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石田ひかり×ペヤンヌマキ ひと筋の希望になるような「優しい舞台」を 待望の舞台化『ピエタ』がいよいよ開幕

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左から)石田ひかり、ペヤンヌマキ 撮影:荒川潤

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プロデューサー・小泉今日子が大島真寿美の小説『ピエタ』に惚れ込み、舞台化を切望。当初は2020年上演を予定していたがコロナ禍のため延期となり、その年の秋にリーディングの形で公演を行った。それから3年、いよいよ小泉の念願の舞台『ピエタ』が実現する。

18世紀のヴェネツィア、孤児を養育する“ピエタ慈善院”で、作曲家ヴィヴァルディが少女たちの音楽教育を担っていた史実をもとに描かれた、大人になったヴィヴァルディの教え子たちと彼に縁のある女性たちが織りなす物語。脚本・演出を手掛けるペヤンヌマキのもと、小泉や石田ひかり、峯村リエほか個性輝く実力キャストが揃って、ヴァイオリンの生演奏とともに「優しい舞台」を立ち上げようとしている。スタートしたばかりの稽古場で、石田とペヤンヌが『ピエタ』への思いを語った。

脚本の当て書きとヴィヴァルディにとっての譜面の共通点

──本来2020年に上演予定だった作品で、プロデューサーの小泉さんから企画を持ちかけられたのはそれ以前ということですね。大島真寿美さんの原作小説にもその時に初めて出会ったのでしょうか。最初に読んだ印象はいかがでしたか?

石田 はい、2019年に企画書をいただいた時に、小泉さんから「舞台化をずっと望んでいた作品」と伺いました。あの有名なヴィヴァルディに関するお話、それも史実に基づいていることにまず驚いて、小説を読みました。私はヴェネツィアに行ったことはありませんが、まるでヴェネツィアの景色がわ〜っと目の前に広がったように感じましたし、ヴィヴァルディに関わった、さまざまな運命を背負った女性たちの生きざま、そして終盤のドラマチックな展開に本当に感動しました。舞台化するという前提で読んだので、どうやってやるんだろう!? とワクワクしたと同時に、とても重圧を感じて。小泉さんの熱い思いを聞いていたからこそ、大変なことになった! と思いました(笑)。

ペヤンヌ 私も2019年に、小泉さんから「ずっと舞台にしたいと思っている小説があるんだけど」と渡されて、その時に初めて読みました。18世紀ヴェネツィアの、ヴィヴァルディを取り巻く女性たちの話……と、あらすじだけだと自分とはすごく遠い世界の話なのかなと思って読み始めたのですが、登場する女性たちそれぞれに共感出来る部分があって。あの『四季』で有名なヴィヴァルディが、ピエタという孤児院で少女たちに音楽を教えていたという史実、しかも、そのヴィヴァルディ先生が少女たちに当てて曲を書いていたことが驚きでしたね。ヴァイオリンに秀でた子には、その子の技量に合った曲を即興で当て書きをしていたり。私も普段は脚本を書く時、キャスティングが決まってから俳優さんたちに当て書きをするので、そこはすごく似ているなと。ラブレターのような気持ちで俳優さんに当てて書いているので、ヴィヴァルディ先生にとっても譜面は少女たちへのラブレターだったんだなと思いました。石田さんが演じるヴェロニカはその譜面をずっと探しているのですが、最後の展開は私も感動しましたね。

──小説を読んで、これは舞台に出来る!と。

ペヤンヌ いや〜、難易度高いなと思いました(笑)。ヴェネツィアの街、水路を渡るゴンドラとか、どうやって表現するんだろうと。

石田 まず、ヴァイオリンが大きなポイントですよね。弾くのかな? 誰が弾くんだろう!? と思って(笑)。

ペヤンヌ そう、舞台化と聞いた時に、ヴァイオリンの生演奏というのはやっぱり、小泉さんと共通して考えたことですね。その時に私、ちょうど向島ゆり子さん(本作の音楽監督。演奏者として出演)とお仕事をご一緒していたので、すぐに向島さんの顔が思い浮かびました(笑)。

石田 そうだったんですね! それは運命ですね。

女性たちの身分を越えた絆に焦点を当てたい

──上演台本を作成する際に、どのようなことを意識されたのでしょうか。

ペヤンヌ 女性たちそれぞれのキャラクターと関係性、ここに焦点を当てることを第一に考えました。ヴェネツィアの街を具体的に表出するのは相当大変なことなので、そこは演劇ならではの表現で、抽象的に見せて、どの世界にも、もしかしたら今の私たちにも通じる物語として見せられたらなと。女性たちの身分を越えた絆に焦点を当てたい、その思いがありました。

石田 厚みのある、読み応えのある小説を台本にまとめるのは本当に大変な作業だったと思うんですよね。私、台本を何度読んでも必ず涙が出るんですよ。ここに出てくる詩の一節、「むすめたち、よりよく生きよ」という言葉がとても胸に響いて。リーディング公演の時も私ちょっと涙が出ていたと思うんですけど、本当に、何度読んでも心が震えました。

──稽古場で今、どんな感触を得ていますか?

石田 私にとって本当に憧れの先輩方ばかり、芸達者な皆さんとプロの音楽家の方に囲まれて、学びの多い時間になるなということはもう3年前から思っていて。正直なところ、この時期が来るのが怖かったのもありました。このメンバーですから、すごく楽しみだけれど、怖い。でも始まってみたら、もうやるしかない! と思っていますし(笑)、本当に学びの多い日々です。

asatte produce『ピエタ』より、上段左から)小泉今日子、石田ひかり、峯村リエ 中段左から)広岡由里子、伊勢志摩、橋本朗子、高野ゆらこ 下段左から)向島ゆり子、会田桃子、江藤直子

ペヤンヌ 最初の読み合わせで、ベストキャスティングだな!って思いましたね。机の上で想像しながら書いていたものをキャストの皆さんの声で実際に聞くと、急に魂がこもったように感じて。

石田 そうですね。物語が立体的になる、登場人物がグワ〜ッと動き出す感じがすごくいいですよね。私は笑いが起こるところが、自分が思っていたよりもっと面白く感じました。やっぱり音楽の力って本当に大きいですよね。生の迫力、訴えて来るものがあって。音楽やセット、衣裳やメイクなど、いろんな力が合わさって一気に盛り上がっていく感じが総合芸術の良さだなとあらためて感じます。

──ヴェロニカは、ヴィヴァルディに師事するためにピエタに通っていた貴族の娘です。先に行われた小泉さんと峯村リエさんの対談で、おふたりが石田さんのことを「貴族だ」とお話しされていましたね。

石田 あれは、もう〜!(一同笑)

ペヤンヌ 「本物の貴族だ」って言ってましたよ(笑)。

石田 私も「言っておいたから!」って言われました。台詞にもあるんですよ。「あの子は生まれながらの貴族」とか……、すごく出づらいんですけど(笑)。

ペヤンヌ リーディング公演の時にもう、「あっ、貴族だわ」って思いましたよ。気品があるんですよね。

石田 もうやめてください〜! お姉様方にいじられて、楽しいです(笑)。

──石田さんは、ヴェロニカをどんな人物と捉え、立ち上げようと考えていらっしゃいますか?

石田 最初は私、わりと深刻な感じで台本を読んでいたんですけど、小泉さんやペヤンヌさんから「もうちょっとカラッとしていいんじゃないか」とアドバイスをいただいて。それは私にはなかった発想でしたね。ヴェロニカは貴族であってもいろんな事情を抱えて生きている、その中で、私は“孤独”を強く感じ過ぎていたのかもしれなくて。もちろん根っこには孤独を大事に残しつつ、表面的にはもうちょっと明るく振る舞ってもいいのでは……と言われて、そうだったかもしれないなと。稽古のなかで、いろんなことを試してやってみたいなと思っているところです。

ペヤンヌ 石田さんの演じるヴェロニカは、貴族のおっとりした雰囲気を感じさせながら、そこに芯の強さがあるんですよね。その部分をギャップとして後半に上手く引き出せたら、とても素敵なヴェロニカが現れるなと。石田さんって、本当に純粋な人だなと思うんですよ。

石田 そんなことないですよ〜。

ペヤンヌ え、腹黒かったりもするんですか(笑)?

石田 ハハハ、そういうところもありますよ。

ペヤンヌ でも、真っ直ぐだなあと思って。真っ直ぐさは、なかなか持ちたくても持てない。だから憧れますね。

石田 私は、稽古場でペヤンヌさんが絶対に愛想笑いをしないところがすごいなと思っていて……。(一同笑)

ペヤンヌ 本当ですか!? 笑っている気がするけど……笑っているって気づかれないのか(笑)。

石田 ようするに自然体だと思うんですよ。私自身が愛想笑いをしてしまうタイプだからかも。その場を取り繕うために、よく聞こえないのに笑っちゃったり、四方八方についいい顔をしてしまったり。ペヤンヌさんが真顔で「ああ〜そうですか〜」って(物真似に一同笑)いうところ、淡々としてフラットな感じがして素敵だなって思うんです。そうありたいなって。

ペヤンヌ ハハハ、感情が分かりづらいって人によく言われるんですよ。結構、乗って笑っているつもりでも、地味だから気づかれない(笑)。心ではニンマリしているんです。

「よりよく生きよ」というメッセージにこめられたもの

──プロデューサーであり、エミーリア役で出演もされる小泉さんからは、やはり今、稽古場で並々ならぬ熱意を感じていらっしゃいますか?

石田 まだ一回だけしか立ち稽古をしていないのに、「音楽のタイミングが早かった」とか「この台詞はちゃんとお客さんに向けたほうがいいんじゃない?」とか、すごく冷静に全体を俯瞰して、おっしゃってくださいますね。しかも小泉さんと私、一緒のシーンで、ですよ。私なんてまだ自分の台詞に必死になっている段階なのに、小泉さんはすべてが見えているんだな、本当にすごいなと思います。

ペヤンヌ ステージに立って「こう動くほうがいい」とか瞬時に感覚で分かる、その判断の素早さに、どれだけ場数を踏んで来たんだ!?って驚きが(笑)。私も毎日、勉強させてもらっています。

石田 だけど、やっぱり演出はペヤンヌさんなので、「もう任せるけど、これもあるんじゃない?」って気を配った言い方をされるところも素晴らしいですね。

──この『ピエタ』の物語は、読み手によってさまざまに受け止めるものがあると思いますが、おふたりはどんなことを感じ取っていらっしゃいますか?

石田 私は、それぞれの登場人物に愛を感じるんですよね。愛に溢れて生きた女性たちの物語だなと。ヴェロニカは、ピエタで育ったエミーリアやほかの女の子たちとは生き方が違うけれど、なんとかつながりを持ちたい、ヴィヴァルディ先生にも振り向いてほしいと願った。そうやって一生懸命つながりを保とうとするところはすごく切ないなと思うし、そのつながりが愛なんだなと。

ペヤンヌ やっぱり「よりよく生きよ」という言葉、これに尽きると思います。いろんな境遇の人がいて、側から見たら幸せに思われる方も、美しい方も、才能を持った方も、その人なりに自分の境遇を憐れんでいたり、人知れずコンプレックスを持っていたり。でもその境遇なりにベストというか、よりよく生きていこうよ、といったメッセージがあって。またそれぞれ、誰かの存在が誰かの希望になっていたりする、そういうつながりも素敵だなと思うんです。40代になって日々、友達とのつながりを本当にありがたく感じているので。その感覚は『ピエタ』の世界に通じるなと思いますね。

──観客もまた“つながり”を実感する、そんな心に沁みる演劇体験になりそうです。

ペヤンヌ あまり先に希望が持てない今の時代ですけど、一筋の希望になるような、ご覧になった方がそういう気持ちになれるような舞台を作りたいと思っています。

石田 3年間、待ってくださっていた方もいっぱいいらっしゃると思うので、キャスト、スタッフ一丸となって、優しい舞台をお届けしたいと思います。ぜひ楽しみにしていてください。

取材・文=上野紀子
撮影=荒川潤
ヘアメイク(石田ひかり)=神戸春美

<公演情報>
asatte produce『ピエタ』

原作:大島真寿美(ポプラ社)

【東京公演】
7月27日(木)~8月6日(日)
会場:本多劇場

【愛知公演】
8月9日(水)・10日(木)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

【富山公演】
8月19日(土)・20日(日)
会場:オーバード・ホール 中ホール

【岐阜公演】
8月26日(土)
会場:ぎふ清流文化プラザ長良川ホール

公演公式サイト:
https://asatte.tokyo/pieta2023/

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