Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > “手”で触れられるような映画に。グレタ・ガーウィグ監督が語る映画『バービー』

“手”で触れられるような映画に。グレタ・ガーウィグ監督が語る映画『バービー』

映画

インタビュー

ぴあ

グレタ・ガーウィグ監督(写真右)

続きを読む

フォトギャラリー(6件)

すべて見る

『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ監督の最新作『バービー』がいよいよ公開になる。

本作は世界中の子どもたちを魅了し続けているバービー人形をモチーフにした作品で、予告編では主演のマーゴット・ロビーが、クラシカルなバービー人形のように“つま先立ち”しているカットが登場するが、完成した作品では足よりも“手”が重要なモチーフとして繰り返し描かれる。「手で触れられるような映画にしたかった」というガーウィグ監督に話を聞いた。

1959年にアメリカの玩具メーカー、マテルが発売したバービーは、ルース・ハンドラーが生み出した着せ替え人形だ。子どもたちはバービーを使って遊び、服を着せ替えたり、髪型を工夫したりしながら“自分が素敵だと思うスタイル”や“なりたい自分”を見つけていく。その人気は衰えることはなく、これまでに10億体、いや、10億人以上のバービーが世界中の子どもたちと時を過ごしたという。

「私は子どもの頃から人形で遊ぶのが大好きだったのですが、私の母は『バービーは子どもに良い影響を与えない』という考えでした。ですから、私が遊んでいたバービーはすべて近所の子どもの“おさがり”だったんです」と振り返るガーウィグ監督は、俳優として活動する一方で、優れた脚本家、監督として多くの映画ファンからの信頼を集めている才人だ。誰もが知る”人形”をモチーフにどんな映画をつくるのか? 創作を始める上で彼女は改めて“子どもが人形で遊ぶこと”の意味を振り返ったという。

「改めて考えると、人形はとても興味深い存在でした。というのも、世の中はとても進歩したというけれど、現代の子どもたちはいまも人形で遊んでいて、時には自分自身を人形に投影したりしているわけですよね? その光景ではある意味では“中世っぽい”とすら感じるんです(笑)。

どんなに時代が変わっても、私たちはアイデンティティを模索する中で人形に自分を投影したり、人形で遊びながら自分の中にある怒りに気づいたりもする。その行為は、現代的ではないかもしれませんが、とても“豊かな”ことだと思えたのです。そこが本作の創作のスタートでした。

もうひとつ考えたのは、バービーという存在を“善”であり、同時に”悪”として考えたら面白いんじゃないか? ということでした。白でも黒でもない、いや、白と黒が混沌としているグレーな場所。そんな場所をこの映画ではあえて描きたいと思ったのです」

ガーウィグ監督のように子どもの頃にバービーで遊んだ人もいる。一方で、彼女の母のようにバービーは悪だと考える人もいる。その両方が本作のキャラクターに落とし込まれた。

本作の冒頭に登場するのは、子どもたちが大好きなバービーが暮らす”バービーランド”。そこではバービーたちが毎日、爽やかに目覚め、最高の気分でボーイフレンドのケンと遊んだり、バービーたちでパーティを開いたりしている。しかし、ある日、ひとりのバービーは自分の異変に気づく。ある朝から自分が“完璧”なバービーではなくなっていたのだ。この謎を解明するため、彼女は人間の暮らす世界に旅立つ。

劇中に登場する“バービーランド”は、人間の子どもたちが遊んでいるバービーの世界をメタフィクション的に描いたものだが、スタジオにセットが建てられ、可能な限りCG技術を使わずに撮影が行われた。

「1950年代のスタジオ時代の映画や、セットで撮影されたミュージカル映画を意識していました。どこまでも広がる空間ではなく、ちゃんと壁があってそこには背景が描かれているイメージです。ヴィンセント・ミネリの映画や、『雨に唄えば』『オクラホマ』……屋内的であることを意識しました」

映画の黄金時代、映画界は巨大なステージにセットを建て、夢のような世界をいくつも描き出した。ジャック・タチを思わせる巨大なセット、バズビー・バークレーを連想させるダンスシーンなど、本作は往年の名作映画のトーンや手法が大胆に導入されており、撮影監督を務めた名手ロドリゴ・プリエトは本作では得意とする荒々しいタッチや鮮烈なイメージではなく正攻法で物語を語っていく。

「ロドリゴは“イノセント”と呼んでいましたが、俳優を隠れた場所から撮るのではなく、正面から撮るように彼と話し合いました。そして映画の冒頭では華麗で、まるで踊るようにカメラが動き、物語が進んでいくに従って、だんだんカメラワークが乱れていく……そんな語りになっています。

私もロドリゴも、創作する上では何かしらの制限を設ける方がアプローチがしやすいんです。だから車の中のシーンではロケ撮影ではなく、撮影した背景を車の後ろに投影するリアプロジェクションを使って撮影したり、ミニチュアを使って撮影をしました」

“かつて子どもだった”すべての観客へ

グレタ・ガーウィグ監督

なぜ、本作はそこまでアナログで、実物にこだわった撮影手法がとられたのか? 理由は“手”だ。本作では繰り返し“手”に関するモチーフが登場する。子どもたちはバービー人形を手を動かして遊び、着せ替え、理想のスタイルを探っていく。バービーは“箱の中に入っている状態”ではダメなのだ。

「そのことはすごく考えていました。人形というのは手で触れて遊ばなければ、私たちの考える“人形”ではないと思いますし、その感覚がこの映画をつくる上での最大のガイドになりました。だからこそこの映画ではセットを建て、物理的に触れるものを揃え、“手で触れられるような映画”にしたかったのです。

それから劇中に何度も“手”に関するモチーフが登場するのは、ルース・ハンドラーがバービーを生み出した瞬間を映画の中で表現したかったからです。触れることで命が吹き込まれる。旧約聖書で神がアダムに生命を吹き込むために手をのばす場面のように、手から命が吹き込まれるイメージがずっとありました」

本作では、人間の世界に向かったバービーが幸福なバービーランドで暮らしていた時からは想像もしなかったトラブルに巻き込まれ、自分自身の存在について迷い、試行錯誤を繰り返す。その光景は、子どもたちが手で玩具に触れながら、ああでもない、こうでもないと試行錯誤する姿と重なる。

本作は、過去にバービーで遊んだことがなくても、あなたが過去に“女の子”でなかったとしても、生まれてから一度でも“遊んだ”経験があれば楽しめる映画だ。

「この映画は男性とか女性とか、過去にバービー触れたことがあるか/ないかに関係なく楽しんでもらえる映画だと私も思っています。

私はこの映画は、私たちが遊びを通じて、どのように自分自身を形成していくのか描いた作品だと思うのです。私には息子がいるのですが、彼も人形で遊んでいます。彼は“アクション・フィギュアだ!”って言うんですけど、あれは人形ですよね(笑)。息子を見ていると、自分が子どもの頃に人形に手で触れて遊びながら、自分を形成していったのと同じ過程を見てとれるんです」

誰だって生まれた時から最高の自分じゃない。誰もが人形で遊びながら最高の自分を思い描くように、トライして、失敗して、再びチャレンジして答えが出ないことに呆然としたりする。映画『バービー』が描くこの感覚は、すべての“かつて子どもだった”観客のハートを掴むだろう。同時に、この感覚は、ガーウィグ監督が他の作品でも描き続けてきたものだ。

「確かに、大人の感性と子どもの感性を一度に掴み取ろうとする感覚は私のすべての作品にありますね。意識しているわけではないのですが、少し客観的に振り返ってみるとそうですね。『レディ・バード』は表面的にはハイスクールムービーだと思われていますが、あの映画は実は“母親の話”ですよね。『ストーリー・オブ・マイライフ…』は子どもたちの映画に見えているかもしれませんが実は“大人が幼かった頃”の話なんです。

『バービー』では、子どもたちが人形で遊ぶ時のリアリティ、そこにある神話的な力を掘り下げた映画だと思っています」

映画『バービー』
8月11日(金・祝) 公開

(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

フォトギャラリー(6件)

すべて見る