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【おとなの映画ガイド】この夏、世界を席巻する『バービー』、実は驚くほど奥深い。

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『バービー』 (C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

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いま、世界で最もホットな作品だ。7月21日(金) に全米公開され、週末興行成績が今年の1位に躍り出た。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』よりも、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』よりもヒットしているだけでなく、早くもアカデミー賞作品賞の声も上がる評価の高さ。アメリカのアイコンともいえるバービーに扮し、プロデュースも担当しているのはマーゴット・ロビー。監督は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ。アメリカでのミーム画像をめぐる話題が物議をかもしているが、いよいよ8月11日(金)、日本でも公開される。

『バービー』

60年以上もの間、おもちゃ、人形の世界の女王的存在であり続けるバービードール。150以上の国で、年間合計9000万体が販売されているという。

映画は、バービーが登場したときの衝撃を表現した映像で始まる。タイトルを聞けばなるほどと思う古典的名作映画のファーストシーンをパロディにしたもの(笑ってしまうほど、よくできている)。それまで、人形といえば赤ちゃんの形をしていて、子どもは母親の気持ちになって可愛がり、子育てを疑似体験して楽しむもの。ところが、バービーは、美しい体の曲線を持つ大人の女性の姿だった。

以来、女性たちの憧れの存在であり、時代にあわせたファッションを取り入れ、様々な役割を“演じ”、「You Can Be Anything(なりたい自分になれる)」というメッセージを発信し続けてきたアイコン。

今回、マーゴット・ロビーがその映画化権を獲得し、グレタ・ガーウィグ監督にオファー、米メジャー映画会社ワーナーに持ち込んで実現にこぎつけた。

脚本も担当したガーウィグ監督が考えたストーリーはこんな風──。

バービーはバービーランドという夢の町に住んでいる。「私たちが幼いころに思い描いたバービーが住むハッピーな世界として描きたいと思った」とガーウィグ監督。

様々なピンク色で彩られたパステルカラーの街。人形たちにはそれぞれのハウスがある。朝起きるとシャワーを浴び(水はでない)、食事をすませ、近所の友人たちに挨拶をする。隣人やお友達も名前は皆バービーで、各々に個性を持っている。オシャレが好きで、さあ、今日は何を着ようか、まずは衣裳替え。クルマもあるし、ボーイフレンドのケンもいる。ハッピーそのものの日々。

ところがある日、彼女の体に異変が起きる。それまでは2階から1階までふわっと宙を舞って移動できる、無重力世界だったのに、なぜか飛べなくなる。ハイヒールを履くため、足元は常につま先立ちの形状だったのに、気付けば床にぺったり付いてしまう。悩んだバービーは、ケンといっしょにその謎を解明すべく“リアルワールド”のロサンゼルスに行くことにしたのだけれど……。

女の子はみんなバービーだ。というわけで、バービーの役は何人もの女優によって演じられている。なかでも典型的なバービーである主人公役がマーゴット・ロビーだ。マーゴットといえば、DCコミックス・ムービー『スーサイド・スクワッド』で演じた、カワイくて極悪のハーレイ・クイン役が当たり、スピンアウトしたシリーズでも大人気を博したアクションもできる名女優。

監督のグレタ・ガーウィグは、シアーシャ・ローナンと組んだ『レディ・バード』(2017) と『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019) が、監督賞・脚本賞を含み、それぞれ米アカデミー賞5部門、6部門とノミネートされるというハリウッド期待の星だ。

バービーランドという、まるで、女の子の頭のなかにあるイメージの世界から、バービーを空間移動させ、現代のリアルワールドにおいてみる。するとどんな化学反応がおきるか。この着想の面白さ。その上でなお、バービーファンにとっても納得のいく展開と世界観が描けるか。監督の狙いは大成功だったといっていい。

注目したいのは、『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングがなりきりで演じたケンの存在だ。現実世界にやってきたバービーとケンは、自分たちが不思議な存在であることに気づく。特に、“バービーの”ボーイフレンドでしかなかったケンが自我にめざめる。

リアルの世界を描くことで、バービー的なるものに対して、例えば、いまの10代の女性がどんな風に考えているかも映し出す。『ゴッドファーザー』をネタにした映画好きへの目配せとか、うまいなあと思う。そして変わっていくケンの姿を通して、オトコ社会をも痛切に皮肉ってみせる。

共感もからかいも含めて「あるある」が散りばめられている。コレクターやオタク心にささる話題や、バービーについての本音もさらっと登場する。英語のニュアンスがすべてわかったわけではないが、アメリカの映画館では、観客は笑いころげていると想像する。日本の映画区分はGだが、全米のレイティングはPG-13(保護者の同伴および助言が必要)。結構きわどいセリフもあるのだ。

日本の男性の映画ファンにとって、バービードールの存在はそれほど関心のある対象ではないと思うが、この映画を観ると、その偉大さ、価値、そして現代アメリカ文化の一端も見ることができる。か~なり深い、発見がある作品だと思う。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.