Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 【おとなの映画ガイド】抑圧から自分を解放せよ! 西加奈子の短編小説『炎上する君』をふくだももこが映画化。うらじぬのとファーストサマーウイカが体当たりの演技。

【おとなの映画ガイド】抑圧から自分を解放せよ! 西加奈子の短編小説『炎上する君』をふくだももこが映画化。うらじぬのとファーストサマーウイカが体当たりの演技。

映画

ニュース

ぴあ

『炎上する君』 (C)LesPros entertainment

続きを読む

直木賞作家西加奈子×監督ふくだももこ×うらじぬの×ファーストサマーウイカ、この4人の個性が掛け合わさって、すごい映画ができた。タイトルは原作と同じ『炎上する君』。8月4日(金) から、渋谷シネクイント他でロードショーされる。脇を固める役者も、あれ?この人は……と、ドラマ・演劇ツウなら活躍を知る俳優たちばかり。ちなみに、ファーストサマーウイカは来年のNHK大河ドラマ『光る君へ』でなんと清少納言役を演じるそうだ。上映時間は42分。そのわりに濃厚な作品。びんびん圧倒されます。

『炎上する君』

いきなり、ちょっと目のやりばのないシーンから始まる。

場所は高円寺。昼間、高架下の一角で、なぞめいた覆面マスクの女性ふたりが、ぼうぼうの脇毛をみせびらかすように踊り狂う。それにファンとおぼしき若者たちが熱狂している──。なんじゃ、こ、これは。

踊っているのは梨田(うらじぬの)と浜中(ファーストサマーウイカ)。唯一無二の親友だ。映画はふたりが、なぜ、こういうことになっちゃったのか、を描いていく。

場面は高円寺の銭湯「なみのゆ」に転じる。一番風呂の湯船につかったふたり。彼らの至福の時間だ。おかっぱ頭の梨田、湯の中ですらメガネを外さないおさげ頭の浜中、ふたりは、たんたんと会話をしている。

「梨田よ、昨夜の炎上をみたか」。「50代の男性と14歳の少女の真剣な恋愛は本当か、というあれか。笑止! だが、浜中よ……」。

女性蔑視やLGBTQに対する偏見の現実を語る。特に外見至上主義、ルッキズムに対しては心を痛めている様子だ。

会話は、昔風のいい方をすれば「バンカラ」を気取っている、硬派な大昔の学生風。大まじめにやられるとこれはギャグ。小劇場のお笑いコントをみてるようで、かなりおかしい。

ふたりの最近の関心事は、高円寺のあちこちに出没する、足がぼうぼう燃えている男のことである。「足が炎上している男とは、どういうことなのだ。比喩か?」「神か?」「私たちと同様に傷つき、怒っているのか?」「これは、何としても会わなければ」。

ふたりは、高円寺中を、探し回ることになる……。

監督・脚本はふくだももこ。父親が突然女装し母親になる『おいしい家族』(2019)、30代女性の結婚を描く『ずっと独⾝でいるつもり?』(2021) とコンスタントに作品を発表する監督であり、2016年には小説 『えん』で第40回すばる文学賞を受賞した小説家でもある。

ふくだ監督は、「世界中でわたしが一番撮りたいと思っている“うらじぬの”が最も魅力的に映る物語として、敬愛してやまない作家・⻄加奈子のこの作品を選んだ」という。

ルッキズムに傷つく親友同士が、 ⾜が燃えている男の噂を聞きつけ探し始める、という⾻格はそのままに、キャラクターの背景やストーリーを大胆に改変している。ふたりのバンカラ言葉は原作と同じだ。

梨田は人の機微に敏感だ。容姿をイジられているお笑い芸人、同性が好きなことをただの勘違いだと決めつけられているインディーズバンドの女性ボーカル、そして、炎上する君……、そんな抑圧を受ける人の気持ちを察し、「君たちは全然悪くない!」とエールを送り続けるのが、うらじぬの 演じる梨田だ。

その梨田の一途な姿に共感して、君は真の友だ、と行動を共にする浜中。ふたりの、熱血友情シスターフッドムービー。いいねえ。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)LesPros entertainment