末満健一の脳内雑談部屋 第1回 対談者 / ヨシモトシンヤ(音響家)
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末満健一
「頭の中をのぞいてみたい」時折聞かれる観客から創作者らへの賛辞の言葉。令和の演劇界において、長期的な視点から綿密な物語を編むことのできるクリエイターの1人として頭角を現す脚本家・演出家、末満健一の新コラム企画がスタート。このコラムでは、末満が自身の“今、会って話したい人物”とクリエイティブにまつわるトークを展開しながら、彼の“頭の中”をのぞき見することを試みる。ダークで独創的な世界観から紡ぎ出されるオリジナル作品をはじめ、アニメやマンガ、ゲームといった人気コンテンツを原作とする2.5次元作品、近年は本格ミュージカルへと、縦横無尽に舞台界を駆け回り、才能を発揮する末満の頭の中を、他者との対話から垣間見てみよう。
第1回の対談者は、“関西小劇場”というバックグラウンドを共有しながらも東京で再会、今では互いに信頼を置くタッグとして末満の劇世界を押し広げている音響家・ヨシモトシンヤだ。6月には韓国で話題となったミュージカル「ダーウィン・ヤング 悪の起源」の日本初演の際、末満の東宝ミュージカルデビューにおいて音の相棒であったヨシモト。気心知れた2人が会話で結ぶストーリーとは。
桟敷席の小劇場からシアタークリエまで、その道のりは感慨深い
末満健一 連載第1回目のゲストは、数多くの作品で音響を手がけてくれている音響家のヨシモトシンヤさんに来ていただきました。古くからの付き合いなのでいつものようにシンヤと呼びますね。こういう企画で音響家が表に出ることは珍しいよね。
ヨシモトシンヤ なんでゲストの一発目が俺なんだろうと思ったよ(笑)。
末満 (笑)。「ダーウィン・ヤング」の初日が明けたからね(編集注:取材は6月中旬に行われた)、自分にとっては初めての翻訳ミュージカルだったので、シンヤが音響でいてくれてとても助けられた。演出について、音響について、話せることがたくさんあるだろうと思って、第1回目のゲストに選ばせていただきました。とはいえ今はほとほと疲れてるね。初日を迎えたら身体にガタが来てしまって次の日ダウンしてしまった。1日寝て元気になったけど。
ヨシモト やっぱり人間は適度に休むことも大事。
末満 ごもっとも。同い年なのでお互い健康には気をつけていきましょう。それはそうと俺とシンヤってもうどれぐらいの付き合いになるんだっけ?
ヨシモト 昨日ちょうどスエケン(末満)のことをWikiで調べてさ。スエケンが初めて作・演出した「スエサンヤマサンのおもちゃ会議」(2002年)の音響を俺がしているんだよね。
末満 俺が人生で初めて作・演出した作品だった。だとするともう20年以上の付き合いになるのか。あれは“おもちゃ”をテーマにしたオムニバス作品。あの作品がいろいろな人に褒められたのがすごくうれしくてさ。役者として褒められたことがそれまで一切なかったから、あれで褒められたという経験はやはり大きかった。あれがなかったら今、脚本も演出もやっていないと思う。俺の脚本家・演出家人生のスタートに関わってくれていたシンヤと、今もこうして一緒に作品をつくっているのはありがたいね。あの作品がなかったら脚本も書かず演出もせず、まだ役者をやっていたかもしれない。あの時の劇場は客席が50人ほどの小劇場だった。劇場に大きいも小さいもないとは思うけどさ、とはいえ今シンヤとシアタークリエで東宝ミュージカルを一緒につくっているのは感慨深いよ。20年前には予想だにしていなかったことだから。
ヨシモト 俺はステアラ(IHIステージアラウンド東京)の時も感動したけどね(参照:舞台「刀剣乱舞」が360°劇場へ、大坂の陣を描く2部作を連続上演)。小劇場で一緒にやってた仲間と360°回転する劇場で一緒にやるなんて。
末満 俺の作品をよく手がけてくれる照明の加藤直子ちゃんもそうだけど、昔からのスタッフとステアラや東宝のような大きな現場で一緒にやれているのは素直にうれしいよ。肩を並べながら人生を重ねている気持ちになれて。勝手にだけど同志だと思っている(笑)。シンヤは俺が主宰していたピースピットの旗揚げ公演「タイガー」の音響もやってくれてたよね。あの作品は、「ドグラ・マグラ」(編集注:夢野久作による探偵小説で“三大奇書の1つ”と言われる)のような、胎児の夢の中で巻き起こる支離滅裂な物語だったんだけど、3時間休憩なしなのに、客席は板のベンチに薄い座布団を敷いただけのもので。今にして思えばとんでもない観劇環境だったと反省するけど、あの時はまだお客さんに気を遣うという余裕があまりになかった。作品づくりで精いっぱいで。
ヨシモト 「タイガー」は何回読み返してもわからないところが多くて、難しかったな。そうこうするうちに、28歳の時に俺は東京に出ちゃったんですよ。
末満 それであまり接点もなくなったんだよね。「シンヤが東京でがんばってるらしい」といううわさはちょこちょこ耳にしていたんだけど。そっちのほうに俺のことは何か伝わってた?
ヨシモト 近況は伝わってたよ。スエケンが東京に来てから「舞台『K』」という作品をやってるとか。その頃俺は、舞台やミュージカルの音響を手がけるカムストックに入社してたんだけど、その前はフリーで東京の小劇場をメインに音響をしていたのね。でも、周りに音響を教えてくれたり評価してくれたりする人がいない環境で、「自分はこのままで良いのだろうか」という焦りが芽生えていて、もっと音響家としての可能性を広げたいという思いがあった。自分の音響能力を上げるにはどうすれば良いか、良い音とは何なのかと模索していたんだよね。それで、能力や仕事の幅を広げるために活動を続けて、その後、会社(サクラサウンド)を立ち上げることになるんだけど。俺にとっては「音響に関して心配がない」と思ってもらえる仕事をすることが第一で、それを目指して奮闘していた頃に、スエケンが拠点を東京に移したという話を聞き、「近くにおんねんな、会いたいな」と思っていた。
関西小劇場出身の2人、東京での再会は「舞台『刀剣乱舞』」がきっかけ
末満 俺は「舞台『K』」が初めての2.5次元作品で。最初は完全にアウェーな感じだったけど、原作の作家チーム・GoRAさんのメンバーさんらと仲良くさせていただいたおかげで、すごくやりやすかった。だから「舞台『K』」はとても思い入れがある作品。そうこうしているうちに2.5次元舞台の依頼をいくつかいただくようになった。でも、興味を引かれる作品があまりなかったんだよね。そんな時に、「舞台『刀剣乱舞』」の発表があって。俺、実は「刀剣乱舞ONLINE」のPCブラウザ版がリリースされた時からゲームをやっていて、「舞台化したら面白そうだな」と思っていたんだよ。さらにストレートプレイとミュージカルで舞台化すると聞いて「面白いことを考えてはるなあ」と他人事のように思っていた。後々、脚本・演出でオファーをいただいて、「あ、俺がやるんだ」ってびっくりした。当時俺は東京に知り合いが少なかったからスタッフの人選を先方にお任せしてたら、シンヤの名前がそこにあった。「あ、この人知ってます」って(笑)。それがシンヤとの10年ぶりくらいの“再会”だったね。
ヨシモト 俺は「刀剣乱舞ONLINE」をまったく知らなかったのだけど、担当者から企画書をもらって「名だたる刀剣が戦士の姿として顕現して、歴史が絡み、戦いがある。日本を揺るがすコンテンツになる」と言われてさ。「だったら俺、からまなあかん!」と思って、「音響は絶対に俺が良いと思う!!」と何回も伝えたのよ。それで採用されたんだと思う(笑)。
末満 そうなの? 俺の初期衝動はチャンバラがやりたい!だった(笑)。ともあれ、「舞台『刀剣乱舞』」は音楽の曲数や効果音なんかも非常に多い。環境音や殺陣の音も異常に細かくセッティングしている。生の演劇なのに映画のようなフィルムスコアリングも試みている。物量に対応できる音響家じゃないと実現が難しいのは目に見えていたから、シンヤが音響だと聞いた時はホッとしたのも事実。
ヨシモト 「舞台『刀剣乱舞』」はほかの2.5次元舞台の作品と比べると、とにかく細かく音を付けている印象がある。
末満 シンヤとは久しぶりに組む仕事だったけど、意思疎通は最初からスムーズだったな。同世代っていうのもあるのかな。こちらの要求水準やイメージするものの汲み取りがスムーズだから、音響に関しては演出家と音響家で齟齬が生まれることはないね。見ているクオリティが同じ目線というスタッフもなかなかいないので、毎回助けられています。
末満健一は稽古場で待たない
末満 音響家的には俺はどういう演出家なの?
ヨシモト ……いきなり深いとこ突くやん(笑)。スタッフワークにここまでこだわりが強い演出家はあんまり知らんな。だから失敗できないとも思う。スエケンとは世代が近いから、観聞きしてきたものの共通点が多い。スエケンに「いや違う、そこはガゼルパンチみたいな音や(編集注:ボクサーのフロイド・パターソンが考案したとされるパンチの種類)」と言われても、「ああ、はいはい」ってわかるし(笑)。今となっては、スエケンが何を考えているかも自然とわかる気がする。
末満 確かに、共通言語があるのは創作の手助けになるね。音楽のかけ所、それの終わり方が鳴り切りか、カットアウトか、フェードアウトなのかという物理的な指示は進行台本に記載できるけど、細かいニュアンスなんかは直接のやり取りじゃないとなかなか伝わらない。都度、稽古場で対応してくれるのでありがたいよ。
ヨシモト そう。でも、待ってくれないんだよね(笑)。
末満 そういえば待たないね。何かの音が欲しくなった時に、「準備、10秒くらいあればいけるよね?」って聞いたりしてる。その時に思いついたことの衝動が、なるべく鮮明なうちに試してみたいんだよ。まあ、それでいつも苦労かけてますね。
ヨシモト 俺は「10秒!? 待ってくれ!」と(笑)。後々ちゃんと音はつくるけど、今、芝居を前進させるために必要だというから。以前、「スエケンは『TRUMPシリーズ』とか、ほかの現場でもこんな感じ?」って聞いたら「シンヤだからやで」と返ってきて「なるほどな」と思ったわ(笑)。
末満 でもまあ、「TRUMPシリーズ」の音響をしてくださっている百合山(真人)さんは経験則で俺が何を欲しがるかわかってくださっていて、事前に音を準備してきてくれてる。“イニシアチブ音”と呼んでいる吸血種が人を咬んだあとの音、風や鐘のいろいろな種類の音なんかも。「TRUMPシリーズ」でも「舞台『刀剣乱舞』」でも、長年やっていると“定番の音”みたいなのは出てくるね。
ヨシモト そうだね。俺もスエケンの舞台では経験則で音を用意していますよ。パソコンの画面に、静か、明るめ、戦い、悲しい、切ない、のように“スエケンの舞台で確実に必要な効果音”を並べたエリアがある。
末満 「舞台『刀剣乱舞』」も第1作が上演されてからもう7年(参照:刀ステ7周年感謝祭、総勢45振りのビジュアル解禁 追加キャストに本田礼生ら)。音響と演出との相乗効果、いろいろなやり方を試行錯誤させながら続けてきたよね。だからそこで培った方法論を外でも試してみたくなって、最近は「舞台『刀剣乱舞』」以外でもシンヤをお誘いするようにしてる。
ミュージカル「ダーウィン・ヤング」で見た絶妙なトライアングル
ヨシモト 「舞台『鬼滅の刃』」とかムビ×ステの「漆黒天」、「浪花節シェイクスピア『富美男と夕莉子』」とか。「富美男と夕莉子」は面白かったなあ。
末満 直近の作品だと「ダーウィン・ヤング」。シンヤはこれまでにシアタークリエで仕事をしたことがあるって聞いてたけど、いわゆる東宝ミュージカルと呼ばれる作品は初めて?
ヨシモト 初めてだった。
末満 予測はしていたけど、同じ東京の演劇界でもこれまで俺がいた場所とはいろいろな進め方や作法、キャストやスタッフの取り組み方も違う。“こんなにも畑が違うんだ”という印象を受けて、すごく新鮮だった。それは一種のカルチャーショックで、それを一緒に体験してくれる人がいて良かったよ。1人であの状況だと混乱したまま終わっていたと思う。
ヨシモト そうね(笑)。スエケン周りのテクニカルスタッフはみんな同じような気持ちだったと思う。
末満 俺は初めて東京に来た時はまだ知り合いのスタッフも少なくて孤軍奮闘するしかなかった。「ダーウィン・ヤング」をやってみて強く思ったのは、「この10年で仲間が増えたぞ」ということ。初めての東宝さんの現場で、生バンドで、ミュージカルの音楽監督さんもいらっしゃる、その中に違う界隈から呼ばれて、シアタークリエに乗り込んで韓国ミュージカルをやるのなら、自分のスタイルをきちんと持ち込まなければ意味がないと考えていた。そこで、音響のヨシモトシンヤや照明の加藤直子ちゃん、舞台美術の田中敏恵さんら俺の普段の現場を知ってくれている人たちがいてくれたことで、俺の色も残りつつ、韓国ミュージカルの匂いもして、東宝ミュージカルの肌触りもあるという、“良いトライアングル”がつくれたと手応えがあった。「面白いものができた」と思えるものになったことにすごく安堵したし、周りのみんなのおかげだと感謝している。その後も方々から「評判がすごく良いみたいですよ」というのを伝え聞いて、何とか自分が参加した意義のようなものも感じられたし、東京の“末満組”のスタッフさんたちの頼もしさを改めて確認できたことは大きい出来事だった。
ヨシモト 俺はもちろんこれまでシアタークリエ、帝国劇場、日生劇場でいろいろなミュージカル作品を観てきたけど、今回の「ダーウィン・ヤング」では、よく言われるミュージカル作品での“セリフから歌に移る音のボリューム感”の推移をあまり感じさせないところを目指したのね。それがうまくつくれた曲と、曲によっては頭から突き上げるように音を鳴らす曲とがあって、全体で良いバランスが取れた気がしてるかな。
良い作品りに必要なのは“時間と環境”
末満 2.5次元舞台をメインにやっている音響家がシアタークリエと東宝ミュージカルに適応するためにあたって、意識したことはあった? お客さんは音響と言っても、深い、テクニカルな部分ってあまりわからないと思うから、せっかくなのでこの機会に教えてもらえれば。
ヨシモト 2.5次元舞台って意外と生オケが少ないの。俺はバンドを舞台に乗せた「血界戦線」やピアノとバイオリンだけのミュージカル「憂国のモリアーティ」とか、生楽器のある作品は好きでやっているけど、音をパソコンや再生機でテープ出しするものが多いんだなってあらためて気が付いた。本来ならバンド専用の音響さんがいると思うんだよね。俺もマイクのレベル感の調整や音をまとめるのが難しく感じたけど、ミュージカル作品では個々が粒立っているテクニカルがいないと大変なんだろうなと感じた。今回の経験であらためて感じたのは、東宝ミュージカルも2.5次元舞台も、音響に等しく必要とされるのは“総合力”なんだということ。音を使って観客に舞台を届けるうえで、その点では何も差はないと思った。
末満 「ダーウィン・ヤング」での経験から、何かしら今後の現場にフィードバックできることはありそう?
ヨシモト うーん、2.5次元舞台でも生楽器をもっと入れても良いんじゃない?
末満 歌モノだったら考える余地はあるかもね。でも素晴らしい生演奏もそうでない生演奏もあるしね。生楽器も決して万能ではなくて良し悪しがあるから、打ち込みが必ずしも悪ではない。それに生楽器入れたら、ただでさえ少ないリハーサル時間が足りなくなってしまう。
ヨシモト まあ、確かにスケジュール感で言えば、どこもギリギリだもんね。
末満 日本の演劇興行における劇場入りしてからのリハーサル時間の短さは改善していくべき課題だと考えている。ロングラン公演の根付いていない日本で、劇場リハーサルに時間を取れない予算事情もわかるんだけど、それにしても状況としてはブラックと言っても過言ではない。例えば、開幕して1・2週間で楽日を迎えるという短い期間の公演が多いけど、その中でキャスト、スタッフ、関係各所に予算を使うとなると、どうしても仕込み日やリハーサル時間が削られてしまう。そうすると音響、照明、美術なんかのスタッフ側にしわ寄せが来るじゃない。みんな食事すらできないくらい切迫した時間の中で、何とかクオリティを保とうと身を削っている。日本でも海外のように2週間や1カ月、劇場でリハーサルできる興行形態を模索したいよね。すぐには無理でもその問題改善を目指して、スタッフさんの労働環境を良くしていかないと。優秀なスタッフさんたちがいつ潰れてもおかしくないし、若手育成もままならない。そうなるとこの国の演劇の裏方界隈は先細っていくばかりで将来が暗澹としたものになる。裏方あっての舞台なんだから、そこは本当にどうにかしたい。
ヨシモト 集中力の欠如は、けがや事故にもつながるし、ミスが増えて結局時間がかかることにもなる。でも、「自分にはこれくらい時間が必要です」と申告しずらい状況もあるから、皆が束になって、声を上げて変えていかないと。
末満 それには労働組合が必要だけど、そうすると仕事がもらえなくなるかもしれないという。板挟みだよね。スタッフの労働環境を守るために、音響も照明も段取りの少ない会話劇ばかりにするっていうのも1つの案だけど、日本のすべての演劇が会話劇になるってことは、多様性が死ぬっていうことだからなかなか踏み込めない。多種多様な演劇が、より良い環境でつくられる、そのための思考と行動を続けていきたいね。
ヨシモト スタッフ側としても面白い作品、良い作品をつくりたいと思う気持ちは一緒だから、キュー(音響や照明などのきっかけ)を減らすことは望んでいないしね。そう言えば、最近上演されたとある2.5次元舞台の作品では、稽古が2カ月あったらしいよ。演出家がバタバタするのが嫌だからという理由で。場当たり・仕込みの時間もたっぷりあったみたい。
末満 え、それで通るの? だったら俺も言う!(笑)ってまあいつも言ってるんだけど通らないんだよね。その要望が通った公演があったというのは我々にとって希望の光だね。実際、そういった創作環境を徐々に改善していくために、「舞台『刀剣乱舞』」では「禺伝 矛盾源氏物語」から事前稽古というのを初めてもらって。それ以前は、「殺陣をやったことありません」という役者がいることも少なくなくて、本稽古のはずなのに基礎練習に時間を取られて芝居の稽古がなかなかできない、みたいなこともあった。だから「禺伝」からは本稽古の前に、殺陣の基礎訓練やけがをしないための身体の動かし方などをレクチャーしてもらった。本稽古をもっと綿密にやりたいという気持ちがあって。
ヨシモト 最近のスエケンからは役者をけがから守るという強い意志を感じるよ。朗読劇とか、何なら舞台をやらないほうが良いという話までしているよね。
末満 舞台上には機材やら舞台美術やらがたくさんあるからね。舞台に人が乗ったら、けがをするリスクはゼロにできない。だったら役者を極力動かさない、という方法も考えるけど、お客さんが観たいのは殺陣やダンスやパフォーマンスだったりもするから、やっぱり訓練と準備の時間は必要だよね。あとは、2.5次元の舞台から革靴をなくすとか。ビジュアル撮影で革靴を履いていても、舞台では革靴に見えるスニーカーにする。それでだけで革靴の堅さで足を潰す子がいなくなる。そういう細かなことも含めて、できることから働きかけていきたい。
ヨシモト 徒党を組んでね。スタッフを育てることも考えていかなきゃいけないし。今、舞台やエンタメ業界でいろいろな作品、コンテンツが乱立する中で、環境の悪さで引き起こされている人材不足の問題は深刻ですよ。だから、若い人たちが入ってきやすくて、才能が育ちやすくて、長く続けていけるようなフォーマットがある演劇業界を作らないと。俺なんかはずっとこの形で働いてきたから、どこかに慣れや諦めがあるけど、もう時代が違いますから。
末満 海外の舞台を観に行くと、あまりのクオリティの高さに慄いてしまう。でも同時に、手が届く世界だとも思った。そこに手を届かせるためには自分のスキルをはじめ、いろいろ環境を整えていかなければいけないんだけど、それを形にすることを残りの演劇人生のテーマにしようかなと考え始めてる。老い先短い演劇人生で、今の仕事を続けながら好きなことだけやって50歳くらいでパッと終わろうと思ってたけど、自分がいろいろな仕事に関わらせていただく中で欲が出てきた。後進の育成とかもそう。飲み屋なんかでしゃべってるとさ、昔は演劇界にもすごい才能の人間がたくさんいたのに、今はどこに行ったんだみたいな話になるじゃない? たいてい、才能がある人はゲーム業界に行ってるなんて話を聞いたこともある。これはアニメ業界でも言われてることで……話変わるけど最近出たゲームの新作がものすごいクオリティでさ。才能ある人ってみんな任天堂に行ってんのかなって思うくらいに。日本発のコンテンツで、革新的でクオリティの高い、面白いものが世界中で通用している。3日間で世界累計販売数が1000万本以上も売れてるんだよ?
ヨシモト スエケン、今、ティアキン(Nintendo Switch用のゲーム「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」)の話してる?(笑)
末満 うん(笑)。こちらが海外に行ってコツコツやらなくても、日本発信で海外展開できるならすごいことだよ。ということを任天堂から学びました(笑)。生身の人間が観客の目の前で演じなければならない演劇は、また違った闘い方をしないといけないけど。でも自分のつくるエンタテインメントで多くのお客さんたちを楽しませながら、キャストやスタッフを養っていけたら良いよね。海外からすると、日本のライブエンタテインメントはたぶん後進国。少なくとも日本のライブエンタテインメント、ライブに限らずかもだけど、海外展開できているものは、なくはないけど極端に少ない。俺は自分の作品は世界中の人に観てもらいたいから、そこを闘っていきたいよね。アラフィフになって、ペースを落としつつ、でも意義とテーマを持ちながら、やれるところまでやってみようと。その日暮らしじゃなくてね。まあ、だからシンヤも長生きしてください(笑)。仕事はいっぱいつくれるから。
ヨシモト はい(笑)。仕事、いっぱいください。
プロフィール
末満健一(スエミツケンイチ)
1976年、大阪府生まれ。脚本家・演出家・俳優。関西小劇場を中心に活動し、2002年に演劇ユニット・ピースピットを旗揚げ。2011年、活動の場を東京にも広げる。2019年には、自身が手がけるライフワーク的作品「TRUMPシリーズ」が10周年を迎えた。手がけた舞台作品に「浪花節シェイクスピア『富美男と夕莉子』」、「ムビ×ステ『漆黒天 -始の語り-』」、「舞台『鬼滅の刃』」シリーズ、「舞台『刀剣乱舞』」シリーズなど。ミュージカル「ダーウィン・ヤング 悪の起源」の兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール公演が、7月2日まで上演。また、新作オリジナルミュージカル「イザボー」(作・演出)の上演が2024年1・2月に控える。
ヨシモトシンヤ
大阪府生まれ。音響家。ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業後、関西小劇場を中心に音響の経験を積む。上京以降は有限会社カムストックを経て、2019年に株式会社サクラサウンドを設立。これまで手がけた作品に、「ミュージカル『薄桜鬼』」シリーズ、「ミュージカル『黒執事』」シリーズ、「舞台『刀剣乱舞』」シリーズ、「ミュージカル『ヘタリア』」シリーズ、ムビ×ステシリーズの舞台「GOZEN-狂乱の剣-」「死神遣いの事件帖 -鎮魂侠曲-」「漆黒天 -始の語り-」、「舞台『鬼滅の刃』」シリーズなど。