『アンナチュラル』『半分、青い。』『おっさんずラブ』…印象的な2018年ドラマ主題歌を振り返る
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2018年も残りわずか。今年もさまざまなドラマが制作され、お茶の間を賑わせた。ストーリーやキャスティング、演出など作品によって話題となるポイントは異なるが、主題歌もまたドラマを語る際に欠かせない要素のひとつとなっている。時に作品を代弁し、物語の持つテーマを一層深く視聴者に届ける役目を果たす主題歌。今回は今年印象的だったドラマ主題歌を振り返っていきたいと思う。
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視聴熱でも作品の話題性でも、今年最も高い水準を記録した作品といえば『アンナチュラル』だろう。本作は不自然死究明研究所(=通称UDIラボ)を舞台に、法医解剖医のチームが死因不明の遺体の謎を究明していくミステリー。時事ネタを盛り込んだ物語、登場人物たちの軽妙な会話劇など見どころも多く『東京ドラマアウォード2018』では6冠に輝く快挙を成し遂げたばかりか、主題歌に起用された米津玄師の「Lemon」もビルボードジャパンによる2018年の年間チャート1位を獲得。ドラマと楽曲ともに2018年を代表する作品となった。特徴的だったのはドラマの持つ“不条理な死”というテーマともリンクする歌詞。毎度エンディングの絶妙なタイミングで流れる〈夢ならばどれほどよかったでしょう〉のフレーズから始まる楽曲は、失われた命へのやるせない思いに満ち、視聴者の胸に物語を深く刻み付けた。
2018年度の上半期の朝ドラとして鮮烈な印象を残した『半分、青い。』。岐阜の田舎町出身の主人公が漫画家、100均の店員、シングルマザー、起業家と目まぐるしく転身しながら、70年代~現代までを軽やかに駆け抜けていく姿を活写した。主題歌に抜擢された星野源の「アイデア」は、〈おはよう〉という挨拶で始まり、弾むようなテンポで展開する爽やかな1曲。見慣れた風景もほんの少し見方を変えることで鮮やかに変わっていくことを表現したオープニング映像と相まって、幅広い世代に支持された。また、「アイデア」というタイトルに、持ち前のひらめきでさまざまなアイデアを形にしていく主人公・楡野鈴愛の姿が重なった人も少なくなかったはずだ。ちなみに本作はドラマでの使用は1番のみだったが、2番以降はデジタルサウンドを取り入れた劇的な変化を見せ、まさに星野源の“アイデア”にあふれた楽曲である。
『トドメの接吻』は金と権力しか信じないホスト(山崎賢人)が、ひょんなことから得た“タイムリープ”の能力を駆使してのし上がっていく一方、真実の愛に気づくまでを見つめた異色のラブストーリー。主題歌には、自身も俳優としてドラマに友情出演した菅田将暉の「さよならエレジー」が抜擢された。菅田がドラマ主題歌を歌うのは本作が初めて。石崎ひゅーいが作詞作曲を手がけ、かき鳴らされるギターと菅田の等身大の歌声が鮮烈なロックナンバーに仕上がっている。菅田の役柄がストリートミュージシャンであったり、ジャケット写真はドラマ内で着用している衣装で撮影されていたりと本編との“パラレルワールド”的な関係性を意識した仕掛けもなされていた。
今年デビューした新人アーティストの中でも、一際華々しい登場となったKing & Prince。「シンデレラガール」は彼らのデビュー曲としてばかりか、メンバーの平野紫耀が出演するドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』の主題歌としてもオンエアされ、大反響を巻き起こした。大金持ちの子息たちが通う学園を舞台に、校内ヒエラルキーのトップに君臨するイケメン高校生と庶民派女子高生の恋愛模様を描くというストーリーは、女子の憧れそのものとも言えるが、そんなキラキラした恋のときめきを楽曲でも表現したのが本作。〈キミは シンデレラガール/My precious one/You’re the only flowering heroine〉〈どんなときも ずっとそばで/まぶしい その笑顔見せて〉など、甘いワードが並ぶ歌詞はドラマ同様多くの女子たちの心を掴み、物語を一層盛り上げることにもなった。
綾瀬はるか演じるカタブツなキャリアウーマンと、ある事情から彼女の義理の娘となった少女の絆を描いたヒューマンドラマ『義母と娘のブルース』。主題歌は今年デビュー20周年を迎えたMISIAが務めた。「アイノカタチ」と名付けたれた本作の歌詞は〈あのね〉と、語り口調で綴られているのが印象的。義理の娘から母へ、または義理の母から娘へ、互いにふだん言葉にできない気持ちを代弁したかのような歌詞は、話数が進むにつれて存在感を増し、多くの視聴者の心に届くものとなった。ドラマの視聴率も右肩あがりに伸び、7月クールに放映された作品の中では最高を記録。『やまとなでしこ』(フジテレビ系)や『JIN-仁-』(TBS系)などこれまで幾多のドラマ主題歌を手がけてきたMISIAだが、そのディスコグラフィにまたひとつ代表作が増えることとなった。
今年放映されたドラマの中で、誰も予想しなかったヒット作といえば『おっさんずラブ』だろう。深夜帯の放送、そして“おっさん同士の恋愛”という異色すぎるテーマにもかかわらず評判が評判を呼び、『2018ユーキャン新語・流行語大賞』トップテン入りを果たすという躍進を遂げた。モテない独身男と乙女な上司、そしてイケメンでドSな後輩の三角関係を盛り上げたのはスキマスイッチの主題歌「Revival」。彼ららしい美メロが活きるミディアムナンバーは、実は書き下ろしではなく最新アルバム『新空間アルゴリズム』の中の1曲だ。しかし、登場人物の揺れ動く心を描写したような歌詞に心打たれる視聴者が続出。急遽、ドラマのロケ地を“聖地巡礼”したMVも制作された。放映後にもドラマと楽曲のコラボが実現したあたり、反響の大きさを感じさせる。
どの作品にも共通しているのは、主題歌とドラマとの間に親和性があること。担当するアーティストが脚本を読み込み、書き下ろすスタイルが定着してきた背景もあるとは思うが、何より制作サイドの主題歌への込める熱量の高さが増してきた印象だ。テーマやストーリー、時に登場人物の内面までも内包した楽曲は、ドラマそのものの内容を拡張させもする。それを改めて感じた1年だった。さて来たる2019年は、どんな作品で楽しませてくれるだろうか。
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。
■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。