平野和に注目! 欧州で活躍する期待のバスバリトン
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インタビュー
平野和
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ウィーンを拠点に活動してきたバス・バリトン平野和(やすし)が、欧州デビュー15周年の節目に、ドイツ歌曲によるリサイタルを開く。
日本大学芸術学部を卒業後ウィーンに留学。2007/08年シーズンにグラーツ歌劇場《魔弾の射手》の隠者役でデビューし、翌年からウィーン・フォルクスオーパーと契約。専属歌手として約500公演に出演している。
このようにオペラ歌手としての経歴だけを見ても順調なキャリアと言えるが、本人にとってはオペラと歌曲は両輪。歌曲への思いは人一倍強い。声楽を志す原点となったのがベートーヴェンの歌曲《君を愛す》だった。
「高校の音楽の授業で歌ったのを聴いた先生が『ぜひ音大に行って勉強すべきだ』と、日大の末芳枝先生を紹介してくださったのです。末先生は超一流のリート歌手でしたから、自分も勉強すればするほど歌曲の世界の深みにはまっていきました」
ウィーンでも、世界的なリート歌手として知られるバスのロベルト・ホルに学んだ。
「600曲以上あるシューベルトの歌曲の半分ぐらいは常に頭に入っていて、いつどこでも歌えるという超人です。彼は40歳ぐらいまではほとんどオペラを歌わず、リートを大切に育ててきて、90年代からはワーグナーを中心にオペラでも活躍している。自分はすごく憧れていて、彼を目指してやってきました」
そのホルの師は大歌手ハンス・ホッター。
「自分がそういうドイツ歌曲の正統的な系譜にいることも幸せです」
今回はシューベルトとレーヴェの2つの《魔王》など、物語詩による「バラード」を多く取り上げる。
「バラードの魅力は、一曲の中でさまざまな役を演じること。たとえば《魔王》なら、子供がいて、父親がいて、そこに魔王が歩み寄ってくる。この3役に加えて、情景を描写する語り部という4役を演じきらなければなりません。自分はそういう歌曲の世界で良いものを提供できると思っていますし、次の自分の15年を考えた時、この世界で先頭に立ってやっていきたいという気持ちがあります」
日本人では特に貴重な、低く深い声を持つバス・バリトン。
「自分の場合はバス・バリトンの中でも、低いバス寄り。ヨーロッパでも少ないです。声種は望んで得られるものではない贈り物。ラッキーだと思います。バスは40〜50歳以降がベストの時期になると思うので、これからが勝負。周囲の期待も感じています。
リサイタルではブラームスの《バスのための4つの厳粛な歌》を歌いますが、バスのためと言いながら、どう考えてもバリトン用なんです。命はどこにいくのかという深いテーマの作品ですし、調を下げて、より深みのあるバスの音色で歌います」
《4つの厳粛な歌》には、共演する小百合夫人との思い出も詰まっている。ウィーン国立音大で教え、アン・デア・ウィーン劇場などでコレペティトアを務めるピアニスト。
「15年間を振り返った時、彼女は絶対的に大事な存在です。留学してすぐ、ウィーン国立歌劇場の立ち見席で知り合いました。この歌曲集は彼女のリート伴奏科の卒業試験の演目で、自分がそれを歌ったんですね。それもあり、私たちの結婚式では、4曲めの歌詞に使われているコリント人への手紙の箇所を聖書朗読してもらいました。出会った頃には、自分たちが音楽の都の第一線で仕事を得るようになるとは、お互い想像もしていなかったはずです。それが二人で切磋琢磨して、今こうして共演できる。素晴らしいことだなと思っています」
今年初めには1stアルバム《冬の旅》もリリースしたところ。期待のバス・バリトンが、日本でもいよいよ本格的に動き出した。
平野和 バス・バリトン・リサイタル
8月3日(木) 19時開演
渋谷区文化総合センター大和田さくらホール
ベートーヴェン:「6つの歌」 Op. 75より 蚤の歌
レーヴェ:「3つのバラード」 Op. 1より 魔王
詩人トム Op. 135a
海を渡るオーディン Op. 118
シューベルト:「冬の旅」D. 911より 菩提樹
魔王 D. 328
野ばら D. 257
トゥーレの王様 D. 367
シューマン:リーダークライス Op. 39より 森の対話
ロマンスとバラード集 Op. 49より 2人の擲弾兵
ブラームス:バスのための4つの厳粛な歌 Op. 121 ほか
※曲目・曲順は変更の可能性がございます。予めご了承ください。
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2342281
取材・文:宮本明
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