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【レポート】美しく、温もりある魅せ方で“不思議”を生みだす ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』

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ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』より 左から)山崎育三郎、濱田めぐみ 撮影:平野祥恵

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山崎育三郎が主演するミュージカル『ファインディング・ネバーランド』が5月15日、東京・新国立劇場 中劇場で開幕した。劇作家ジェームズ・バリがある家族と出会い、『ピーターパン』を生み出し上演するまでを描く物語。アラン・ニーによる戯曲『The Man Who Was Peter Pan』と、ジョニー・デップ主演の同名映画(邦題『ネバーランド』)が原作で、2015年にブロードウェイで開幕したミュージカルの待望の日本版だ。ファンタジーとリアルが溶け合う繊細で美しい物語を、演出の小山ゆうなと山崎ら出演者が、温もりある作品として丁寧に描き出した。

大人になりきれない大人と、大人にならざるを得なかった子ども

舞台は19世紀後半のイギリス。新作を求められるも似たようなストーリーしか作れず行き詰っていた劇作家ジェームズ・バリは、ある日公園で海賊ごっこをしている未亡人シルヴィアとその4人の子どもと出会う。

彼らと触れ合ううちにかつては自分も空想の世界で自由に遊んでいたことを思い出し、人に期待されるものではなく、自分自身が描きたいものを書きたいと思い始めるバリ。想像の世界では公園は湖になり、人魚が泳ぐ。犬は犬ではなく熊になる……。

しかし当時のイギリス演劇界では子ども向けのファンタジーを上演するなど非常識、劇場主のフローマンや劇団員たちは大反対。一方、シルヴィアの4人の子ども、中でも三男のピーターは父を亡くしてから“大人”になろうと、無邪気さや純粋な心を閉ざしていたが、バリと出会ったことで、冒険心や純粋さを取り戻していく。そしてバリは子どもの頃に心に描いていた、大人にならない子どもたちが住む“ネバーランド”の物語に、ピーターたちのイマジネーションを重ね『ピーターパン』の物語を作り上げていくが、そんな中、シルヴィアが体調を崩し……。

大人になりきれない大人と、大人にならざるを得なかった子どもが、現実に傷付きながらも自分たちの大切な信念を手放さずに前を向き、人生を歩んでいく物語だ。少年期に直面してしまう親しい人との別れという悲しみが通奏低音のように流れていながらも、人の温もりや強さが愛情たっぷりに描かれ、優しい気持ちが胸を満たす。

一方で、あのフック船長は、ティンカーベルは、タイガーリリーはどうやって生み出されたのか――『ピーターパン』誕生秘話をユニークに描く作品でもある。バリを取り巻く人々の仕草や個性が、あのおなじみのキャラクターと重なるところはワクワクする楽しさ。さらに演出面も、心躍る驚きが次々と登場。空を飛ぶ子どもたちをフライングではなくリフトで表現するなど、想像力がファンタジーの実在を補強する、演劇ならではの魔法の数々が美しい。ブロードウェイ版もその美しい演出が評判だったが、小山手掛ける日本版も観客の想像力を活かした温もりある魅せ方で“不思議”を生みだしている。

山崎育三郎「12歳で初めてステージに立ったときのことを思い出した」

主人公のジェームズ・バリを演じるのは、新作ミュージカルには7年ぶりの出演となる山崎育三郎。繊細さと無邪気さに加え、子どもたちを見つめる優しいまなざしが印象的。ことミュージカルにおいてはキャラクター性の強い役柄が続いていたが、リアリティある人間臭い役を等身大で演じていて、俳優としての実力を見せつけた。シルヴィア役の濱田めぐみも、母親の強さをしなやかに表現。武田真治はバリに翻弄されるフローマンを人情味たっぷりに演じると同時に、空想の中のフック船長をユーモラスにパワフルに演じる。

4兄弟(公開舞台稽古時は、ジョージ:ポピエルマレック健太朗、ジャック:豊田侑泉、ピーター:小野桜介、マイケル:奥田奏太。いずれもWキャスト)も生き生きと演じ歌い、愛らしい。ほかの出演者も実力派揃いで、キャストが一丸となって、心躍るファンタジーと、想像力を胸に現実の痛みを乗り越える人間の強さを見事に描き出した。

初日前日に行われた囲み取材では、山崎は「この作品に出会って、自分が12歳で初めてステージに立ったときのことを思い出したり、改めて自分にとって一番大切なものに気づかされたりしています。たぶん観客の皆さんにとっても自分の原点に帰れるような作品であり、それぞれの人生と重ね合わせるような作品になっているはず。『こんな作品を待ってました!』と言いたいくらい大好きな作品になりました。演劇でしか作り出せない奇跡のステージが出来上がっていますので、ぜひ劇場で体感してください」とアピール。

左から)小山ゆうな(翻訳・演出)、濱田めぐみ、山崎育三郎、武田真治

濱田は「我々演じている側も楽しんで、ワクワクしながら演じています。客席と舞台上、みんなで素敵な時間を過ごせれば」、武田も「演じるたびに私たち自身がエネルギーをもらえる、そんな作品なので、このエネルギーが観客の皆さまにも伝わるはず。この数年のコロナ禍で諦めていた夢やできなかったことに改めてチャレンジしてみよう、そう思える作品になっていると思うので、劇場に元気をもらいにきてください」と話した。

公演は同劇場で6月5日(月) まで。その後、大阪、久留米、富山、名古屋でも上演される。

取材・文・撮影=平野祥恵

ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』チケット情報
https://w.pia.jp/t/findingneverland2023/

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