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Creepy Nuts、“Jポップとしての存在”を模索する先に広がる期待 Zepp Tokyoワンマン振り返る

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リアルサウンド

 ラッパーのR-指定、DJのDJ松永による1MC&1DJユニット・Creepy Nutsの全国ツアー『クリープ・ショー 2018』の東京公演が、10月24日、Zepp Tokyoにて行われた。全20公演を全てソールドアウトさせ、勢いに乗る彼らは、今回のライブをアルバム『クリープ・ショー』のオープニングを飾る「手練手管」でスタートさせ、フルハウスとなった会場からは大きな声援が上がる。そして「ぬえの鳴く夜は」「助演男優賞」「紙様」とアルバムの流れを忠実になぞりながら4曲を披露。この流れは彼らがアルバムの楽曲展開に自信があり、そしてライブを見据えて作品を構成したことの証左でもあるだろう。

 しかし、ここでキメ切れないのがCreepy Nuts。楽曲ではタフなアプローチで“スター”としてステージを映えさせるが、ことMCになると一転、未だに中学生かと思えるような下ネタや日常の不平不満、いよいよ拍車がかかってきたDJ松永の無法なほどの毒舌と屈折が現れ、格好つけきれずに、急に“面白い兄ちゃんたち”に降りてしまう。ただ、そのコントラストも彼らの持つ魅力でもあるだろう。

 そして彼らを象徴する「たりないふたり」や、ニューアルバムから「Stray Dog」に加えて、故TOKONA-Xの所属したILLMARIACHIのクラシックのリミックスであるDJ RYOW「ビートモクソモネェカラキキナ 2016 REMIX feat.般若, 漢 a.k.a. GAMI & R-指定」、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)の第一期モンスター陣で構成されたDungeon Monsters「MONSTER VISION」などの外部作品への客演作、そしてCreepy Nutsの最初期作である「トレンチコートマフィア」と、R-指定とCreepy Nutsの持つ多面性を詳らかにする。

 再びリスナーをズッコケさせるようなMCをはさみ、Creepy Nutsのライブの定番とも言えるパートに突入。観客からのお題を集め、それをフリースタイルの中に織り込んでいく“聖徳太子フリースタイル”では、今回は9個のお題を集め、見事に成功。続くDJ松永のターンテーブルライブ/DJルーティンでも観客を沸かす。やはり彼らの根本の強さを感じるのは、こういった純粋に“スキルフル”な部分だろう。楽曲の構成や展開の妙も勿論あるが、そもそも単純にラップスキル、DJスキルが彼らは異常に高く、それはR-指定の『UMB』三連覇や、DJ松永の『DMC JAPAN FINAL』進出といった“称号”にも事実として現れている。そして、それが彼らの楽曲やライブの背骨の強さとなっているだろうし、ワンマンだけではなく、フェスや対バンでもしっかりと観客をロックする所以だろう。

 続くMCでは、ここではズッコケ……た部分も無くはなかったが、それでも“過去の痛い体験”を織り交ぜながらも、それが糧になっているというメッセージから、それを楽曲にした「だがそれでいい」から「朝焼け」、「スポットライト」と、リスナーに活と勇気を入れるような楽曲を矢継ぎ早に展開し、ステージは一旦幕が降りた。

 アンコールではアダルトビデオを中心にした会話を展開し、そこから「シラフで酔狂」、そしてボーカル的なアプローチと、ワルツ展開によって、サウンドとしてもエモーショナルに聴かせる「月に遠吠え」を披露し、ライブは終了した。

 これは良くも悪くも、という、決してネガティブではないが、ポジティブなだけでもない意味で使うが、Creepy Nutsのライブはやはり“いなたい”。彼らがアプローチするビートは、例えばトラップのような最先端のサウンド性では無いし、かといって王道のブーンバップビートでもない。ロックバンドとの対バンやロックフェスへの参加など、“彼らの現在の土俵”という部分も作用していると思うが、ここ最近の作品に顕著なのは、よりロッキッシュなビート感であったり、バンドとの親和性も感じさせるサウンド性だ。BPM帯にしても、いわゆるヒップホップの王道的なBPM90付近や、トラップ的なもっと遅いBPMではなく、「手練手管」や「スポットライト」はBPM120付近、「ぬえの鳴く夜は」はBPM200程度と、そのサウンド性はロックにより近い。そこに対してR-指定のラップも、そのビート感に基本的にはオンで合わせ、クリア・スピーキングなラップと併せて、より分かりやすくアプローチする。

 その意味でも、例えばBAD HOPやYENTOWNのように、最新のビートを最新のスタイルとファッション性も込みで提示するというスタイルと比すれば、そのアプローチの差によって、Creepy Nutsが“いなたく”映ってしまうのは致し方ないだろう。

 しかし、R-指定がCreepy Nuts以外の客演作で見せる、現行シーンともしっかりと拮抗するラップスキルや、DJ松永のターンテーブリストとしてのスキルなどを考えると、彼らは“いなたい”ことしか出来ないわけでは決して無い。

 その意味では、自分たちのエゴも含めた、アピールしたいメッセージやアプローチと、彼らがパーソナリティを務める『オールナイトニッポン』や各種メディア露出で獲得したファンが求めるものの、最大公約数を明確に意識しながら、アルバム作りやライブ制作をしていることを感じさせられた。それはリスナーにおもねっているということではなく(そこまで器用ではないだろう)、今回のライブでは、現状のマスで保守的な音楽シーンの中で求められている“需要の高い音楽性”と、ヒップホップを根本にした“自分たちの音楽性”を止揚させ、そこで“JポップとしてのCreepy Nutsの存在”を模索しているように感じさせられた。それはまだ試行錯誤の段階であることは想像できるが、そこを抜けた先にはなにが待っているのか、楽しみにさせられるライブだった。

(文=高木 “JET” 晋一郎)