鈴木福×川平慈英×小林香 念願のタッグで贈るミュージカル『カラフル』は子供にも大人にもみてほしい作品
ステージ
インタビュー
左から)鈴木福、小林香、川平慈英 撮影:源賀津己
続きを読むフォトギャラリー(7件)
すべて見る大きな過ちを犯して死んでしまった〈ぼく〉は、万物の父“ボス”の抽選に当選し、人生の再挑戦をすることに。ガイド役の天使“プラプラ”に導かれて行った魂の修行先は、自殺を図った中学生、小林真の体。家庭でも学校でも様々な問題を抱える小林真として生活する〈ぼく〉は、自身がかつて犯した罪に気付くことができるのか――。直木賞作家・森絵都によるベストセラー小説『カラフル』がこの夏、ミュージカル化される。アニメ化、実写化もされ、特に若い世代に支持されてきた物語だ。思春期ならではの悩みや孤独感、将来への不安といった誰しもが共感する感情を丁寧に描き、それでも人生の素晴らしさを瑞々しく謳い上げる感動作は一体どんなミュージカルになるのか。主人公の〈ぼく〉を演じる鈴木福、天使プラプラを演じる川平慈英、脚本・作詞・演出を手掛ける小林香に話を聞いた。
『ビッグ・フィッシュ』で築いた絆
――鈴木さんと川平さんはミュージカル『ビッグ・フィッシュ』(2017年)で共演されていますね。あの時は川平さんがお父さんで、鈴木さんが息子でした。
川平 もう6年前だね。僕自身、『ビッグ・フィッシュ』はとても大好きな作品です。
小林 福くんは当時何歳だったんですか?
鈴木 12歳かな……小学6年生でした。
川平 懐かしいな。福くんが自分の千秋楽のカーテンコールで大泣きして(※ダブルキャストだったため、一日早く自身の千秋楽を迎えていた)、大人たちがもらい泣きしちゃったんだよね。でも歯を食いしばってちゃんと挨拶をして。さすが、若いのにプロだなあと思ったのを覚えている。
――その時ぶりの共演ですね。
川平 再演の時に観に来てくれたんだけど、会うのもそれ以来。今回のビジュアル撮影の時に、もう大ハグですよ!
鈴木 僕もジェイさんとご一緒すると知ってすごく嬉しかったです。ミュージカルに出たいという気持ちがずっとあったのですが、声変わりの時期もありなかなかやれなかった。やっと声が安定してきた段階で出演の話をいただき、しかもジェイさんとの共演。さらに世田谷パブリックシアターの芸術監督は(『ビッグ・フィッシュ』の演出を手掛けていた)白井晃さんですし、色々な縁が重なっているなと思っています。
川平 そうなんだよねー! 『ビッグ・フィッシュ』は僕の代表作になったし、あの時に築いた絆は誰にも切ることができないものになっている。しかも、『カラフル』のプラプラと〈ぼく〉の関係が、『ビッグ・フィッシュ』の父と息子の関係に少し重なるんだよね。僕が福くんを翻弄するようなところが。なんだか化学反応がおきて、スパークが倍増しそうな予感がする。当時から「絶対にまた共演するぞ」と言っていたから、今回の共演は不思議なようで不思議じゃない。しかも、テレビやドラマじゃなくて、僕が主戦場としているミュージカル界に来てくれたということが、ダディとしてはすごく嬉しいです。
小林 私は『ビッグ・フィッシュ』を観客として観ていただけですが、今回のラストシーンは、その時に築いたおふたりの絆が反映されてくるんじゃないかなと勝手に思っています。
――小林さんはお二方とは……。
小林 初めてご一緒させていただきます。ただもう、もちろんずっと拝見していましたので、福くんがこんなに大きくなられているとは……初めてお会いした時、すでに成人を迎えているとお聞きしてビックリしました(笑)。
鈴木 はい。今、18歳です(取材時)。
川平 そうか、成年年齢が18歳に引き下げになったから、もう成人なんだね。
小林 川平さんは……。
川平 あ、呼び方はジェイさんでお願いします!
小林 じゃあジェイさんは(笑)、私は『Shoes On!』(編注:川平がスーパーバイザーを務めた歌とタップダンスのエンターテインメントショー。2000~2006・2015・2016年に上演)が大好きだったのに加え、子供が生まれた頃に『コレナンデ商会』(NHK Eテレの番組)をやっていらしたので、毎日観ていました。これだけオールラウンドでエンターテインメントができる方は日本では本当に数少ないので、今回恐る恐るオファーしてみたところお受けいただいて。夢が叶ったと今、結構緊張しております。
川平 期待を裏切らないよう頑張ります!
森絵都さんが全力で子どもたちに語り掛けている思いを大切に
――そして今回の『カラフル』ですが、原作は森絵都さんによる非常に人気の高い小説です。アニメ化、実写化もされていますが皆さんは何からこの物語に入りましたか。
鈴木 僕は小説と、映画『HOMESTAY』(2022年)を観ました。〈ぼく〉という存在も面白いのですが、〈ぼく〉を取り巻くまわりの人たち一人ひとりにスポットライトが当たっていって、それぞれの事情と関係性が次々に見えてくるところが魅力的。子どもが読みやすい作品ではあるのですが、内容が深く、〈ぼく〉の中にも狂気があったりする。そういうところも演じる上では大事にしたいです。
川平 僕は最初にアニメを観て、そのあとに原作。僕はもう還暦になったのですが……60歳で読んで、不覚にも泣いた。福くんが言ったように、確かに闇の部分、人間のドロドロしたところも描かれていて、そんなところが「嫌いじゃないな」と思いました。人生って綺麗ごとじゃないからね。なおかつ、最後はスカッと爽快な気持ちで物語が終わる。そこが気持ちいい。これはミリオンヒットする作品だわ、と納得しました。
小林 私は今回のミュージカルのお話があってから初めて小説を読みました。普遍的な話ですよね。ただ、原作が書かれた25年前より現代はさらに厳しい状況になっています。コロナ禍になり、中学生の自殺者数は過去最多になっていますし、その中でお届けするには、少しアレンジも必要かなと感じます。とはいえ25年前に、当時20代だった森絵都さんがあれだけの筆力で、笑いをまぶしながら、全力で子どもたちに語り掛けている。その思いは大切に、変に脚色したりせず作っていきたいです。
――鈴木さんがおっしゃったように、〈ぼく〉だけでなく、それぞれのキャラクターの悩みも丁寧に描かれていてリアリティがあります。観る人によって共感ポイントも色々とありそうですが、皆さんはどの登場人物にグッときましたか?
川平 僕はもう、お母さんのところですね。お母さんが真に手紙を書くところ、あの描写はズルいと思うほど、心掴まれました。
鈴木 僕はお兄ちゃんの心情が胸に来ました。僕自身、兄なので。あそこまで弟や妹に僕はしてあげられるかなと考えてしまったのですが、彼の真を思う気持ちはすごく素敵です。
小林 みんなそれぞれに共感できるところがあって、脚本を書く立場としては、どのエピソードも削りがたく上演時間とにらめっこしている状態です(笑)。でもひとり挙げるとしたら唱子ちゃんかな……。現実にはいそうでいなさそうな子ですが、「誰かを見て、自分が勝手に励まされている気持ちになる」というのはある。その絆が絶妙にうまく描かれている関係性がいいですし、自分の中にも唱子ちゃんのような子はいるかなと思うので……唱子ちゃん、好きです。
――さらに今回はミュージカル。ちなみにミュージカルをやりたかったという鈴木さん、何曲くらい歌うんでしょう。
小林 なかなか……歌うね(笑)。
鈴木 けっこう歌いますね、15曲以上。
川平 歌うね~! 歌のレッスンとか行ってるんでしょ?
鈴木 今回の出演に向けて、しばらく前から通い始めました。
小林 YouTubeの企画でも、ボイトレを受けて歌っていましたよね?
川平 へえ! どんな曲?
鈴木 『香水』とか『Pretender』とかです。
小林 それが上手かったんですよ。
鈴木 いえいえ、ヘタでした(笑)。今はもうちょっとマシになっています!
――音楽の印象はいかがですか。
鈴木 子どもが観て心を掴まれるような明るいテイストで始まり、でもしっかり胸を打つ時は打つ。メリハリがありますし、音楽を楽しみ、音楽に乗って、一緒に物語に入っていってもらえるんじゃないかなと思いました。小林さんの歌詞も、曲のメロディもキャッチー。『カラフル』という物語の良さがそのまま音楽になっているように感じます。
川平 僕は登場シーンがビッグナンバー。アイキャッチならぬイヤーキャッチになればいいなと思っています。ゴスペルっぽさもあり、人生を賛美している感じもあり、「なるほど、だからこの役が俺に来たんだ」と思うような音楽です(笑)。
小林 最初にジェイさんが歌う楽曲は、ジェームス・ブラウンが着ているラメラメの衣裳で歌っているような音楽、というイメージです(笑)。実際にそういう服を着るわけではありませんが。
「天使」は大人が演じて欲しい
――天使が川平さん、というのも面白いですよね。その発想はどこから?
川平 そうなんですよ! 俺もオファーが来た時に「俺!?」と思いました。アニメ版などとは印象が全然違いますし。
小林 天使なので何歳でもいいんじゃないかというのが最初にありました。さらに今回は「せたがやこどもプロジェクト」の一環としての上演で、若い方にも多く観ていただきたいという企画です。作品自体は取り扱っている題材がシリアスですので、それを軽快に運ぶためには歌とダンスをふんだんに使いたい、それを天使がガイドしてくれるとミュージカルとしてメリハリがつく。そして子どもの心を掴んでくれる、となったらジェイさんしかいないと思いました。
川平 ガッテン承知しました(笑)!
小林 さらに子どもたちに観て欲しいけれど、子ども主体だけの作品にもしたくなくて、大人がこの出来事に対してどう向き合うかもはっきりと入れ込みたいんです。若い子が自ら死を選んだけれど、こっち(天国)に来るなと言って地上に帰す存在は大人であって欲しい。その意味で、天使は大人が演じて欲しいと思った次第です。
――楽しみです。最後に、今のお話でもありましたが、この作品は「せたがやこどもプロジェクト」の企画のひとつでもあります。普段あまり劇場に来ない若い人が演劇に初めて出会うきっかけになるかもしれない。そんな人たちへメッセージをお願いします。
鈴木 演劇ってチケット代が高いけれど、この作品は高校生以下はとても安く観られます(高校生以下-1000円のチケット有)。すごくいいことだなと思います。小学生は、内容のすべてを理解できなかったとしても、それでも感じてもらえるものはあると思いますし、また中高生は、今さまざまなエンターテインメントがあり、時間の短いエンタメを選択したり、長いものでもデジタルでは早回しで観る人も多いと思います。でも劇場という限られた空間で味わう演劇というエンタメは、ここでしか受け取れない魅力がある。僕の妹もミュージカルを観て、ミュージカルに憧れて、ダンスや演技の勉強をしています。そういうきっかけになるかもしれない。誰かにとって何かのきっかけになる感動が生まれるのが劇場だと思うので、ぜひ観に来てください。
川平 そうだね。ミュージカルって敷居が高いイメージもあるし、値段も高い。その敷居を下げる意義のあるプロジェクトだと思います。福くんが言ったように、お客さんを数時間、劇場の椅子の上に軟禁状態にして(笑)お届けするのが演劇なのですが、外界がシャットアウトされた劇場というハコの中で共有するものというのは……特に音楽が入るミュージカルは、本当に感じたことのないような心の躍動が味わえます。小躍りするような感動をしに来て欲しいし、帰り道その感想で盛り上がるのも楽しめると思うので、楽しいことが好きならぜひ『カラフル』へ(笑)!
小林 今、オンラインでは素晴らしい芸術にたくさん接することができます。でもオフラインで、生の人間が目の前にいる感動というのは、わかっているようで、実は経験してみないとわからない。「こんなに人って生き生きしているんだ」ということは、劇場で一番味わえると思っています。そういう感動をしに劇場に来て欲しいですし、また若い方に向けて作ると言っても“子ども騙し”のものを作るつもりはありませんし、大人の方にも楽しんでいただきたい。だから私たちがやることは、いつもと変わらない。一方で『カラフル』という作品は、実際に“当事者”になる方が客席にたくさんいるんじゃないかなと思います。いじめる側、いじめられる側、いじめの共犯者になってしまった子、いじめられた我が子を持つ親、いじめに限らず死を考えたことがある人……。当事者がたくさんいるであろうことを念頭に、責任を持って作品を作りたいと思いますが、その結果出来上がるものは、重々しいものではなく「この作品は、私たちのことだ」と思えるようなものにしたい。ぜひ敷居が高いと思わずに、気軽に観にきていただきたいなと思います。
取材・文:平野祥恵 撮影:源賀津己
<公演情報>
せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》
ミュージカル『カラフル』
2023年7月22日(土)~2023年8月6日(日)
会場:東京・世田谷パブリックシアター
【ツアー公演】
■兵庫公演
2023年8月12(土)・13日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■茨城公演
2023年8月19日(土)・20日(日)
会場:水戸芸術館ACM劇場
■愛知公演
2023年8月26日(土)・27日(日)
会場:春日井市民会館
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343480
【よくばり❣ぴあニスト】限定 ミュージカル『カラフル』ぴあ半館貸切公演限定、お得な「指定席引換券」を販売!
対象公演:7月29日(土)13:00開演 6月22日(木) 10時より受付開始! この機会にぜひお申込みください!
詳細はこちらから
フォトギャラリー(7件)
すべて見る