Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 【インタビュー】村井良大 「とにかく若い人に観てもらいたい」ミュージカル『生きる』はどの時代でも響く作品

【インタビュー】村井良大 「とにかく若い人に観てもらいたい」ミュージカル『生きる』はどの時代でも響く作品

ステージ

インタビュー

ぴあ

村井良大 撮影:藤田亜弓

続きを読む

フォトギャラリー(8件)

すべて見る

黒澤明監督が1952年に発表した映画『生きる』を原作に、日本を代表する演出家の宮本亞門、日本におけるオリジナルミュージカル創作を牽引する高橋知伽江、そして本年度トニー賞で優秀作曲家賞にノミネートされるなど、今もっともブロードウェイが注目する作曲家のジェイソン・ハウランドの3人がタッグを組んで生み出したミュージカル『生きる』。上演の度に大きな感動をもたらす傑作ミュージカルの、3度目の上演が決定した。主人公を渡辺勘治を演じるのは、市村正親と鹿賀丈史。自分が胃癌であり、残りの命が長くないことを知った渡辺勘治が、残された命をかけて生きる姿を描く。その息子、渡辺光男役を演じる、村井良大に話を聞いた。2020年再演から続投となる村井は、作品の魅力、父と息子ならではの関係性、だからこその光男役を演じる面白さなど、熱く語ってくれた。

大好きで大嫌いなキャラクター

――2020年に続いてのご出演になりますが、どんなお気持ちですか?

またやらせていただけることは本当に嬉しいです。光男という役が、僕は大好きで大嫌いなので。

――「大好きで大嫌い」ですか! その心をお聞かせください。

みんな嫌いでしょう、光男は(笑)。それが最高なので。嫌われ役って、やはり役者にとってはすごく嬉しいんですよ。僕はどちらかというと良い人役でオファーが来ることが多いので、逆の役をやらせていただけるのはやり甲斐もあるし、光男という役にすごく愛着が湧いているので嬉しいです。

――演じるにあたって、特に面白いと思う部分はありますか?

日常的なシーンから入っていくのが面白いなと思います。ミュージカルというと、日常の雰囲気とは少し違う、ショーアップというか、音楽ありきで進んでいったりするので朝起きるところから始まるのがすごく普通で良いなぁって。

――お父さんが布団を畳むところからはじまりますね。

「重い話が始まるのかな」と思われる方もいるかもしれませんが、最初から肩の力が抜けるような日常場面から入っていくのがすごく面白いなと思います。そういう作品はあまりないですよね。

――光男・一枝夫婦の日常風景もすごく面白いです。

本当に平凡な人なんだと、最初に知らしめてくれるので。それがやはり、観やすくなる特徴のひとつなんだろうなとは思います。

息子は父親のことなんて大切にしない

――前回は、初演から続投のキャストのなか、おひとりで初めてのご出演でしたがいかがでしたか?

まわりが初演に出演されていた方ばかりだったので、自分がどういう風にやっていくか、そして、前回の段取りをどうこなしていくかが最初の課題ではありました。皆さんの足を引っ張らないようにという感覚でしたが、亞門さんがすごく楽しく演出されていて、さらにご自身が結構、動いてみせてくださったんですよ。

――動きなどを見せてくださるんですか?

「こういう風にやって」とか、「ここであーっ!となって」とか、アグレッシブに作っていかれるので、それを見て自分なりに解釈して、落とし込んでいく作業でした。最初の稽古はセットがない状態でオープニングのシーンを作ったのですが、「このタイミングで入ってきて、ここでこうして、歌を歌って」と。

――稽古用のお家の舞台セットがまだなかったんですね。

本当にビニールテープで場所だけ囲って、こんな感じって。僕自身も、初演の映像を見せていただいて動線や動きなどはわかっていたので、それをなぞりながら稽古していたのですが、亞門さんが、途中で光男という役の演出をがらりと変えたんです。もっと反抗的な息子にしたいと。そこから一気に、その時の『生きる』という作品のなかの光男の比重というか、役の存在理由がわかりやすくなりました。初演の時は、昭和の時代らしい、お父さんを敬って、息子はこうやりなさいみたいな、要は、上下関係があったんです。そのなかで光男が葛藤していく、という構造になっていたのですが、2020年版は、光男が父である勘治のことを思いやらない息子に仕上がって、ますます勘治が可哀想と思えるようになったんです。これは亞門さんが「いや、よくよく考えたら、息子は父親のことなんて別に大切にしないよ」とおっしゃって、確かに、と僕も思いました。

――きっと、自分の未来が優先ですよね。

もちろん自分の未来のほうが大事ですし、それに、男同士ってあまり会話しないんですよね。

――そうなんですか?

「元気か?」「うん元気」、終わり。

――終わり!?

僕はもうちょっと話しますが、男同士って「お前、仕事はうまくやっているのか」「うん、やっている。頑張っているよ」「ああ、そうか。ならいい」みたいな。それが普通です。深く語らず「お前、男だろ、男だったら自分でなんとかしろ」っていうのが、やはり根底にあるんです。

――己でなんとかする。誰かに相談するとか、思っていることを言うとかじゃなくて。

そうですね。だから、男の役者同士で飲みに行っても、なんにも……(苦笑)。芝居の深い話みたいなのは、あんまりしないです。

――芝居論をみんなでしているのかと思いきや、そうでもないんですか。

自分の話はしないです。もちろん、オープンな人は話しますが、男って、自己完結したい部分があると思うんです。それもあって、亞門さんがご自身の体験から、息子が父親を大切にするのは違うと。そして、そのほうがより勘治が立つとお考えになったんでしょうね。

――なるほど。

あとは、もちろん、イメージってあるじゃないですか。例えば、時代劇だとこうとか、昭和だとこうとか。その型を破って、光男が「お父さん…」と心配するのではなく、見ている人が光男に腹が立ち、勘治が可哀想、っていう気持ちになれるというのが、この『生きる』の大事なパートのひとつだなと思います。

市村さんは「逃げる勘治」、鹿賀さんは「呆然と立ち尽くす勘治」

――勘治役の市村さん、鹿賀さん、とご一緒されていかがでしたか?

市村さんには、“市村さんタイム”があって、市村さんの時間軸のなかで動いて、感情の動きがあるように感じるんです。日々違うし、挑戦していらっしゃる。僕のなかでは、市村さんは「逃げる勘治」、鹿賀さんは「呆然と立ち尽くす勘治」です。市村さんは、悲しくて逃げるんです。鹿賀さんは、悲しいのですが、言いたいことも言えず、思考がストップして立ち尽くす感じ。その違いも面白くて、光男としては、いじめがいがあるなと思いながらやっていました(笑)。

――「逃げる勘治」と「呆然と立ち尽くす勘治」に対して、光男の気持ちの動きは変わらないんですか?

あまり変わらないですね。あとは、変わってはいけないというのもちょっとありました。要は、光男が曲がってしまうと、勘治を追い詰める立場ではなくなってしまうので。父と子だからこそ、ズバッと言えるというか、含みをあんまり持たせないほうが良いというか。真っ向から父親を否定する……例えば、コロナ対策で使われていたアクリル版みたいに、ふたりの間に壁がいきなり登場する、という感じで、あまり僕は変わらないようにしていました。ただ、舞台は生ものなので、ちょっとしたニュアンスや、微妙な間の取り方は日々変わりましたが、確実に勘治を否定することだけは心に決めていました。

――否定するというのは、光男の感情として楽なことですか?

すごく楽ですね。理由があるから否定することが楽なんですよ。冒頭にお父さんと息子の、ようやく会話するシーンがありますが、お父さんが部屋を覗いて立ち聞きしていて、「いやいや、プライベートは分けるって話、しましたよね? なんでそんなことするんですか?」っていう、壁がすでにあるんです。そもそも「僕は悪くない、あなたが悪いんですよ」というスタートだから。

――今回もそれを極めていく感じですか?

亞門さんがどうされたいのかもありますが、そのほうが、勘治という役にみんな感情移入できるし、台本としても繋がっているからその方向なのかなとは思います。どちらかというと僕は、奥さんの一枝役(実咲凜音)、(小田切)とよ役(高野菜々)、もちろん小説家(平方元基と上原理生のWキャスト)もですが、そのあたりの方々が変わってどうなるのかなと期待しています。

ミュージカル『生きる』ビジュアル

――周りの人々がダブルキャストや、役者が違うと変わってくると思いますか?

やはり人間が違うので、変わりますね。どの作品を観ても、人が違うだけで空気が違うのは、舞台が生ものだからこその面白さで、どんなに技術を持っている役者でも変化すると思いますよ。芝居や吐息、呼吸感は、どうしたって人によって違いますから。前回の小説家は、新納(慎也)さんと小西(遼生)さんでしたが、例えば、アイコンタクトのタイミングもそれぞれだったので、面白かったですね。

――今回の新キャストで楽しみにしていることはありますか?

お会いしたことがあるのは鶴見(辰吾)さんと、平方君だけなので、皆さんとどういう風になるのか、稽古場が今から楽しみですね。

1幕ラストは圧巻! 日本人の心に響く楽曲群

――音楽の魅力についてはいかがでしょうか。

音楽が素晴らしいんです。ジェイソン(・ハウランド)さんが作っていますが、なぜこんなに日本人に響く旋律がわかるんだと、びっくりしました。天才ですね。すごく簡単に言うと和風ミュージカルですが、この曲の旋律で、日本人の奥深さを表現できるというのは本当にすごい。特に1幕ラストは、そこでスタンディング・オベーションで幕でOK!? というくらい圧巻だと思います。歌う曲がたくさんあるミュージカルではないのですが、1曲1曲の存在感の強さがすさまじいです。

――好きな曲や思い入れのある曲はありますか?

さっき言った、1幕ラストの「二度目の誕生日」は好きですし、他にも思い入れがある曲ばかりで、甲乙つけがたいですが、ラストの「ゴンドラの唄」も良いですよね。一番ラストの全員のハーモニーが、情緒があってすごく良いんです。通常のミュージカルだったら高い音に行きそうなのに、少し低くて、余韻を感じさせるところが泣ける。「美しい物語でしたよ」と強調しないところが、めちゃくちゃ良いです。

――物語を観た後の、余韻がありますね。

余韻がしっかりあって、ぱらぱら散っている雪と同じように、静かに終わっていくのが良いですねぇ……。歌舞伎でも上演してほしいです。イギリスで映画がリメイクされているように(編注:ビル・ナイ主演の映画『生きる-LIVING』が2023年3月日本公開)、世界中どこでも理解できる話だと思いますし、本当にいろいろな国の人たちに響くメッセージが込められている作品です。

――特に初めて観劇される方に、これは伝えておきたいという作品の魅力はありますか?

とにかく若い人に観てもらいたいです。当時の日本の雰囲気や、大切な事ってなんだろうというのを、日本人だからこそ考えさせられ、通じるものがあるというのが、ミュージカル『生きる』なので。そして、日本発ミュージカルで、最高傑作だと思います。期間限定発売ですが、20歳以下のYシートもあるそうです。(Yシートはホリプロチケットのみの扱い)

――学生の鑑賞会などにもいい作品ですね。思春期に避けがちな、親御さんにも向き合えそうな気がします。

本当にそうなんです。親孝行をしたいと思ったらすでに親はいない、みたいな部分もありますから。

表現者として歴史ものをやる事の責任

――『生きる』と、ご出演中(4月取材時)の『きらめく星座』は、戦後と戦前とはいえ、現代から見ると時代的に近しいものがあるかなと思います。ご出演されていて、いかがですか?

『きらめく星座』演出の栗山(民也)さんが仰っていました。演劇というのは、記憶装置だと。歴史上行われてきたことを、新たにお客さんの前で見せて、その時代を忘れないようにする。過去になにが起きていたかを、自分たちでしっかり勉強して、知識を得て、それを体現することによって、その時の記憶や香り、生き方を再現することが大事だと。

このミュージカル『生きる』の時代は、日本が戦争が終わって、平和が訪れて、いろいろな文化が入ってきて、豊かになっていって、簡単に言うと、右肩上がりしかないような成長期だと感じられていて。亞門さんも、その時のバブリー感というか、みんなが欲にしがみついていって幸せだという思いをちゃんともっておいてほしいと。歴史ものをやることの意味、しっかり勉強してその時代を知って演じるという、自分自身のやるべきことを、改めて思い知らされたのは大きいです。戦前戦後、その時の日本はどうだったか、世界はどうだったかを、よく知っておかなければいけない。我々表現者は、舞台の上でその時代を生きる人間を演じているんだということを改めて考えさせられる作品でした。

――記憶という点でいうと、観劇もやはり行動が伴うから、体験として記憶に強く残ります。

そうですね。もちろん、「生きる」の時代を知っている人は、少なくなってきているし、戦前を語れる人はもっと少ない。でも、僕らがしっかりと、当時の日本を知って、表現者として舞台に立つというのは、すごく意義深いことでもあるので、そこを大事にしたいと思います。

――そのなかでも、メッセージの核みたいなものは、今も昔も変わらないですね。

本当に変わらないです。どの時代に観ても通じるものがある作品は、名作と言えるでしょう。このミュージカル『生きる』は、まさにどの時代でも人の心に響くので、これからも残っていくと思います。

取材・文:岩村美佳 撮影:藤田亜弓
スタイリスト:秋山貴紀 ヘアーメイク:天野誠吾

<公演情報>
Daiwa House presentsミュージカル『生きる』

2023年9月7日(木)~9月24日(日)
会場:東京・新国立劇場 中劇場
※大阪公演あり

ぴあアプリ限定!

アプリで応募プレゼント

★村井良大さんのサイン入りポラを2名様にプレゼント!

【応募方法】

1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。

こちらからもダウンロードできます

2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!

ミュージカル『生きる』東京公演のぴあアプリ先行が決定!

受付期間:5月28日(日) 11:00~6月1日(木)23:59
この機会にぜひ、ぴあアプリをDLのうえ、お申込みください!

フォトギャラリー(8件)

すべて見る