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【おとなの映画ガイド】真木よう子、井浦新ならではの大人の色気漂う空気感、 謎のリリー・フランキー…人間の心の奥底に迫った今泉力哉監督の異色作『アンダーカレント』

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『アンダーカレント』 (C)豊田徹也/講談社 2023「アンダーカレント」製作委員会

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2004年に発表されて以来、国内外で読み継がれる豊田徹也の伝説的コミック『アンダーカレント』が、恋愛映画の名手、今泉力哉監督によって映画化、10月6日(金)から公開される。主演は真木よう子。今泉監督にとっては、『ちひろさん』に続くコミック原作の映画化。これまでの軽やかなタッチの恋愛ドラマとは一線を画す、ミステリアスなヒューマン・ドラマだ。音楽は細野晴臣が担当。

『アンダーカレント』

undercurrent ── 下層の水流、底流。(表面の思想や感情と矛盾する)暗流。と、映画の冒頭で字幕が表示される。人間の心の奥底には、表向きにみえていることとは相反する暗い部分がある、ということか。

真木よう子演じる主人公かなえは夫とふたりで家業の銭湯を営んでいた。夫の悟(永山瑛太)は、かなえの大学時代の同級生で、卒業してから数年後に再会、交際して4年、結婚して4年、銭湯を仲むつまじく共同経営していた。しかし、その夫が突然失踪。一時休業していたが、気を取り直し、お手伝いのおばちゃん(中村久美)の助けを借りて再開したところだ。

その翌日、この「月乃湯」で働きたいと銭湯組合から紹介された男がやってくる。堀といい、ボイラー技師などの資格を持つが、こういう仕事は初めてらしい。来たその日から働き出し、月乃湯に住み込む。物静かでまじめそうな堀は、役にぴったりの、井浦新が演じている。

やがて、常連客たちも少しずつ顔をみせ、おちついた日常が戻ってきたのだが……。

ある日。かなえは、近くのスーパーで、大学時代の同級生・菅野(江口のりこ)とばったり出会う。悟の失踪をきいた菅野は、知り合いの探偵(リリー・フランキー)を紹介してくれるという。その探偵がうさん臭くて不安だったが、消息を知りたい一心で調査を依頼する。

そして、途中報告できかされたのは、かなえの知らない悟の秘密。

映画は、ミステリアスに展開していく。 夫の失踪の理由と実の姿は?突然現れ、住み込んでしまった堀は何者? ふつうの精神状態ではいられないかなえ自身にも、ときおり、不思議な心象風景があらわれる。

ドラマを進ませるのは、リリー・フランキー演じる私立探偵・山崎の存在だ。豊田徹也の原作にもあるキャラクターで、実は、20年近く前に発表されたこのコミックでも、リリーをイメージして描かれていたという。いわば、未来の映画化を先取りしたような”当て書き”だったのだが、どこか不真面目そうで、いいかげんに見えるけれど、本質を見ているあたり、まさにリリーさんがまとう雰囲気を体現している。

夫のことはわかっていたつもりだと言うかなえに、山崎が問いかける。

「人をわかるってどういうことですか?……」

逆にいえば、人は、どんなに親しい人でも、家族でも、自分のことですら、本当にどこまでわかっているのか。

いつもの軽やかな今泉監督作品とは、全体の雰囲気も多少異なる本作なのだが、リリー・フランキーが登場するとどこかユーモラスに変調するのは、今泉作品っぽい、とも感じられる。

月乃湯で働くことになった堀とかなえの関係も微妙な雰囲気を漂わせる。多くを語らない井浦には男の色気を感じる。真木よう子の持つ色っぱさも含めて、このふたりには、おとなの緊張感がある。この距離、例えば、個人的には、ミア・ファロー主演の『フォロー・ミー』を思い出した。

映画の舞台挨拶での、真木よう子と江口のりこのやりとりが、ワイドショーやネットで話題になった。ふたりは旧知。真木が江口のことを「親友です」と話したのに、江口が「つきあいが古いだけで、親友ではありません」と応えた。いかにも江口らしい自然な「塩対応」と感心したが、まさに、人のことなんて、わかっているようで、わからない、この映画そのままで思わず笑ってしまった。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)豊田徹也/講談社 2023「アンダーカレント」製作委員会