言葉がすべて-頂点へ駆け上がる超新星バリトン
クラシック
インタビュー
ⒸJUNICHIRO MATSUO
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「たかおき」と読む。大西宇宙。輝かしい響きと豊かな声量で、活躍の場をぐいぐいと拡げる、いま最も勢いのあるバリトンだ。10月のリサイタルは、五島記念文化賞オペラ新人賞の研修成果発表として行なわれるもの。
「2019年9月から2020年12月までの海外研修。コロナ禍と重なったため、入国制限の影響で、ウィーンからノースカロライナ、ポーランド、ニューヨーク、フィラデルフィア、ハンガリーと転々とせざると得ませんでした」
そんなコロナ禍に翻弄された研修過程を反映して、リサイタルのプログラムのテーマに「旅」を選んだ。
・イベール:ドン・キショットの4つの歌
・マスネ:歌劇《ドン・キショット》より「笑え、哀れな理想家を」
・コルンゴルト:歌劇《死の都》より「ピエロの歌」
・ヴォーン・ウィリアムズ:旅の歌 (全9曲)
・マーラー:リュッケルトの詩による5つの歌
・プロコフィエフ:歌劇《戦争と平和》より「輝くばかりの春の夜空だ」
・ヴェルディ:歌劇《ドン・カルロス》より 「私の最後の日」
「ドン・キホーテや《旅の歌》はまさに“旅”ですし、《リュッケルト》にはコロナの3年間の“喪失”も感じています」
サブタイトル的に、「万里一空」というモットーも掲げた。出典は宮本武蔵の『五輪書』で、目標に向かって努力し続けることを意味する言葉。
「さらに極めていきたいという希望を込めました。さいわい忙しくさせていただいていますが、仕事に追われると、落ち着いて自分の声を見つめ直す時間もなくなってきます。成長を終わりにしたくない。海外研修も、さらなる飛躍のためでした。コロナ禍で今まで取り組んでいなかった曲を勉強する時間ができたり、レパートリーにも変化があったので、あの研修期間がなかったら、今の声になっていなかったと思います」
武蔵野音楽大学とジュリアード音楽院で学び、シカゴ・リリック・オペラで活動をスタートした。アメリカでの経験がキャリアに大きく影響している。たとえば幅広いレパートリー。今回のリサイタルのプログラムにも、イタリア語、ドイツ語、英語、フランス語の作品が並ぶ。
「日本では国や言葉でレパートリーを分けて考える傾向がありますよね。僕はどの言語も等しく大事にしてます。アメリカはそういう考え方で、必要な言語はすべてトレーニングする。そのうえで、言語や時代、スタイルを問わずに、自分の声種に合うレパートリーを網羅していくというのが僕のスタイルです。言語や時代でレパートリーを決めてしまうと、例えばヴァーグナーの重い声の役を目指そうとすると、声が成熟するまでにかなりの年月を要します。それは自分の可能性を縮めると思うんですね。若いうちは若い役をやりながら、年齢とともに役を拡げていきたいと思います」
歌曲でもオペラでも、やはり言葉が一番大切だと説く。
「僕は歌う前の準備をけっこう念入りにやるタイプなんです。外国語なら、まず自分で訳したりして、歌詞の意味を考えます。歌曲もオペラも、言葉が先に書かれたものですよね。それと同じ順序で理解しなければという考え方です。下準備の時間と、声を出して歌う練習にかける時間は、僕の場合は半々ぐらいですね」
言葉を理解せずにいきなり音符から読み始めてしまうと、表現が人工的になりやすいという。
「逆に、言葉がわかっていれば、どう歌うかはおのずと見えてくる。ちゃんと理解していれば、大袈裟に表現しなくても言葉は伝わるわけです。先生にも『つねに言葉の力を信じなさい』とよく言われていました。
今回も、リュッケルトやイベール、ヴォーン・ウィリアムズと、プログラムの中心は連作歌曲の大曲。そのストーリーをどう語るか、ご注目ください」
共演は大西の恩師であり芸術歌曲のピアノの第一人者ブライアン・ジーガー。
五島記念文化賞 オペラ新人賞研修成果発表
大西宇宙 バリトン・リサイタル
10月22日(日) 14:00開演
滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 小ホール
10月24日(火) 19:00開演
東京文化会館小ホール
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343563
出演
大西宇宙(バリトン)
ブライアン・ジーガー(ピアノ)
取材・文:宮本明
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