ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第39夜 選者 / SCANDAL RINA「ビバリウム」
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「ビバリウム」Blu-rayジャケット
ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人にお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。
第39回はSCANDAL RINAが、奇妙な家に住むことになったカップルを描く「ビバリウム」を紹介。「フェイクだらけの空間に、嫌なリアルが混ざった感じ」から感じた人生哲学とは。
文 / SCANDAL RINA(コラム)、田尻和花(作品紹介)
理想はなかなか実現しないからこそ、その歯痒さに生きた心地を感じられるのかもしれない
「このまま一生、同じ場所で暮らし続けるのかな?」「この先の人生どうなるんだろう?」
ふと、こんなことを考えることがある。
ネガティブでもポジティブでもない真ん中の気持ち。自分自身に向けた、ごく普通の、ありふれたクエッション。
今回紹介する映画は、幸せそうなカップルが新しいふたりの生活のために家を探しはじめるところから始まる。
とある不動産屋さんに訪れ、その整った店内に、信頼感と期待が高まる。新しい生活は楽しい。
知らない暮らしを始めるドキドキと、消えない不安さえもが人生の良いエッセンスになる。
さくさくと話が進んで、連れて来られた場所は、
無味無臭、無音無人の奇妙なエリア。
きちっと整頓されて並んだミントグリーンの家々に、同じ形の雲が浮かぶ。統一感がありすぎるその世界は、自由に書き換えられない絵本の中に閉じ込められてるような窮屈感。私的には、この閉鎖感が凄いストレスで観ててきつかった。
なんとか逃げようと試みても、元の世界には戻れずに、仕方なくその奇妙な家で暮らす羽目に。
そして、頼んでもない食料がダンボールに入って届けられる。誰が運んだのかも分からない無味無臭の食べ物の形をしたソレを口に入れて生き延びる。何? この生活、恐怖すぎ。
そして、とある日、産まれたての赤ちゃんがダンボールに入って届けられる。
このシーンは本当に見ててゾッとする。
何者か分からないその子をどうすることも出来ずに、戸惑いながら育てることに。
彼女が時折り見せる母親の顔に、うんざりしてしまう彼。何故だか彼女を女性として見られなくなったり、関係性が変わってく感じに、複雑な気持ちにさせられる。フェイクだらけの空間に、嫌なリアルが混ざった感じ。
目的がないって、きっと不安になる。
狂わず生きるために、どんな環境に居ても、仕事らしきものを探したり、予定を作りたくなったりするのだなと思った。
理想はなかなか現実にならないからこそ、そのギャップや不便さ、歯痒さに生きた心地を感じられたりするのかもしれない。
アート性のある作品でありながら、展開があって、直接的すぎる恐怖描写が少ない分、ホラー映画初心者の方も観やすい映画だと思う。
生まれてから死ぬまでの間に何をするか。
人生ってほんの一瞬の出来事で、どこまで行っても似たような日々の繰り返し。
それがどれだけ尊いものなのか気付くと同時に、残酷なほどシンプルに現実を突き付けられた気分になる。エンディングの音楽を垂れ流しながら、「うわー。」ってなって、観て良かったなと思った映画だった!
RINA
SCANDAL RINA
1991年8月21日生まれ、奈良県出身。2006年にHARUNA(Vo, G)、MAMI(G, Vo)、TOMOMI(B, Vo)と結成したガールズバンド・SCANDALでドラムとボーカルを担当。2008年にシングル「DOLL」でメジャーデビューを果たし、翌2009年にシングル「少女S」でレコード大賞新人賞を受賞した。2019年にはSCANDALのプライベートレーベル・herを設立。現在、SCANDAL TOUR 2023「unlimited UTOPIA」が4月から5月にかけて開催中。
「ビバリウム」(2019年製作)
新居を探している若いカップルのトムとジェマは、ふと入った不動産屋に、“まったく同じ家”が立ち並ぶ住宅地・Yonder(ヨンダー)を紹介される。内見を終えて帰ろうとすると、さっきまで案内をしていた不動産屋スタッフの姿がない。不安を覚えつつ2人は帰路につこうと車を走らせるが、どこまで行っても景色は変わらず、住宅地から抜け出せなくなったことに気付く。そんな彼らのもとに、生まれたばかりの謎の赤ん坊が入った段ボールが届くのだった。
カップル役でジェシー・アイゼンバーグとイモージェン・プーツが出演。監督はロルカン・フィネガンが務めた。
「ビバリウム」Blu-ray / DVD販売中
税込価格:Blu-ray 5720円 / DVD 4400円
発売元:竹書房
※「ビバリウム」はR15+指定作品
(c) Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film