自分の中に灯る“小さな火”を見つめる。監督が語るディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』
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『マイ・エレメント』
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すべて見るディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』が本日から公開をスタートした。本作は、火・水・土・風が暮らす“エレメント”の世界を舞台に、火の女の子エンバーと、水の男の子ウェイドの出会いと交流、ふたりの成長を描いた感動作だ。
監督を務めたのは、少年と恐竜の友情を描いた感動作『アーロと少年』を手がけたピーター・ソーン。彼は本作で自分自身との対話を繰り返し、“自分のすべてをさらけ出す”想いで映画づくりに挑んだという。
ソーン監督は長年、ピクサーのストーリー部門で『ファインディング・ニモ』や『レミーのおいしいレストラン』『ウォーリー』などの作品に参加。2015年に初監督作『アーロと少年』を発表した後、次回作にとりかかった。
監督が最初に追いかけたテーマはふたつあったようだ。ひとつは「作品の世界をより深く描くこと」だという。
「前作の公開前にポスターを発表したら、ファンの方から“今度の映画は地球で恐竜が絶滅しなかった結果……恐竜が街をつくって会社に出かける話なんですね”と言われたんです(笑)。実際に完成した映画はそのような内容ではなかったのですが、映画が描く作品世界をもっと深く掘り下げておけば……と残念に思ったのです」
最新作『マイ・エレメント』の世界は明快で奥行きがある。そこには火・水・土・風のエレメントが暮らしている。水は人のような姿を保っているが、状況によっては排水管を移動することもできる。火は道を歩くときは要注意。うっかり可燃性のものに触れると燃えてしまうことがある。土はいつも身体に植物が生えている。風は空気の流れに乗って自由自在に動く……それぞれに特徴があり、それぞれが自分たちのエリアで工夫をしながら暮らしているのだ。
エンバーはそんな街で暮らす火の女の子。父親の営んでいる店を継ぐことを期待されているが、気が短くてまだ未成熟。なぜすぐカッとなってしまうのか自分でもよく理解が出来ていない。親は娘に無限の愛情を注いでおり、エンバーもそんな両親の期待に応えたいが、なぜかモヤモヤした感覚がそこにはある。
これこそがソーン監督が最初に追いかけたもうひとつのテーマだ。
「自分の親が、私のためにはらってくれた犠牲について考え、そのことに“ありがとう”と言いたい。これは最初から決めていたことでした」
であれば、主人公と親のドラマが中心に据えられるはずだ。創作の過程ではそんな物語も書かれたかもしれない。しかし彼らはその道を選ばずに、彼女の前に心優しい水の青年ウェイドを登場させた。ある偶然から出会ったふたりは少しずつ距離を縮めていくが、火と水が触れ合ったら何が起こるのか……ふたりの関係は近づいたり、離れたりを繰り返す。
本作のポイントは“4つのエレメントが同じ街で暮らしている”という創作者にとって、おいしい設定があるにも関わらず、あえてその部分よりもキャラクターの内面を描くことに時間を割いたことだ。
「そのように観ていただけるのは本当にうれしいです。この映画に登場するキャラクターは火や水などの“元素”なので抽象性が高く、そもそもどうやって暮らしているのか、どうやって動くのかもわからないところからスタートしました。だからこそ、私たちは彼らが“観客が共感できる存在”になることが重要だと思いましたし、アニメーションのエフェクト表現よりも、その内面を観てもらいたいと思ったのです」
劇中には4つのエレメントの生活の様子が楽しく描かれている。火と水が触れ合うとどうなるのかストーリーチームは時間をかけて考えた。しかし、ソーン監督は「それよりも私たちは“彼らに欠けているものが何か?”を考えるようになった」という。
「そのことを考えだしたところで、私たちはより深くキャラクターを追いかけることになりました。この映画では自分自身に問いかけること、自分の中にあった感情に気づくことが重要になりました」
この映画が行きつく場所にあるのは、共感力と思いやり
なぜ、火の女の子エンバーはイライラしてしまうのか? なぜ、相手に対して思っていることをまっすぐに打ち明けられないのか? 観客はエンバーやウェイドと一緒に行動しながら、この疑問を追いかけていく。
「怒りを感じていると、物事がよく見えなくなってしまいますし、世界が分裂したように思えて、周囲のいろんなことが見えにくくなります。でも、自分自身に問いかけをして、自分と対話することで、自分の中にある感情に気づいていきます。このことはストーリーチームやライターたちと何度も何度も話し合いました。
エンバーは火の女の子ですから、時には爆発的になったり、真っ赤で明るい光を放ったりもします。でも、彼女の燃え盛る炎の中には、小さなキャンドルのような火があるのです。彼女はこの物語を通して、自分にはまだ知らない自分がいること、自分の中にある気持ちに気づいていくわけです」
エンバーは自分が何をしたいのかを知るために、周囲の人たちと関わりながら、何度も何度も自分自身に問いかけていく。その過程は、本作をつくるソーン監督自身と重なる部分がある。
「この映画を作り始めた時には、こんなにもパーソナルな作品になるとは思っていませんでした。しかし、映画の制作中に両親がこの世を去ったこともあって、本作はどんどんパーソナルなものになっていきました。言うまでもないことですが、この映画は“私自身の物語”を描いたわけではありません。作品のDNAにパーソナルな要素が組み込まれている、というイメージです。
創作の過程では、どんどん“自分のすべてをさらけ出す”想いが高まってきて、ナーバスになった時もあったのですが、スタジオには私と似た境遇の人がたくさんいて、いろんなエピソードを話してくれました。そこでこの映画では、彼らをリスペクトする物語にしたいと考えるようになったのです」
まず自身と向き合い、自分の中にあるキャンドルのような火を見つめることで、結果として周囲との関わり方を変え、相手とつながることができる。“他人と調整”は重要だが、それよりも先にしなければならない大事なことがある。『マイ・エレメント』はそんな大切なことをそっと教えてくれる。
「この映画が結果的に行きつく場所にあるのは、共感力と思いやりだと思います。エンバーとウェイド、エンバーと両親、街で暮らす4つのエレメントはそれぞれに手を差し伸べなければならないし、自分自身に問いかけなければならない。そして自分の中に共感力を見つけていかなければならないと思うのです」
『マイ・エレメント』
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