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東野圭吾ミステリーの傑作が溝口琢矢主演で帰ってくる 舞台『仮面山荘殺人事件』インタビュー

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左から)舞台『仮面山荘殺人事件』脚本・演出の成井豊、出演の溝口琢矢、畑中智行   撮影:荒川潤

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製薬会社社長の森崎が所有する別荘に、一家と彼らに所縁のある者たちが集まっていた。そこへ逃亡中の銀行強盗が侵入、彼らを軟禁する。緊迫した状況のなか、ひとりが殺された。しかも、現場の状況から犯人が銀行強盗でないことは明らか。いったい誰が、なんのために……?

1990年に出版された東野圭吾の傑作ミステリーを成井豊が舞台化したのは、2019年のこと。舞台は好評を博し、韓国での上演も実現。ソウルでの公演は2か月のロングランを記録した。舞台空間の広さを活かしたセットや韓国人キャストの熱演など、ソウル公演の素晴らしさを目の当たりにした成井は「もっと面白いものを創る」と闘志がわいたという。

その想いを再演として昇華するにあたって、主人公・樫間高之を託したのが溝口琢矢。2020年に成井演出の『かがみの孤城』に出演した彼を、成井は「みんなのアイディアをまとめて僕に伝えてくれたりして、すごく頼りになった。高之という役はもう少し年上の俳優のほうが良かったのかもしれないけど、溝口くんなら演技力で充分カバーできるのでお任せすることにしました」と語り、信頼の厚さを感じさせた。

その溝口も、今作への出演は「嬉しい」という。「一役者として、成井さんにとって大切な作品に使っていただけることが光栄です。全力でぶつかって、稽古場でいろいろとほめられたり怒られたりしながら創り上げていきたい」と意欲を語った。高之という役柄については「いわゆる“好青年”。真面目に好青年を追求していきたいと思います」と、温厚な青年が事件に巻き込まれていく姿をどう演じるのか、期待させてくれる。

そして銀行強盗のジンを演じるのは、成井が率いる劇団キャラメルボックスの畑中智行。ただひとり、初演に引き続いての出演だ。山荘に侵入して高之たちを軟禁する一方で、彼らの事情、そして山荘で起こった殺人に興味を示し、途中からは謎を探る役回りすら担うユニークな人物であるジン。成井によれば、「人質になった人数のほうがずっと多いから、いくら銃を持っていても隙を見てねじ伏せればよさそうなもの。でもジンが敏捷に動き回って常に周りに目配りしているから、手が出せない。畑中は全身がバネみたいで敏捷に動き回るので説得力が出る」という。

畑中自身は初演を「原作が本当に面白くて成井さんの脚本も素晴らしいので、プレッシャーは大きかった」と振り返る。だが原作者である東野が観劇した際、「強盗のふたりが特に良かった」と畑中と初演のタグ役・オレノグラフィティを評価してくれたため「僕と成井さんで『やったぜ!』って大喜びした」ことが印象深いという。再び演じることになったジンについては「銀行強盗なのに結果的に探偵役になる。いわゆる記号的なヒール(悪役)ではなく、ひとりの人間の中にいろいろな要素があることが面白いですね。相棒のタグが劇団員の三浦剛になったので、ふたりのかけ合いも楽しみ」と語った。

極上のミステリーでありヒューマンドラマ

成井自身はこの『仮面山荘殺人事件』において、主人公・樫間高之に強い思い入れがあるという。「もし僕も同じ状況だったら、同じことをしちゃうだろうって共感できる。だからこそ『こういう樫間が見たい』というイメージがあるし、溝口くんにもいろいろ言わせてもらう」と稽古開始前からかなり高いハードルを予告した。

一方ジンについては「畑中のことは20歳ぐらいから見てますから、もう長い付き合いです。この数年でだいぶ貫禄がついたので、稽古開始までにどれくらい体を絞ってくれるのか期待しています」と肉体面での要求も。これには畑中も「大きな命題ができてしまった」と苦笑い。とは言いながらも、きっと本番までにはジンに似つかわしい肉体に仕上げてくることだろう。

成井が東野圭吾の小説を舞台化したのは、これが3作目だ。東野の小説のほとんどを読破し、映像化作品も極力チェックしているという彼はその魅力を「緻密な言葉のリアリティーによってストーリーの面白さが形作られている」ことだとする。だからこそ「なるべく原作の言葉を使って、余計なものは付け加えない。東野さんの言葉を活かせば自然と面白くなる」と確信しているのだ。

だが舞台という別の形で表現するにあたって、それは簡単なことではない。だからこそ畑中も「成井さんの脚本は、原作の言葉をもってくるにしても忠実に引き出しつつすごくバランスが取れていて、なおかつ舞台としての構成が素晴らしい」と太鼓判を押した。

その原作を、今まさに読んでいる最中だという溝口。「もちろん成井さんの脚本も読みましたけど、原作の中に散りばめられていることはたくさんあるはずなので、ひとまず原作を読もうと思って。あと今回僕が心しておきたいことは、事前にあまり演技プランを準備しすぎないこと」という。それは以前出演した舞台の演出家に、あらかじめ自分の頭の中で考えた演技をなぞるだけでは意味がないというような厳しい指摘を受けてから自戒していること。「芝居は共演者と一緒に創るもの。例えば今回の『仮面山荘』でいえば、ジンさん(畑中)がセリフに合わせてどう動くのか、僕の頭の中で想像するのは無理」だと、稽古場で皆で創っていく芝居を大切したいという意識を伺わせた。

これには成井も「いい役者が集まれば集まるほど、いろいろな可能性が見えてくる」と同意。彼らがどのような芝居を創りあげるのか、楽しみしかない。

さらに作品そのものの魅力を、畑中は「山荘の中の状況を見ながら、劇中のキャラクターと同じようにお客様も何が起こっているのかわからなくて、戸惑ったり疑ったり考えたりすると思います。ある意味、お客様が最後の出演者なんですよね。そういう一緒に参加していただけるような臨場感のある作品なので、決して損はさせません」と語り、来場を呼びかける。

一方溝口は、序盤は特にコミカルであり、そこからクライマックスへと至る緩急の見事さを口にする。「初演の映像を見て、こんなに笑えるところがある作品だとは思っていなかったので驚きました(笑)。ワンシチュエーションで舞台もセットも動かないミステリー作品というと、もしかしたら文学系の堅苦しいイメージを思い浮かべる方もいるかもしれません。でもこの作品はすごくわかりやすいし、楽しく見ていただけると思います。だから僕もストレートに演じたい」とまっすぐに取り組むことを明言した。

そして成井はフィクションである芝居の中に込めた“役者が見せる感情のリアリティー”こそが大切だという。「ほとんどの役者が出ずっぱりなので休めないし、みんなで呼吸を合わせていかなきゃいけないから、相当大変な芝居です。でも苦労した挙句にちゃんと芝居が決まれば、お客様がみんなびっくりするし、感動もあるはずなんですよ。東野圭吾さんの作品は、トリックも人間ドラマもすごいですから。ドキドキするだけじゃなく人生に響くような言葉や感情、人に出会うことができる作品です。ぜひ劇場にいらしてください」

ぜひ劇場で、ハラハラしながらこの事件の目撃者となっていただきたい。東京・サンシャイン劇場にて10月11日(水)~15日(日)、その後大阪公演あり。

取材・文:金井まゆみ 撮影:荒川潤

<公演情報>
舞台『仮面山荘殺人事件』

原作:東野圭吾(講談社文庫)
脚本・演出:成井豊

出演:
溝口琢矢 / 清水由紀 / 畑中智行(キャラメルボックス) / 三浦剛(キャラメルボックス) / 原口健太郎(劇団桟敷童子) / 岡田さつき(キャラメルボックス) / 森めぐみ(キャラメルボックス) / 瀧原光(NORD) / 稲田ひかる / 北見翔(GROUP THEATRE) / 上ノ町優仁 / 松崎浩太郎 / 南木春香

【東京公演】
2023年10月11日(水) ~ 10月15日(日)
会場:サンシャイン劇場

【大阪公演】
2023年10月18日(水) ~10月19日(木)
会場:サンケイホールブリーゼ

チケット情報
https://w.pia.jp/t/kamensansou/

公式サイト
https://napposunited.com/kamensansou2023/

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