アメリカデビュー25周年を迎えたソプラノ 森麻季の歌が「愛と平和」を呼ぶ理由
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インタビュー
森麻季
続きを読む森麻季のソプラノ・リサイタル「愛と平和への祈りをこめて」。この呼び名は、森のアメリカでの経験に由来する。
プラシド・ドミンゴ主宰のコンクール「オペラリア」にアーウィン・シュロット、ジョイス・ディドナートとともに入賞。それを機に《後宮からの逃走》のブロンデ役で、日本人として初めてワシントン・ナショナル・オペラで歌ったのは、ちょうど25年前のことだ。以来、森はこのアメリカの首都で、アンナ・ネトレプコとのダブルで《リゴレット》のジルダを歌ったことも。9.11の同時多発テロが起きたときもワシントンにいた。
「スミ・ジョーさんとのダブルで《ホフマン物語》のオランピアに起用されていましたが、ゲネプロ当日にテロが発生し、私が歌う14日は人が集まるところには行かないようにとニュースで呼びかけていました。実際、劇場はホワイトハウスやペンタゴンに近く、まだ危険な状況にありましたが、アメリカにはテロに屈しないという強い姿勢があって、翌日には劇場が開いたんです。でも、お客さんは来ないんじゃないかと思いながら、みんなで円陣を組んで、一人でもお客さんがいたら悲しい状況を一瞬でも忘れてもらおうと言っていたら、14日はほぼ満席で。多くの方が『芸術が平和を呼ぶように』というステキな言葉をかけてくださり、それから自分が歌う姿勢が変わったな、と思います」
3.11の東日本大震災でも同様の経験をした森は、「音楽には心に寄り添う力がある」と強く感じて、震災の半年後、初めて「愛と平和への祈りをこめて」を開催した。
13回目となる今年はとりわけ、森の「これまで」と「いま」、「これから」が詰まっている。
「いままでよく歌ってきたものを中心に、成長したところもお見せできるかと。前半は恒例の〈アヴェ・マリア〉に加えて、聴く機会は少ないですがとても美しいレーガーの〈マリアの子守歌〉も歌います。ブラームスの《ドイツ・レクイエム》もリサイタルではあまり歌われませんが、美しく、詩の内容もステキで、このあたりは『愛と平和への祈りをこめて』の趣旨に沿っています」
そして後半は、ドニゼッティの《シャモニーのリンダ》や《ランメルモールのルチア》、ヴェルディの《椿姫》から、聴き応えのあるアリアが並ぶ。
「昔は、声が軽く細かいパッセージを動かすことも得意だったので、これらの曲をラクに歌えた半面、中音域は出ないし、技術的にも不足がありました。いま時間が経過して、声も成長して表現の幅が広がり、以前より頑張らないと歌えないところもありますが、全体としては、やっと自分でも充実感をもって歌える声と技術が備わったと感じています。それを聴いていただければと思います」
声を保つことを意識しながら、「音量よりも音質」にこだわって、「美しい声でやわらかく歌う」ことをめざしている森。そうやって歌唱を磨き上げ、聴く人の「心に寄り添う力」を帯び、「平和を呼ぶ」力になろうとする。そんな志に深い共感を覚える。
取材・文:香原斗志
愛と平和への祈りを込めてVol.13
森麻季 ソプラノ・リサイタル
9月10日(日) 14時開演
東京オペラシティ コンサートホール
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343537
曲目・演目
グノー(没後130年):歌劇「ファウスト」より 宝石の歌
バッハ=グノー(没後130年):アヴェ・マリア
レーガー(生誕150年):マリアの子守歌
マスカーニ(生誕160年):アヴェ・マリア
ブラームス(生誕190年):「ドイツ・レクイエム」より あなた方は、今は悲しんでいます
レハール(没後75年):喜歌劇「メリー・ウィドー」より ヴィリアの歌
* * *
ドニゼッティ(没後175年):歌劇「シャモニーのリンダ」より この心の光
ドニゼッティ(没後175年):歌劇「ランメルモールのルチア」より あたりは静けさに包まれ
中田喜直(生誕100年) :さくら横ちょう
ヴェルディ(生誕210年): 歌劇「椿姫」より あぁ、そは彼の人か~花から花へ
※なお、当日曲目変更の可能性がございます。予めご了承ください。