北野武の一言で西島秀俊が「首」出演快諾、加瀬亮は「残酷なシーンも品のいい映像に」
映画
ニュース
映画「首」完成報告会見の様子。左から大森南朋、中村獅童、西島秀俊、北野武、加瀬亮、浅野忠信。
映画「首」の完成報告会見が本日4月15日に東京・ホテルニューオータニで行われ、監督の北野武、キャストの西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、浅野忠信、大森南朋が出席した。
北野が著した書籍「首」を自ら映画化した本作。天下統一を掲げる織田信長は、反乱を起こした家臣・荒木村重を捕まえようと、“自身の跡目相続”をえさにしてほかの家臣たちに捜索を命じる。跡目をめぐり武将、芸人、百姓それぞれの欲望と策略が入り乱れる中、物語は“本能寺”に向かって動き出す。“本能寺の変”を策略する羽柴秀吉役でビートたけし、村重を匿う明智光秀役で西島、信長役で加瀬が出演。侍大将になるため戦に身を投じる元百姓・難波茂助に中村、秀吉の軍師・黒田官兵衛に浅野、秀吉の弟・秀長に大森が扮する。撮影は2021年の4月から9月にかけて実施された。
北野は「大河ドラマをよく観ますが、どうもすごくきれいな出世物語ですよね。人間の業、欲、裏切りがあまり描かれていないので、自分が時代劇を撮ればこうなるんだという発想でやりました。だいぶ苦労したんですが、どうにかこの映画ができたのは、スタッフならびに役者さんのおかげだと思っています」と挨拶。また同作が第76回カンヌ国際映画祭のカンヌプレミアに正式出品されたことについては、「知り合いのカンヌの人に聞いたら『コンペの枠に当てはまらない強烈な映画だから、カンヌプレミアとして別個にやりたい』と。世界的に当たれば一儲けだなとうれしい限りです」とさっそく冗談を飛ばした。
同作は北野にとって「座頭市」以来となる時代劇。北野は「戦国時代の衆道というか、男同士が絡み合うのを大河は避けますよね。でも家臣は殿様に対して命を懸けるわけなので、そういう関係になると自分は考えた。そこを描かずに戦国を語るのはおかしいと」と論を展開し、「戦国大名は一般の人が死んでも関係ないと思うようなやつら。その残酷さ、生と死をバックボーンにした生き方、そこをうまく描ければと思ったんです」と方向性を説明する。配役は「脚本を書きながら決めた」そうで、自身の出演に関しては「最初は出ないつもりだったんですが、スタッフから『出ないとあれじゃない?』と言われて」と経緯を述べた。
続いてキャスト陣に「オファーが来たときの気持ちは?」という質問が投げかけられると、西島は「こういう作品のお話があるとマネージャーから聞いた数日後に、バラエティの現場で監督と一緒になりました。廊下で監督から『話は聞いてる? 頼むね』と言われたので、すぐに『わかりました!』と」と笑い交じりに回答。そして「光秀がどういう人物だったか諸説出ているので難しいなと思いつつ、かなり人間的にしっかりしていたのではないかと思っています。ただ戦国武将なので完全に狂っている面もある。加えて、しんがりを受け持つことは自分の命を捨てるようなことでもあるので、それはある種の愛ですよね。そういった愛憎や、現代から見て人間的にまともな部分と、命のやり取りをしているからこそ出てくる感覚、いろんな面を持っている役」と解釈を伝える。
加瀬は「オファーはずいぶん前でしたが、コロナで延期になりました。その間に台本も少し変わって、最初に読ませていただいたものと完成した映画はけっこう違います」と言い、「まず自分に信長役をくれるのは監督ぐらいしかいないかなと思いました(笑)。今回はほぼ全員がひどい人でしたね。残酷なシーンも数々出てくるんですが、なぜか監督がそういうものを描くと、最終的には品のいい映像に収まっている。そこがほかの監督と明らかに違うところだと思います」と分析。中村は「若いときから北野監督が大好きで長年の夢でした」と喜びを爆発させて、「茂助に関してはあまり作り込みすぎずに、白紙の状態でいかに監督の色に染まれるかを考えました。監督はああしろこうしろとあんまり言う方ではないので、ぼそっとおっしゃった一言を拾って、どういう画が欲しいのかを自分で想像して。ちなみにこの映画に出てくる僕は、今までで一番汚い姿だと思います(笑)。歯も汚いし、沼にも沈められて泥だらけですが、それで監督が笑ってくださると幸福でした」と述懐した。
「座頭市」に出演した浅野が「また出させてもらえて、しかも時代劇ということだったので、『自分に何ができるんだろう』と台本を読む前からワクワクして。それで読んでみたら、官兵衛は静かに戦略を練っている役だったので、アピールせずになるべく大人しくしなければと思いました」と言うと、同じく北野組経験者の大森は「オファーが来たときは『よかった、また来た。嫌われてなかった』と。監督の現場では何が起きるかわからないので、心の余裕を持って対処できるように励んでいました」と胸の内を明かした。
現場のエピソードを尋ねられると、西島は「撮影も後半になってもうすぐ終わるというあたりで、監督が『ワンシーン追加したい』とおっしゃいました。けっこう大きなセットが組まれていたので、うれしくなっていたらワンカットで終わったんですよ。ワンカットで終わるんだ……とスタッフも呆然として。寄りのカットもあると思っていたら、(引きのまま)一瞬で終わって帰ったのが思い出です」と回想。それに対して北野が「大島渚さんから『アップで撮るのは相当下手な監督だ』と言われましてね。黒澤(明)さんや大島さんと話したとき、ちょこっと言われたことが記憶に残ってるんですが、『大事なシーンは引くべきだ』と。『これだ!とばかりに寄って印象付けるのは下品です』とよく言われましたね。それで(引くのが)くせになっているんだなと思いました」と分析すると、キャストたちは納得した様子を見せる。
また大森は「北野組はテストをやってすぐ本番に行くんですが、本番のときだけ監督がいらっしゃるんです。僕はいい芝居をしようと意識はしますが、緊張しないようにも心がけていて。そんな中大先輩たちに囲まれるシーンがあったんですが、小林薫さんが僕の4倍くらい緊張してらっしゃって(笑)。それで僕もだんだん緊張してきてしまって……北野組の怖さだと思いました」と振り返った。
最後に北野は「自分としてはこの作品がいいのか悪いのかわからなくて、やたらとスタッフや関係者に作品の出来を聞きました。みんな褒めてはくれるんだけど、俺は芸人だから、お世辞じゃなく本心なのかどうかわかる。でもこれは本当に褒めてるなというのが大多数だとわかって、成功したと思っています。できたらこの映画が大ヒット……まで図々しいことは言いませんが、ヒットしてあと何本か撮れればいいなと」と今後にも触れてイベントは終了した。
「首」は今秋、全国ロードショー。キャストには木村祐一、遠藤憲一、勝村政信、寺島進、桐谷健太、六平直政、大竹まこと、津田寛治、荒川良々、寛一郎、副島淳、岸部一徳も名を連ねる。
(c)2023KADOKAWA (c)T.N GON CO.,Ltd