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【対談:岸谷香×スガ シカオ】「こんなイカした同級生はいないよ」

音楽

インタビュー

ぴあ

左から)スガ シカオ、岸谷香 Photo:吉田圭子

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岸谷香にとって初となる弾き語り形式のツーマンツアー『ふたりぼっちの大パーティー』の6月9日の名古屋公演の対バンゲストは、スガ シカオである。2022年にスガがナビゲーターを務めていたラジオ番組『Mercedes-Benz THE EXPERIENCE』に、岸谷がゲストとして出演した経緯もあり、今回の共演が実現した。それぞれ表現している音楽のタイプは異なるが、共通点は少なくない。同級生であり、幼少期からの生活圏も近く、同じ時代を同じ風土で育ってきたのだ。また、弾き語りからバンドスタイルまで、幅広い形態で音楽活動を展開している点も共通する。今回の共演からマニアックなコード進行の話まで、このふたりならではの興味深い対談となった。

――岸谷さんが弾き語りツーマンライブの開催を決めた経緯と、スガさんを誘った理由を教えてください。

岸谷 私は16歳の時からPRINCESS PRINCESSで、いろいろな種類のライブをやってきたので、“やり尽くした”的なところがあったんですね。でも近年は、さまざまなフェスが開催されるようになってきたじゃないですか。私がバンドで活動していたころは、現在のような形のフェスはなく、その後、10年ほど子育てで音楽活動をお休みしていたので、浦島太郎状態だったんですね。

スガ 浦島太郎(笑)。

岸谷 近年はそうしたフェスにも呼ばれるようになり、人とコラボするおもしろさを知り、50歳の誕生日を迎えた時に、呼ばれるばかりではなくて、一緒にやりたいと思っている人をお呼びして、イベントをやりたいという欲が出てきたんですよ。世の中にはツーマンという形態があることを聞きつけ(笑)、興味が芽生え、私が一緒にやりたいと思う人とやりたいという気持ちが強くなりました。スガさんのラジオ番組に出演させていただき、話も合いそうだし、聴いてきた音楽も合いそうだし、でもやってる音楽は大きく違うところがおもしろいな、一緒にやってみたいな、スガ シカオワールドに足を踏み入れたいなと思い、声をかけさせていただきました。そうしたら、一緒にやってくださるとのことで、感謝です。

スガ いやいや、こちらこそ感謝ですよ。僕はもうここ10年くらい、アコースティックツーマンは死ぬほどやっているんですよ。年10本以上はやっているかな。

岸谷 えっ、スガさん主催で?

スガ いや、僕は1本もツーマンを主催したことはないです。単独での弾き語りツアーを、年15本くらいやっているので、自分主催ではやってませんが、アコースティックツーマンだと、気軽にできますし、特別なことをやる感はあまりなく、年中やっています。おもしろいなと思う人や知り合いから声がかかったら、ジャンルが違ってもまったく問題なくOKという。自分にとって、弾き語りはライフワークみたいになっているので、持ち技や持ち曲も日々開拓しています。なので、今回もお話をいただいて、即乗りでした(笑)。

岸谷 ありがとうございます。

スガ 僕はシンガーソングライターなんで、バンドで動くとなると、サポートのメンバーを呼んでこなきゃいけないので、スケジュールも含めて大変なんですよ。その分アコースティックは僕ひとりだから、すぐ行けますしね。岸谷さんとのツーマン、楽しみです。
僕が知っている女性アーティストって、結婚されてお子さんができて、休みに入って、音楽への情熱がなくなっていく方が結構いらっしゃるんですね。もったいないなって、いつも思っているんですが、岸谷さんはずっと情熱的で。話をしていても、新しい音楽も聴いているし、新しい音楽へのトライもされていて、その姿勢もリスペクトですよね。自分のやりたい音楽を見つけてやり続けているのは、素晴らしいなと思っています。

岸谷 そう言っていただけると、うれしいですね。でも一時期、音楽への情熱がまったくなくなったんですよ。子供生まれて10年くらいは、「私って、音楽やってたんだっけ?」という感じになっちゃったんですね。でも、そのタイミングで、PRINCESS PRINCESSの再結成があり、しかも自分のために始めたことでもなく(東日本大震災の復興支援が目的)、予定もしていなかったことだったので、無欲で音楽と向き合えたんですね。あの時は、その先でまた音楽をやろうと思っていませんでした。
私たちにできることは再結成だ、どうやらそれによって、たくさんの人たちが、“よし頑張るぞ”という気持ちになってくれるようだ、だったらやるしかないという感じだったんですよ。再結成の活動が2012年12月31日の紅白出場まで続いて。翌年(2013年)の1月1日からすっかりお母さんに戻ったんですが、ふと、去年はなんか楽しかったな、いっぱい笑ってたなって思っちゃったんですよ。

スガ ああっ! それで音楽に戻されちゃったんですね(笑)。

岸谷 そう! どうやら私は音楽をやっていて、相当楽しかったんだなって、気がついちゃったんですよ。なので、子供たちのことが落ち着いたら、またやろうかなってぼちぼち始めて、今に至ったという。多分、この計画性のなさが良かったんじゃないかと思います。情熱をキープしようとすると、大変だから。

スガ 無理しないのが良かったですかね。

岸谷 そうそう。音楽に切迫したものを感じてなかったから、再び、情熱を燃やせたのかなと思います。辛かったことが一個もないうちに、さっさと辞めちゃったし(笑)。

スガ そこにこだわってないところが、すごいですね。思い切りがいいというか、潔いというか。

岸谷 生きていくために音楽をやるのではなくて、好きで音楽をやっていて、結婚して、子供が生まれたら、そっちのほうが大変じゃないかってことになったので。

スガ なるほどねぇ。

岸谷 おかげで音楽の世界に戻ってきたら、“え、世の中ってこんななってんの?”みたいな(笑)。驚きましたけど、だから新鮮な気持ちでやれているんだと思います。

――スガさんは、音楽への情熱に関しては、いかがですか? インディーズでの活動期間があったり、“HITORI SUGAR”ということで弾き語りツアーをやったり、自らのスタイルを刷新しながらアグレッシヴな音楽活動を展開しているという印象を受けます。

スガ 僕は人生の立ち位置みたいなものが、あまり変わっていないから、そのまま来ている感じがしますね。外から見ると、アグレッシヴで挑戦的に見えるかもしれないんですけど、同じところにいられないからなんですよ。同じところで安定してると嫌になっちゃうんですね。

岸谷 私もそこは同じかもしれない。飽きやすい(笑)。

スガ そう、飽きちゃうし、つまんなくなっちゃうんですよ。違う場所に行きたくなるから、結果的にそれが挑戦してるように見えるんだけど、新しいことを開拓するぞとか、そこまでの意気込みがあるわけではないんですね(笑)。

岸谷 私は、今回一緒にツーマンができるってことで、スガさんの曲を毎日聴いているんですよ。

スガ あっ、なんか、すみません(笑)。

岸谷 すると、いろいろ発見があって。このコード、どうなっているんだろうって、鍵盤を持ってきて、確かめたり。夢の中でも、あのコードはどうなっているんだろうって考えちゃうくらい(笑)。それで出した結論が、“こんなイカした同級生はいないよ”ってことでした(笑)。

スガ いやいや、そんなことはないですよ(笑)。

岸谷 曲、歌詞、音、なにもかも並べてみた時に、こんなことをやれる同級生はいないなって。本当にシビれます。どんな子供だったら、こんな大人になるんだろうって。

スガ いやぁ、びっくりするぐらい普通で(笑)。

岸谷 渋谷区の普通の子供?

スガ 飛び抜けたエピソードも何にもないですよ。成績も良くもなく、悪くもなく、別に音楽の成績も良くもなく、悪くもなく。尖ったところも出っ張ったところもない人間です(笑)。

岸谷 曲はどうして書き始めたんですか?

スガ バンドはやっていたんですが、ギタリストだったんで、別に曲を作るとか、歌うとかってこともなく。友達の結婚式で歌わなきゃならないんで、まともな曲作ろうよってことで、作ったことはあったけど、それ以外はロクに作ったこともなかったんですよ。歌詞も全然書けなくて。
ずっとバンド関連の友達に歌詞を書いてもらっていたんですが、24歳ぐらいの時に、そいつに「曲を書くのは嫌だ」って言われたんで、自分で書くようになったんですが、それまで全然書けなかったし、歌詞もまったくダメで。

岸谷 わからないものですね。歌詞の人なんじゃないかなと思って聴いてました。単語の選び方のセンスもとても好きですし、かっこいいなあって。

スガ いやいや、当時、すでにPRINCESS PRINCESSはヒット曲をガンガン飛ばして、テレビや雑誌に出まくっていたわけでしょう。僕が22歳の頃はまったく歌詞を書いていなくて、「プリプリの中で誰が好き?」とか、友達と話している頃ですよ(笑)。

――同級生だから、計算がわかりやすいですね。

スガ みんなが知っている存在でしたからね。その人とツーマンをやることになるなんて、当時は想像もつかないですよね。

――その当時、スガさんはどんなバンドをやっていたんですか? やはり、プリンスやスライ&ザ・ファミリー・ストーンに通じるような音楽をやっていたんですか?

スガ いや、もっとコミックバンドみたいなファンクバンドでした。バカばっかり集まって(笑)。

岸谷 同じ時代を同じように生きてきて、今こんな違う音楽をやってるっていうのが本当におもしろいですね。マニアックなことを聞いていいですか? コード進行もおもしろくて。曲はギターで作っているんですか?

スガ いや、楽器は使わないです。

岸谷 あっ、そうなんだ。

スガ 楽器を使うと、手癖が出て、同じ曲になっちゃうから。

岸谷 なるほど。スガさんの曲をコピーしていると、ピアノだったら、絶対にこういかないなってところがたくさんあるの。だから、どういう発想でこうなったのかなって。

スガ 高校生の時にギターが上手くなりたくて、スクールに通ったんですね。でも入るスクールを間違えちゃって、松本英彦のジャズ・スクールで(笑)。訳もわからず、ジャズのコードだけを練習させられてたんですね(笑)。なので、そのコードトーンがずっと頭の中に鳴っているという。

岸谷 なるほどね。♭13(フラット・サーティーンス)が結構出てくるのは、そのせいなんですね。

スガ そうなんですよ。ジャズでは♭13って、最初に覚えさせられますから。高校1年生の時にそのコードをガンガン叩き込まれたので、多分そこに基づいたメロディが出てくるのだと思います。

岸谷 だからピアノで弾こうとすると、3度音程はメジャーとマイナーのどっちも合わないので、どっちを弾いたらいいのって、困ってしまうんですね。

スガ 3度音程、ギタリストは弾きたくないんですよ。

岸谷 3度弾くと、説明が多くなりすぎて、ダサくなることがありますよね。

スガ そうそう!(笑) だから常に3度は抜くし、そうすると、ソロも取りやすくなるという。3度を抜いて、テンションコードを加えるのが、習性になっています。まさか、♭13の話になるとは思いませんでした。丁寧に聴いていただき、ありがとうございます。

岸谷 スガさんの曲を聴いていて、楽しくなっちゃって、2曲ぐらい、スガさんと一緒にやりたい曲があって。ピアノできちんと弾くと、どうしてもおかしい感じになる曲があるので、スガさんと一緒にやる時だけ、ウーリッツァを登場させようかなと考えています。3オクターブとちょっとしかない小さいウーリッツァを持っているので、持ち運びもできるし、ちょっと不自由な中でやるのもおもしろいかなって。

スガ いやぁ、よくわかってらっしゃる!(笑) ピアノでやると、ピアノの世界になっちゃうけど、ウーリッツァでやると、ブラックミュージックの世界になりますもんね。

岸谷 あくまでもアイディアの段階なので、実現するかどうかはわかりませんけど。挫折したら、ごめんなさいってことで。

――スガさんは、岸谷さんの曲を聴いて、感じたことはありますか?

スガ こんな声はいないなってことですね。今の日本のJ-POPって、“声の時代”だと思っています。声色の個性や歌の上手など、声にまつわることが中心になって回っているなって。そういう意味でも、この声はすごいなと思います。問答無用で聴く人を元気にさせる声なんですよ。

岸谷 押しが強いっていう言い方もありますね(笑)。

スガ そういう言い方もありますが(笑)、バンドの中では、繊細な声だと負けちゃうから、やっぱりバンド出身の人なんだなって改めて思ったし、その声が活きる曲を作っていますよね。

岸谷 私は、音楽の中で興味を持ったのは、歌ではなくて、楽器が先だったんですよ。歌が最後で、「えっ? 私が歌うの?」みたいな(笑)。だから歌の上手さにも無頓着で、“自分の歌とは何ぞや”みたいなことも考えたこともなくて。ただ、“自分の曲を歌うのは自分しかいないな。他の人に歌ってもらうのはなんか違うな”みたいな感じで、自分の歌を確立していったので、自分の曲がこういう歌手にさせているのかもしれません。自分の歌を歌うためだけに歌を始めたので、歌手としては全然ダメだなって思っています。

スガ いや、すごい声だと思うけどなぁ。

岸谷 それを言うなら、スガさんの声でしょ。

スガ 僕の声はバンドの中では、みんながサポートしてくれないと、存在できない声なんですよ。エレキギターと同じ音質なので、混じってしまうと、前に出ない声。アコースティックだと楽なんだけど、バンドでやる時は、アレンジをしっかり考えないと、潰されます。だから、太くてパンチ力のある声は憧れですよ。でもパワフルな声の持ち主って、みんな、僕の声が「いい」って言うんですけどね。

岸谷 “隣の芝生は青い”から、違う者同士でそう感じることはあると思いますね。

――話は戻ってしまいますが、スガさんは、歌詞を書けるようになったきっかけはありますか?

スガ いや、ずっと箸にも棒にもならなかったんですが、デビューが近くなってから、だんだん曲が書けるようになってきたんですよ。だって、デビューの時は7曲しかありませんでした。

岸谷 え、それって、すごいですね。

スガ そう。しかも1曲を作るのにとても時間がかかって、困ったもんだなってところからのスタートでした。アレンジも自分でやっていたので、曲を作るのが大変すぎて、歌詞なんかどうでもよくて、歌入れの前の日にバーッと書いて、終わりみたいな感じでした。でも、デビューして、だんだん歌詞が評価されるようになってきて、“オレって、歌詞が結構書けるのかな?”みたいな(笑)。気がついたら、なぜか書けるようになっていたという感じです。

岸谷 天職ということで、導かれてきたんですかね。普通は、みんな、“成功するまでは田舎に帰らないぞ”って覚悟を決めて、頑張ってきて、成果が出るじゃないですか。

スガ いや、頑張ることは頑張っていましたよ(笑)。

岸谷 計画どおりの人生という感じではないですよね。

スガ それはそうですね。30歳までどこにも引っかかってなかったら、普通は音楽、やめますもんね(笑)。

岸谷 スガさんのデビューが1997年ということは、PRINCESS PRINCESSの解散と入れ替わりですよね。

スガ 僕はかなり遅いデビューですよね。

岸谷 でもそのあと、すぐに世の中で知られていたでしょ。「夜空ノムコウ」がスガさんの曲だって、知ってたもん。

スガ 「夜空ノムコウ」が1998年なんで、デビュー直後ですからね。

岸谷 デビューしてすぐに大ヒットしたイメージがありますよ。

スガ デビューしてからはそうですけど、デビューまでが遅かったですね。30歳ですし、デビューの1年前なんて、何もなかったですよ。契約もないし、事務所もないし、職もない(笑)。だから突然変わったんですよね。でもデビューのタイミングで、才能が開花してくれて、良かったですよ。

岸谷 早けりゃいいってもんじゃないから、人それぞれに開花のタイミングがあるんじゃないですか。

スガ でも同年代でも、若い頃からカリスマのようになった人もいますし、当時は、“同じように音楽をやっているのに、一体オレは何をやっているんだろう”って、大層うらやんだもんですよ。

――でも開花の早さよりも、今も活動し続けていることのほうがはるかにすごいことですよね。才能はもちろん、努力し続けるすごさもあるのではないですか?

スガ 好きなことをやっているわけで、努力という言葉は、あまり使いたくなくて。ただ、才能という言葉だけで片付けるのも、違う気もしますし。ただ、岸谷さんを見ていて思うのは、やっぱり才能のすごさですよ。「戻ってみようかな」って思ったからって、普通だったら、再び曲を書けないですよ。

岸谷 それはモードってことだと思います。お母さんモードになっている時は、1曲どころか1小節も出てきませんでしたから。そのころは、“私は生き物として変わったんだろうな”と思っていたんですよ。“昔はどうやって曲を書いていたんだろう? 細胞が違うんだろうな。だったら一生おかあさんでいいや”って。でもPRINCESS PRINCESSで音楽活動をすると決めて、1年半くらい準備している期間に、だんだん昔の細胞に戻ってきて、音楽って楽しいというモードに戻れたんだと思います。
私はデビューから数えると、来年で40周年くらいなんですけど、実際の活動期間でいうと、10年くらい休んでいるので、30年くらいの感覚なんですよ。そこも大きいかもしれません。充電期間がある分だけ、ずっとやっている人よりは、飛び上がる力が残っているのかなと(笑)。

――その10年を考えると、同級生で、なおかつお互いにデビューから30年くらい活動しているということでは、岸谷さんとスガさんの活動期間、帳尻が合っているかもしれませんね。

スガ 全然合ってないですよ(笑)。

――ここまでの道筋は違うものの、同級生のおふたりが弾き語りのツーマンで共演するのは、興味深いことです。それぞれ弾き語りについて思うことをうかがいたいのですが。

岸谷 スガさんがそもそもギタリストだったっていう話を聞いて、ものすごくビビってます。早く家に帰って練習しなきゃって(笑)。

――スガさんは、エフェクターやルーパーも駆使して、スラム奏法も使って、工夫しながら弾き語りをやられていますよね。

スガ 僕は鍵盤ができないので、アコギ1本でやるしかないですから。でも普通に2時間やると、お客さんが飽きちゃうんですよ。

岸谷 前にもスガさんはそうおっしゃってましたけど、絶対にそんなことはないと思いますよ。でも、思っちゃうんですよね、“聴いている人、飽きちゃうんじゃないかな”って。

スガ 1時間くらいだといいんだけど、2時間、ポロンポロンだけだと飽きちゃうから、いろいろ手を変え品を変え(笑)。本当は楽器も替えたいところなんですが、ギター以外はできないので、リズムを出したり、いろいろ催し物をやったりして、飽きさせないようにしているだけで。本当は、2時間ギターだけのシンプルな弾き語りを目指したいんです。

岸谷 私もまったく同じことを感じています。みんなが飽きるんじゃないかということもあるし、自分も同じことばかり続けるのが苦手ということもありますね。私も手を変え品を変えたいタイプなんですよ。でもレディ・ガガやテイラー・スウィフトやルーファス・ウェインライトも、弾き語りでそんなに大したことをやっているわけじゃないですよね。だから、もしかしたら弾き語りって、ちょっと考え方が違うのかなと思うこともあります。その人がそこでやってりゃいい、みたいところに立ち戻るのもありなのかなって。

スガ なるほどね。存在して、歌を歌ってること自体が弾き語りみたいな。

岸谷 本当はそれで成立するのかなと思ったり。

スガ オレの場合は、マインド的にそこには行けないと思う。そういう人たちはきっと、“お客さんが飽きないかな?”とか、考えないですよね。

岸谷 確かに。私の場合は、自分がつまらなくなるのが大きいと思います。1番と2番でもアレンジを変えたくなりますから。スガさんの曲だと、グルーヴがほしくなるんじゃないですか?

スガ でも、アコギだけだとグルーヴが出ないんですよ。だから諦めて、テンポをゆっくりにしてやったりしています。自分で弾き語り全国ツアーを回る時は、オープニングアクトとして、地元の弾き語りやってるアーティストに2、3曲やってもらっているので、なんだかんだ80組くらい見てきてるんですよ。そうすると、カラオケを出して、ギターを弾きながら歌っている人が多くて。

岸谷 えっ? 弾き語りで?

スガ そう。それって弾き語りじゃないんじゃないかと思うんですが、若いヤツらは、そういう感覚なんですよ。「トラック、出します」みたいな。トラックという時点で、すでに昔とは感覚が違うんだなと感じます。弾き語りの幅がますます広くなっているというか。何でもありの総合格闘技みたいになってきてる感じがします。オーソドックスなギターだけの人もいますが、2曲オーソドックスにやって、「最後に新曲を」と言って、CDかけて、バッキングトラックをフルオケで出して歌ったり。そういうものなんだな、今という感じがするなあって。で、そういうやり方を目の当たりにして、がっつりトラックを出して、歌ったこともあるんですが、そうすると、弾き語り感がまったくなくて。

岸谷 それはないでしょ。

スガ そう、ないんですよ。“オレが演奏してオレが歌う”みたいな感じがないので、最近は自分以外の音はどんどん外していく傾向があって、かなりシンプルに戻しました。

岸谷 私もシンプルになってきましたね。以前は、“ここでコーラスがほしい”と思って、ルーパーでコーラスを重ねたり。

スガ やったやった(笑)。

岸谷 サービス精神があるから、いろいろやってきて、ベースで弾き語りをやったこともありました。ピアノでアルペジオを1個弾いて、ずっと流したこともあります。だけど、ピアノはライン楽器じゃないから、重ねるごとに音質が悪くなっていくので、これはダメだなって。最終的に10本の指でできることだけ、弾けばいいっていう風に、一周回って今戻ってきています。

スガ 僕は結構ルーパーは使ってますけどね。

岸谷 私もルーパーは使いますけどね。友達のミュージシャンを見ていると、ルーパーの使い方もいろいろなんだなって、発見がありますね。私はルーパーでリズムは出さないんですよ。メロディ楽器の助っ人として使って、本来のバッキングは自分でやってます。バッキングをルーパーに入れて、上物を自分でやっている人も多いですよね。

スガ 僕はそのパターンが多いですね。あと、サウンドコラージュみたいなこともやっています。どのコードにも合わないようなフワ~ッとした音をずっと流している上で、弾き語りすると、景色ができるんですよ。

岸谷 ええっ、見たい!

スガ で、一番いいところでバーンと切って、現実に戻すみたいな使い方をしていますね。

――ひとりで観客と向き合っているという、弾き語りのマインド的な部分で、思うことはありますか?

スガ 自分だけの長い長い弾き語りのツアーだと、自分がどこにいるのかわからなくなることはありますね。というのは、ライブハウスの景色って、そんなに変わらないから。演奏する曲もほぼ一緒だし。自分で自分のパフォーマンスに飽きることもあるんですが、今回のツーマンは、1回だけですし、お互いのお客さんが入り乱れているだろうから、“いいところも見せないとマズいな!”という緊張感もあるし、マインド的な懸念はないですね。

岸谷 私は楽器を持って、一緒にステージに立てることがとてもうれしくて。“神様、私に楽器を与えてくれてありがとうございます”って心から思いますね。というのは、楽器をやらない人には、この楽しさがわからないだろうから。かつて、“ギターもピアノもなぜ思うように弾けないんだろう”ってイラっとすることが多かったんですが、最近やっと、“できないことはたくさんあるけれど、人と一緒にやるのは、なんておもしろいんだろう”という域に来たんですよ。

スガ セッションの楽しさですね。

岸谷 そう。スガ シカオワールドがあまりにもすごすぎちゃって、私には絶対に書けない曲を一緒にできるのが、楽しみすぎます。

スガ それはこっちのセリフですよ(笑)。

岸谷 いえいえ。だから今は、もし自分がこの曲を書いていたとしたら、どう演奏するのかなって考えながら、一生懸命コピーして練習してます。私、スガさんの曲でやりたいのが、いくつかあるんですよ。

スガ どの曲ですか?

岸谷 「アシンメトリー」とか。

スガ また、難しい曲にいきますね(笑)。

岸谷 だってあの曲、すっごい好きなんだもん。コード進行もかっこいいし。

スガ そんなこと、ないですよ(笑)。

岸谷 いや、だから一生の記念に一緒にプレイさせていただきたいんです。ひとりでやる予定でした?

スガ 全然OKですよ。いつもやっているので。キーは大丈夫ですか?

岸谷 歌はもちろん、スガさんに歌ってもらうんですよ。ハモったりはするけど。私が今思っているのは、スガさんがひとりで弾き語りしている音源をいただいて、それに私が勝手にアレンジして乗っかるというやり方。「私は横からお邪魔しますね」というやり方を取りたいなって。

スガ なるほどなるほど。いいですね。セッションっぽいですね。楽しみです。

岸谷 でもスガさんがPRINCESS PRINCESSの曲をやるイメージはわかないですね。

スガ 確かに。オレが歌うイメージ、まったく湧かないですね(笑)。どうしたもんか。

岸谷 私はあと、「Progress」もやりたいなと思っていて。あの曲だったら、ピアノもいけるかなと。

スガ 確かにピアノもありですね。

岸谷 今回は生ピアノのある会場を選んでいるので、あとは、アコギとウーリッツァを持っていこうかなと思っています。

――スガさんはツーマンをたくさんやられてきて、ツーマンの心得みたいなものはありますか?

スガ 心得は特にないですけど、セッションがお客さん的にはいちばんの楽しみだと思うので、そこがおもしろくできるといいですよね。僕らはよく、どちらの曲でもないカバーをしています。

岸谷 確かに、カバーもありですよね。一緒にやる理由があるといいかなと思います。同級生ということで、同じ時代に同じような音楽を聴いてきたもの同士という共通点もあるでしょうし。

――観にくる人に向けて、メッセージをいただけますか?

スガ 岸谷さんのように、バンドマンあがりで、シンガーソングライター的な活動もやっている人とのツーマンは、多分やったことがないと思うんですよ。ミュージシャンとしてのキャラクターも音楽性も全然違うから、かなりおもしろいことになると思います。

岸谷 似たタイプの人たちが一緒にやるのも、ひとつのやり方だと思いますけど、今回はまったく違いますね。

スガ ほとんどの場合は、似たような人たちなんですよ。こんなに違うと、とてもおもしろいと思います。自分でも楽しみです。

岸谷 男性と女性というところでも、すでに声のバラエティもあるし、今回は「飽きる飽きない」とか考えずに、お互いの違いを大いに楽しみながら、できるんじゃないかと思います。今回のツーマンのおもしろポイントは、“隣の芝生は青い”ということかもしれませんね。一緒にやらせていただくのが、楽しみです。

Text:長谷川誠 Photo:吉田圭子

<ライブ情報>
岸谷香プレミアム弾き語り2マンライブ ~ふたりぼっちの大パーティー!!~

6月9日(金) 愛知・名古屋ダイアモンドホール
開場18:15 / 開演19:00
ゲスト:スガ シカオ

6月11日(日) 大阪・BIGCAT ※SOLD OUT
開場16:15 / 開演17:00
ゲスト:馬場俊英

6月18日(日) 東京・日本橋三井ホール
開場16:15 / 開演17:00
ゲスト:miwa

チケット料金:全席指定7,000円(税込)
※ドリンク代別途必要

チケット発売中:
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11010384

関連リンク

岸谷香 公式サイト:
http://kaorikishitani.com/

スガ シカオ 公式サイト:
http://www.sugashikao.jp/

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