神木隆之介&杉咲花インタビュー “全幅の信頼を寄せている”からこそできたこと
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インタビュー
左から)神木隆之介、杉咲花 撮影:YOSHIHITO KOBA(Sketch)
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6月23日(金) 公開の映画『大名倒産』。
ある日突然、徳川家康の血を引く大名の跡取りだと言われた鮭売りの小四郎。庶民から大名へのミラクルストーリーかと思いきや、実のところは100億円にも上る借金を抱える藩の責任を負わされようとしていたのだ。
今回は小四郎を演じる神木隆之介、そんな小四郎の幼馴染・さよを演じる杉咲花にインタビュー。
お互いに「花さま」「神さま」と呼び合うふたりが語る、互いの役者としての姿とは。
杉咲花は「僕が目指していた芝居をする人」
――これまでにも共演機会が多いおふたりですが、改めてお互いに対してどう感じられましたか。
神木隆之介(以下、神木) ドラマ『学校のカイダン』(2015年)から始まり、CMでもご一緒していますけど、花さまと、ちゃんとお芝居をしたのは初めてのことだと思うんですよ。『メアリと魔女の花』での声の収録は別々でしたし。
でも、僕は『学校のカイダン』のときに、プロデューサーにずっと「杉咲花ちゃんは怪物だよね」って言い続けてきたんですよ。「あの人、やばくないですか。恐ろしい芝居をしますよね」っていうことをずっと言っていて。
杉咲花(以下、杉咲) 畏れ多いです。
――「怪物」にはどういった意味が込められているんでしょう?
神木 僕にとっては最上級の敬意を込めた言葉ですね。僕が目指していた芝居をされるんですよ。
今回、目の前で花さまのお芝居を見られたことがすごく嬉しかったですし、本当に恐ろしい方だというのは百も承知で倒れないようにがんばって、お芝居させていただきました。
さよにすごく合ってるな、と思いましたし。
杉咲 それはとても嬉しいです!
神木 ご本人もすごく優しい方なんです。癒し系の雰囲気を醸し出してる方なんですけど、芯の部分がブレないというか。自分の「これだけは守りたい」という強さはさよと共通する部分なのかな、と思って見ていました。
――『学校のカイダン』から時を経て共演して、変化は感じられましたか。
神木 もっと怪物になっていました。とんでもないですよ、恐ろしいです。
杉咲 そんなそんな……。
――さよさんをさらに魅力的にしていらっしゃる?
神木 さらに魅力的になっていると思います。間違いないです。これは杉咲花の映画です。
杉咲 違いますよ!? 違います、違います(笑)神木隆之介さん演じる小四郎ちゃんの物語です!
――杉咲さんから見て、神木さんはいかがですか。
杉咲 これだけ長い期間ご一緒させていただけるのは初めてだったので、すごく楽しみでした。神さまは本当に現場のみなさんのことをよく見ていらっしゃって、気遣いの方なんだな、ということを改めて感じました。私自身もそうなのですが、神さまの存在に、周りにいる方々も奮い立たされながら、日々を乗り越えることができたんだと思います。
最初、すごくアドリブが多い現場だということを前田(哲)監督からお聞きしていたんですけど……。
神木 すごいプレッシャーのかけられ方をしていますね(笑)。
杉咲 だからドキドキしていたんですよ。実際に現場へ行ってみると、確かにアドリブの生まれる瞬間を捉えるぞという気迫に満ちていて、最初は緊張したのですが、その中で神さまが果敢に挑み続ける姿はさすがだな、と思いました。
ライブ感を大切にされながらも、シーンの内容によっては緻密に作り上げていく時間を大切に共有してくださるので嬉しかったです。シーンが深まっていく瞬間に何度も立ち会わせていただくことができて勉強になりましたし、神さまのおかげで楽しい日々を過ごすことができました。
――神木さんが演じる小四郎はいかがでしたか。
杉咲 本当に大変なピンチが降りかかっているのに、くすっと笑えてしまうような、ユーモラスな愛らしさがあるのは、神さまが演じてらっしゃるからこそなんだなということをすごく感じました。
信頼関係があるからこそ成立した数多のアドリブシーン
――杉咲さんもおっしゃられていたように、一緒に作り上げていかれるシーンも多かったと思うんですが、今回、ご一緒されて心強かった点はどういったところになりますか。
神木 全幅の信頼を寄せているので、僕がどういう暴れ方をしても必ず受け止めてくれるんだろうな、と思っていました。それこそ花さまがさっきお話されていたみたいに、カットがなかなかかからないことが多々あったんです。でも、僕がどんな芝居をしたとしても、必ずツッコんでくれたり、絶対に何か触れてくれるんだろうな、と思っていました。逆にあえて触れないで欲しいなとか、冷めた目で見ていてほしいときはちゃんと冷めた目で見てくれますし、僕が芝居でやりたいことをすぐ汲んでくださって、すごくありがたかったです。
――ちなみに、ネタバレにならない範囲で……。
神木 あっ、全然ネタバレはOKです!
杉咲 そうなんですか!?
神木 この映画のポスターを見て、僕が切腹して死ぬ未来が見えますか? って話なんですよ。こんな楽しそうなポスターで死ぬのはあり得ないでしょ。これ、絶対に借金を返せる映画でしょ!
杉咲 そうですね、確かに(笑)。
神木 「大逆転なるか!?」って「おかしいだろう、ならなきゃ!」っていう映画なので、ネタバレなんて何もないです。
――(笑)。では、神木さんが「これは暴れたなあ!」というシーンはどこになりますか?
神木 花さまと2人で、街中を悪者たちに追いかけられるシーンがあるんですけど、橋の上で囲まれるんですよ。そのときに前田監督が悪者の役者たちに「ナイフを出して舐めてください」という指示をしたんですよね。
「めちゃくちゃベタじゃん!舐める人いないでしょ!」みたいな。こっちのリアクションをどうすればいいんだろう、と思ったんです。これをこの世界の中では良しとするのか。でも、僕は本能でツッコミたくて仕方がなくて。それで、リハから「うわ!舐めてる人、初めて見た!」って言ったら、花さまがノってくださって。
そこは花さまとの信頼関係があった上のことだと思うんですよね。
――長いキャリアの中でも初めて見られました?
神木 初めてでした。『マジックアワー』が大好きなんですけど、そこで佐藤浩市さんが役者を演じた上でナイフを舐めるという表現はあったんですけど、それは演じている中で、ということ。
過去にはあったかもしれないですけど、現代ではない表現ですよね。
杉咲 確かに(笑)。
神木 それを見て見ぬふりはできませんでした。
杉咲 その姿を見て、「こんなに自由でいいんだ」って思ったんです。フラットにカメラの前に立って、起きた出来事を素直に受け止めていく姿がすごいな、って。自分もこんなふうになりたいと思いました。
――そこでは橋の上から飛び降りるアクションシーンがありましたが、実際に飛ばれたんですか?
神木 飛びました、飛びました。
もう花さまは決死のダイブでしたよ。めちゃくちゃ真剣な顔していました。
杉咲 だって怖かったんですもん(笑)。
神木 メイキング見たけど、めちゃくちゃおもしろかった。
一世一代の、清水の舞台から飛び降りるような顔してましたからね。
杉咲 確かに険しかったですよね(笑)。でも神さまはもう眠いのかな?っていうぐらいにラフに力が抜けていて(笑)。
神木 何にも思わなかったもん、あれ。
杉咲 すごく高かったんですよ。
神木 いや、飛ぶの慣れてるから。
杉咲 緊張しますねって言ったら、「全然」って。信じられない!と思いました。
――練習はされたんですか?
杉咲 事前に何度か練習しました。
神木 僕はしてないですね。
杉咲 普通しないとできないと思うんですよ。
――そのシーンでは、覚悟を決めたとか、何か頭をよぎった、というところはありましたか。
神木 よぎってる顔でしたけどね。
杉咲 いろいろよぎった末に、「もうどうにでもなれ!」と思って飛びました。
私は船の上に着地するんですけど、神さまはそのまま川に落ちるんですよね。
神木 入水を。
杉咲 凄まじい撮影でした(笑)。
――神木さんはリラックスして臨まれたとのことですが……。
神木 水に濡れると着物がめちゃくちゃ重いんですよね。それだけが大変でした。
杉咲 それだけ……(笑)。
神木 船の上に上がるときが重いんですよ。しかもあんまり動きが遅かったらもう1回になるのかな、それは嫌だなと思って。どうにかして花さまに上げてもらいたいな、と思いました。大変だったのはそこでしたね。
おふたりがお気に入りのキャラクターは?
――拝見してると、個性が強すぎるキャラクターばかりだと思ったんですけど、お2人がお気に入りのキャラクター……。
神木 (食い気味に)桜田通です。彼は役者人生をかけて和歌を詠み上げているので。彼の渾身の役だなと思っています。まあこんなふざけた関係ですけど、多分、ちゃんと一緒に芝居をするのは初めてなので。
杉咲 そうだったんですか?
神木 うん。通だったから、僕はすぐに兄弟になれましたし、松ケン(松山ケンイチ)さんもそうですね。映画『ノイズ』でお世話になったので。もともと信頼関係があったから、すぐに兄弟ぐらい近い存在になれたと思います。
特に桜田通と僕は、ふざけた関係しかみなさん見たことないと思うので。この2人を知っている人たちからすると、真面目に芝居をやっているのは面白くもあり、2人だとこういう関係性でこんな芝居の雰囲気が出るんだ、ということを初めて見てもらえるんじゃないかと。そこはすごく素敵なシーンだったなと思います。
――普段とは違って、新鮮な気持ちにもなられましたか。
神木 最初は恥ずかしかったんですけど、支えようとしてくれている気持ちがすごく伝わってきましたね。ありがとう、頑張るねって思いながら芝居しました。
杉咲 私は天野大膳、中膳、小膳さんです。まさか梶原善さんがおひとりで演じられるとは思わなかったので(笑)。
神木 途中で面倒くさいって言ってたもんね。「なんで3人も撮らなきゃいけないんだよ!」って。
杉咲 役名と本人の名前が書いてあるスケジュール表があるのですが、梶原善さんだけ名前が3つ書いてあって(笑)。あんなスケジュール見たことありませんでした。
神木 本当だよね。
杉咲 ツボでした。
「楽しめないものはできるだけやらない」
――今回の作品はポップなんですけど、「生きることの大切さ」や「生きよう」ということが伝わってくる作品かと思います。おふたりが人生において大切にされてるのはどういったことでしょうか。
神木 楽しむことができないものは、なるべくやめた方がいいかと思われます。仕事もそうですけど、僕はこの仕事に楽しいところがなくなったと思ったら辞めます。そのぐらい、僕の中で「楽しい」という感情を大事にしていますね。
遊ぶにせよ、嫌なこともやるにせよ、できるだけ楽しいって思えることを発見して、なるべくその感情を味わった人生がいいな、と思っているので。やっぱり、興味がないことは辛いんですよね。ストレスもかかりますし。
別に無理やり楽しいことを探せというわけじゃないんですけど、もっと徹底的に探してみてほしいですね。ゲームっぽく考えるっていうやり方もありますし。例えば、1日のタスクをゲームっぽくして、余裕があるならば、出社したらログインボーナスで何かを買うとか。そういうゲーム性を含めたやり方もできますし、また違った生活の見方ができると思うので、やってみる。で、全てやった上で楽しくなかったらやめた方がいいです、絶対。
――お仕事をされている中で「これはあまり楽しくないかもしれない」と思った瞬間はどう切り替えていらっしゃるんですか。
神木 水に落ちるシーンとか楽しくないですよね。
あと、冬に真夏のシーンを撮るのも楽しくないです。めちゃくちゃつらい。
杉咲 (笑)。
神木 だけど、僕はやらなきゃ終わらないと思っているので。自分が動かないと明日が来ない。だったらやるしかない。だったら、1回で決めてやるって思いますね。1回で決められるかゲームです。どうやったらいいんだろうと考えて、カメラ位置を確認して、どういう動きをすればいいか確認をした上で、カメラや画とか全員の理想通りに動けるかどうか、というゲームを心の中でしています。
杉咲 私は、いいところや好きなところを探すこと、ですかね。どうしても苦手なこととか、億劫になってしまうことってあると思うのですが、嫌なところって探し始めるときりがないな、と思うんです。でも、もしいいところをひとつでも知ることができたら、ポジティブな気持ちに切り替えられることもある気がしていて。
――杉咲さんなりのいいところを探すコツはありますか。
杉咲 なんでしょう……。例えばそれが対人関係だったとしたら、その人にとって得意なこと、不得意なこと、自分と違うところをそのまま肯定できたらいいなと思っています。何かがうまくできなくても、それは駄目なことではないから。自分のことも、そう思ってもらえたら嬉しいですし……。興味と愛情を抱くことを忘れたくないなって。
――楽しいことやいいところを見つけることにも通じるかもしれないんですけど、やっぱり今の時代、つい下を向いてしまう人はすごい多いかと思うんですけど。
神木 僕もそのうちの1人です。よく10円とか拾います。物理的にも下向いてるんで。お気持ちはわかります。
――そういうときに前を向く、上を向くために心がけていらっしゃることはありますか。
杉咲 私はそういう時、無理して考えないかもしれません。一旦、考えることをやめてみます。
それに、辛いときは逃げちゃえばいいと思っていて。私は、逃げていいし、やめてもいいんだという選択肢が自分のなかにあると、あともう少しだけ頑張ってみようと思えるタイプなんです。
神木 難しいですよね。なかなか落ちた気持ちは、大きなきっかけやしっくりくるものがないとなかなか上げられないのは承知、なんですけど。
僕はあんまり自分のことも好きじゃないので、自分にご褒美をあげるという行動もあんまりしないですよ。
杉咲 そうなんですか。
神木 そうなんですよ。なので、音楽に頼っています。音楽を聴かないという方は別の方法を探してみてもいいかもしれないですけど、僕は音楽にすごく助けられてます。楽しい歌詞やメロディを聴いたりしながら、ちょっと散歩をするんです。そうすると少なからず、その曲に影響されるところがあるので、少しは気分的には楽になるのかなって。一時的なものではあるかもしれないですけど、それでも軽減できるのでやっています。
――それがきっかけで少し上を向いて、また違う方法を探す。
神木 そうですね。またちょっと気分が上がってノっているときに別の方法が見つかるかもしれないですし、意識が変わるかもしれないですけど、ずっとその曲を聴いてずっと上を向けるということは絶対にないとは思うので、落ちそうだな、と思ったときに聞くとか。
「とりあえずやってみる」という部類ですけど、上を向こうとしたっていう意識がすごく大事だと思いますし、一歩、何か成長できている証なのかなと思います。
取材・文:ふくだりょうこ、撮影:YOSHIHITO KOBA(Sketch)
ヘアメイク:(神木さん)MIZUHO(VITAMINS)、(杉咲さん)Mai Ozawa(mod’s hair)
スタイリング:(神木さん)TAKAFUMI KAWASAKI(杉咲さん)Tatsuya Yoshida
<作品情報>
『大名倒産』
6月23日(金) より全国公開
フォトギャラリー(14件)
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