岸田國士戯曲賞授賞式、創作への意欲と決意を語る加藤拓也&自身のスタイル貫く金山寿甲
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左から加藤拓也、金山寿甲。
第67回岸田國士戯曲賞授賞式が本日4月25日に東京・学士会館にて行われ、受賞者の加藤拓也と金山寿甲が出席した。
岸田國士戯曲賞は白水社が主催する戯曲賞。最終候補作品には加藤の「ドードーが落下する」、金山の「パチンコ(上)」に加え、石原燃「彼女たちの断片」、上田久美子「バイオーム」、兼島拓也「ライカムで待っとく」、鎌田順也「かたとき」、中島梓織「薬をもらいにいく薬」、原田ゆう「文、分、異聞」、松村翔子「渇求」の計9作品が選出されており、岩松了、岡田利規、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)、野田秀樹、本谷有希子、矢内原美邦が選考委員を務めた。
式ではまず、加藤と金山に賞状のほか、正賞として時計、副賞として30万円が贈られた。続けて選考委員を代表して野田があいさつ。野田は「選考会は、3月17日にここ学士会館にて6名で行いました。9作品ありましたがまず5作品にしぼられ、兼島拓也さんの『ライカムで待っとく』、鎌田順也さんの『かたとき』、松村翔子さんの『渇求』と、この2作品が残りました。そこから3作品にしぼられ、兼島さんの『ライカム』と受賞作2作品がほぼ同じ点数で並び、最終的に2作品がほぼ満票に近い形で受賞作に決定しました」と説明した。続けて野田は「現在の日本人の芝居の本質には“ディスる”精神で笑いを取るということがあると思います。金山さんの場合は、ディスる方向が他人だけでなく、在日であるという自分たちのコミュニティにも向けられているのが面白い。1970年代のつかこうへいさんの笑いを思い出しました」と述べ、さらに「ラップを作るということは型を作ることで、それは簡単なようでいて難しい。川柳の精神にも近い……という発言は、次回作で金山さんが岸田賞の選考会をディスる場合に『川柳って言われた』と使いやすいんじゃないかと思って(笑)」と話し、会場を沸かせた。
また野田は加藤作品について「人物描写が非常に素晴らしい。当人たちが真面目に話していることも、横から見ると非常に生々しく面白く聞こえることがあり、そういった声が、生々しく聞こえる作品だと思います。またこの作品には統合失調症の人が出てきますが、現実の声ではないものを聞く、という点が、大きく想像を膨らませる優れた作品だと思いました。本当に次の作品が楽しみなお二方です、おめでとうございました」と祝辞を述べた。
続けて加藤があいさつ。加藤は「緊張すると何をしゃべるか忘れてしまうので、書いてきました」と、数枚の紙の束を取り出し、「作るということに関しては、18歳でラジオから始めて、ミュージックビデオ(の制作)を経て、大阪から東京に出てきてシェアハウスに住んでいたときに演劇に出会いました」と自己紹介を始める。その後、お客さんが1人しかいなかった頃のことや、過去に出演者から苦言を呈されたことなどを振り返りつつ、「今は楽しく演劇をやれる環境にしたいと思って、劇団をやっています。コツコツと僕と一緒にやってくれる人たちが増えてきて、日々健康に演劇を取り組めるかを考えていて……」と話しながら紙の束に目を落として、「あれ、今どこを読んでるのか……」とボソッと呟いて観客を和ませる。
そして再び紙から目を上げて「あともう1つ、無自覚な人間を描き続けたいと思っていて。例えば自分がマジョリティに属していると思って壁を作ってしまうとか、第三者である優位性とか……無自覚な暴力の危険性を描き続けられたらと思っています」と決意を語り、最後に俳優やスタッフへの感謝を述べた。
次に金山があいさつ……するはずだったが、司会者が「本日は諸事情ありとのことで俳優の川崎麻里子さんにごあいさつをお願いします」と紹介して、サングラスをかけた“東葛スタイル”で、川崎が舞台上に姿を現した。川崎は「本来、金山寿甲本人から受賞のごあいさつをさせていただくのが筋なのですが、受賞作をお読みいただいた方ならおわかりの通り、相続に関しましてただいま国税が動くかどうかというタイミングですので」と前置きし「こうしたオープンな場において本人の口から発言すべきではないだろうということで、代読させていただきます」と、“緘”の字が刻印された封筒を開け、中から手紙を取り出し、代読を始めた。
「演劇を作るとき、いつも片隅に置いている言葉があります。『最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ』。これは偉大なるマーティン・スコセッシの言葉です、とアカデミー賞授賞式でスピーチしたポン・ジュノ監督の言葉です」と過去作の一節を使ってあいさつし、会場を沸かせる。さらに「演劇を始めてずっと、岸田國士戯曲賞の最終候補に残ることが夢でした。受賞することができた今、次に夢見ることは何か。我々民族の悲願、南北統一です。岸田と鶴屋南北(戯曲)賞の統一。そこを目指して精進して参りたいと思います」と話し、笑いが起きた。最後に「川崎さんに業務連絡で、この代読が終わったときに原稿を皆さんにお見せして、実は白紙でしたっていう、赤塚不二夫の告別式でタモリがやった弔辞、それやってください」と言って、実際に白紙であることを見せ、会場から「おおー」っと驚きの声と拍手が起きた。
乾杯のあいさつでは選考委員の岩松、KERA、本谷も祝辞を述べた。岩松は「この2作品はそれぞれ全然違う特色がありますが、両方ともとても演劇的な作品だと思っています。この2作品が受賞作であることが喜ばしい」と話す。KERAは「今年の候補作は面白いものが多かったですが、すごく面白いと感じたものがなかった」と率直な思いを述べつつ、「でもこの2作が受賞することで、岸田戯曲賞に対して自分が感じていた規定を更新したような思いがします」と話した。本谷は「個人的には同時受賞が好きではないので、1作品に決まるまでとことん議論を闘わせる……という手もあったかもしれませんが、今後公演を重ねていくことでどちらが勢いがあるか、白黒つけていただけたら(笑)。本日はおめでたいはれの席なので、皆さん存分に楽しんで、ぶちかましていただけたらと思います」と笑顔で述べた。
後半は、長塚圭史、松井周、プロデューサーの三好佐智子が加藤に対して、きたろうは“留守電”で、いとうせいこうはビデオメッセージ、宮崎吐夢は登壇して金山に対して祝辞を述べ、さらに東葛スポーツ出演者によるラップパフォーマンスが披露された。
※川崎麻里子の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。
第67回岸田國士戯曲賞最終候補作品
- 石原燃「彼女たちの断片」
- 上田久美子「バイオーム」
- 加藤拓也「ドードーが落下する」
- 金山寿甲「パチンコ(上)」
- 兼島拓也「ライカムで待っとく」
- 鎌田順也「かたとき」
- 中島梓織「薬をもらいにいく薬」
- 原田ゆう「文、分、異聞」
- 松村翔子「渇求」