ソウル・フラワー・ユニオン 中川敬、ロックンロールを続ける意義「一人ひとりの物語を歌いたい」
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ソウル・フラワー・ユニオンが、ニューアルバム『バタフライ・アフェクツ』をリリースした。前作『アンダーグラウンド・レイルロード』より約4年。前回に続き、リアルサウンドでは音楽評論家の小野島大氏を迎え、中川敬にインタビューを行った。今作は、ドラムにJah-Rahが加入した、新生ソウル・フラワー・ユニオンとしての作品。新体制の経緯から制作について話を聞く中で、改めて中川が考える自身の歌、バンド、ロックンロールについての思いを聞くことができた。(編集部)
音楽がより日常化した
ーー4年ぶりの新作です。
中川敬(以下、中川):去年、自分の4作目のソロアルバム『豊穣なる闇のバラッド』(2017年)を作り終わって、腰を痛めたりしながら最後の3カ月で40本くらいライブをやってる最中、とにかく来年、2018年1月から、まったく白紙からソウル・フラワー・ユニオンの曲を書き始めよう、と。一切、録り溜めたり、書き溜めたりしてた歌詞やメロディを使わずに。
ーーじゃあストックは一切なし?
中川:ストック使用は今回一切なし。で、年内にアルバムを出すと。これが達成できたら、そういうタイムスパンでバンドのフルアルバムを出すのはニューエスト・モデルの『クロスブリード・パーク』(1990年)以来やな、と。これを自分に課そうっていう感じで作ってきたから、今完成したところで、今作がどんな作品なのか自分でも客観的によくわかってないところがある。
ーーなぜそういう作り方にしようと思ったんですか?
中川:2011年以降、自分のソロアルバムを4作作って、その間にソウル・フラワー・ユニオンとしては『アンダーグラウンド・レイルロード』(2014年)しか出してなくて。その間にメンバーも変わったしね。なので、違う意気込みで、新しいバンドを作ったみたいな気持ちで取り掛かろうかな、と。だから曲をまったく白紙から、一から書こう、と。新バンドのファーストアルバムを作るような気概の中に自分を置いてみる、という感じ。
ーー前作の話を聞いたときも、心機一転というか、ここから新しいソウル・フラワーが始まるみたいな話を聞いたような気がする。
中川:あの頃はベースの阿部光一郎が入ったところでね。あそこから始まってるような気はすんねんけど、ただ、さあ始めるぞ! と思ったらメンバーが抜けてしまったからね(伊藤考喜(Dr)が脱退)。田舎の親の面倒をちゃんとみたいから抜けたいと。
ーーなるほど。そこから立て直しに少し時間がかかった?
中川:でもまあ、若い頃のメンバーチェンジほどバタバタはしなかったよ。俺も弾き語りで全国を回りながら、どこかにいいドラマー落ちてないかな~みたいな感じで下を見ながら歩いてたから(笑)。考喜も後任が見つかるまではちゃんとやるって言ってくれて。考喜には、辞めるって言い出してから2年ぐらい叩いてもらったかな。で、Jah-Rahと出会った。
ーー彼が入って変わりました?
中川:かなり大きく。最高のロックンロールドラマーやった。
ーーああ。そういうドラマーだから雇ったんじゃなくて?
中川:基本的にうちのリズムはハチロク(6/8拍子)が多くて。あと、2ビートや4ビート系であったり。そういうのをずっとやってるドラマーって俺らの同世代ではあんまりいないんよね。奥野(真哉)なんか俺よりもセッション仕事をたくさんやってて、東京のミュージシャンも多く知ってるから、ドラマーの名前をガンガン出してくれるかなと思ったんやけど、ソウル・フラワー・ユニオンでやれるドラマーは日本にはいないんじゃないか、とか言ってるし、全然名前も挙がらないし、正直、始めの1年ぐらいはかなり困っててね。かといって、歴々たるベテラン勢、10ぐらい年上の小野島くんぐらいの世代の人って何かややこしいやん(笑)。そういう世代の熟練ドラマーとやるのもしんどいなと思って、気ばっかり使わなあかん、この俺が(笑)。地方を弾き語りで回ってね、各地の友人にぼやくわけですよ。どっかにええドラマーいいひんかな? ソウル・フラワーで叩けそうなヤツ、知らん? みたいな。そこで2、3回、Jah-Rahの名前が出てきてね。そんな中、あるとき、CHABOさんの麗蘭を見に行ったらJah-Rahが叩いてて、ふーん、ええドラマーやん、みたいな。ピアスちょっと入れすぎやけど(笑)。それで各地で出てくるその名前と、ドラムスタイルが一致した。元THE EASY WALKERSっていうことで、元SHADY DOLLSの高木克に、一回会ってくれって言って。「どうせツレやろ?」「うん、友達だよ~」(笑)。金にならへんバンドやけど夢があるバンドなんだよね、ってちょっとJah-Rahに言ってみてくれへん?みたいな。
ーー(笑)。なるほど。
中川:で、高木克がJah-Rahに会ってみると、Jah-Rahのほうも興味を持ってるみたいな感じがあったから、じゃあ1回セッションしましょうかと。それが2016年の春。そこから徐々に。正式に入ったのは去年2017の年始やったね
ーー私が新生ソウル・フラワーのライブを初めて見たのが2017年の7月でしたが、確かに彼が入ってバンドがぐっとエネルギッシュに、開放的になった印象です。彼のスタイルにバンド全体が引きずられたっていうところもあるわけですか?
中川:そうやね。2017年は、ベースの(阿部)光一郎も入ってまだ3年ぐらいやし、俺はリズム隊の傾向を見定めてるみたいな1年間。その1年前の2016年がニューエスト・モデルの30周年で、ニューエスト・モデルの曲をたくさんやったりとかしてた。新しいリズム隊になってからも、ソウル・フラワー・ユニオンの代表曲をやったりとか、期せずして2016年と2017年がこの30年強の間に俺が書いてきた楽曲をたくさんやる2年間になったんよね。そういう中で、Jah-Rahは一体どういうタイプの楽曲で光るんやろうな、っていうのをずっと探ってた。
ーー彼ができることとできないことみたいな?
中川:もちろんじっくりと取り組めば何でもできるとは思うけど、パッとやりたいからさ。あと「見定める」っていうのは、「出来る出来ない」の話じゃなくて、クセやスイング感のような部分で。そんな中、自然と俺の中でも、10代の頃にかなり聞いてたロックミュージックやノーザンソウルのほうに立ち戻ることにもなったというか。
ーーでもそれは正解だったというか、かえって焦点が絞れたかんじ。
中川:それもあるし、考え方もシンプルになってる、今、俺は
ーーみんな感じると思うけど、今作はニューエスト的な音になってる。前作もちょっとニューエストっぽいところがあって、中川敬自身がそういうモードになってるのかなと。
中川:あんまり考えないと、こうなるみたいな部分もあるねんけどね。結局自分のオハコというか、お里が知れるというか。モッズミュージックが大好きで、ソウルミュージック大好きやねんけど、バンドでやったらパンクっぽくなってしまう、みたいな(笑)。初期ニューエスト・モデル的な。自分の、演奏するうえでの原風景みたいなものは変わらないからね。
ーー前インタビューやったときに話に出たのが、アウトプットがソロとかソウル・フラワーとかモノノケ(ソウル・フラワー・モノノケ・サミット)とか、いろいろできてきたから、以前みたいにソウル・フラワーに全部ぶち込まなきゃいけないって、そういうのがなくなってきたんじゃないかと。
中川:うん、それはある。なんせ一週間に1日か2日は必ず全国のどこかで歌ってるわけやからね。今までのどの時期よりも歌ってる。あんまり深く考えることもなくなった。その時やりたいことをサクサクやっていく。
ーー頭は完全に切り替わっちゃう。
中川:なんか知らんうちに切り替わっちゃったんかも。ほんと歌いまくってるよね~。その一方で3カ月に一度の、東京・大阪中心の(ソウル・フラワー・ユニオンの)ツアーはもう20年続いてる。音楽が、より日常化したっていうか。
ずっと新生ソウル・フラワー・ユニオンの持ち味を探ってた
ーー今年になってから新作のための曲を書き始めたと。どういう形で書いていったんですか?
中川:ソロアルバム『豊穣なる闇のバラッド』で、結局新曲8曲ぐらい書いたんかな。それの続きっぽい感じで書き始めて。ただ今回はソウル・フラワー・ユニオンの曲を書くぞっていう「お題」があるから、アコギでガチャガチャやりながらも、キーボードはこうで、ドラムはこういう感じで、ベースはこういう感じにしようとか。メンバーの持ち味みたいなのを思い浮かべながら。俺のソロのバッキングをしてもらうわけではないからね。ずっと新生ソウル・フラワー・ユニオンの持ち味を探ってた。
ーーなるほど。
中川:メールで月に2回ぐらい、2枚のアルバムの音源と、俺の文章を、メンバー全員とレコーディング・エンジニアに送るわけ。2017年の春から始めた、中川敬のルーツ音楽メール連載(笑)。自分音楽史を時系列に、1回目チューリップ、2回目The Beatles前期、3回目The Beatles後期、4回目60年代The Rolling Stones、5回目70年代The Rolling Stones、8回目The Whoみたいな(笑)。今25回ぐらいまで来てんねんけど。
ーーなぜそういうことをやろうと思ったんですか?
中川:10代20代の頃みたいに、メンバーと一緒に好きなバンドのビデオを見て朝までワイワイやるなんていうこともない関係性の中で、50過ぎてまだバンドみたいなことをやってて、でもメンバーチェンジを繰り返してきてるから、通ってきた音楽もメンバー間でバラバラ。曲作りとかアレンジするときの、共通言語が少なくなってきてたからね、この20年間に。スタジオの中でめんどくさいわけ。『London Calling』の何曲目のアレあるやん、みたいなことを言っても、それ聞いたことないです、みたいなのがメンバーにおったらめんどくさいやん(笑)。20代やったらそういうことなかってんね。みんなで一緒に成長しながらあらゆるものを共有して聞いてたから。盛り上がりながらね。『メイン・ストリートのならず者』の「Shine a Light」のビリー・プレストンのオルガンのな~とか言って、何ですかそれ? とかメンバーに言われたら、もうめんどくさーみたいな(笑)。考喜とかジゲンが入ったあたりから、かなりそういうことは続いててね。まあ半分遊びみたいなところもあんねんけど。で、この機会に俺も再び自分のルーツ的なロックを聴くことになる。月に2回ほどそういうメールを送るんですよ。ライナーノーツ付き(笑)。……(The Whoの)『四重人格』とか聴くの20年ぶりぐらいやったな~。
ーーそういうのを改めて聞いてみて、なにか発見はあったんですか?
中川:なんかもう、ホント俺はココの人やなぁと思った。
ーーでもそれはよくあるような、ベテランの原点回帰という名の保守化とは違うわけですね。
中川:レイドバックできないからじゃない?(笑)。
ーー前作のときにね、今回のアルバムの出発点は何ですかっていう話をしたら、やっぱり怒りだっていうことを言ってましたね。
中川:愛と怒り。中川敬の人生の原理です。
ーー愛もそうだし、怒りもそうだし、そういう強い感情みたいなものがちゃんと根底にあるから、単なるレイドバックにはならない。
中川:あとね、俺らぐらいの世代のバンドの場合、メンバーそれぞれがバンド外で音楽をやりまくってて、家(バンド)に帰って来たらみんな和もうとする、みたいなのあるでしょ。一番だら~んとする場所になるという。実家帰って来たあ~みたいな。でも、安易に和まさない(笑)。
ーー要するにバンドを居心地の良い場所にしたくない。
中川:やっぱり、とことん向き合って、ここにしかない唯一無二の音楽をやろうやと。そこは手抜きしない。でも若いときみたいに厳しい感じではないけどね。
ーー若い頃は相当スパルタだったみたいですね。
中川:いやいや(笑)。ニューエストの頃は年がら年中一緒に生活をしてて、口うるさい兄貴みたいな。第一次長嶋政権の地獄の伊東キャンプみたいな(笑)。今はみんな一国の城主ばっかりやからね。尊敬と感謝ですよ。
ーー今回レコーディングはどうでした?
中川:5月後半に5日間で7曲のベーシックトラックを録って、8月の2回目は4日間で3曲。
ーー曲があって、アレンジはもうある程度できあがった段階で、バンドに持ってくるわけですか?
中川:デモテープ作るのめんどくさいから、弾き語りを録るんですよ。その段階でとりあえず構成は考えられていて、構成どおりの弾き語りを録る。で、キーボードのメインフレーズもスキャットやファルセットでちゃんと歌っておく。で、おかしいのが、その弾き語りをスマホで録るだけやのに、2時間ぐらいかかるわけ。何度も何度も途中で間違えて、「嗚呼間違えたあ!」とかひとりで叫びながら(笑)。で、20テイクぐらい繰り返して、2時間後にやっと録れた段階では、だいぶ俺の体にその曲が馴染んでる、という。深部でその曲を理解してるわけ、俺自身が。で、メールを書く。もう体に馴染んでるから、その段階でドラムはこんなかんじのアレンジで、とかすらすら書ける、という。
ーー繰り返してるうちに、だんだんその曲が馴染んできて、自分の中で全体の構想がはっきり見えてくる。
中川:そうそう。奥野あたりにはおおざっぱな解説しかしないねんけど、新しく入ってきた人には、このへんの曲聞いといて、みたいな参考音源も付けたりしてね。こんな感じのベースラインがもしかしたら合うかもしれないから、ちょっとこれを聞いておいて、みたいな。で、1回目のリハのときに、イエイ! と思ったよね。良いメンバーやなって。
ーーそれはどういう意味で?
中川:早い。Jah-Rahの飲み込みが早かった。
ーー全体に、昔に戻ったというだけではなくて、演奏がすごい生き生きとしてビビットで。それはやっぱり各メンバーの反応の良さがあるわけですね。
中川:今までのソウル・フラワー・ユニオン、もっと昔で言うとニューエスト・モデルとかと比較すると、今はメンバーとがっぷり四つでアレンジしてるから、新しいバンドを作ってる感が、実際かなりあるんよね。ジャケットもこんなことになったし。新生ソウル・フラワー・ユニオン。
ーー今回歌詞はどんなことをテーマに?
中川:歌詞は、前作のソロアルバム『豊穣なる闇のバラッド』であったりとか、『にじむ残響、バザールの夢』(2015年)の延長線上にある。バンドやからこんな歌詞を書かなくてはというふうには、あんまり考えなかった。ただバンドっていう「容れ物」があるからね。かなり性急なパンクロック的なビートとかも今回やりたくなって、「シングルハンド・キャッチ」とか書くときに、メロディラインとか言葉数の制約がここまできついと、「物語」って書くの難しいなぁって、ニューエストの頃のようなことをまた思い出したり。自分のソロの曲を書くときと同じような気持ちやねんけど、先にバンドという「容れ物」があって、こういうタイプの曲をやるぞ、こういうリフの曲やるぞ、みたいな構想があると、歌いたい「物語」を書き綴る物理的困難にぶちあたる。この難しさってニューエストの頃の感じを思い出すな~って。でもまあそのチャレンジを楽しむ、というか。
ーー「シングルハンド・キャッチ」もそうですけど、愛と希望っていうかね、怒りだけではない懐の深さみたいものがリリック全体にすごく感じられる、
中川:嬉しい。SNSの時代、どうしても大きな物語に収斂されてしまうからね。小さい物語をちゃんと唄世界で表現したい。それは今回に限らず、この10年ぐらいずっと思ってることで。なんかやっぱり、相変わらず人間好きやな、みたいな。一人ひとりの人間の物語を歌いたい。それでいい曲ができたら嬉しいし、単純に。
ーーそうですね。キャッチーだしパンチラインも一杯あるし、ここ数作では、今回の歌詞が一番好きですね。
中川:嬉しいね!
ーーその一方で、楽曲に関しては過去のロックのいろんな記憶みたいなものが、あちこちに散りばめられてて。
中川:以前は、「これはあの曲みたいやん」みたいに切り捨ててたとこを、切り捨てなくなったという。だってみんな、同じような曲ばっかりやってるやん(笑)。俺が歌って、ソウル・フラワー・ユニオンがやったら、何をやろうが唯一無二、世界レベルでかっこええに決まってるやろ、ぐらいの傲慢さでやっていこうかな、と(笑)。今はそんな感じ。
ーーなるほどね。あとは奥野くんのオルガンがすごく今回は目立つ。そこらへんも初期ニューエストっぽい。
中川:ギターアルバムにしようっていうのが漠然と最初からあってね、『ロロサエ・モナムール』(2005年)から、『カンテ・ディアスポラ』(2008年)、『キャンプ・パンゲア』(2010年)、『アンダーグラウンド・レイルロード』の4作、俺は4部作と捉えてるんやけど、ある種、ひとつのアレンジ作法をやりきった感があって。ブラスが出てきて、俺の大好きなフルートやらフィドルが出てくる。その前が『スクリューボール・コメディ』(2001年)、『ウィンズ・フェアグラウンド』(1999)はアイリッシュ勢がたくさん参加してて、その前の『エレクトロ・アジール・バップ』(1996年)ではチンドン、チャンゴ。
ーーそうですね。
中川:今回は明快に違うことをやろうと思った。ヒックスヴィルの木暮晋也(Gt)くんに入ってもらって、ベーシック録音の段階から3人エレクトリックギターがいる。今までになかった構造にしようと。他のバンドやったら「以前のようにまたバンドだけのかんじで作ろうぜ」ってことやったと思うけど、俺の場合は、「以前」がないから。だからちょっとワクワクしながら、ギターロックや! ってよく言ってたけどね。そうなってくると、「打楽器」のピアノは少なくなるんじゃないか、という。奥野はオルガンとシンセで活躍してもらおう、みたいなね。曲を作ってる1月、2月の段階から漠然とあった。
ーー前のアルバムはゲストがいっぱい入ってたけど。今回ゲストと言えるのは、木暮晋也だけで。
中川:そう。これ実は、1987年のニューエストの1st(アルバム)以来のミュージシャンクレジットの人数の少なさ。
ーー以前はバンドのメンバーだけでできるものを、という発想にはならなかった。
中川:俺は曲作りの段階から、ブラスを入れようとか、この曲は生のストリングスが絶対欲しいな、とか、常にあって。長年、曲作りの段階からそういう考え方が当たり前になってたから。ニューエスト・モデルの頃からの伝統やね。年がら年中、(バンドだけで)ライブばっかりやってるから、同じもんやりたくないっていう感覚かな。ちょっと違うものを聞きたいっていうか。それが当たり前になってた。
ーーそれが今回は、あえて外部の要素みたいなものはシャットアウトして、バンド内で完結するような音を作りたかった?
中川:そうやね、初めからそうしようと思ってた。「路地の鬼火」なんかでも、以前やったらサビの部分にブラスが出てくるよね。
ーー今回のサウンドはニューエストっぽいし、今回の最近ライブでもニューエストの曲をやる機会が増えてきてるし、だんだんそこの境目みたいなものは曖昧になってきてるかんじはありますか?
中川:かなり曖昧になってきてるね。俺の中で、バンド名が違うっていう感覚があんまりないというか。実際、奥野とずっとやってるからね。あとのメンバーがかなり入れ替わっても、言い間違えてしまうときがある。俺らニューエスト、ああ違う、ソウル・フラワー・ユニオン、みたいな瞬間があってね、酒とか入ってると(笑)。そこはあまり重要じゃない。再結成しないことは重要やけどね。
ーーなんで?
中川:みんな(再結成を)するから。せっかく以前解散させてるのに(笑)。再結成して、すごい金になるんやったらまだしも、それほど金にもならない(笑)。
ーーやればそれなりに客入ると思うけどね。
中川:ちょっとはね。一時的なものでしょ、そういうのは。でもまあ、単純に楽しい、ロックンロールをするのは。3年前の『ニューエスト・モデル結成30周年記念ツアー』がかなりインパクトあった。一番多い日は17曲、ニューエストの曲をやったよ。下北沢ガーデン。前売りが簡単に売り切れて……どういうことやねんお前ら! みたいな(笑)。あのとき、俺が選択したのが初期の曲でね。自分なりに何を再発見したかと言うと、10代後半、20代前半の頃って、みんな技量がないでしょ。技量はないけれどプライドだけは高い。技量がないねんけど、自分たちなりにかっこいい曲を作ろうとする。「ソウル・ダイナマイト」とか「フィーリン・ファッキン・アラウンド」とか、技量がなくても演れるかっこいいアレンジにちゃんとなってるっていうことに、初めて気づいた。「ソウル・サバイバーの逆襲」あたりも、ロックオペラ形式やねんけど、技量がなくてもパッとできるようにアレンジされてるんよね。演奏してみるとわかる。その構造は、例えば、The JamとかThe Clashとか、The Sex Pistols的なものとか、みんなそうやと思うよ。下手くそなのにかっこいいことやらんと気が済まへん奴らの、誇りをかけた「発明」に詰まってる。だから、そういうところからロッククラシックは生まれんねんな~っていう構造が3年前に自分史の中から見えてきた。
ーー簡単だっていうのは、ポップカルチャーにおいてはすごく大事なことで。簡単に真似できる、俺でもできそうだって思わせるのが、ポップカルチャーの普及の基本。
中川:とはいえ、そこからクズもいっぱい生まれるわけであって。それプラス、俺らこそが世界で一番かっこええんや! っていう怖いもの知らずの誇り高い精神性。ニューエスト・モデルは、最初期の頃から、面白いぐらい一切手を抜かなかった。
音の渦を作り出して、人生を踊らせる。最高の労働や。
ーー今やロックは音楽シーンではなんとなく旗色が悪いみたいな、そういう風潮もありますけど。何か思うことってありますか?
中川:旗色悪いでしょ。なんと言ってもCDが売れない時代やし、芸をやっても金にならないっていう。しかも人件費かかるしね。メンバーが居てスタッフが居て。ひとりか2人のユニットとかが楽やわね、やっぱりこういう時代は。プロトゥールスの中で絵描けばそれでいいわけやから。誰でも即席「アーティスト」。でも、俺は、バンドで面白いことをやることに意味を感じちゃってるから。ずっとね。
ーーロックにこだわってるっていう意識はありますか?
中川:いやいや、俺がバンドをやるとこうなっちゃうだけ。
ーーどうしようもなくロックであると。
中川:そうやね。ロックンロール。音の渦を作り出して、人生を踊らせる。最高の労働や。
ーーさらに言えば長い時間かけてアルバムをじっくり作って、みたいなのも、もう今の時代の流れのそぐわないかもしれない。そんな中で、ロックバンドをやって作品を作り続ける、苦労とかこだわりとか。
中川:苦労はこのまま朝まででも語れるけど(笑)。こだわりっていうか、面白味が体に沁みついてるから、やめることはちょっと考えられない。俺の場合、15までの「子ども時代」があって、16以降はずっと「バンド時代」やからね。
ーー身軽にやろうと思えば、弾き語りのソロが一番身軽にできるわけじゃないですか。お金もかからないし。
中川:弾き語りばっかりやってると、バンドやりたくなるし。弾き語りはかなり楽しいけどね。日本列島は小っちゃいとか言いながらも、ホント広いし、多様な文化があって。いろんな人らと出会って、土地土地で歌を歌って、そこの人らと飲んで、ひとりで知らない路地を歩く。かなり楽しんでる。まあ体中痛いけど(笑)。でもね、やっぱりバンドはやりたくなる。3カ月にいっぺんはやっぱりバンドのライブやりたい。例えば、1年ぐらい東京・大阪のワンマンライブは控えて、年に一回武道館あたりでバーンとやりますかとか、今そういうやり方をみんな選ぶやん。俺はたぶん無理やと思う。3カ月にいっぺんはやりたい。
ーー今後のソウル・フラワーはどうなっていくんですか?
中川:アルバム、1年半か2年に1枚は出していきたいなと思ってて。ただそのためには、制作費が必要でね、ズバリ。今回が好調やったら、次はすぐに取り掛かるよ。
ーーそれはどういうモチベーションなんですか?
中川:来年の1月からまた曲を書こうと思ってて。ソウル・フラワー・ユニオンの。どこまでそれを続けれるかな、みたいな。ソロも含めて、2010年ぐらいからあんまり休んでなくて。常に何かを制作してる状況が続いてる。いい感じなんよね。50歳超えて、70まであと20年で、4年に1枚やったら、70までにあと4、5作。ふと計算した日があってさ。それはかなり少ないやん、みたいな。
ーー年取ると、自分はあと何枚アルバム作れるか考えるってみなさんおっしゃいますよ。
中川:あ、ホント? みんながどう思ってるか俺は全然知らないけど、ほんとのところ、できたら1年に一作出したい、ソウル・フラワー・ユニオンで。メンバーのスケジュール、制作費…。曲はひたすら書き続けたいし。
ーー曲のネタに困ることはない。
中川:それもあるけど、何より、すごい好きやし、曲作るの。メンバーに送る弾き語りの音源が仕上がった瞬間のあの喜び。このあと10年ぐらい休んでいいんちゃうかっていうぐらいの達成感。贅沢な労働ですよ、これは。この労働が、もうちょっと金になればとは思うけど(笑)。ガンガン曲を書きたい。ホントに。もっと書きたい。
ーーいつからそう思うようになったんですか。
中川:ずっとそうやけどね。弾き語りも面白いし、バンドも充実してるから、以前より、よりそう思うようになったのかも。ヴァン・モリソンも半年に1枚ぐらい新譜出すでしょ、最近。気持ち、めっちゃわかる。あんな感じがいい。アルバムは毎年出したいね。誰かパトロンになってくれへんかな。大企業のトップとかが「中川さんの作品が世界に必要なんです! 我が社が出資します!」みたいな(笑)。
(取材・文=小野島大)
■リリース情報
『バタフライ・アフェクツ』
発売:2018年12月19日(水)
価格:¥2,800(税抜)
1. バタフライ・アフェクツ
2. この地上を愛で埋めろ
3. 最果てのバスターミナル
4. シングルハンド・キャッチ
5. 路地の鬼火
6. インシスト
7. エサに釣られるな
8. 愛の遊撃戦
9. ランタナの咲く方へ
10. 深い河の彼方から
■ライブ情報
『『ソウルフラワー中川敬・~SFUニューアルバム発売記念ツアー』~中川敬の弾き語りワンマン・ライヴ!』
12月21日(金) <京都>磔磔
2019年
1月3日(木) <愛知>安城市カゼノイチ
1月12日(土) <東京>代々木Zher the ZOO YOYOGI
1月13日(日) <埼玉>熊谷モルタルレコード2階
1月19日(土) <大阪>martha
1月26日(土) <香川>高松RUFFHOUSE
1月27日(日) <岡山>MOGLA
2月2日(土) <静岡>浜松市 KJホール
2月3日(日) <岐阜>関市 高橋商店
2月9日(土) <鹿児島>Bar MOJO
2月10日(日) <長崎>パニックパラダイス
2月16日(土) <奈良>奈良市ビバリーヒルズ
2月23日(土) <高知>高知市カクテルバーシャトー
2月24日(日) <愛媛>八幡浜スモーキードラゴン
3月1日(金) <福岡>博多Voodoo Lounge
3月2日(土) <広島>ヲルガン座
3月3日(日) <島根>出雲リベレイト
3月9日(土) <徳島>寅家
5月25日(土) <沖縄>那覇Output