英国VS.ロシアの、今そこにある、でも誰も知らない戦争とは!?
『GCHQ:英国サイバー諜報局』特集
英国の諜報機関、と聞いたら、映画ファンなら最初に思い浮かぶのはきっと『007』シリーズのジェームズ・ボンドが所属する「MI6」では? MI6は実際に英国に存在する秘密情報部=海外で活動するスパイ組織で、一方国内で活動する敵国スパイを取り締まる機関が「MI5」だ。英国にはさらに偵察衛星や電子機器を使って国内外の情報収集や暗号解読を担う諜報機関があり、それが「GCHQ」。このGCHQを舞台にした緊迫のサスペンスドラマがいよいよ日本に上陸! あらゆる手を使ってサイバー攻撃を仕掛けてくるロシアに対し、英国の諜報員たちはどう立ち向かうのか!? この特集では、本作の魅力を解説するとともに、あの押井守監督に本作について語っていただきます!
仁義なきサイバー戦争を描く
『GCHQ:英国サイバー諜報局』の魅力
押井守監督が語る
『GCHQ:英国サイバー諜報局』
“GCHQ”っていったいナニ!?
英国の諜報&サイバーセキュリティ機関です!
タイトルの「GCHQ」とは実在する英国の諜報&サイバーセキュリティ機関。正式には「Government Communications Headquarters/政府通信本部」で、その頭文字を取っている。前身は第一次大戦後の1919年、イングランドの東南部に位置するブレッチリー・パークに設立された政府暗号学校。第二次大戦中は、ドイツ軍の難解暗号機“エニグマ”を解いたことで名を知られることになった。このくだりについては、ベネディクト・カンバーバッチがその暗号解読の功労者、数学者のアラン・チューニングに扮した『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(14)に詳しい。
GCHQと改名したのは第二次大戦後の1946年。本庁も現在はグロスター州チェルトナムに置かれている。組織は外務省の管轄だが、首相直属の独立機関。本シリーズの中では首相をはじめとした各政府機関とGCHQの濃密でスリリングなやりとりが描かれている。
驚くほどのリアリティ!
ロシアVS.英国の仁義なきサイバー戦争
本シリーズの舞台は2024年。つまり、すぐそこにある未来で起きる英国VSロシアのサイバー合戦を描いている。この物語が驚くほどリアリティを帯びているのは、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻による情報が私たちの頭と目に焼き付いているからだ。
そのさまざまな報道の中でよく耳にする“フェイクニュース”や“サイバー攻撃”。その実態はどうなのかというひとつの答えが本シリーズには描かれている。優秀な人材のスカウトからハッキング、機密情報のリーク、フェイクニュースの仕掛け方、サイバー攻撃による他国における選挙戦の操作など、ここまで可能なのか!?という驚きがあると同時に恐怖も味わうことができるのだ。
実際、シリーズの中では、GCHQ内部の映像がロシアに筒抜けという描写もある。流血も暴力も兵器も兵士もなく、サイバー攻撃によって人間や社会、さらには国家との信頼関係を揺るがすだけで“戦争”になってしまう恐ろしさ。もっとも新しい“戦争”を知ることができるシリーズなのだ。
サイモン・ペッグの家族もGCHQ勤務!
オスカー俳優マーク・ライランスも好演!
劇場では『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が公開されたばかりのサイモン・ペッグ。コメディ的な演技で人気の高い彼だが、本作では完璧に笑いを封印。未曾有の危機に立ち向かうGCHQの作戦本部長ダニー・パトリックを演じている。ペッグにとって本作が魅力的だったのは、あまりオファーされたことのないシリアスなストーリーとGCHQという要素。というのも彼の叔父ふたりが同組織で働いていて、その存在が身近だったからだという。
その他のキャストは、GCHQの変わり者所員ジョン・イェーブズリーを『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー助演男優賞を獲得した英国の演技派マーク・ライランス。GCHQのインターンで本作の主人公、サーラには、8月11日日本公開予定の全米大ヒット作『バービー』にも出演している期待の新人ハナー・ハリーク=ブラウン。新旧の実力派が顔を揃えている。
Character
サーラ・パーヴィン
(ハナー・ハリーク=ブラウン)
大学の2年生と3年生の間にGCHQの試験を受けて合格。インターンとして働くことになる。家族はバングラデシュ出身で宗教はイスラム教。父親以外の家族にはGCHQで働くことを内緒にしている。クレバーな上に野心もあり、彼女の分析がGCHQを動かすことにもなる。
ダニー・パトリック
(サイモン・ペッグ)
GCHQの作戦本部長。公務員としてキャリアを積んだのちGCHQに着任した。オープンな性格で、上下関係なくいいアイデアや意見は取り入れ、英国首相に対しても物怖じすることなく正直な見解を述べる。家族思いでよき夫、父でもある。
ジョン・イェーブズリー
(マーク・ライランス)
両親ともにGCHQの職員だったこともあり、当人も同組織に就職。妻に先立たれて古びた家に独りで暮らしている。所内では変わり者扱いされているが、孤立しているサーラには共感し休日を一緒に過ごすような仲になる。文法にとても厳しい。
キャシー・フリーマン
(メイジー・リチャードソン=セラーズ)
ニューヨーク生まれのアフリカ系アメリカ人。NSA(アメリカ国家安全保障局)に所属しているが、現在は2年間という契約で英国のGCHQに派遣され、アナリストとして活躍している。サーラとはGCHQ内の数少ない有色人種として仲良くなる。
Comment:ピーター・コズミンスキー監督
徹底的にリサーチしてこの物語を創造した
だからこれは私たちが直面するかもしれない未来なんだ
「私は常々、クリエーターの仕事のひとつとして、あまり知られてない公共政策に光を当てるということがあると考えている。とりわけそれが、今を生きる私たちに大きな影響を与えるのならなおさらだ。そういう考えの中でとても興味をもったのが今回の“戦争”だった。
今でも私たちは、戦争と言えば空軍、陸軍、海軍という考え方をしてしまうけれど、サイバー領域というまったく新しく、非常に活発な紛争領域が存在している。この“The Undeclared War(宣戦布告なき戦争)”(原題)は国家機関によって今まさに行われているにもかかわらず、事実上、誰もそれを知らない戦争なんだ。そこがとても興味深い。
もちろんフィクションなのだが、私たちは徹底的にリサーチしてこの物語を創造した。だから、観た人の多くは、可能性のあるひとつの未来を描いていることに気づくと思う。ということはつまり、これから私たちが直面するかもしれない未来に警鐘を鳴らすシリーズになっているということなんだ」
仁義なきサイバー戦争を描く
『GCHQ:英国サイバー諜報局』の魅力
押井守監督が語る
『GCHQ:英国サイバー諜報局』
『GCHQ:英国サイバー諜報局』(全6話)
【配信】Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」
<字幕版>独占日本初配信中
【放送】BS10 スターチャンネル
<STAR1 字幕版>8月15日(火)より 毎週火曜23時ほか
<STAR3 吹替版>8月18日(金)より 毎週金曜22時ほか
Text:渡辺麻紀