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「重要なのは、矛盾の“間”に立つこと」池松壮亮が語る映画『シン・仮面ライダー』

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池松壮亮

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庵野秀明監督が自ら脚本も手がけた映画『シン・仮面ライダー』が公開されている。本作は、1971年春にテレビ放映が始まった伝説の特撮ドラマ『仮面ライダー』を基にオリジナル作品として創作された。

主人公の本郷猛/仮面ライダーを演じるのは、池松壮亮。彼はこれまで数々の作品に出演してきたが、本作では“答えのない旅”を約2年間続け、誰もが知る/本作にしかいない本郷猛像にたどり着いた。

これから映画館で本作を観る観客も多いことから、映画の詳細には触れないが、本作では冒頭から池松演じる本郷猛が迷い、戸惑う青年として描かれる。気がつくと彼は自身の身体と精神のあり様がこれまでとは異なっていることに気づく。なぜ自分は正体不明の敵と戦っているのか? なぜ自分は容赦なく敵を殺すことができるのか? 混乱する本郷の前に緑川ルリ子と、その父・緑川弘博士が現れ、本郷は秘密結社ショッカーによって身体をオーグメンテーションされたことを知る。

仮面ライダーは放映から50年以上続く人気ヒーローで、現在も新作が放映されているが、その際、“変身ヒーロー”と呼ばれることが多い。しかし、本作では作品の原点に戻り、仮面ライダーは変身ヒーローである以前に“オーグメントされた者”であることがしっかりと描かれる。華麗に変身し、敵を倒した後に何事もなかったかのように人間に戻れるわけではない。オーグメントされた人間はもう元の姿には戻れないのだ。

「そこは考えました。重要なのは、矛盾の“間”に立つこと、だったんです。今回の仮面ライダーは暴力というものと葛藤している人間で、基本的には“戦いたくない”男。でも、仮面(マスク)をかぶることで“制御できない暴力性”が出てしまう。暴力を行使したくないと思ってしまう、『マスクを脱いだ時の“人間性”』と、『マスクをかぶった時の暴力性』の“間”ですよね……。この映画は、いわゆる「改造」されてしまった者と、理性のある人間の“間”に立つ者が、その矛盾と葛藤を乗り越えて、最終的な変身を遂げるストーリーだと思っています。

劇中に出てくる他のオーグはSHOCKERによって人間から完全にオーグメントされてしまった存在なんです。ですから元は人間です。一方、仮面ライダーは半分は人間として暴力性をギリギリ制御できるだけの能力を精神力によって保っています。仮面ライダーは“表に立つヒーロー”ではなく、影の部分を背負ってその風圧に耐えながら生きているようなヒーローだと思います。その点を考える上でも“オーグメント”つまり改造人間であることは重要でした」

本郷猛は元に戻れないかたちで身体に“激しい暴力性”を埋め込まれてしまった。しかし、この設定は本当に我々と無関係の“空想特撮”の設定なのだろうか? 我々も目には見えない形で心のどこかに暴力性や身体の変化を埋め込まれているようなオーグメントをされてはいないだろうか?

都市と身体、自身の内に眠る暴力性と理性……このテーマを真摯に追及してきた映画作家のひとりに塚本晋也がいる。本作では俳優として緑川弘博士を演じており、池松は塚本監督作品『斬、』に出演した。この作品で池松は、江戸末期に生きる浪人を演じ、塚本演じる剣豪の導きで動乱に誘われ、人を斬ることの暴力性と人間的な理性の間で葛藤する。

「この映画では本郷をオーグメントした博士を塚本さんが演じているわけですよね。だから『斬、』での役の関係性は、この作品と似ていて、『斬、』と『ヱヴァンゲリヲン』と『シン・仮面ライダー』が遠い位置にあるかというと、やはり近い場所にいると感じます。

僕にとって、庵野秀明と塚本晋也というおふたりは反射し合っているようにも感じられます。年齢も同じで、ふたりとも“真のインディペンデント作家”であるとも感じます」

「撮影というもの自体が“答えのない旅”でした」

しかし、『シン・仮面ライダー』は単なるヒーロー映画ではない。そこで描かれるテーマやドラマはまだ誰もスクリーンで描いたことのないもので、監督も俳優たちもそれぞれが“まだそこにない答え”を探ったという。

「改めて“仮面ライダーとは何なのか?”と考えたら、それは戦後、この国の夢のようなもので、高度経済成長期の少年・少女や大人たちの夢を体現したものが仮面ライダーだったんだと思うんです。そこには過去の映画の伝統や、時代劇、ノスタルジーやクラシカルな要素も入っている。この映画では、それをどのように継承するのか? 50年前にこの国が見た夢をどう甦らせるのか? ヒーローという存在に我々がどう向き合うのか? それを探求する旅だったと思います。

何が大変かというと“探し続ける旅”だったからなんです。OKのテイクを探すのではなくて、とにかく撮って、撮って、撮って……みんなで何度も試して、試して、試して……だから撮影というもの自体が“答えのない旅”でした。このような作品創りが出来たことは大変でしたけど、贅沢だったと思います。これまでは“OKテイクを焼き付けること”をやってきましたから、答えのない旅を2年間続けたこと、その答えがこの作品に焼き付いていることを願っています」

『シン・仮面ライダー』は、日本人なら誰もが知るヒーローを継承し、まだ誰も観たことのない姿として描いた作品だ。この映画で本郷猛は、どのように葛藤し、最後にどのような“変身”を果たすのか? スクリーンで目撃してほしい。

『シン・仮面ライダー』
公開中

撮影:源賀津己

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