第4回 自主レーベル「Soul Mate Record」の立ち上げ
音楽
インタビュー
鶴 左から)神田雄一朗(Ba&Cho)、秋野温(Vo&Gt)、笠井“どん”快樹(Ds&Cho)
今回のツアーは、日比谷野音ライブを訪れたファン、来れなかった人たちへの「鶴の野恩返し返し」と題して全国15か所のライブハウス、ホールで行われる。ワンマンライブ及び久しぶりの対バンライブも行われるツアーに向けて、このインタビューではバンド結成20年の歩みをテーマごとに語ってもらい、5日間連続でお届けする。20周年を迎え、今なおワイワイし続けるする3人組・鶴とはいったいどんなバンドなのか?第4回は立ち上げてから10周年となる自主レーベル「Soul Mate Record」について。
“全員攻撃”ができるようにならないと生きていけない
── 自主レーベル「Soul Mate Record」を2013年8月に立ち上げて、今年で10周年を迎えました。振り返ってみていかがですか。
秋野 最初の5年ぐらいをかなり気張ったので、それのおかげで10年目まで来たなっていう気がしてます。それまでメジャーに4年間お世話になって契約が終わる頃に、次のレコード会社にお世話になるっていう道を探すか、自分たちでやるかっていう選択肢があったんですけど、気持ちとしては自主レーベルの方だったんですよね。誰に何の気を遣うことなく好きな曲を書いて、好きなようにライブツアーをやれるっていうのが最大の魅力だったので。それで自主レーベルを作った当初の2、3年はすごかった気がしますね。最初の47都道府県ツアーから2周目ぐらいまでの濃厚さというか。どこの地方に行っても、ラジオ局とかのメディア、お店にも可能な限り自分たちで足を運んできましたし、それがようやく実を結び続けて10年まで来たなっていう感じです。
── 代表は秋野さんが務めていますが、立ち上げたときから各々の役割みたいなものは変わらないですか。
秋野 いや、役割っていうのもそんなになくて、何かを発信するときにはどうしても僕が先頭に立つことが多いので代表っていうポジションですけど、基本的には全員攻撃ができるようにならないと生きていけないよっていうことは思いました。最初の47都道府県ツアーに行ったときに、「ギターボーカルだけが目立ってるようなバンドじゃダメだ」って話したんです。全員が立っているような、人間性のあるバンドというか、「人間パワー」を強めないと続けられないでしょうっていう気持ちで、それぞれがやってきたと思います。
神田 自分は最初の頃、人との繋がりを増やしていくための社交担当だった気がしますね。だからやたらと飲みに行ったり、色んなところに顔を出して知り合いを増やしていくっていうことは、最初の2、3年は特にやってました。それで実際にイベントに呼ばれたりするチャンスも増えたので。それはずっとやってはいるんですけど、それがコロナで1回止まってしまったので、ここからまたそこらへんの動きをしていこうかなと思ってます。
笠井 俺は自分がこの役割をしようっていうことはあんまり考えてなかったんですけど、でも何かやらなきゃなとは思っていて。自主レーベルに切り替わった頃って、「秋野の曲を中心にやっていこう」みたいなシーズンだったんですよ。俺としては、そのやり方で行くのかと思って。やっぱり自分の曲も使われたいし、そのぐらいの時期が自分としては一番よくわからない時期でした。それで47都道府県ツアー2周目ぐらいまでは俺の曲はほとんど使われてなかったので、「ああ、このバンドはこういうスタンスで行くんだな」って割り切ったというか、覚悟ができたような記憶がありますね。だから自主レーベルとして自分も何かを頑張らなきゃいけない、でも何を頑張ったら良いんだろうっていう一番大変な時期でした。それに、ツアーはツアーであんまり上手く行ってなかったんですよ。47都道府県ツアー2周目ぐらいが一番しんどくて。体力的にもしんどいし、ライブで課題が見つかっても翌日もライブがあるので、課題が解決するわけもなくまた同じことを悩まなくちゃいけないっていう。だから俺的には、レーベル立ち上げから47都道府県ツアー2周目ぐらいまではしんどかったですね。
── ドラマーとしても煮詰まっていた?
笠井 そうですね。ドラムもどうしていいかわからないし、全体的に一番ピンチだったかもしれない。
秋野 乗り越えたよねえ。
── どうやって乗り越えたんですか?
笠井 ただ時が経ちました。
一同 ははははは(笑)。
神田 時が解決してくれた?
秋野 そこに辞めるとかツアーを止めるっていう選択肢は入ってこなかったんだ?
笠井 辞めれなかったもんね。途中でツアーも止められないし。そういえばそういうモヤモヤシーズンだったなって、振り返ったら思い出しました(笑)。
20年で一番楽屋の空気が悪かった時期
── 今や47都道府県ツアーも4周目まで行きましたけど、20年バンドが続いてきた中にはそんな時期もあったんですね。
笠井 あのとき、結構ギスギスしてたよね?
神田 うん、2周目が一番ギスギスしてた。ツアー中の楽屋の空気は良くなかったですね。2015年の秋~2016年の春ぐらいまでは、たぶん鶴の20年で一番空気が悪かったかもしれないです。
笠井 アルバムで言うと、『ソウルのゆくえ』(2016年1月6日発売)ぐらいまでかな。
神田 『ニューカマー』(2016年8月10日発売)の頃は?
秋野 そのときはもう越えてるよ。
笠井 『ニューカマー』は曲を増やさなきゃいけなくて、とにかくみんなの曲を出そうっていう感じだったからまた変わったんだよね(笠井が作詞作曲した「明日はどこだ」「321」神田が作詞作曲・Voを担当した「Funky Father」等も収録)。
── 『ソウルのゆくえ』のあたりが一番しんどかったというのは意外でした。良いアルバムですし、特に『ローリングストーン』は名曲だと思いますけども。
秋野 ありがとうございます。あのときは本当に転がってたので(笑)。
笠井 本当にライブで削られまくってたから、みんなギスギスしてたし、特に自分はモチベーションが上げられずにいた時期でしたね。……こんな話したことないよね?
神田 まあ、チョロっとはあるけどね。
秋野 「バンドで全員攻撃だ」っていうのを、全員で一生懸命なんとかやろうと思っていた時期なので、ステージ上で全員の演奏も歌もコーラスも満足いく点数を取れてたかはわからないけど、たぶんドラムの細かいプレイとかすぐにはどうすることもできないことを、毎回チクチクと言ってたんだと思う。また、外でマネージャーが全部観てるから、一番的確に突っついてくるんですよ(笑)。
笠井 俺の記憶だと、神田君にも結構言われてたんですよ。
神田 今振り返ると、俺はおせっかい的な感じで、より鶴をよくするためにすごく人のことまで言ってたなっていう記憶があるんですよ。自分を棚に上げて(笑)。でも当時の俺は良かれと思ってやってはいるんですよ。
秋野 確かに、自分のことを棚に上げなきゃ人に言えないじゃんっていう時期だったもんね。
神田 そうなんだよ。でも今思うと、「そこを他人に言われても良くなるわけがないよね」みたいなことを言ってたなと。
一同 ははははは(笑)。
神田 最近は、人の足りないような部分を見つけようとせずに、良いところを見ようっていう気持ちでいるので、あの時の俺と真逆かもしれないですね。でもあのときは、ダメなところを見つけるのが鶴を良くするやり方なんだって思ってた感じです。
修羅場を乗り越えた先にあった47都道府県ツアー3周目と「鶴フェス」の歓喜
── レーベルを立ち上げてアルバムを作って47都道府県ツアーを2周して、肉体的にも精神的にもかなり疲弊してたんですね。
笠井 2周目はめちゃくちゃ疲弊してましたね。
秋野 重箱の隅の突き合いをしてたね。
神田 本当、まさにそれ。
笠井 だからもう、3周目が天国でしたもんね。日程に余裕もあったし、そんなところを気にすることはなかったよね。
秋野 2周目の修羅場じゃないですけど、そういう精神状態をバンドが乗り越えたんだと思います。乗り越えたから『ニューカマー』っていうアルバムが出せたので、あのときには何かを吹っ切ったというか、色んなものを諦められているような気がしていて。そこから少し時間が空いて、3周目はその先に「鶴フェス」っていう目的があったので、やるべきこともハッキリしてるし、自分たちのコンディションの整え方、バンドのリズムも掴めるようになっていたので、ひたすら楽しかった感覚でした。
笠井 それこそ、ホッピーさんの言葉じゃないですけど、「こんなところ見なくていいんだな」っていう気持ちになったんですよね。2周目のときは視野が狭くなっていたので、「いやいや、こんなところいいんだよ」っていう3周目だったんですよ。
神田 今はどうでもいいことをツッコんでるもんね(笑)。
── そういう境地に辿り着くまで、以前は頑張りすぎていた?
秋野 ライブバンドっていうものに、高い理想を持ち過ぎていたのかもしれないです。「完璧」みたいなものを。それこそSCOOBIE DOを追いかけて自主レーベルを始めた部分もあるんですよ。SCOOBIE DOのあの完璧さっていうか、ライブバンドとしてもそうだし、メンバーの無駄のない動きとステージングと。鶴はこういう人間性なのに、ああいう完璧に整ったミュージシャンズ・ミュージシャンを求め過ぎちゃってたから、歪が生まれたと思うんです(笑)。でも自分たちはそうじゃないんだなってやっと気づいたのが3周目でした。
神田 それこそプレイとかもSCOOBIE DOに憧れすぎて、各々それぞれのパートに刺激を受けて真似したりしたんですけど、やっぱりできないし、俺らには合わないんですよ。俺らには俺らのやり方があるなって。
笠井 影響を受けた次のライブなんてひどいもんね(笑)。できないのに寄せようとするから。
秋野 完全にMCがコヤマ(シュウ)さんみたいになって、危うく「We are!(SCOOBIE DO)」って言いそうになったもんね(笑)。
── いやあ、そう聞くと「ソウルのゆくえ」は本当にゆくえがわからなかった時期なんですね。
神田 確かに(笑)。
笠井 見つけたっていう歌じゃなかったんだね。
秋野 見つからないままだったんですよ。「どこなんだろう?」って。
Text:岡本貴之 Photo:石原敦志
ライブ情報
「結成20周年記念TOUR 鶴の野恩返し返し -みんなにワイワイをお返ししに行く会-」
11月3日(金祝)宮城県・仙台LIVE HOUSE enn 2nd ※ワンマン公演
11月5日(日)北海道・札幌PLANT ※ワンマン公演
11月18日(土)岩手県・the five morioka ゲスト:FUNKIST
11月19日(日)青森県・弘前KEEP THE BEAT ゲスト:FUNKIST
12月2日(土)福島県・OUTLINE※ゲスト有り
12月9日(土)愛知県・名古屋ElectricLadyLand ※ワンマン公演
12月16日(土)新潟県・CLUB RIVERST ※ゲスト有り
12月17日(日)石川県・金沢AZ ※ゲスト有り
1月7日(日)東京都・ ヒューリックホール東京 ※ワンマン公演※リベンジ公演
1月13日(土) 香川県・高松DIME ゲスト:BRADIO
1月14日(日) 愛媛県・松山WstudioRED ゲスト:BRADIO
1月20日(土)福岡県・ DRUM Be-1 ※ワンマン公演
1月21日(日) 広島県・CAVE-BE ※ゲスト有り
1月27日(土) 岡山県・CRAZYMAMA KINGDOM ※ゲスト有り
1月28日(日) 大阪府・BIGCAT ※ワンマン公演
★9月18日(月) 23:59までぴあアプリ先行実施中
https://lp.p.pia.jp/article/news/288143/index.html
関連リンク
鶴オフィシャルサイト:https://afrock.jp/
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