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ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第50夜 磯村勇斗、ゾンビになる

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ゾンビになった磯村勇斗。

ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。

記念すべき第50回は特別企画をお届け。ゾンビ好きの磯村勇斗が、本格的なゾンビ特殊メイクに初挑戦する。今回訪ねたのは特殊メイクアップデザイナー・藤原カクセイのアトリエ。磯村は藤原と気ままにトークを展開しつつ、メイクのハイクオリティな仕上がりに驚き喜んだ。記事の最後にはメイキング動画と写真ギャラリーがあるので、ぜひチェックを。

取材・文 / 田尻和花 撮影(写真・動画)・編集(動画) / ツダヒロキ スタイリング / 笠井時夢

特殊メイクのアトリエに到着

以前、好きなゾンビ作品として「アイアムアヒーロー」を挙げていた磯村勇斗。今回ゾンビメイクを施す藤原カクセイは、同作の特殊メイク・特殊造形統括担当だ。アトリエを訪ねた磯村は、制作途中のボディや造形物が並ぶ1階フロアを通り、メイク現場である2階へ。藤原が参加してきた歴代作のポスター・フィギュア・人形が所狭しと置かれた部屋を見回し「うわあ、すごい……」と思わず息を漏らす。

「いろんな(人形の)顔がありますね。映画で観たことがある顔も!」と目をキラキラさせ、「ずっとゾンビが好きでしたが、ゾンビ側にもなりたいなと。ついに今日ここへ来ました」と意気込み十分。「しかも数々の作品を手がけてきた特殊メイクのスペシャリストの方にお願いできるということで期待大です!」とワクワクを隠せない様子だ。

撮影用に汚された衣装を見た磯村は「すごい! このボロボロ感、めちゃめちゃ細かいです。切るだけじゃなくて糸をほつれさせてますね。新品の衣装を一度合わせたんですが、こんなふうになるとは……。靴もつま先が擦り切れていて、細かい傷もある。Tシャツの汚れ方を見ると、血や肉を垂らしながら大胆に人間を食べるゾンビなのかなと想像しますよね」とイメージを膨らませる。

続いて磯村は藤原に挨拶し、互いに「ご無沙汰しています、よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。藤原は磯村の撮影現場に少し参加したことがあったそうだが、磯村本人に特殊メイクを施すのは今回が初めて。藤原が「特殊メイク、大丈夫ですか? どうなるかわからないですよ(笑)」とジョークを飛ばすと、磯村は「大丈夫です、存分にやっちゃってください! 汚れれば汚れるほど楽しいので」と元気に返す。

ミニトーク:藤原カクセイに教わる特殊メイク

映画ナタリー記者 特殊メイクに使う道具がいろいろ並んでいますが、例えばこのシリコン素材のパーツは売っているものを使うんでしょうか? それとも自分で作るんでしょうか?

藤原カクセイ シリコン素材のパーツやマスクは基本的にその人の骨格で型を取って作るんです。できた素材を撮影現場で肌に貼り付けて色を塗り、仕上げて完成。今回のメイクに限っては、成人男性用としてすでに用意してあるものを使ってフレキシブルに対応していこうと思います。

記者 色パレットも自前で色を選んだり作ったりするんでしょうか?

藤原 これは販売されているものなんです。日本で作っている会社はまだ1個もないのかな? 特殊メイクでよく使うんですが、エタノールで溶かすタイプで、手でそのまま触っても全然汚れません。特殊メイクは普通のメーキャップと違い、色を何度も細かく肌に重ねていきます。できるだけ“色を塗っている”ように見えないようにしたいんです。

記者 カラーコンタクトレンズもいろんな種類がありますよね。海外から取り寄せているんですか?

藤原 そうですね。以前は日本の会社も作っていたんですが、今はやってらっしゃらないんです。昔はハードレンズだったんですが、今はソフトレンズ。基本的には使い捨てなので、これは今日着けたらおしまい。今回磯村さんには片目だけ入れてもらおうかなと思っています。視界を遮ってしまうデザインなので、両方入れると両目とも見えなくなっちゃうんです。瞳孔部分に色が入っていない・抜けてるデザインだったらちゃんと前が見えますし、瞳孔の上まで全面に色が入っているものは見えない(全体的に白濁したレンズを見せながら)。このタイプを着けると遠目からはグレーやブルーグレーに見えて、本人の視界は白いモヤがかかったような状態になります。だからあまり歩き回ったりはできないんです。今回は片方にカラコン、もう片方は潰れた目が半分隙間から見えているような仕上がりにしようかな。

記者 なるほど。それでは今日のメイクコンセプトを教えてください。

藤原 磯村さんは「アイアムアヒーロー」が好きだと伺いました。そのときに作ったファンデーションがまだ残っているので、それをベースにしてメイクを作り上げていこうと思います。先ほどの衣装も私たち(特殊メイクチーム)が汚し作業をさせていただいたので、そこにも合わせつつ。ただ、磯村さんであることはわかる程度にしようと思います。

特殊メイク開始! 磯村勇斗と藤原カクセイはゾンビトークに花を咲かせ…

藤原カクセイ ゾンビ好きということですが、ゾンビ映画は何が好きなんですか?

磯村勇斗 僕はもうやっぱりジョージ・A・ロメロのゾンビ映画ですね。藤原さんはいかがですか?

藤原 僕は「サンゲリア」ですね。

磯村 物語、ゾンビ造形を含めた全部が好きですか?

藤原 とにかくおかしいんですよ。泳いでるサメにゾンビが食らい付くシーンもありますからね。(模型を指しながら)これは「サンゲリア」に出てくる“ワームゾンビ”。

磯村 (模型を見て)気持ち悪いじゃなく、かっこいいなって思っちゃいますね。ちなみに僕がゾンビ映画で一番リアルで怖いなと思ったのは「ゾンビ大陸 アフリカン」なんです。

藤原 なかなかコアだね。

磯村 出演している方々の肌の色と、ゾンビになって崩れた雰囲気が掛け合わさってすごく怖くて。静かな映画で、印象に残ってますね。肌の色によって作品の雰囲気が変わるというのがやっぱりあるんだなと。藤原さんは、ゾンビメイクの参考に資料や写真を見るんですか?

藤原 ゾンビメイクのときはあんまり見ないですかね。単純に血でごまかすだけだとチープに見えてしまうので、ある程度までやったら、あとはちょっとデフォルメや補正でわかりやすくしたり。死体だからとなんとなく白くしても違いますしね。お葬式などで対面したときの記憶や体験って、僕以外の人も絶対に持っているわけです。そのうえで、作品を観たときに「あ、これって……」となるようにしたい。じっくり見ることって少ないかもしれないけど、精肉店に置いてある肉なんかも参考になりますよね。ギタッと真っ赤にするのではなく、リアルな要素を振りかけて、観客に「なんだかわからないけれど、これって気持ち悪い。リアルに見える」と思ってもらいたいです。

磯村 僕もただ血糊でペタッとなっているより、肉片のようなドロッとしたものが混じっているのを見ると、こだわって作ってるんだなと感じます。

藤原 血糊で言うと、僕は3種類ぐらい使い分けるときがあります。

磯村 3種類!

藤原 参加した「今際の国のアリス」も「キングダム」シリーズでもそうでした。血糊はうちのチームに触らせてくれといつも言っているんです。まあ、ゾンビは世の中に存在していないものですが、作り物だと思われないようにしたいですよね。

磯村 その世界には本当にいるんだと思わせられたらいいなということですよね。それは役者も同じです。

藤原 磯村さんはゾンビ以外のホラーは観ないんですか?

磯村 ゾンビ以外も観ますよ! 「ソウ」みたいなスプラッターも、ほかのジャンルも。僕の兄が週末にホラー映画鑑賞会をやっていたので、ちっちゃい頃から一緒に観てました。でも日本のホラーは怖いんですよ。貞子や脅かし幽霊系は今でも怖い。藤原さんはハロウィンパーティでこういうメイクをされることもあるんですか?

藤原 知り合いが六本木にあった(ディスコの)ヴェルファーレで企画した、ハロウィンパーティのお手伝いをしたことはありますよ。昔は僕も簡単な仮装をしたこともありました。コンタクトを入れて、牙を入れて、髪の毛も変えて……とやってましたね。でも自分自身でパーツを付けたりすると、すごく大変で、時間が掛かっちゃう。

磯村 僕もだいぶ前に1回だけ腕をゾンビにしようとしたことがありました。糊やティッシュを混ぜたり重ねたりして。

藤原 その方法は間違ってないですよ。

磯村 間違ってないんですね! けど、やっぱりイメージしてたものとは全然違いました(笑)。特殊メイクには素材選びが大事そうですね。

藤原 僕の特殊メイクでは、ラテックスにおがくずを混ぜた“おがラテ”だったり、コーンフレークを混ぜたラテも使います。表面がゴツゴツしていいんですよね。そのほか、口に入れていいものは基本的に体に害がないので、素材として使いやすい。ロケ先に着くとまずスーパーマーケットへ素材を探しに行きます。最近は(俳優さんに)嫌がられないよう、甘い匂いのハチミツや黒蜜を混ぜることもあります。ただ、そうすると虫が寄ってくるんですよね(笑)。

ついに磯村ゾンビ完成

記者 2時間半くらいメイクをしていただき、ついに完成ですね。

藤原 まず手だけ見る?

磯村 いいんですか? ……ウワーッ! こうなってたんだ、気持ち悪い! ラテックスをむしるとこういうふうになるんだ……。すごいですね。このまま買い物行きたい、この手でお金を払いたい!

記者 では顔もご確認ください。

磯村 おー! すご! こわ!(笑) え!? 目がヤバいですね。首、グロ! 最高ですね!

藤原 今日来たこと、後悔してない?(笑)

磯村 めちゃくちゃいいです! すごい!! 今日この格好のまま帰ろうと思ってたけど駄目ですね。職質されますね(笑)。

記者 ではカラコンを着けていただき、撮影に参りましょう!

ゾンビになった磯村勇斗に追われる

地下で作業中、振り返ると“ヤツ”がいた

訳がわからないまま階段を駆け上がるが、後ろから気配を感じる

地上へ出た。しかしヤツの追跡を逃れることはできない……

撮影を終えて

記者 本日は長丁場、お疲れ様でした! 初めてのゾンビメイクはいかがでしたか?

磯村 めちゃくちゃ楽しかったですね。短時間の撮影でメイクを外すのがもったいないです。これで1本作品を撮りたいぐらい。本当に細かいところまで藤原さんたちに作っていただけてうれしかったです。

記者 このメイクで気に入っているポイントは?

磯村 やっぱり右目です。空洞というか、もう目が腐ってなくなっているような感じ。よくわからない液体物が流れている、右顔のゾーンが好きですね。質の違う素材や液体が塗り重ねられて、あっと驚くような仕上がりになりました。メイク材料に食べ物を使うという話もありましたが、やはりアイデア勝負なんだなと、特殊メイクさんたちのすごさを知ることができました。今回のゾンビはなりたてというより、なってから時間が経っている雰囲気があって、1人でずっとさまよっていたんだろうなっていう顔付きをしてるんですよ。ここも僕が好きなポイントですね。悲壮感というか、孤独感がただよっていて。

記者 先ほど藤原さんとも話していましたが、好きなゾンビ映画についてもう少し。ベスト3を挙げるならどの作品でしょうか。

磯村 難しいなあ! でも、やっぱりゾンビの生みの親ジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」かな。僕の中で一番大切にしたい作品です。「ゾンビ大陸 アフリカン」は、初めて観たときの衝撃が忘れられなくて、自分の生きている世界に一番近いと思えるくらいのリアリティとヒヤヒヤ感がありました。そして「28日後...」「28週後...」も。僕はあの2作で、“走るゾンビ”に出会いました。

記者 私も走るゾンビは衝撃的でした。お兄さんとのホラー映画鑑賞会でゾンビと出会ったんでしょうか?

磯村 そうですね。最初は「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」かな、そこでゾンビ映画に出会ってハマッていったと思います。当時の忘れられない作品と言えば「バタリアン」ですね。子供のとき、深夜1時くらいに「バタリアン」がテレビ放送されていたんです。テレビをつけたら、ちょうどウワーッってゾンビが出てくるところを観てしまって、もうその日ずっと怖すぎて寝れなくて。今でも頭の中に残ってますね、あの恐怖体験は。

記者 では磯村さんは脅かす側、ゾンビ役での出演に興味はありますか?

磯村 やってみたいですね! 今日はちょっとゾンビの役作りが足りなかった(笑)。作品に出演する機会があれば、そのときはゾンビとしてしっかり立てるように役を作っていきたいと思います。

メイキング動画公開中

磯村ゾンビがいっぱい!

磯村勇斗(イソムラハヤト)

1992年9月11日生まれ、静岡県出身。特撮ドラマ「仮面ライダーゴースト」のアラン / 仮面ライダーネクロム役、連続ドラマ小説「ひよっこ」でヒロインの夫となる役を演じ脚光を浴びる。またドラマ「きのう何食べた? season2」が10月6日放送スタート、映画「月」は10月13日、映画「正欲」が11月10日に封切られる。

藤原カクセイ(フジワラカクセイ)

京都府出身。特殊メイクデザイン&クリエイトスタジオのダミーヘッドデザインズ代表。「アイアムアヒーロー」の特殊メイク・特殊造形統括、「孤狼の血」シリーズの特殊メイクデザイン・特殊造形、「キングダム」シリーズや「今際の国のアリス」シリーズのキャラクター特殊メイクデザイン・特殊造形統括、「仮面ライダーBLACK SUN」「シン・仮面ライダー」のキャラクター・ライダー造型などを担当した。