名優・三國連太郎没後10年
『釣りバカ日誌』特集
1998年から2009年まで22作品が公開された超人気シリーズ『釣りバカ日誌』が現在、各動画配信サービスでデジタル配信されている。三國連太郎と西田敏行の名コンビのドタバタと人情劇を描いたシリーズは現在も根強い人気を誇っており、繰り返し楽しむファンも多い。
今年は名優・三國連太郎がこの世を去って10年になる。あらためてこの機会に誰もが楽しめる“釣りバカ”の魅力に迫りたい!
稀代の名優・三國連太郎とは
日本映画史に名を刻むスター俳優、名優は数多くいるが、三國連太郎も必ずその名が挙がる稀代の名優だ。
1923年に群馬県で生まれた三國連太郎(本名:佐藤政雄)は1950年に東銀座を歩いていたところを松竹のプロデューサーにスカウトされて俳優の道へ。翌年に木下恵介監督の『善魔』で俳優デビューを飾り、劇中の役名“三國連太郎”を芸名にした。
『善魔』は、善を貫くためには、時に魔の力が必要なのか? そんな刺激的なテーマに挑んだ意欲作で、純粋であるがゆえに苦悩する若い新聞記者を演じた三國連太郎は、本作の演技でブルーリボン新人賞を受賞。“名優の原点”として今こそ観たい1作だ。
その後、三國は徹底的な役作りと、迫真の演技で観客を魅了する個性派俳優として躍進する。
1962年には小林正樹監督の『切腹』に出演。第16回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞に輝いた傑作で、三國は井伊家の家老である斎藤勘解由を演じた。そして、1965年には代表作のひとつ『飢餓海峡』に出演。水上勉の小説を内田吐夢監督が映画化した作品で、三國は本作の演技で第20回毎日映画コンクールで男優主演賞を受賞。いまも語り継がれる1作だ。
また、松本清張の小説を斎藤耕一監督が映画化した『内海の輪』、今村昌平監督の衝撃作『復讐するは我にあり』、勅使河原宏監督の下で千利休を演じた『利休』など映画史に残る作品に次々と出演した。
さらに山田洋次監督の『息子』では山奥で暮らす父親を演じ、キネマ旬報賞の主演男優賞を受賞。1996年には人気コミックを映画化した『美味しんぼ』で原作者の要望を受け、美食家・海原雄山を演じ、山岡士郎を演じた佐藤浩市と共演した。
主演作で数多くの賞に輝く一方で、助演作品も多く、そのジャンルは重厚な社会派ドラマから娯楽大作、コメディ、時代劇など幅広い。1987年には『親鸞 白い道』で原作・企画・脚本・監督を手がけ、自らも出演。カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。
1984年には紫綬褒章を、93年には勲四等旭日小綬章を受章。2013年4月14日にこの世を去ったが、生涯で出演した映画は約180本で、映画ファンなら必ずや彼の演技を目にしたことがあるはずだ。
そんな三國連太郎のキャリアの中で、本人が「僕にとっては生涯の仕事。俳優生活の名誉だと、うそ偽りなく思います」と語るのが、『釣りバカ日誌』シリーズだ。
映画『釣りバカ日誌』シリーズと三國連太郎
鈴木建設の営業部に所属する万年ヒラ社員の浜崎伝助(ハマちゃん)は釣りが大好きな“釣りバカ”サラリーマン。
彼はある日、職場近くの食堂で知り合った男性と仲良くなり、憂鬱そうな顔をしている男を気分転換にと釣りに誘う。初めての釣りにやってきた食堂の男の名は鈴木一之助。伝助は彼を“スーさん”と呼び、共に釣りを楽しみ、夜は自宅に招き入れる。
やがてわかったこと。それは“スーさん”は伝助が勤務する鈴木建設の社長だった! やがてふたりは“社長とヒラ社員”ではなく“釣り仲間であり親友”として交流を深めていく。
シリーズでは、ハマちゃん、スーさんのそれぞれの人生や過去のエピソードが描かれ、時には大事件が勃発。ドタバタ喜劇の面白さ、人情ドラマの味わい、地方ロケを敢行することで描かれる風景の美しさ、そしてタイトルにもなっている“釣り”シーンの楽しさ……誰もが楽しめる人気シリーズとして全22作品が製作され、2009年に惜しまれながら幕を下ろした。
“釣りバカ”シリーズの最大の魅力は何と言っても、三國連太郎演じるスーさんと、西田敏行演じるハマちゃんのコンビの妙だろう。
仕事をしないで、スキがあれば休みをとって釣りに出かけているハマちゃんは、日々仕事に追われる人にとっては“理想の勤め人”かもしれない。一方で、彼は周囲の人を巻き込みながら問題を解決し、関わる人みんなを幸せにしてしまう才能の持ち主でもある。
そして三國連太郎が演じるスーさんも観客から長きに渡って愛され続けたキャラクターだ。シリーズ開始当初は気難しくワンマン社長だったスーさんも、ひょんなことから知り合ったハマちゃんに釣りに誘われてから少しずつ変化を遂げていき、多忙を極める日々を送りながらも、その中で楽しみや、新たな発見、人生の機微に触れていく。
社員を寄せ付けないほどの威厳があり、シリアスな場面も見事に演じるも、同時にコミカルなやりとりや、時に暴走するスーさんを巧みに演じた三國連太郎。西田敏行とのコンビネーションは作品を重ねるごとに深まっていき、丁々発止のやりとりや、ふたりにしか出せない掛け合いの妙はどんどんパワーアップしていった。
映画の歴史の中には“名コンビ”が数多く存在するが、スーさんとハマちゃんも間違いなく映画史に残る名コンビだ。
改めて本シリーズを観ると、“釣りバカ”はじっくりと時間をかけ、スタッフが情熱を注いで作品をつくり続けてきたことが伝わってくる。
映画黄金期に人気を博した数々の人気シリーズ同様、“釣りバカ”もメインキャラクターと王道のストーリー運びを踏襲しながら、作品ごとに新しいエピソード、新しいロケ地、そして新しいゲスト出演者を迎えて観客を魅了し続けきた。
原田美枝子をはじめ、五月みどり、宮沢りえ、名取裕子、鈴木京香ら豪華女優陣がヒロイン役を務め、映画界を代表する名優たちが物語の重要なポイントで顔を見せる。
また、栗山富夫、森崎東、本木克英、朝原雄三と松竹を支えてきた監督たちがメガホンをとり、同時上映で劇場公開されることの多かった『男はつらいよ』シリーズの山田洋次が脚本を担当。スタッフも腕利き揃いで“映画としての豊かさ”を随所に感じられる内容になっている。
“釣りバカ”全22作品が一挙配信中!
『釣りバカ日誌』(1988)
記念すべきシリーズ第1作目で、1988年12月に『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』と同時上映された。
三度のメシより釣りが好きな鈴木建設のヒラ社員・浜崎伝助(ハマちゃん)が、四国支社から東京本社へ転勤してくるところから物語が始まり、ハマちゃんとスーさんの出会い、スーさん初めての釣り体験、そしてふたりが“親友”になっていく過程がコミカルに描かれる。
この後もシリーズが続くことになるが、とにかく多忙で悩みの多い社長のスーさんと、仕事よりも釣り優先でグータラに見えるのに、なぜか妙な説得力があって周囲を仲間にしてしまうハマちゃんのキャラクターは本作ですでに確立している。
本シリーズはどの作品から観ても楽しめるが、“すべてはここからはじまった”という意味でもシリーズ入門にオススメしたい1作だ。
『釣りバカ日誌2』(1989)
第1作目の好評を受けて、翌年の12月に公開になった第2作目。
相変わらず仕事はそこそこに釣りに出かけるハマちゃんと対照的に、後継者問題が解決せず社長業で多忙を極めるスーさん。ついにスーさんは持病の心臓が悪化し、休暇を取得して釣り人が集う愛知県の伊良湖岬へ向かう。
そこで、間宮弥生と名乗るワケありな女性と出会ったスーさん。一方、東京にいるハマちゃんはスーさんの妻から夫の行方を捜してほしいと頼まれ、伊良湖岬へ……。
シリーズで初めてヒロインが登場し、原田美枝子がスーさんが伊良湖岬で出会うワケありの美女・間宮を演じた。
ふたりが地方に出かけ、そこで釣りを楽しみ、現地で新たな人に出会い、彼らの抱える問題やトラブルを解決するべく、ふたりが奔走する、というシリーズの定番の展開は本作からスタートした。
『釣りバカ日誌3』(1990)
五月みどりがゲスト出演。静岡県西伊豆町でロケが行われた。本作より加藤武が演じる秋山専務が登場。
『釣りバカ日誌4』(1991)
ハマちゃんとみち子さんの夫婦に待望の赤ちゃんが誕生。尾美としのり、佐野量子がゲスト出演した。
『釣りバカ日誌5』(1992)
ハマちゃんの左遷騒動を描いた第5作。乙羽信子と神戸浩がゲスト出演。
『釣りバカ日誌6』(1993)
社長業に疲れ果てたスーさんと、ハマちゃんの立場が入れ替わる。久野綾希子、喜多嶋舞、豊川悦司がゲスト出演。
『釣りバカ日誌スペシャル』(1994)
これまで毎年12月に2本立てで公開されていた本シリーズが“スペシャル”の名を冠して、夏に1本立興行として公開された。
スーさんの親友の息子が、鈴木建設営業三課の佐々木課長の娘・志野にひとめ惚れするが、志野の幼なじみも彼女に想いを寄せていた。一方、ハマちゃんが出張中にスーさんがハマちゃん家に一泊したことから、スーさんとハマちゃんの妻・みち子の“不倫疑惑”が持ち上がる。
『喜劇 女は度胸』や『男はつらいよ フーテンの寅』『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』などを手がける名監督・森崎東が本シリーズに初登板。これまでのシリーズとは少しだけ趣が異なるが、スーさん&ハマちゃんのコンビの掛け合いの面白さは本作でも健在で、谷啓演じる佐々木課長が“娘を持つ父の顔”を見せるなど、本作ならではの魅力もつまっている。
富田靖子、田中邦衛、清川虹子がゲスト出演。西田敏行と田中邦衛の共演シーンは見どころだ。
『釣りバカ日誌7』(1994)
ハマちゃんがスーさんに絶交宣言し、名コンビが最大のピンチに!? 名取裕子、寺尾聰、山岡久乃が出演。
『釣りバカ日誌8』(1996)
『スペシャル』以来1年半ぶりに夏休み映画として製作されたシリーズ第9作。ゲストに室井滋、柄本明。
『釣りバカ日誌9』(1997)
小林稔侍をゲストに迎え、鹿児島県でロケ撮影された。風吹ジュンが小林演じる馬場が心を寄せるヒロインに。
『釣りバカ日誌10』(1998)
スーさんが会社を辞めてしまうことから始まるドタバタ騒動を描く。金子賢、宝生舞、夏八木勲が出演。
『花のお江戸の釣りバカ日誌』(1998)
シリーズの“外伝”的な作品として製作された“釣りバカ”時代劇。
江戸時代。釣りを楽しむ浪人・浜崎伝助は、ひょんなことから大店のご隠居と意気投合。釣りの指南をすることに。そのご隠居こそ、庄内藩江戸屋敷家老・鈴木一之助だった!
スーさんとハマちゃんの“ご先祖様”が、花のお江戸で藩のお家騒動に巻き込まれるドタバタ喜劇でシリーズを続けて観ることで楽しめる仕掛けが盛りだくさん!
山形県の庄内地方でロケ撮影が行われ、映画美術も豪華! “釣りバカ”のキャラクターを生かした本格時代劇コメディになっている。
伝助がひと目惚れする女性を黒木瞳が演じるほか、酒井法子、市川團十郎も出演している。
『釣りバカ日誌イレブン』(2000)
本木克英を監督に迎え、沖縄県でロケ撮影が行われた第13作目。桜井幸子がヒロインを、村田雄浩がハマちゃんの釣りの弟子を演じる。
『釣りバカ日誌12 史上最大の有給休暇』(2001)
宮沢りえがヒロインを演じたシリーズ第14作。
スーさんが鈴木建設の後継者だと考えていた高野常務が退職し、故郷の萩に戻ってしまう。出張にかこつけ高野に会いにやってきた“釣りバカ”コンビは姪の梢から高野が重病だと聞かされ……。
東京都知事を辞めたばかりの青島幸雄が高野常務を、宮沢りえが高野常務の姪の梢を演じた。
青島は出演だけでなく主題歌「とりあえずは元気で行こうぜ」を作詞作曲し、西田敏行が歌唱を務めた。
『釣りバカ日誌13 ハマちゃん危機一髪!』(2002)
ハマちゃんが富山にある老舗製薬メーカーの黒部会長が発注する美術館建設の仕事を獲得する。
しかし、鈴木建設設計部の桐山は会長直々のデザインに納得がいかない。そこでハマちゃんは桐山と黒部会長のもとを訪れるが、なぜか黒部は桐山を“息子の嫁に”と言い出し、事態は予想外の方向へと転がっていく。
大俳優・丹波哲郎が豪快な製薬メーカーの会長に扮して物語を縦横無尽にかき回す場面は必見! 鈴木京香が設計部の才女・桐山を演じている。
富山県でロケ撮影が行われ、富山湾、立山連峰、宇奈月温泉などの人気スポットが劇中に登場。
『釣りバカ日誌14 お遍路大パニック!』(2003)
高島礼子と三宅裕司をゲストに迎え、ハマちゃん&スーさんが四国八十八ヶ所のお遍路旅に出る姿を描く。
『釣りバカ日誌15 ハマちゃんに明日はない!?』(2004)
小津安二郎の名作『麦秋』をモチーフにヒロインが幸福な結婚をするまでを描く。江角マキコ、筧利夫、吉行和子がゲストに。
『釣りバカ日誌16 浜崎は今日もダメだった♪♪』(2005)
ボビー・オロゴンが米軍所属の“釣りバカ”を演じる第18作。長崎県でロケ撮影が行われた。伊東美咲、金子昇もゲスト出演している。
『釣りバカ日誌17 あとは能登なれハマとなれ!』(2006)
石田ゆり子がヒロイン扮したシリーズ第19作。
7年前に鈴木建設を寿退職した沢田弓子が、再び入社しハマちゃんの所属する営業三課に配属になった。彼女はかつてスーさんの秘書だったが、現在は時折、寂しい表情を浮かべている。
心配になったスーさんは、ハマちゃんに弓子の様子を見るように頼み、ハマちゃんの励ましもあり、弓子は少しずつ明るさを取り戻していく。ある日、彼女は高校の美術臨時講師を務める青年・村井に出会う。
タイトルの通り、能登半島を擁する石川県で撮影が行われた。
心に傷を負ったヒロイン弓子を石田ゆり子が演じ、大泉洋が弓子に想いを寄せる美術教師・村井役を務めた。
その他、片岡鶴太郎や松原智恵子ら豪華ゲスト陣も出演。
『釣りバカ日誌18 ハマちゃんスーさん瀬戸の約束』(2007)
シリーズ開始20年、通算20作目。社長を辞め、会長に就任したスーさんが謎の失踪を遂げる。檀れい、高嶋政伸、星由里子が出演。
『釣りバカ日誌19 ようこそ!鈴木建設御一行様』(2008)
シリーズで初めて鈴木建設の社員旅行を描いた第21作目。常盤貴子、山本太郎、竹内力が出演し、ベテラン女優・高田敏江が常盤演じる波子の母役で登場。
『釣りバカ日誌20 ファイナル』(2009)
ついに迎えたシリーズ最終作。
不況の波が鈴木建設にも押し寄せ、会長のスーさんは無期限で給料を全額返済すると宣言! 鈴木建設創業以来の危機に、ついにハマちゃんが立ち上がる。
大型受注を獲得したハマちゃんは“釣り休暇”をとって、親友のスーさんと北海道に釣り旅行に出発。ハマちゃんは釣りのことで頭がいっぱいだが、スーさんには釣り以外にも“旅の目的”があった……。
松坂慶子がスーさんにとって娘のような存在でもある料亭の女将・葉子を演じ、吹石一恵、塚本高史らも出演。本作は、シリーズの名物キャラクターのひとり・佐々木を演じてきた谷啓の遺作になった。
シリーズ最後のロケ地は北海道。これまで以上にスーさんとハマちゃんの友情、コンビネーションの楽しさが胸に迫る完結編にふさわしい内容になっている。
『釣りバカ日誌』シリーズ公式サイト
https://www.cinemaclassics.jp/tsuribaka-movie/