました。
──本作を経て、新たに役者として手にしたものは何だったと思いますか?
ムロ 20代前半の方たちのお芝居に対する考えが刺激になりました。僕らの時代と変わらないものもあれば、新しい感覚も持っていらっしゃるので、役者としてそれらを取り入れられたことが大きかったと思います。「役者をこれからもやっていきたい」と思っている彼らと向き合って会話する中で、僕らができるのは「伝える」こと。今回それができていたかは分かりませんが、「彼らに何かを伝えられるような役者でありたいな」なんていう難しい目標がまたひとつできました。
宮沢 僕は今まで年上の方とお芝居する機会が多かったんですが、今回は先輩方だけでなく自分と歳が近かったり、もっと年下の役者さんもいて。一つひとつのセリフやお芝居に感情をすべて乗せている彼らの姿から、「何かを残すんだ!」という強い気持ちを感じることができました。そういった現場に立たせていただき、彼らのパワーに魅了されると同時に、「自分も負けないくらいエネルギーと気合を入れていかないといけないな」とあらためて感じることができました。
ムロ 本当にそういう感覚があったよね。その一方で、野球の話もたくさんできましたし。野球に対する思いにはジェネレーションギャップがありませんから、楽しかったですね。見てくださる方も……野球の経験者や野球ファンはもちろん、これまで野球に触れてこなかった方たちも「夢を抱く」とか「夢を諦める」といったことについて、たくさんの思いが詰まったドラマですから、ご自身に通ずるものもきっとあると思います。ぜひご覧いただき、感想を聞かせていただきたいと思います。
宮沢 普段テレビや球場で見ているプロ野球選手の第一歩をスタートさせるスカウトマンに注目が当たっている『ドラフトキング』は、過去にない作品になっていると思います。選手たちはもちろんですが、彼らを支えている裏方のみなさんがいるということを、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思います。
取材・文:とみたまい 撮影:川野結李歌
ヘアメイク:池田真希(ムロツヨシ)、吉田太郎(W)(宮沢氷魚)
スタイリング:森川雅代(ムロツヨシ)、庄将司(宮沢氷魚)
<番組情報>
連続ドラマW-30『ドラフトキング』
4月8日(土)より毎週土曜日午後10時放送・配信(全10話)
第1話無料放送【WOWOWプライム/WOWOW 4K】
無料トライアル実施中【WOWOWオンデマンド】
ぴあアプリではムロツヨシ×宮沢氷魚のアプリ限定カットをご覧いただけます。ぴあアプリをダウンロードすると、この記事内に掲載されています。
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