中村雅俊が明かす、歌と芝居に通じる表現の核「いろんなファクターがそろって形成されていくもの」
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俳優/歌手の中村雅俊が、55thシングル『だろう!!』をリリースした。同シングルは、作詞を松井五郎、作曲を都志見隆がそれぞれ担当した、すべての“大人”に向けたエネルギッシュな応援歌となっている。
2019年にデビュー45周年を迎える中村雅俊。2017年にコンサート総本数1,500回を突破した中村が、俳優/歌手としてどんなキャリアを歩み、そしてこれから先にいかなる目標を見据えているのか。『だろう!!』の制作秘話を発端に、役者業と歌手業をクロスオーバーする、表現者としての核の部分を語ってもらった。(編集部)
「深い共同作業で曲作りができている」
ーー1年ぶりの新曲「だろう!!」が出たばかりです。最近はシングルを年に1枚出すペースになってますね。
中村雅俊(以下、中村):作詞・松井五郎、作曲・都志見隆で、俺が歌うっていうのはこの何年かやってるので、今度はどういうのをやろうかっていうようなことを、チームみたいに仕事感覚ではなくお話できたりしているので、すごく良い形で作品作りはできてますね。
ーー作詞、作曲、歌というトライアングルはここのところずっと同じ顔触れでやられていますね。これはご自分にとって、一番力が発揮できる。
中村:そうですね。やっぱり、歌手、中村雅俊をわかっていてくれている。例えば俺の声のことでいえば、このキーのこの部分はけっこう良いなとか、すごく細やかなところをちゃんとわかってくれている。先日3人で新曲発表記念のトークショーをやったんですよ。『GORO MATSUI presents Talk Gallery』という松井さんのイベントに俺がゲストで出て、サプライズゲストで出演した都志見さんと3人でいろいろとお話をしました。そういう意味では、プロの作詞家、作曲家とのビジネスライクな付き合いというよりは、もっと突っ込んで、いろんなことを話し合えたりしています。コンサートなども観ていただいてるし、かなり深い共同作業で曲作りができているなと感じています。
ーー今回の楽曲の構想というのは、どんなものでしたか?
中村:大人に対する応援歌というのかな。毎年そういう流れの中で、今度はどういう角度でやろうか考えています。詞のことで言えば、松井さんがこういう詞はどうかと提案してくれる。
ーー曲先ですか、詞先ですか?
中村:今回は曲先ですね。それから詞の提案があって細かく直していく。サビは、みんなで考えて、もっと良い言葉がないかって意見を出し合ったり。
ーーそこで中村さんから要望は?
中村:〈どうだ〉っていうところは音符が2つだったんですけど、〈どうだい〉とか、〈どう〉とか、いろんな言葉をはめていって、次につながる言葉としては3つぐらいが良いかな、とかね。付き合いが長いので、けっこうフランクにみんなで意見を出し合えるんです。
ーー今回はビートが強い曲ですね。それは中村さんからの要望で?
中村:いや、俺っていうよりも、2人からの提案だったと思います。最終的には5、6曲残して、その中から。今回の「だろう!!」が、流れ的にも良いんじゃないかっていうことですよね。
ーーこういうガツンとくる曲は久しぶりですね。
中村:そうですね。いつも松井さんとお話するんですが、1990年に『100年の勇気』っていうアルバムを出して、その中に松井さんが詞を書いた「100年の勇気」というタイトルトラックがあるんですよ。それはライブでは必ず歌う曲で、ライブの中で一番盛り上がる曲なんです。それに継ぐ曲が欲しいといつも話をしていて。ライブでガツンと来るような歌、今回の「だろう!!」が「100年の勇気」に継ぐライブの定番曲として良いんじゃないかって話は出ましたね。
「『だろう!!』は中高年だけの歌じゃない」
ーーバラードが多くなっていたのは、何か理由があるんですか?
中村:どうなんですかね。俺の良さみたいなのを考えると、バラードってなるんじゃないですかね。実際売れた曲もバラードが多い。
ーー日本人がバラード好きっていうのもありますね。
中村:そうですね。実際、今回のカップリング曲の「千年樹」を聞くと、やっぱりバラードは合うよなあみたいな話にもなる。どっちが良いかはわからないんですけど、いつも思ってるのは、とにかくこれがベスト! って言える作り方をしようと。
ーー歌っていて、アップテンポとバラード、ミディアムと、歌いやすいテンポとかあるんですか?
中村:「だろう!!」のような。アップテンポの曲は、ある意味、歌いやすいです。
ーーというと?
中村:技術もあるんでしょうけど、バラードって少なからず気を使うんですよ。歌の上手さや表現力がとても問われるので。アップテンポの曲は、まずリズムがあるので、リズムにちゃんと乗って、次に言葉を乗せていくイメージですね。バラードはそこから先の表現力が問われる。バラードとアップテンポの曲の歌い分けは、けっこうはっきりしてますね。
ーー役者としての経験が、バラードみたいな曲だと活かしやすいとか、そういうことはあるんですか?
中村:それはあるかもしれないですね。やっぱりバラードにはドラマがあるから。アップテンポの曲にももちろんドラマはあるんですけど、エモーションていう意味では、バラードのほうが強いですね。
ーー歌詞に対する思い入れや、そこに対する感情の込め方は、バラードの方が表現しやすい。
中村:表現にも余裕があるっていうか。アップテンポみたいにガッと行くよりは、ちゃんとゆっくりとドラマを表現できる。でもその分、気を遣う箇所は多いですね。どっちが得意かと言われると決められないけれど、今まで出したシングル55枚のセールスとして結果を出しているのは、バラードの方が多い。
ただ、だからといってただ求められるものをやるのではなく、俺たちはこういうのがやりたいんだってことを、どうだ? っていう感じで提示していきたい。バラードが続いたから次はアップテンポで、みたいに。受注生産するというよりは、こちらでやりたいことを表現したいものを作って、それでどうですかっていうふうに、皆さんに聞いてもらうという。
ーー今回の曲は歌ってて楽しいんじゃないですか。
中村:楽しいんですよ。今コンサート中なんですけど、アンコールの1曲目にこれを歌うと評判が良いです。あと今までの曲と比べてもかなり歌いやすいんです、この歌は。たぶん聴きやすい曲でもあると思います。
ーー私も、ここ数作のシングルの中では歌詞も曲も明快でわかりやすいと思います。
中村:メリハリついてますよね。
ーー特に歌詞は素晴らしいと思いますね。応援歌とはいいつつも、これまでは同世代の方への応援歌ですけど、これは若い人に向けても通じる気がします。
中村:そうですかね。つい自分がいい年なので、そこは遠慮しがちなんですけど。
ーー親父の説教っぽくなっちゃう(笑)。
中村:そうなんですよ。俺も若い時は「青春」という言葉とともに仕事をしてきたので。俺たちの若い時はどうだったとかね、今の時代はなんとかっていうと、余計に説教くさく感じる。でも、確かに言われてみると、これは中高年だけじゃないっていう感じはしますよね。
「吉田拓郎さんのすべてが勇気でした」
ーー「だろう!!」という言葉にインパクトがありますね。このフレーズがあるおかげで、ちょっと強く背中を押されている感じが出てる。なんか弱ってる時に聞くと元気づけられる感じ。
中村:そうだね。
ーー中村さんご自身は、人の曲に勇気づけられたりとか元気づけられたりとか、そういうことはありますか?
中村:歳を取ってから、曲を聴いて元気をもらうっていうのはあまりないですけど、若いときは、よく(吉田)拓郎さんを聴いてたんで、拓郎さんのすべてが勇気でしたね。曲とか世界とかすべてがすごく励みになった。
ーーどこが一番魅力でした?
中村:例えば、「人間なんて」(1971年のアルバム『人間なんて』収録曲。ライブではリフレインを繰り返し歌い、時に20分を超える長時間演奏になる)を延々歌ってて、これはもう絶対喉ヤバいよなっていうぐらい。歌ってるときはガラガラ声なんだけど、それでもやっぱりガーッと歌い続ける姿だとか、ああいうのはちょっと打たれたりしますね。自分もすでに歌手としてデビューしていたときだったので。
ーーライブの「人間なんて」は、〈人間なんてララララ~〉というフレーズを延々繰り返して一種のトランス状態に入ってしまっているような。同じ歌い手としてはそういう心境になるって分かりますか?
中村:ありますよ。実際に酒を飲んで、あれやりましたからね。酔っぱらったときとかに真似してやってみると、ああなっちゃいますから。あの止まらない感じが、不思議な連帯感と感動を呼んで。
ーーありますね。
中村:アーティスト/表現者としては全然違うけど、あのスピリッツみたいなのにはすごい憧れたし、良いなと思いました。
ーーなりふり構わない感じとか自分の歌にガーッと入り込んでる感じとか。
中村:そうなんですよ、すごく良かった。「人間なんて」だけじゃなく、他にもいろいろな良い曲があります。すごく憧れてね。拓郎さん(みたいなこと)をやろうとは思わなかったけど、きっかけやエネルギーみたいなものをもらったということはありましたね。あの人とはけっこう飲んだりする機会があったんですけど、飲んでるときに曲を作るんですよ。
ーー飲んでる時もギターを手放さない?
中村:ええ。あの人のそういう生き様みたいな、いつもそばに音楽があって。まあちょっといい加減なことろもあるんですけど(笑)。拓郎さんのファンだったら知ってる「たどり着いたらいつも雨降り」っていう曲があるんですよ。「疲れ~果てて~♪」って歌が。
ーーザ・モップスが歌ってた。
中村:そうそう。あれの元歌があって、広島のアマチュアバンド時代に歌ってた。それが「好きに~なったよ~なんとかちゃん♪」って歌だったの。
ーー他愛のない曲。
中村:そう。それが、東京に来てからなんかちょっと骨太の歌になったんだよね。でも元はナンパの歌じゃないかみたいな(笑)。
ーーそれは良い話ですね。人間として、アーティストとして、成長していったってことですよね。
中村:うん。そういうエピソードを聞いたりすると微笑ましくて。
ーー音楽家の場合は、そういうふうに作る曲に自分を投影させやすい。自分の成長の過程とか足取りみたいなものというのは、作品にわりとくっきり刻まれると思うんですけど、役者の場合はどうなんですかね?
中村:やっぱり同じような感じだと思います。作品として確実に残ってるので。逆に言うと、極めて客観的に、自分の輪郭をハッキリ見られるっていうか。
ーー昔のご自分も出演されたドラマとか映画とかご覧になりますか。
中村:たまにしか見ないですけど、やっぱりすごく客観的になる。こいつ良い役者じゃねえなとかね(笑)。セリフの言い回しとか。
ーー活舌悪いなとか(笑)。
中村:そうそう。ただ、若さ故みたいな良さもある。今は、あんな芝居や雰囲気は出せないし、その良さも絶対ある。歌でも同じですけど。芝居も歌も上手下手だけで評価してはいないですね。もっともっと、いろんなファクターがそろって形成されていくものだと思っているので。
「反省点が前に進む原動力になる」
ーー若い頃の中村雅俊というのは、どういう役者でした?
中村:意外と可愛いんですよ。
ーー(笑)。
中村:やってることがね。計算してないバカさ加減とか若さ加減が良いというか。インテンション(意思、意図)がない。別な言い方をすると、甘い、若すぎる、あんまりちゃんと深く考えていない。台本を読んで自分の思ったとおりにやってるだけ、みたいな。やっぱりキャリアを積んできたり、慣れてきたりすると、インテンションというか、いわゆる演技プランを考えるようになる。こうしよう、ああしようみたいなことを考えて、ここでこう動いて、その結果こういう演技になった、という。果たしてそれがどうなのかなっていう気持ちもあったり。そういう意味では、歳を取ったから良いのか、若いからダメなのかっていうような言い方もできないんです。
ーーなるほど。
中村:だから役者の場合も、そういう軌跡みたいなものは残ってますね。自分がこう考えてこう演技して、という過程がしっかりと残っている。その点どうなんだろうと思うのは、ライブですよね。ライブで間違えたところはあとでレコーディングし直すっていうことがあるじゃないですか。
ーーいくらでも直せる。
中村:うん、生中継だと直しようがないですけど、録音なら何十チャンネルもあるから、あとで悪いところだけ直せちゃう。それは商品だから(完璧なものにする)という意味もあるんですけど、そこらへんの考え方ですよね。その場にいたお客さんに関しては1回きりですけど、それがDVDになって商品化されたときに加工、修正しちゃうと、ライブなんだけどライブじゃないみたいなことになる。こういうアーティスティックな作業っていうのは、いろんな解釈の仕方でずいぶん違うのかなと。
ーーそうですね。以前話を聞いた某映画監督も、昔はビデオなんてなかったから、映画は公開されてる間がすべてで、あとには残らないものだというつもりでやっていた、と言ってました。
中村:わかります。たぶん舞台が多い人は、やったらあとには残らないっていう意識を持ってる人も多いんじゃないですかね。最近はDVDに撮って、あとで発売するっていうのも多いけど。
ーー音楽のライブもそうですけど、舞台なんかは、DVDで見てるだけじゃ絶対伝わらないような臨場感って、ありますよね。
中村:そうそう。そういう満点じゃないっていうところで、先に転がっていくっていうかね。あーあそこがとか、あー今日は……とか、そういう細かい反省はあるけど、そのおかげで前に進んで行けたり、ポジティブにもなれる。歌でも芝居でも、今日はやりきったという達成感もある代わり、失敗もある。でも反省点が、前に進む原動力にもなる。
ーー一番達成感がある瞬間というのは?
中村:野外コンサート。
ーーほう。なぜ野外なんですか?
中村:なんだろう、あの空気感ていうのは、ホールコンサートと違う。それこそ野外コンサートがもし撮影がなかったら、本当に楽しいものだと思いましたね。
ーー(笑)。撮影があるとやっぱりプレッシャーがありますか?
中村:あります。緊張してやってるんですけど、意外と上手くいく例が多いんですよね。なんか不思議な集中力が生まれるんですよ。
ーー1500本もライブやってたら、もう慣れてるでしょ(笑)。
中村:慣れてますけど、たまに歌詞を忘れる(笑)。
ーー新曲が出るたびに、アルバムが出るたびに歌詞を覚えなきゃいけないわけですよね。役者がセリフを覚えるのとは何か違うものがあるんですか?
中村:覚えるという作業では一緒ですけどね。セリフが出てこなかった場合、ちょっと間を持たせたりするんですよ。昔はタバコを吸って間を持たせてましたね。先輩の役者なんかはみんなやってました。でも最近はタバコを使う芝居がないので。
ーーははあ、面白いですね、その話。
中村:俺が知ってる文学座の先輩は、セリフが出てこないと笑うって人がいましたけどね(笑)。それぞれあるんですけど、歌の場合は誤魔化しが効かない。
ーー忘れてる間も曲はどんどん進んじゃうし。
中村:ごめんなさいするしかない(笑)。歌にもよりますね。間違っちゃいけない歌ってありますからね。決め歌。「あれ?」なんて言ったら、積み木が崩れていくみたいになっちゃう歌もありますからね。
ーーわりとアップテンポの曲は、間違えても勢いで行けそうですけど。
中村:すごい切ないバラードだったりは、間違えちゃいけない感じはありますよね。そういう風にハプニングはあるから、ライブはライブの面白さと厳しさと、いろいろとありますね。
「他愛もない歌が特別な歌に変わった」
ーー新曲を披露されるときっていうのは、お客さんの反応は気になりますか?
中村:気になりますね。ステージの上で歌いながらお客さんの顔を見てると、喜んでるなーとかウケてるなーとか、表情ですごいわかるんですよ。暗闇の中でも、良い感じで聴いてくれるなっていうのは、空気感でわかりますよね。
ーー私もときどき経験するんですけど、ライブを観たあとに、アーティストの方とお会いして、今日はすごい良かったですねって言っても、今日はいまいちだったねとか。けっこう一致しないことが多いんです。逆に、音楽家が良くできたと思っても、お客さんはそうでもないとか。あれ何なんですかね。
中村:何ですかね。けっこうあるんですよ。ただ冷静に考えてみると、おおまかにはそんなに悪くないんですよ。やっぱり細かい部分で、あそこのところ、実はこうだったとか気になっちゃう、というのはあるかも。
ーー良かったからこそ。
中村:そう。でもエモーション的には届いてるんですよ。ただほんの少しミスがあっても、気持ちがずっと持続してると大丈夫だったりするんです。たとえ歌詞が出てこなくても、その歌の世界とかエモーションを持続してれば全然おかしくない。
ーー中村さんが歌われるときに一番大事に考えられてるのはそこだということですね。
中村:そうですね。気持ちを伝える。だからこそ、感動したりするのかと思う。とにかくテーマは、幕が降りてお客さんが帰るときに、やっぱり笑顔で「今日は来て良かった」っていうそういう気持ちで帰ってほしいっていうのはあるので。
ーー気持ちを伝えるために一番大事なことってなんですか?
中村:こっちが提供する側の気持ちを作ることと、メリハリ。歌に入ったら、ちゃんとその世界に入って、MCはMCでちゃんとして。自分なりの気持ちを作ってパフォーマンスをするんだけど、受け手側は千差万別というかね。いろんなリアクションをしてくれる。映画なんかで見どころは?って訊かれて、「こう感じてほしい」みたいに言うでしょ。送り手の気持ちはそうかもわからないけど、受け手側っていうのはいろんな感じ方をする。歌の世界もそう。歌というのは本当に、聞き手側の心の状態だとか、そのときの環境だとかで受け取り方が全然違ったりする。でもそれが歌だと思ってるので。
ーーその通りですね。
中村:東日本の震災があって、避難所へ行って自分の歌を歌ったときに、いろんな人がいろんな感じ方をするんだな、と実感したんです。俺、大学時代に「私の町」っていう自分の田舎の歌を作ったことがあるんですよ。ただ地元の景色だけを歌ってる歌なんですけど。トンネル出るとすぐ電車のホームがあって、ホームを降りて行くと、港があって……他愛もない詞の羅列なんですけど。そういうなんでもない歌が、震災直後に瓦礫だらけになった被災地で歌うと、特別な歌になるんですよ。それを聴いてる人たちが、今はもうないその景色を、俺の歌の歌詞を聴いて思い出す。頭に映像が浮かぶ。そういえば、そうだったよねって。駅があって駅舎があって、船があって、という景色が。その瞬間から、自分の他愛もない歌が特別な歌に変わったなと思って。歌って、本当にそういう素晴らしい力がある。それをすごく感じましたね。
ーー歌われるとき、中村さんの個人的なバックグラウンドとか、気持ちみたいなものっていうのは、そこに入って来るんですか? それとも役者のように、あるドラマを設定して演じるのか。
中村:それが不思議なんですけど、曲によってです。曲によって、これ俺だよって。そこまで思わなくても、主人公がだいたい浮かぶようなものもあるんですよ。あと、まったくの無心で歌うこともあります。どういう歌い方するとかも思わず、ホントに無心で歌うものもある。
ーーそうしたほうが良いと思うからですか?
中村:いや、それすらも考えないで、ただ歌ってる。たぶんそういう、ただ歌ってる瞬間ていうのはあると思いますけどね。インテンションなしに。
ーー歌と自分の心が完全に一体化してる。
中村:してると思う。何も考えずに詞も出てくるし。
ーーそれは良い状態なんですね。
中村:そうだと思いますね。現に、次の歌詞なんだっけ? って思ったときは、絶対に間違えるし、上手い表現はしてないですよね。スポーツなんかもそうだろうけど、無心でやってるときが、表現やパフォーマンスとしては素晴らしいんじゃないかと思います。
ーーなかなかその境地って行けないものですか?
中村:行けないような気がしますね。今回(のツアー)は26曲歌ったんですけど、何も考えずにただ歌ってるっていう時間がありますもんね。
ーー歌い手が何も考えていない無色透明な状態のほうが、お客さんが、自分の個人的な思い入れを投影できるのかもしれないですね。
中村:たぶん無心で歌ってるときがベストか、とても良い状態だと俺は思ってますけどね。
ーー大衆に支持される曲というのは、聞き手それぞれが「これは自分の歌だ」って思えるような曲なのかもしれません。中村さんがご自分の故郷の歌を歌った歌が、震災後の人たちに響いたというのは、まさに「これは自分の歌だ」と思えたから。
中村:そうですね。自分が住んでた町そのもの。たぶんどこかになにかしらの接点があるっていうことですよね。
ーーそれは作り手側が意図して設定できるものでもないわけですよね。
中村:意図してもいろんな受け取り方をされるから。送り手としては、自分たちはこういう表現をしたいんだってことでいいんじゃないかな。今回で言えば、バラードじゃなくてアップテンポの曲で行こうと。詞の内容は「だろう!!」に象徴されるように人に対する応援歌というか、メッセージをささげる歌にしようとか。でも聞く人は自由に受け止めてもらっていい。
「歌に関しては、ずーっとライブを続けていたい」
ーーご自分の書いた詞をシングル曲で出したいとは思わないですか?
中村:曲はともかく、詞って大変なんですよ。曲はワンコーラス作れば良いのに、詞だとツーハーフとか、へたしたら3番まで作らなきゃいけない。心して詞を作るぞ! って思わないとできない。それに比べると曲はなんとなくできちゃいますね。
――今まで役者でいろんな台本を読んできて、良い言葉がいっぱい入ってるわけじゃないですか。
中村:入ってるようで、入ってないよね。そうそうずっと覚えてるセリフはない。書き留めていれば別ですけど。デビューのときのセリフは覚えてますけどね、なぜか。確かにセリフで良い言葉はいっぱい言っていますね(笑)。
ーーそのセリフでみんな泣いたり感動したりしてるわけじゃないですか。
中村:ホントだよね。だけど、やっぱり詞は自分には難しいんだよね。
ーー役者経験は作詞家としての役にはあまり立たないということですか。
中村:大学生のときに作った曲がレコードになったときは、俺の人生でも大変なできごとでしたけどね。あんな日記みたいに作ってた曲なのに。
ーーそういう日記みたいな曲でも、歌われると非凡なものになる。些細な日常でも、それが歌われると非日常として響くっていうのは歌の良いところかなと思います。
中村:そうだね。自分ではちょっと幼稚だな、稚拙だなと思っても、聞き手がいろんな解釈をしてくれるっていうのはある。
ーー今回の曲を出されて、コンサートツアーもやられると思います。以前インタビューさせていただいた時は、もうすぐライブ1500本に到達するというお話をしましたが、将来の目標や達成したいことは?
中村:歌に関しては、ずーっとライブを続けていたいですよね。やっぱり歌うことって、大変なことなんだと思うと同時に、素晴らしいなと思うので。今の延長で、ライブをずーっと続けていられたら、本当に幸せだなと思います。もともと役者がひょんなことで歌を出すことになって、コンサートもやったら、結局43年間も続けてやってるっていうのは、ある種特別なものを感じるんで。
ーー来年はデビュー45年周年ですか。すごいですね。
中村:ええ。来年明治座で。45周年アニバーサリーで、第1部芝居、第2部ライブという公演を行います。
芝居は鴻上尚史さんが初めての時代劇を初めての明治座で手掛けられるという事でとても楽しみにしています。
ーーお話はもう決まってるんですか?
中村:鴻上さんを中心に脚本作りの最中です。笑あり涙あり面白おかしく、でもすごくメッセージがあって、これぞ中村 雅俊! みたいなそういうものを考えてます。
(取材・文=小野島大/写真=堀内彩香)
■リリース情報
中村雅俊『だろう!!』
発売中
価格:¥1,000(+税)
<収録曲>
M-1 だろう!!
東建コーポレーション イメージソング
作詞:松井五郎 作曲:都志見隆 編曲:大塚修司
M-2 千年樹
刀剣ワールド イメージソング
作詞:松井五郎 作曲:都志見隆 編曲:大塚修司
M-3 だろう!! カラオケ
M-4 千年樹 カラオケ
■公演情報
明治座『中村雅俊アニバーサリー公演』
2019年7月6日(土)~7月31日(水)(予定)
■関連リンク
中村雅俊オフィシャルHP
中村雅俊 日本コロムビアページ