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役所広司が語る『THE DAYS』に込めた切なる想い。「世界の人たちにあの事故がどんなものだったのかを知ってもらいたい」

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役所広司 撮影:源賀津己

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役所広司が、Netflixのオリジナルドラマシリーズ『THE DAYS』で主演を務めている。本作は、2011年に起こった福島第一原発の事故と、そこにいた人々の物語を可能な限り忠実に描いた作品だが、役所は本作を“過去の再現”ではなく、“未来につながる作品”だと考えているようだ。

2011年の3月11日に起こった大地震と津波によって東日本一帯は甚大な被害を受け、福島第一原発は全電源を喪失し、全6基ある原子炉のうち、4基が制御不能になってしまう。あの日、あの場所にいた人たちは何を目撃し、何に立ち向かったのか? 役所は発電所の所長・吉田を演じた。

本作は、数々のヒット作を手がけてきた増本淳プロデューサーが自ら企画し、脚本も執筆した渾身のプロジェクトだ。出演のオファーを受けた役所は、「あれだけの数の方が暮らしている場所で、あれだけの事故が起こり、怪我をされた方も亡くなられた方もいて、福島の方の中にはふるさとを失ってしまった方たちがいる。そんな中でこの物語をドラマにして本当に大丈夫なのだろうか?という不安はありました」と振り返る。

「でも、プロデューサーの増本さんから“いつ収束するのか分からない規模の事故で、自分は廃炉に向かっていく福島第一原子力発電所を見ていきたい。あの発電所の中であの日、一体どんなことが起こっていたのかは誰も知らないんです。だからこそ、それを知ってもらいたい。ドラマだから観ている方に最後まで観てもらえるような作りにはするけど、あそこで何があったのかを実際に近い形でやりたい”という想いを伺って、これは本当にいい企画だと思いました」

あの日、大きな揺れが福島第一原発を襲い、役所演じる吉田所長は状況を把握できないまま、事態の解決にあたることになる。免震重要棟と呼ばれる施設に対策本部が設けられ、吉田所長は原子炉を操作する中央制御室の所員たち、東京にある電力会社の本社の人々、さらには官邸とやりとりを続けながら、必死に事態の沈静化を図ろうとする。しかし、電気の落ちた暗闇の中で頼りの計器類は機能を失い、次から次へと予想もしていなかった事態が発生する。誰もがみな混乱し、目に見えない放射能に恐怖を感じ、“何が起こっているのか正確に把握できない”状況に放り込まれる。それでも吉田所長は冷静に振る舞おうとするのだ。

「役者って緊迫した状況の演技になると、ついつい緊迫感を上塗りしたくなるんです(笑)。でも、緊張感のようなものは作品の演出によって表現できるだろうから、僕としては俳優の驚いた表情を見せるよりも、平静を装っている姿を見せる方が、恐怖と向き合っている感じが出るのではないかと思いました」

役所の演技が素晴らしいのは、そんな平静を装う吉田所長から本当の感情や混乱が“漏れ出てしまう”瞬間を見事に表現していることだ。観客は、彼の混乱や恐怖と、その内面を周囲に見せまいとする“二重の姿”を見続けることになる。しかし、ふとした瞬間、我々は彼の“漏れ出てしまった感情”を一瞬、目撃することになるのだ。

「所長たちがいる免震重要棟は、中央制御室とはまた違った緊張感があるのですが、最前線である中央制御室にいる所員たちは本当に怖かったと思います。しかし、所長はそこにいる部下たちに指示を出して、作業をやらせなければならない。最後には自分も部下と共に死ぬ覚悟がなければ、あのような役割はできないのではないかと思いました。

それに中央制御室から免震重要棟にかかってくる電話というのは、吉田所長にしか聞こえてないわけです。だから(あの日、中央制御室にいた当直長を演じた)竹野内くんと実際にどういうやりとりをしているのか、周囲の人間は気を張って見ているし、所長としては“まだ可能性はある。まだ努力するんだ”という顔をするわけですけど……ついに感情が出てしまう瞬間はあったと思います」

事故によって起きた混乱状態、その怖さを表現するべきだと思った

中央制御室から次々に状況の悪化が知らされ、本社からは早く事態を打開しろと迫られる。ここでもし判断を間違えれば、原発の爆発や放射能による未曾有の被害を世界にもたらしてしまうことになる。あの日、所長が抱えていたプレッシャーがどのようなものだったのか、正確に理解できる人間はおそらくいないだろう。

「放射能の線量に関しては知識としては持っていたと思います。でも実際には放射能には匂いがあるわけではないですし、目にできるものは(線量の)数字だけです。もちろん、ここで何か起こってしまえば、被害は原発の中だけでは済まされないわけで、その重責というものは背負っても背負いきれるものではない。だからこそ吉田所長は、目の前の部下たちの無事を祈っていたのではないでしょうか。部下をひとりも死なせたくないという気持ちを誰よりも持っていたと思いますし、それでも彼らを事故の対応に向かわせなければならない。それはすごいストレスだったと思います」

役所が語るとおり、本作で描かれる吉田所長は常に複数の感情が幾重にも重なり、所員を守りたい気持ちと、所員に危険な指示を出さなければならない状況の間に立たされている。ひと言で説明できない感情、善悪だけでは判断できない選択……そんな状況がかつてこの国で本当に起こったのだ。

「この作品では、キャラクターの魅力を表現する俳優というよりも、あの日、原発で実際に起こったことを表現する役割としてキャストのみんなが参加していたと思いますし、全員がそういう意識でやっていたと思います。あの日に本当に何が起きて、どういう判断をして、どのような混乱状態にあったのかを、作品を観ている方に伝えるために参加していたと思うんです。

あの状況では総理大臣でさえパニック状態で、その中で人間として事故に向き合った部分もあったでしょうし、総理の周囲にいる人たちや専門家も混乱していて、見方によっては笑ってしまうようなことが実際に起こってしまっていた。でも、本当にこういう人たちがいたのだとすれば、それは国として危ないことですよね。だからこそ、この作品では事故に向き合った人たちが本当はどういう状況に置かれていたのかを、その怖さを表現するべきだろうと思いました」

そして、ここで描かれた事故はまだ終わっていない。福島第一原発ではまだ廃炉作業が続いているのだ。

「観客の中には、あの事故を忘れかけている方もいるかもしれないですけど、この事故はまだ収束できるかどうかも分からないわけで、我々は地球のエネルギーについて真剣に考えなければならないと思います」

本作は“過去の再現”ではない。まだ続いている問題について考え、未来につながる作品として制作されたのだ。

「そうですね。そうありたいですよね。この『THE DAYS』の配信が始まることで、世界の人たちにあの事故が実際にどんなものだったのかを知ってもらえると思いますし、これから人間が生きていく上でエネルギーをどうしていったらいいのか?というメッセージは伝わると思っています」

撮影:源賀津己
ヘアメイク:遠山美和子(THYMON Inc.)
スタイリング:安野ともこ

<作品情報>
『THE DAYS』

Netflixにて世界独占配信中

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