伊藤沙莉&竹野内豊に聞く“歳の差カップルの良さ”「竹野内さんの愛おしさにやられました」
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左から)伊藤沙莉、竹野内豊 撮影:友野雄
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すべて見る1994年生まれの伊藤沙莉さんと、1971年生まれの竹野内豊さん。23歳の年齢差がありながら互いが醸し出す空気はカメラの前で見事に調和し、穏やかさを湛えている。実はこのふたり、6月30日(金) に公開される映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』で共演し、恋人同士に扮したのだ。
内田英治監督と片山慎三監督がタッグを組んだ本作は、単純なラブロマンスではない。伊藤さんに振られた役は、新宿ゴールデン街のバーで働くバーテンダーと探偵を兼業する「マリコ」。竹野内さんはマリコの彼で、自称“伊賀麻績新陰服部流を継承した忍者”の「MASAYA」。ある日、マリコがFBIから「行方不明になった地球外生命体を捜索してほしい」という依頼を受け、MASAYAの協力のもとで宇宙人に迫ってゆく――。
劇中、誰にも言えない秘密を抱えたマリコを大きな愛で包み込むMASAYAの包容力が印象的に描かれているが、演じたご本人たちから話を聞くと、撮影現場においては立場の逆転があったらしい。実際のトークをお届けしよう。
伊藤さんの懐の深さに助けられました。

――おふたりは初共演。まずはお互いの第一印象から聞かせてください。伊藤さんからお願いします。
伊藤 お話をいただいたときはすごく興奮しました。視聴者や観客のひとりとしてずっと拝見してきた俳優さんですし、好きな作品もたくさんあるのでとにかくうれしくて! でも、撮影の日程が迫ると、ワクワクはドキドキに変わりました。変なひとに思われたらどうしようって(苦笑)。
竹野内 そうだったんですね(笑)。
――竹野内さんはいかがでしたか?
竹野内 僕で大丈夫かな、と思いました。ジェネレーションギャップがあるのではないかと心配になってしまって、実を言うと、こっそりウィキペディアで伊藤さんの年齢を調べたんですよ(笑)。
伊藤 (笑)。
竹野内 でも、脚本を読んでマリコが複雑な過去を持っている女性だということがわかると、歳の差が離れた恋人という設定もあり得るんだろうなと納得しました。
伊藤 (ニコニコしながら何度も深くうなずく)
竹野内 伊藤さんはまだ若いのに女優さんとしての経験が豊富だからか、現場にいるときはいつも屈託なく笑っている。その場にいるみんなを明るく包み込んでくれるんですよね。
伊藤 (照れたように笑いながら)いやいやいやいや。
竹野内 でも、実際ずっと笑ってた。僕はクランクインからしばらく経ったタイミングで撮影に臨んだので、すでにできあがった撮影現場の空気に馴染めるかどうか心配していたんですけど、伊藤さんが醸し出す雰囲気にすごく助けられました。
伊藤 母親に「とにかく笑っていなさい」「笑っていれば強くいられるから」と言われて育ったんです。そしたら、いつの間にか楽しいことや面白いことに敏感になって。笑いの要素が日常に溢れていることも知りました。
竹野内 たしかに。そういう伊藤さんの懐の深さが、映画の中のマリコとMASAYAの関係性にもしっかり表れているような気がします。

竹野内さんの愛おしさにやられました!

――では、特に印象に残っている共演シーンを教えてください。
伊藤 すごく大好きなシーンがあるんです。あのシーンを撮っているときに一番笑いました。
竹野内 (不安そうな表情で)えっ、なんだろう……。
伊藤 忍者の格好をした竹野内さんが煙玉を床に投げつけるところ。
竹野内 ああ、煙遁の術に励む場面だ(笑)。
伊藤 ハイ。アレ、完成した本編では煙玉が爆発しているように見えていますが、撮影現場には煙も何もなかったじゃないですか。すごくシュールでしたよね(笑)。
竹野内 自分が忍者であると信じて疑わないMASAYAの真剣さも、そのシュールな感じに拍車をかけていたような(笑)。
伊藤 見ていたら笑いが止まらなくなりました。俳優としての先輩にこんなこと言ったら失礼かもしれないですけど、竹野内さんのお芝居がぴたっとハマっていて、すごく愛おしかったです。ああ、思い出したら、またお腹がよじれそう!
――そのシーン、要注目ですね。ところで、MASAYAは心に傷を負ったマリコを支える包容力も持っています。伊藤さんの目から見て魅力的な男性ですか?
伊藤 MASAYAはマリコを本来の自分で居させてくれるという点において理想の恋人だと思います。マリコがバーテンダーをやったり、歌舞伎町の街で探偵をやったりしていられるのは、MASAYAとの深い絆があるからこそだと思いますし、マリコにとってのMASAYAは命綱みたいな存在なんじゃないかな。
竹野内 命綱か……。ふたりの関係を的確に言い表していて、刺さりますね。きっとMASAYAにとってのマリコもそうだと思いますし、彼女が側にいてくれるおかげで、心置きなく忍者として活動できているのだと思いますね。
伊藤 そうかもしれません。冷静に見たら、心配せずにはいられない生活ぶりですしね(笑)。
竹野内 年金を滞納してマリコに何度も「払った?」と確認されて、払ってないのに「払った」と嘘をついたり(笑)。
伊藤 でも、真っ直ぐな気持ちで生きている。マリコとMASAYA以外にも、落ちぶれたヤクザとか、宇宙人をかくまう科学者とか、殺し屋の姉妹とか、濃ゆ〜いキャラクターがたくさん登場しますが、結果的にストーリーが胸にストンと落ちるのはそれぞれがひたむきに生きているからなんでしょうね。

「大丈夫」は人を前向きにする“魔法の言葉”。

――この作品を通して、どんなことが伝わるといいなと思いますか?
伊藤 感じ方は人それぞれなのであまり無責任なことは言えませんが、個人的にはMASAYAがマリコにかける“魔法の言葉”がすごく好きなので、それから何か感じ取っていただけたら……。
竹野内 「大丈夫」って言葉ですよね?
伊藤 そうです。生きていくと予想外のことがいろいろと起こりますが、「大丈夫」って相手に伝えたり、「大丈夫」って自分に言い聞かせたりすると、ひとは一歩踏み出すきっかけを与えられるような気がします。その言葉を竹野内さんが飄々とした感じで言うと、わたしも一人の観客として救われた気がしました。
竹野内 情報が錯綜する今、何を信じたらいいのかわからなくなりがちだからこそ、信頼できる人からの励ましが心の支えになるのかもしれませんね。若いひとたちに希望を持ってもらえるように大人たちがしっかりしなきゃいけないと、この作品を通して強く思いましたね。
伊藤 そういうメッセージ性がありながら、舞台は歌舞伎町で、物語の軸になっているのは宇宙人の捜索(笑)。まずは楽しんでいただいて、見終わった後にじっくり余韻に浸っていただけたらうれしいです!





取材・文:甘利美緒 撮影:友野雄
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