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乃木坂46 若月佑美は“思い”の人だったーーグループ在籍7年の軌跡と感謝を伝えた卒業セレモニー

音楽

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リアルサウンド

 若月佑美は“思い”の人だ。それはこの7年間、彼女自身の夢との向き合い方、そして周りにいる人たちとの向き合い方を通して強く感じてきたことであり、12月4日に日本武道館で行われた彼女の卒業セレモニーを観てより強く実感したことである。

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 2017年が初の東京ドーム公演実施や日本レコード大賞受賞など、頂点へと上りつめる“飛躍”の1年だとしたら、2018年は生駒里奈や西野七瀬を含む1期生7名と2期生の相楽伊織の計8名がグループから卒業し、それと替わるように4期生11名が加入した“変化”の1年だったと言える。この卒業生8名の中に、グループ初期からの立役者のひとりである若月も含まれる。ファンにとっては「(卒業は)早すぎる」かもしれないが、すでに女優という夢が明確に見えている現状、視点を変えれば遅すぎるくらいとも言える。もしかしたら、2016年夏に加入した3期生が一人前になるまでを見届ける……そんな彼女なりの“思い”もあったのかもしれない。

 「卒業コンサート」ではなく「卒業セレモニー」という表現を選んだのも、実に彼女らしくはないだろうか。祝い事などの催し・式典などに使われる「セレモニー」を選択したことで、12月4日は悲しい日ではない、前向きな未来に光あふれる1日にしたい。そんな“思い”も込められていたのかもしれない。

 実際、この日はオープニングからして乃木坂46の通常のコンサートとは一線を画するものだった。開演前の“影アナ”で若様軍団所属の3期生(梅澤美波、阪口珠美、山下美月)が諸注意をアナウンスする際、山下が号泣して言葉にならないというハプニングこそあったものの、オープニングSE「Overture」以降に繰り広げられたエンタメ精神の強い演目は、まさにメンバーとファンに対する感謝の気持ちと、来た人たちをこれ以上ないほどにおもてなししようとする“思い”がギュッと凝縮されたものだった。

 レギュラー番組『乃木坂工事中』(テレビ東京系)ではさまざまなキャラ設定が与えられるも、軸にある真面目さが良くも悪くも邪魔をし、結果“キャラ渋滞”を起こし続けた若月。この日はそういった“キャラ渋滞”を逆手に取って、曲ごとに彼女の数あるキャラを昇華させ、(ある意味では)成仏させていくという、彼女の乃木坂46での最後にふさわしい演出が用意された。

 いきなりプロのダンサーたちとロボットダンスを披露して観客を喜ばせると、そこから「狼に口笛を」でライブを本格的にスタートさせる。アンダーメンバーとして彼女が初めてフロントに立った記念すべき1曲だ。同じくフロントに立つ伊藤万理華も深川麻衣もすでに卒業していないものの、この日はセンターに若月が立ち、その両サイドを井上小百合、川後陽菜という1期生が固める。この絵を目にした時点で、古くからのファンは涙腺崩壊モノだったのではないだろうか。しかも、この曲を現メンバー全員でパフォーマンスするというところにも、グッとくるものがあった。続く2曲目は「音が出ないギター」。近年ではバースデーライブ以外で披露される機会の少ない1曲だが、この選曲にも若月の強いこだわりが感じられる。

 2曲終えると若月は「年末なので、ワイワイガヤガヤするのもいいのでは」と、ステージ後方に用意されたソファーに移動して、ちょっとしたバラエティ番組を観ているかのような演出でイベントが進行していく。また、主役の若月がほとんどの曲に出演するため、彼女に代わって高山一実がMCを担当し、「若月が卒業前にやっておきたい曲ベスト5」を順々に紹介していった。

 この5曲も「乃木坂46の若月佑美」を象徴するようなものばかりで、「まあいいか?」では“相方”こと桜井玲香とのイチャイチャぶり(という名の振り回し)を見せつけ、「低体温のキス」では男前キャラを前面に打ち出す。女子校カルテット(若月、桜井、秋元真夏、中田花奈)による「告白の順番」はこの日が最初で最後の4人でのライブパフォーマンスを披露。若様軍団による「失恋お掃除人」では改めて若月の3期生に対する強い思いを見せたり、お約束の“箸くん”ネタで締めくくったり(しかもラストは山口百恵ばりに、箸をステージに置いて去っていくという徹底ぶり)と、笑いの絶えない演出が続く。

 さらにその合間には“箸休め”として若月が聴きたい1曲「ボーダー」も用意。2期生の伊藤純奈、佐々木琴子、鈴木絢音、寺田蘭世、山崎怜奈、渡辺みり愛がまだ研究生だった頃に与えられたこの曲を、自身最後のステージで選出するところにもまた、彼女の2期生に対する強い“思い”がにじみ出ていたように感じる。

 そして、「若月が卒業前にやっておきたい曲ベスト5」映えある1位は、若月、桜井、西野七瀬による「Rewindあの日」。同い年の3人で歌うこの曲に対し、若月は「いつかこの3人で(選抜の)フロントに……と言っていた頃もあったけど、この3人でこの曲をいただけただけでも幸せ」と強い思いを示し、気持ちのこもった歌とパフォーマンスを披露した。

 前半こそバラエティ色の強い内容でドタバタが繰り広げられたが、イベント後半は若月らしい選曲による乃木坂46のパフォーマンスが続いていく。長らく披露されていなかった「会いたかったかもしれない」から幕を開けた後半戦は、最初こそ残り少ない1期生のみでパフォーマンスされたが、続く「ガールズルール」では再び全メンバーが勢揃い。「ロマンティックいか焼き」で場の空気が和んだかと思うと、「制服のマネキン」では会場の熱が急激にヒートアップし、クライマックスを迎える。そして、本編ラストナンバーに選ばれたのは最新シングルにして若月にとっても最後のシングル曲となる「帰り道は遠回りしたくなる」。同じく年内でグループを卒業する西野とともに、笑顔と多幸感に満ちたパフォーマンスでイベント本編を締めくくった。

 アンコールを待つ間、スクリーンには若月が乃木坂46に在籍した2658日を振り返るスペシャル映像が上映される。続いて、黒いドレスを着た若月がひとりステージに登場し、ファンやこれまで彼女に関わったすべての人に向けた感謝の手紙が読み上げられた。「これまで夢を聞かれたとき、『誰かの人生に良い影響を与えられる人になること』と言ってきたけど、少しでもその夢が叶っていたら、私の7年間のすべてが報われます」と、会場はひときわ温かい空気に包まれる。

 何よりもメンバーやファン、スタッフに対して「ありがとう」という言葉を伝えたいと述べた彼女は、どこまでも真っ直ぐな人なんだなと改めて実感させられる。そんな彼女を囲むように、メンバー全員で「失いたくないから」を歌唱すると、ラストではメンバーへのサプライズとして若月から1輪の花が送られていく。彼女は1人ひとりにピンクのガーベラを手渡していく。色によって花言葉が異なるガーベラだが、若月が贈ったピンクのガーベラには「感謝」の花言葉が用意されていた。この事実をあとで知ったとき、本当にどこまでも“思い”の人なのだと納得させられた。

 多くのメンバーが若月との別れを惜しむ中、最後の最後は彼女らしい1曲で幕を降ろす。ドイツ語で“ありがとう”を意味するタイトルの「ダンケシェーン」だ。〈出逢えたこと それが運命 別れること それも運命〉……今の若月を言い表したかのような歌詞に改めてハッとさせられる。曲のエンディングはもはや定番となった、若月よる「やっぱ乃木坂だな!」とこれにレスポンスするメンバーとファンの「だな!」。本当に、この一言がぴったりな一夜になったのではないだろうか。

 笑顔でここまでやり通したものの、最後の最後で涙を堪えるようすを見せる若月は「もう思い残すことはありません。本当に幸せなアイドル人生でした!」と宣言し、ステージをあとにしようとする。すると、メンバーから「やっぱ若月だな!」の声が上がり、会場からは「だな!」と大きな声が鳴り響く。こうして2時間にわたる卒業セレモニーは大成功のうちに幕を下ろした。

 これまでにない形で提供された若月の卒業セレモニーだったが、これも非常に乃木坂46らしいものではなかっただろうか。しかも、キャラはブレようとも彼女の“思い”は最初から最後までブレずにいたことが、今回の成功につながったことは間違いない。そして、この多様性こそが乃木坂46そのものであるのも、また事実だ。来年2月には西野の卒業コンサートも控えているが、そこではまた違った形で、彼女らしい形の卒業コンサートを見せてくれるはず。卒業は寂しい限りだが、乃木坂46を去っていくメンバーがさまざまな形で自身の個性をアピールする卒業コンサートは今後多様化していくのではないか。そう思わずにはいられない一夜となった。

 最後に。個人的な話になるが、若月とは約7年にわたり取材を通じて接してきた。時には彼女の半生をインタビューを通じて知り、時には演技に賭ける情熱を舞台を通じて目の当たりにしてきた。そのたびに、彼女の“思い”の強さに感心させられ続けた。早くから乃木坂46の外の世界で、舞台女優として活躍してきた彼女のこと、きっとこの先さらに広い海原で大活躍を見せてくれるはずだ。そして、今よりひとまわりもふたまわりも成長したときに、再び若月に話を聞いてみたい。その日を楽しみに待ちながら、彼女の活動を見守りたいと思う。(西廣智一)