Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 舞台『チョコレートドーナツ』再演に向けて 東山紀之×岡本圭人「さらに研ぎ澄まされたものをお届けしたい」

舞台『チョコレートドーナツ』再演に向けて 東山紀之×岡本圭人「さらに研ぎ澄まされたものをお届けしたい」

ステージ

インタビュー

ぴあ

左から)岡本圭人、東山紀之  撮影:You Ishii

続きを読む

1970年代のニューヨークを舞台に、ゲイの男性が育児放棄された障害を持つ子どもを育てたという実話に着想を得て製作された『チョコレートドーナツ』(2012年/原題『Any Day Now』)を、2020年、東山紀之主演・宮本亞門演出で世界で初めて舞台化。高い評価を得ながらも、残念ながらコロナ禍で上演数が減ってしまった本作が、2023年、満を持して再演を果たす。主人公ルディには続投となる東山紀之、ルディのパートナーであるポールとして新しく参加する岡本圭人に話を聞いた。

同じ板の上で素晴らしい作品を作れたら

――改めてこの作品への想いと、再演が決まったことについて教えてください。

東山 コロナの大変な時期で、東京公演は半分が中止になったんですね。覚悟はしていたものの、やはり自分の無力さを感じました。けれど演劇の力でお客さんも観に来てくださいましたし、自分自身も感銘を受ける物語でした。あれから3年、やっとコロナ禍が落ち着いてきて再演できるこのタイミングで、改めてきちんと作品と役柄に向き合い、さらに研ぎ澄まされたものをお届けしたいと、気持ちを新たにしました。

岡本 映画が公開された当初、観に行って、本当に心に刺さった作品だったので、それが今回、再演という形で自分がポール役を演じさせてもらえることを聞いたときは嬉しかったです。最初に映画を観て受けた感動や心に響いたものを、僕が一生懸命役作りをすることで、お客さんに届けたいと思っています。

――本作のどういうところにグッと来ましたか?

東山 結局、人間同士がどんな想いで生きていくかということなんですよね。ゲイとかドラァグクイーンとか、表面的な要素はありますが、本質的なところでは人間同士が愛し合う、普遍的なテーマをダイナミックな表現で描いています。当時のアメリカではゲイのカップルは差別の対象ですが、さらにダウン症のある子どもを預かるのは勇気もいる。それを皆さんに感じていただけたら。どんなことでも、やっぱり生きるって勇気が必要ですよね。演劇を通してそういうことを感じていただけたら、皆さんの日々の生活にも活きるのかなと思います。

岡本 難しいテーマが散りばめられた作品ですよね。僕は映画での感想になりますが、個人的に一番刺さったのがルディとポールとマルコの関係性。ハッピーな物語ではないので、この3人の関係性が失われたときに感じた感情が自分の中では強かったです。人間は生きていて何かを失うことで気づくことがありますが、その痛みを感じてもらえたら。そのために東山さんと、マルコ役の(丹下)開登くん、もうひとりの(鈴木)魁人くん、そして(鎗田)雄大くんと一緒に、3人の家族のような関係性をしっかり作っていきたいなと思います。

――今回、岡本さんは新たに加わりました。

東山 不思議ですけど、ポール役が圭人と言われたときに、あー、なるほど! みたいな納得感があったんです。圭人が誘ってくれたので彼の舞台もよく観に行っていたんですけど、本当に素敵な俳優さんになられて、表現者としても思いきりの良さが出ていると感じたので、同じ板の上で素晴らしい作品を作れたら、僕にとっても圭人にとっても財産になりますし、圭人のファンの人たちにとっても、彼の新たなチャレンジをぜひ観ていただきたいという想いが強くなりました。

岡本 東山さんは父(岡本健一)の先輩でもあるのですが、今、そう言ってくださって、不安に感じていたことがなくなって、稽古を共にする時間がすごく楽しみになりました。

――東山さんは納得感があったと思われていたのは、初めて知りましたか?

岡本 …はい(照笑)。

東山 え?ではなく、おお!みたいな、圭人、いいねえ!という感じで、すごくしっくりきました。そういう直感ってやっぱり大事だと思います。

岡本 まさかこの場でそんなことが聞けるとは...…。ありがとうございます。

ポールのバックストーリーを台本にも反映

――お互いの役者としての印象はいかがですか?

東山 圭人のことは幼少期から見ているけど、ある瞬間から一本筋が入ったというか、本気になったと感じました。内野(聖陽)さんとやった舞台(『M.バタフライ』)では京劇の女形もやって、全裸も厭わず。あの姿には本気を感じました。大人になったなと感じていたときにこの『チョコレートドーナツ』の話が来たので、圭人とはすごくいい真剣勝負ができると思いました。

岡本 東山さんはやっぱりスターです。子どもの頃から父の舞台を観ることが多かったんですが、それとはまた違う光を立っているだけで放っているので、その光に負けないように自分も輝いていきたいです。『M.バタフライ』のときは、頑張って「来てください!」と誘ったんですよ(笑)。京劇の先生が、東山さんが出演されていた舞台のときの先生でもあって、いろいろ聞いていたので、ぜひ観ていただきたいと思っていたんです。子どもの頃から(少年隊の主演舞台)『PLAYZONE』を観て育っているので、僕がずっと観ていたあの舞台に立っていた方と、こういう形で共演できることがすごく幸せですね。

――それぞれのキャラクターをどう演じたいですか?

東山 アメリカの理不尽さ、差別、人種問題など、さまざまな問題が集約されている物語なので、上演することでいい社会になればいいのかなと思います。

岡本 自分が個人的に気になっているのがポールのバックストーリー。どんな過去があるのか、ルディに出会うまでに何があったのかという話を、亞門さんとさせてもらったら、その後、亞門さんが台本を書き直してくださいました。初演の谷原(章介)さんが演じられていたポールとはまた違う人物像になる予感がしています。僕は翻訳劇をやることが多かったので、台本を変えるなんてしたことがなかったんですが、亞門さんとの作業で、こういうアプローチの仕方があるんだと思いましたし、よりポールの人物像が深まった感覚がしました。

――ルディとポールが奮闘する姿に勇気づけられる観客は多いと思いますが、おふたりは役柄と重なるような経験などはありますか?

東山 ルディはとにかくベット・ミドラーが大好きで、僕はマイケル・ジャクソンが大好きなのが似ているなと思います。「世界で最高のディーヴァよ!」とか、明るく楽しい、僕の中にはない表現がたくさんあるんですよね。でも、とにかくルディはいつでも本音で生きていて、ポールにもズカズカ言うでしょ。「世界を変えるなんてうそつきー!」みたいな。僕は自分にない要素をどんどん出せるのが楽しいですね。普段は静かに、家でもおとなしくしているタイプなので(笑)。

岡本 アメリカに留学したときに感じたことですが、アメリカは自分がやっていることが正義だし、自分を表現しないと生きていけないような社会です。ニューヨークの演劇学校に行ったとき、他の人たちがすごく輝いて見えて、僕もこういうふうになりたい、こういうふうに自分の内なる想いを言えるようになりたいと思いました。そのときの感情を思い出しながら、ポールのセリフを言いたいです。

――演劇学校で自分のトラウマを話すレッスンがあったと以前、別のインタビューで語っていましたが、そのときの経験が活きそうですか?

岡本 演劇学校で、クラスメートの前で自分のトラウマを話すことがあったんです。自分が想像する以上の内容をみんなが話しているのを聞いてすごく心を動かされて、自分も今まで人に言ったことがないトラウマを打ち明けたとき、今までは自分を偽るというか、自分を“作って”ステージの上に立っていたということを感じて、言葉が出ないくらいの感情に陥って大号泣してしまいました。

東山 そういうことがあったんだ。

岡本 はい。その後、すごくスッキリしたし、周りのクラスメートも感動していたし、自分の殻が破れた経験になりました。ポールもきっと何かしら抱えているはずなので、台本に書かれている以上の、もっと奥底にあるポールの感情を探していきたいです。

亞門さんの的確な演出に導かれて

――再演のビジュアル撮影のときに、東山さんはマルコ役の丹下さんと再会でしたよね。すんなりと3年前の関係に戻れましたか?

東山 すんなり戻れました。いい意味で本当に変わらなかったです。素直で穏やかでチャーミングなまんま、本当にかわいいんです。会うたんびに「東山さん、大好き!」って言ってくれる。他の誰よりも言ってくれますね(笑)。僕自身も穏やかな気持ちになりますし。彼が舞台でお客さんの目の前で芝居をするのを観るだけで感動的です。ダウン症のあるお子さんをお持ちの方たちは多いと思いますが、彼には希望というか可能性の広がりを感じると思います。

岡本 開登くんが嵐が好きと言っていたので、僕もHey!Say!JUMPっていうグループにいたんだよと話したら、見たいと言ってくれたので、今度、Hey!Say!JUMPにいた頃のDVDを持って行きます。どういう化学反応が生まれるのか予想できないので、本当に稽古が楽しみです。トリプルキャストで3人それぞれ違うマルコになると思いますが、それぞれに違う3人の関係性を出せると思いますし、どの公演も新鮮な気持ちで演じられるだろうから今からワクワクしますね。

東山 マルコとの関係性を稽古場でちゃんと作れたら家族感も出せると思うしね。僕らが不安に思っていることは彼らにも伝染するので、そこを感じさせないようにしたいです。彼らは1回セリフを覚えたら忘れないんですよ。安定感抜群です。

――岡本さんはどうやってコミュニケーション取ろうと思われていますか?

東山 いっぱいお小遣いあげた方がいいかも(笑)。

岡本 あははは(笑)。

東山 というのは冗談だけどね、開登が普段仕事でケーキを作っていて、時々持ってきてくれるんだけど、すごく美味しいの。

岡本 へぇ~! 甘いもの好きです。もちろん開登くん、雄大くん、魁人くんと距離を詰めていきたいですが、僕は東山さんとも詰めていきたいなって思っているんです。自分の中では子どもの頃からずっと“ヒガシくん”なんですよ。自分のことを子どもの頃から知っているお兄ちゃんと一緒にお芝居をすることはなかなかできない経験ですし、ポール役としてはアドバンテージだと思っているんですけど、いつしか“ヒガシくん”から“東山さん”となっていて(笑)。

東山 なんて呼んでくれてもいいよ(笑)。

岡本 公の場では「“ヒガシくん”との共演が楽しみ」とはやっぱり言えないですけど、これから稽古を通して、“ヒガシくん”だった頃のように、もうちょっと距離が縮まるかなと密かに考えています(照笑)。

東山 圭人が3歳ぐらいのとき、森光子さんにじゃれついて飛び蹴りして(笑)、みんなに「コラッ」って怒られたことがあったんですけど、そのうち俺も飛び蹴り食らうかもしれないからサッとよけられるよう気をつけなきゃ(笑)。

――お稽古で楽しみにしていることは?

東山 お客さんの感情の揺れ動きがよくわかるのは俳優としての喜びですが、作品が持っている力や(宮本)亞門さんの演出もすごいので、それを圭人と共有できる経験はなかなかない機会だと思っています。

岡本 ポールとルディとして出会ったときやふたりの会話がどういう感じになるんだろうと、台本を読みながらずっと楽しみにしています。以前、父との初舞台『Le Fils 息子』をやったとき、今まで岡本圭人自身が父親に言えなかったことを役を通して言えたことがあったんです。それが演劇の素晴らしいところのひとつですよね。その経験が自分にとっては大きかったので、今回もポールだからできること、普段の自分ができないことを、ポールを通して伝えられたらいいなと思います。

――初演のときに演出の宮本亞門さんから言われたことで印象的だったことは?

東山 亞門さんは的確な演出をしてくださいます。自分では変えて演じているつもりでも、全然変わっていないと言われていて。要は全然ルディになれていないと。そこでまず亞門さんからのリアクションを取ろうと思い、自分自身を思いっきり解放してやったところ、亞門さんがすごく喜んでくれたんです。そこから派手なアクションを心がけて演じるにようにしましたし、亞門さんからああしてこうしてと言われることは、全て納得なんですよね。歌にしても「丁寧に歌わないで」と言われていて、あるシーンでは叫ぶだけみたいな感じでやっていましたが、それが物語として正解なんです。これまで習ってきたことを1回全部捨てて、思いっきりやれたのが新鮮でした。

岡本 実際、演じていて楽しかったのはどこでしたか?

東山 最後にボブ・ディランの『I Shall Be Released』を歌うんですけど、亞門さんの演出もすごく良くて。自分の気持ちができてから歌い始めると、まるで光がグッと集約されたようになって、お客さんの気持ちもグーッと集中しているのがわかるから、このシーンは非常に楽しかったね。

岡本 そうなんですね。自分も今、思っていることをいろいろ亞門さんにお話しさせていただいていますが、実際、稽古が始まってみないとわからない部分もあります。僕もまずは稽古場で亞門さんの心を動かすのが重要かなと思っています。それで初めてお客さんにも届く演技ができるんだと思います。ポールを僕が演じて良かったと言ってもらえるように、一生懸命稽古していきたいです。

取材・文:熊谷真由子 撮影:You Ishii
ヘアメイク:(東山)平山直樹(wani)/ (岡本)石津千恵
スタイリスト:(東山)平尾俊 / (岡本)吉本知嗣

<公演情報>
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
『チョコレートドーナツ』

原作:トラヴィス・ファイン、ジョージ・アーサー・ブルーム(トラヴィス・ファイン監督映画『チョコレートドーナツ(原題:ANY DAY NOW)』より)
翻案・脚本・演出:宮本亞門
訳詞:及川眠子

出演:
東山紀之
岡本圭人
八十田勇一 / まりゑ / 波岡一喜 / 綿引さやか
斉藤暁 / 大西多摩恵 / エミ・エレオノーラ / 矢野デイビット / 穴沢裕介 丹下開登・鎗田雄大・鈴木魁人(トリプルキャスト)
高木勇次朗 / シュート・チェン / 棚橋麗音 / 小宮山稜介
山西惇 / 高畑淳子

MUSICIANS
横山英規(Bass)/ テラシィイ(Guitar)/ 藤原マヒト(Keyboard)/ 松本淳(Drums)

【東京公演】
2023年10月8日(日)~10月31日(火)
会場:PARCO劇場

【大阪公演】
2023年11月3日(金・祝)~11月5日(日)
会場:豊中市立文化芸術センター 大ホール

【熊本公演】
2023年11月10日(金)・11日(土)
会場:市民会館シアーズホーム 夢ホール(熊本市民会館)

【宮城公演】
2023年11月16日(木)
会場:東京エレクトロンホール宮城

【愛知公演】
2023年11月23日(木・祝)
会場:日本特殊陶業市民会館 フォレストホール

チケット情報
https://w.pia.jp/t/choco2023/

公式サイト
https://stage.parco.jp/program/choco2023