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農林水産省はなぜスーパー戦隊の怪人とコラボするのか?

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農林水産省のツイートに登場したギュウニュウワルド。

2023年6月1日、農林水産省のTwitterアカウントが「機界戦隊ゼンカイジャー」に登場するギュウニュウワルドの画像を添付し、「世界牛乳の日」をアピールした。 農水省のTwitterには以前にも、「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」の怪人で、「クリスマスにはチキンではなくシャケを食え」と持論を展開したサモーン・シャケキスタンチンが登場し、国民にシャケの消費を促したことも。

なぜ国の行政機関が、悪の怪人とコラボしているのか? 疑問に思った映画ナタリーは、農林水産省大臣官房広報評価課広報室の白石優生氏に話を聞いた。

取材・文 / 松本真一

Twitterでは、ギュウニュウワルドの登場を期待する声が多かった

──2021年のクリスマスに、農林水産省のTwitterは「クリスマスにはシャケを食え」とツイートをしていました。サモーン・シャケキスタンチンという怪人のセリフで、SNSでも流行したフレーズです。その時点では文言だけだったのでちょっとした悪ノリかなと思ったんですが、今年の3月7日の「魚の日」にはサモーンの画像付きで「シャケを食え!」と言い始めたので、「ついに公式にコラボした!」と気になってました。あれは反響が大きかったのでは。

そうですね。でも我々のツイートはきっかけにすぎず、行動変容につながることが大事だと考えてます。そういう意味では、Twitterに「今日が魚の日だって聞いたからシャケを食べてみた」とか「サモーンが言ってるから食べてやるか」みたいな感じで写真をアップする方もかなりいらっしゃって。作品とそのファンの方に感謝ですね。

──そもそもなぜこういったコラボをするようになったんでしょうか。

近年、農林水産省ではSNSを活用して若い世代の方にもメッセージがしっかり伝わるような工夫をしているところです。「BUZZ MAFF」というプロジェクトを立ち上げてYouTubeチャンネルを作ったりとか、「デリシャスパーティ♡プリキュア」を応援させていただいたりとか。そういった取り組みをして3年ぐらい経ちますね。

──ごはんがテーマの「デパプリ」と積極的にコラボして、いくつか動画を出されていましたよね。

私たち広報の使命として、国産食材の消費拡大のPR、お米、牛乳、野菜、魚、肉などを楽しく食べていただくというのが大きな仕事となってます。それが食料自給率の向上にも繋がり、国内の生産者を応援することにもなると思います。そのためにアニメやマンガ、今回の「ゼンカイジャー」に関してもそうですけど、そういった作品の力を借りながら取り組んでいるところです。ほかにも例えば朝ドラで「おかえりモネ」という作品は農林水産業に関わる内容のドラマで、ドラマを通して特に林業について知っていただく機会になるのではないかと思い、勝手に解説させていただいたこともあります。私達の目的と合致するものに関しては、こちらから積極的にお声を掛けさせていただき、目的に共感していただいて、無償で協力してもらっています。

──農水省が変なことやってるというギャップもあって、自分もついTwitterをフォローしてしまいました。

そういった方が多いとうれしいです。

──サモーンきっかけでシャケについて調べて「フランスだとクリスマスにシャケを食べるんだな」と知りました(笑)。そして今日の、ギュウニュウワルドのツイートについてですが。

6月は日本酪農乳業協会が定める牛乳月間で、牛乳の消費を特に意識していただきたいという方針があるので、PRとしてはギュウニュウワルドにお願いできないかと思いまして、東映さんに相談しました。

──白石さんがプリキュアに詳しいのは知っていたんですが、スーパー戦隊もお好きなんですか?

そこまでは詳しくないんですが、ほかに特撮作品を好きな職員がいます。

──「食品のPRにふさわしいキャラはいないかな」と探したんでしょうか。

ギュウニュウワルドについては、以前から登場を待望している声がTwitterで多かったのが大きいですね。

──確かに少し前からSNSで「牛乳が余っているから飲もう」という声が高まり、消費するためのおやつレシピもよく見かけるようになりました。そんなご時世に「ゼンカイジャー」でギュウニュウワルドが登場したのを見た視聴者が「農林水産省とのコラボにちょうどいい」と思ったのかもしれませんね。

私たちはSNSのウォッチというのも普段の業務としておりますので、リクエストや意見をいただいたら、すごく参考になります。

国民1人が月にコップ1杯の牛乳を飲むだけで酪農家の状況は改善する

──こういったコラボで気を付けていることは?

農水省のPRのために作品とかキャラクターを利用するだけ、いわゆるタダ乗りみたいなのは絶対にやめようというのは方針として持っていますね。せっかくコラボさせていただいているわけですし、作品とそのファンへの敬意は大事にしています。農水省としては食材の消費拡大につながるだけでなく、作品のことも知っていただくきっかけになって、両者がWin-Winで成り立つようにというのを意識しています。そのためには、その作品を好きな職員へのヒアリングも欠かさずするようにしてます。SNSに関わっている職員はたくさんいるんですが、今回のように「ゼンカイジャー」のキャラであれば特撮を本当に愛している職員を担当にして、気を付けてやってます。

──特撮やプリキュアとコラボするにあたり、省の中で「国の行政機関がこんなことするなんて」的な反対などはないんでしょうか。

「BUZZ MAFF」の活動でYouTubeの登録者も17万人いますし、「SNSって思ったより効果があって、予算がない中でもPR効果が得られるんだ」っていうのはここ数年で省の中でもかなり浸透してきています。だから、前よりはこういった企画を通しやすくなってますね。バズマフなどの活動を通して、SNSの機運が省の中で高まってます。反応をくださっている皆さんのおかげですね。テレビCMを打ったり、電車広告をする広告費というのはあるんですけど、実はSNSに対しての予算ってほぼないんですよ。だけど農水省もみんな必死で、予算がなくてもたくさんの人に国産食材を消費していただけるきっかけになるならなんでも取り組んでいこうっていうハングリー精神もみんなにありますし。「行政の広報はこうあるべきだ」というのではなく考えを柔軟にして、時代によって形を変えていくべきだと思いますので、それによって消費が伸びるならどんどんやっていくべきだと思ってますね。

──最後にちょっと真面目な話になるんですが、牛乳月間ということで、酪農家の現状についてもお話を伺ってよろしいでしょうか。

今は酪農経営の状態って非常に厳しい状態なんです。酪農のランニングコストって約半分がエサ代なんですが、円安とかウクライナの情勢もあってエサ代が非常に高騰して、1.5倍から2倍近くになっているんですね。そのために酪農を辞めざるを得ない方もいらっしゃる。酪農家の現状に関する詳細は農林水産省のサイトも見ていただきたいです。

──その中で我々にできることはありますか?

消費の底上げというのがすごく大事で。生産者は牛乳の生産量の調整にも取り組んでいるんですけど、そこに加えて消費の底上げをしていけば、需要と供給がいいところで合致するんですよね。国民1人が月に200ミリリットル、つまりコップ1杯の牛乳を飲むだけで、生乳の需給が大きく回復します。それだけで酪農家の状況は劇的に改善するんです。

──国民1人が月にコップ1杯。そう言ってくれるとわかりやすいですし、自分にもできそうだなと思います。ギュウニュウワルドにもそれを伝えてほしいですが、難しいところですね。

そうですね、世界を真っ白に染めあげるのが彼の本来の目的のようなので(笑)。

──今後もこういった取り組みに期待してます。

国内の生産基盤の維持や消費の拡大が大事じゃなくなることはないですから、PRは続けていきます。でもこういったコラボってタイミングが大事なので、頻発してもしょうがない。例えば1年に1度とかにして、タイミングが合致したときにバズが生まれて行動変容が起きるっていうサイクルがいいと思います。そのために今後もアンテナを高くしながらいろんなことに挑戦していきたいと思っています。

白石優生(シライシユウセイ)

1997年、鹿児島県生まれ。2019年に農林水産省に入省し、現在は大臣官房広報評価課広報室に所属。SNSの管理や運用、メディア対応を担当する。農林水産省公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」で活躍する、日本初の国家公務員YouTuberとしての顔も持つ。著書に「タガヤセ!日本『農水省の白石さん』が農業の魅力教えます」がある。