「不思議で不条理な国」を彷徨うアリスの進む先は NODA・MAP『兎、波を走る』公演レポート
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NODA・MAP 第26回公演『兎、波を走る』より 撮影:篠山紀信
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すべて見る野田秀樹の最新作NODA・MAP『兎、波を走る』が、6月17日、東京芸術劇場プレイハウスで幕を開けた。それに先駆け、初日前日に行われた公開ゲネプロの様子をレポートする。
舞台上の脱兎がこう語り、物語は始まる。「不条理の果てにある海峡を、兎が走って渡った」。そして本作の上演に当たって野田は、こう語っている。「『なんともいたたまれない不条理』を感じ取っていただければと切に願う」。このふたつの野田の言葉からもわかるように、本作はある不条理な問題が描かれている。どうしようもないほど、いたたまれない不条理が。野田がNODA・MAP作品に込めるメッセージはいつも痛烈で考えさせられることが多いが、本作ではその距離感が近いせいか、観劇後は押しつぶされそうな感覚すら覚えた。と同時に、劇空間の美しさ、さらに俳優陣の熱演が、この舞台を決して忘れ得ぬものとし、結果、作品に込められたメッセージも胸の内から消えることはないだろう。
潰れかかった遊園地。元女優のヤネフスマヤは、ここでママとかつて見た「アリスの話」を上演しようと、作家に台本を執筆させている。しかし作家はまともな台詞が書けず、ついに遊園地はシャイロック・ホームズの手によって競売にかけられることに。一方、迷子相談所にやって来たのは、迷子のアリスを探しているアリスの母。と、彼女の目の前を脱兎が駆け抜けていき……。
アリスという登場人物からもわかるように、物語の一部は『不思議の国のアリス』がモチーフとして使用されている。それはやはり、アリスが彷徨うこの世界が、不条理に満ちているからだろう。脱兎を追いかけ、この不思議で不条理な国に迷い込み、母のもとへと帰ろうとするアリス。そんなアリスを探し続けるアリスの母。そして脱兎。この三者を軸に、物語は意外な方向へと転がっていく。
これまでも野田はさまざまな手法を用い、見たことのないような劇空間を創出してきたが、特に今回は不思議の国の表現に目を見張った。合わせ鏡を用いた脱兎のシーンでは、その軌跡が疾走感とともに幻想的な雰囲気を醸し出し、「私を飲んで」と書かれた瓶の中身を飲むシーンでは、アリスは本当に一瞬で大きくなり、そして小さくなったかに見えた。さらに古典的なやり方ではあるが、人が一瞬にしていなくなる方法は、本作においては非常に効果的。こういった表現を味わえるのは、やはり演劇ならではの喜びであり、ここまでのものを見られるのは、やはりNODA・MAPだからこそと言える。
役者陣はNODA・MAPの常連組に加え、アリス役の多部未華子とシャイロック・ホームズ役の大鶴佐助が初参加。中でも多部は、純粋無垢なアリスを好演。さらに彼女の見せる強さが、どうしようもない切なさと、わずかながらも失いたくない希望を感じさせた。アリスの母を演じたのは、すでにNODA・MAPへの参加は7度目となる松たか子。本作でもその存在感は圧倒的で、彼女がいなければ本作のメッセージは伝わらなかったかもしれない。そして脱兎役には、『フェイクスピア』での好演も記憶に新しい高橋一生。脱兎が辿った壮絶な変化を、繊細に演じ切って見せた。
今こそ上演すべき、そして観るべき作品。その理由は、時計を片手に走る白ウサギが言っていたことでもある。「時間がない」と。
取材・文:野上瑠美子
<公演情報>
NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』
【東京公演】
2023年6月17日(土)~2023年7月30日(日)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
【大阪公演】
2023年8月3日(木)~8月13日(日)
会場:新歌舞伎座
【博多公演】
2023年8月17日(木)~8月27日(日)
会場:博多座
大阪・博多公演一般発売日:7月8日(土) 10:00
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