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裁判、それ自体もひとつの“事件”。名作を現代によみがえらせる『連続ドラマW 事件』で椎名桔平が法廷に立つ

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椎名桔平 撮影:川野結李歌

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20代の女性が刺殺体で発見される。殺人及び死体遺棄の容疑で逮捕されたのは、19歳の男性。元裁判官の弁護士・菊地が彼を弁護することになるが、やがて法廷では意外な事実が次々と露見し……。大岡昇平の裁判小説を、WOWOWにて連続ドラマ化した『連続ドラマW 事件』。1978年製作の映画版をはじめ、過去にも映像化されてきた名作が、裁判員裁判制度が導入された令和の時代によみがえる。事件の裏にどんな真実が潜んでいるのか? そもそも、“真実”とは何なのか? 主人公の菊地を演じた椎名桔平に話を聞いた。

この裁判は主人公・菊地にとっては自分との戦いでもある

──原作小説があり、過去に映画化やドラマ化もなされている作品ですね。

椎名 今回に関しては、別物だと捉えて臨みました。そもそも“令和の『事件』を作る”というところから始まったプロジェクトですし、原作や過去の作品とは時代設定が違い過ぎます。緻密に構成された原作小説を、裁判員裁判や少年法の変化といった現代の状況にどう合わせるか、今求められるエンターテイメントとしてどう成立させるか。そのあたりがしっかり練られた脚本で、「これは面白いな」と思わされました。

──やはり裁判員裁判制度の存在は大きな違いに?

椎名 裁判員裁判となると、弁護士さんは裁判員に向かってアピールしなきゃいけない。言ってしまえば、舞台に立っているような感覚も出てきます。「こうでしょう?」「ここはよく聞いてくださいね!」と、芝居がかった振る舞いも時には必要で。演出の水田(成英)監督も、その描写にすごくこだわっていらっしゃいました。「このシーンでは裁判員を味方につけるような言い方をしてください」なんて指示もありましたね。

──その点、椎名さん演じる弁護士の菊地は、機知に富んだ弁舌の持ち主です。一方、裁判官時代の苦い過去も抱えていて……。

椎名 菊地には払拭しきれない過去があり、彼にとっては過去を乗り越えようとする再生物語にもなっています。事件を起こした人間だけでなく、人は誰しも失敗や間違い、後悔を抱えて生きていますから。あのときこうすればよかった、あのときに戻れたらあんな選択はしないのに……ということがある。恋愛のことじゃありませんよ(笑)。

ですが、それに気づけず、次の一歩をなかなか踏み出せないのも人生。菊地も5年間悩んでいるんです。裁判官を辞め、法曹の世界から去ればよかったんだろうけど、どこかしがみついている。もう二度と人を裁くのは真っ平だと思っているにもかかわらず。そんな彼が青年を弁護することになり、その過程でいろんなことをよみがえらせていく。この裁判は菊地にとって、自分との戦いでもあります。

──悩む菊地の姿が、“人が人を裁くこと”を問いかけているようにも思えました。

椎名 難しいですよね。今の裁判の在り方が最終形なのかというと、そうでもない気がしますし。例えば人間の力を介入させず、AIが裁くのも不条理な気がします。決定権を持つ少数だけじゃなく、もう少し広げた中で意見交換して客観的な判決を下す裁判員裁判が現段階におけるベターな手段なんでしょうけど、裁判官も裁判員も人間ですから。偏見を持つこともあれば、勝手な印象を持つこともあると思います。

何が公平で、何が客観的なのか。人が変われば判決も変わってくるし、判決を受けた人の人生も変わってくる。「裁判もひとつの事件なんだ」という菊地の台詞に、それが集約されている気がします。

リアルなセットでリアルな感情をぶつけ合う。これに勝るものはない

──WOWOWの「連続ドラマW」と椎名さんの付き合いも長くなってきましたね。

椎名 今ではNetflixやAmazonも良質なドラマを作っていますが、「連続ドラマW」はそのはしりとも言えるんじゃないかなと思います。20周年を迎え、熟成されてきた感もありますし。こういった(広告が入らない)コンテンツになると表現の自由も利きますし、扱うテーマの範囲も広げられます。表現者として、制作する側として、視聴者として、幅が広がるのはいいことだと思います。

──準備や撮影にも時間をかけることができましたか?

椎名 そうですね。1年近く前じゃなかったかな……? 出演のお話自体は随分前にいただきましたし、撮影の半年ほど前には脚本も完成していました。連続ドラマには珍しいスケジュールですよね。何か疑問点があれば、やり取りをしながら修正することもできて。実際、随分とやり取りさせてもらいました。よりよいものを皆さんにお届けするには、時間があるに越したことはないですよね。これでよいものができなかった日には……。

──すっごく面白かったです。

椎名 よかったです。僕の前だから言っているわけじゃないですよね?(笑)

──本当に面白いドラマだと思います。法廷シーンも、事件の真相に迫るシーンも見応えがありました。

椎名 法廷シーンはやっぱり一番の見どころだと思います。法廷で謎解きが始まり、その真相を回想シーンで伝える構成ですが、緊張感がずっと続いていて。セットもリアルですしね。僕が傍聴させていただいた霞が関の法廷と比べても、「どっちが本物なんだろう?」というくらい。その場に立つ出演者たちも、役の人物にしか見えませんでした。

それも十分な準備期間があってこそで、皆さんいろいろ考えてきていたと思うんです。過去の映画を見たり、原作を読んだりもして。だから本当にもう、皆さんの芝居が面白くて。それを役としてどう受け止め、どう投げ返そうかと考える時間が何より楽しかったです。リアルなセットでリアルな感情をぶつけ合う。これに勝るものはありませんから。

──役者冥利に尽きる時間だった?

椎名 そう言えますね。でも、大変ですよ。仕事じゃなきゃ絶対に覚えられない分量の台詞を覚えて。これだけの物覚えを勉強で生かせていたら、成績はもっと良かったはず(笑)。

──でも、大変さも伴う作品に惹かれるんですね。

椎名 やりがいは感じますね。あとは、鮮度を求める気持ちも大きいです。役者って不思議なもので、過去にやったような役と、例えば同じ職業の役でも全然違うなと思えるものを自然と測れるようになるんです。もちろん、全く同じ役なんてものはないんですが、物語に沿った歩み方を含め、「前にやったな……」と感じるものは今ひとつ面白くない。あくまで、自分の中での鮮度なんですけど。

──何を面白いと感じるかも、その都度変化するのでは?

椎名 そうですね。30代、40代、50代とやってきて、簡単に言うと、若いときと今とでは解釈の仕方も当然変わります。人間に対する理解力も、社会に対する理解力も。そうすると、面白いと思えるものも変わってくるわけで、若い頃に面白いと思えたものが今は面白く感じない場合もある。

例えば、若いときは望んで残虐な描写に挑戦することもありましたし、人を殺めたり騙したりすることの爽快感みたいなものを表現してみたい欲求に駆られることもありましたが、今はあまり惹かれなくて。あっ、でも、そんな時代劇には最近出ましたね……。年齢を重ねるって、そういうことでもあるのかもしれません。

取材・文:渡邉ひかる
撮影:川野結李歌
ヘアメイク:石田絵里子
スタイリスト:中川原寛(CaNN)

<作品情報>
『連続ドラマW 事件』

WOWOWにて毎週日曜22:00 放送・配信(全4話)
第1話無料放送【WOWOWプライム】【WOWOW4K】
無料トライアル実施中【WOWOWオンデマンド】

■出演
椎名桔平

北香那、望月歩、秋田汐梨、高橋侃/ふせえり、貴島明日香、中村シユン、仁村紗和

入山法子、堀部圭亮、いしのようこ/永島敏行/髙嶋政宏 ほか

原作:大岡昇平『事件』(創元推理文庫刊)
監督:水田成英
脚本:三田俊之、保木本真也
音楽:横山克

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