悔しさと誇りを胸にラグビー日本代表が帰還! 姫野主将「もっともっと強くなりたい」
ニュース
ラグビー日本代表が帰って来た。『ラグビーワールドカップ(RWC)2023』プール戦敗退に終わり志半ばでフランスを去った日本代表は悔しさをにじませながらも胸を張っていた。10月11日の帰国記者会見ではチームを代表して、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会(JRFU)土田雅人会長、日本代表藤井雄一郎ナショナルチームディレクター(NTD)、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)、姫野和樹キャプテン、流大バイスキャプテンが登壇。会長とHCがあいさつした。
土田会長「まず最初にラグビー日本代表を応援いただいたすべてのみなさんに御礼申し上げます。大会の結果はご存じの通り、日本代表はすべての試合に全身全霊で臨んだが、決勝トーナメントに進めなかった。プール戦2勝2敗という結果は悔しいものであり、日本代表の現在地として真摯に受け止めたい。本大会の総合的なレビューはこれから行うが、世界のラグビーで変化を感じる大会でもあった。日本ラグビー界が一体となってゴールを共有し、現在の課題に戦略的に臨むことで日本ラグビーの成長を加速させていきたい。本大会で見せた選手のハードワークに裏付けされた日本ラグビーの成長は誇り。選手たちを称えたい。姫野主将、流副将は本当に素晴らしい2019年からさらに成長した“OUR TEAM”を作ってくれた。ここまで日本を率いてくれたジェイミー・ジョセフHCには最大限の敬意を表したい。世界の頂点に立つことは夢ではなく目標であるとチームに見せ、エベレストの頂点に立つことへ導いてくれた。7年間本当にありがとうございます。
私どもJRFUは再び『RWC』を日本に誘致し、ジョセフHC、選手が言っていた優勝することを目指して強化していく。日本はそれができると確信した大会でもある。ジョセフHCが7年間かけて築いてくれた礎をもとに日本ラグビーはさらに飛躍していきたい」
ジョセフHC「たくさんのサポートをしてくれたみなさんにチームとして感謝している。選手はたくさんの犠牲を払ってやってくれた。選手たちを誇りに思う。最終的な結果は残念だが、アルゼンチン戦はタフな試合で選手たちがすべてを出し切ってくれたことを本当に誇りに思う。私は日本でたくさんのことを学んだ。コーチとして、選手として日本代表で戦ったが、ラグビーは日々変化するもの。そこで選手は日本代表で戦うことに尊重し、100%すべてを出して貢献してくれた。本当に頭の下がる思い。このリーダーたちとコーチとして関われたことをうれしく思う。また日本に戻ってきたら日本ラグビーに関わっていきたいし、日本を第2の故郷だと思っている」
主将と副将はこのように総括した。
姫野「リーチ(マイケル)さん、堀江(翔太)さん、田中フミ(史朗)さんから昔は『RWC』から帰って来ても誰もいなかったという話をたくさん聞いていた。空港にたくさんのファン、メディアがいたひとをうれしく思うし、自分たちの努力が着実に実を結んでいると思った。今回結果を残せず悔しく思う。主将として懸命にチームを導いたが、ベスト8に導けず力不足を感じる大会だった。ジョセフHCとの7年間は僕にとって貴重な時間、日本ラグビーとしても貴重な時間だった。ここまで引き上げてくれたジェイミーに感謝しているし、背中を押してくれたファンにも感謝している」
流「僕自身2度目の『RWC』、今回バイスキャプテンとして臨み、結果的に2勝2敗。自分自身ケガをしたので悔いの残る大会になったけど、チームのことは誇りに思う。少しずつ日本ラグビーが強くなってこの2大会で6勝3敗。この勝率を少しずつ上げるために何が必要か日本ラグビー全体で考えていかないといけない。ジェイミーが7年間作り上げたこのチームを本当に誇りに思う。僕自身代表を引退する気持ちに変わりはない。これまで覚悟を決めて36試合に出場し、幼い頃から努力しここまでくることができた。日本代表がどれだけつらい場所で勝った時にどれほどうれしい場所か、選手やスタッフがどれだけつらいことをしているか誰よりも理解しているので、今後は日本代表のファンとしてサポートしていきたい」
会長に退任するHC、主将と代表を退く副将、それぞれの立場から今後の課題を語った。
土田会長「(前任のエディー・)ジョーンズ、ジョセフのもと着実にチームは成長している。今回『RWC』を見て本当に変化している。ポルトガルも国を挙げて強化し始めた。世界中でどんどんレベルが上がっている中、日本のコーチ陣、スタッフ、主将、選手は世界レベルにあると思う。今回あと一歩及ばなかったが、ある意味トップ4に入る力はあるとワールドラグビーも見ている。(2019年大会後)欧州はテストマッチを進める中、南半球、とくに日本は(新型コロナウイルスによる)パンデミックの影響でテストマッチがストップしていた。岩渕(健輔)専務理事の尽力もあり、今年ハイパフォーマンスユニオンに入ることができた。来年もイングランド、オールブラックスと対戦する。ハイパフォーマンスユニオンに入ることによって、毎年レベルの高いテストマッチを組めると思っている」
ジョセフHC「今の日本のラグビーは大学のシステム、企業スポーツのシステムがある。その中で4年間かけて代表チームを作っていかないといけない。トップ8、トップ4にいくためにはしっかり準備をしていかないといけない。それは今できていないと思うし、その答えを私は持ち合わせていない。姫野が(『スーパーラグビー』の)ハイランダーズ、松島(幸太朗)が(フランス『トップ14』のAMS・)クレルモンへ行ったように海外のクラブに行くということは素晴らしいことだが、それが答えではないと思っている。彼らのようなワールドクラスのたくさん作っていくことが必要だと思うし、彼らのような人材がコーチングスタッフに入ることも必要だと思っている」
姫野「もっともっと強くなりたいという気持ちが強い。もっともっと日本代表を強くしたいという思いが強い。すごいポテンシャルがあるチームだと思う。ベスト4、優勝を目標に掲げられるチームだと思う。ベスト8を叶えられなかったが、もっともっと強くなると確信している。もっともっと強くなる環境を整えるなど、課題はたくさんがあるが、協会、ファン、選手が“ONE TEAM”になって、進めていきたい」
流「選手のがんばり、現場のがんばりはこれ以上ないほどだと思っている。テストマッチの数や日本代表が強度の高い試合を増やすシステムを作っていく中で若い選手が成長できると思う。合宿ではこれ以上できないほど選手やスタッフはがんばっているので、仕組みを変えていくところは変えないといけない。直人や(李)承信、ワーナー(・ディアンズ)のように若い選手が海外のタフな環境に身を置くというのもひとつ。若い選手は高い志を持っているので、自分の気持ちに遠慮せずにどんどん挑戦していってほしい」
ジョセフHCは7年間をこう振り返った。
「2015年南アフリカに勝ち、そこから自分たちが自国開催の『RWC』に向けてチームを成長させて結果を出すことはできたと思うので、コーチングスタッフを称えたい。今回はコロナのパンデミックによって2019年にできた勢いが消え、コーチングスタッフも日本に来られず、来日しても数週間の隔離があった。本当に選手たちは大変だったと思う。選手もコロナにかかり、難しさがあった。今年の準備はよかった。自分たちのキャパシティを増やすことができた。ナントに来てから選手を見て、本当に素晴らしい準備をできたと思った。今はフランスから帰って来て本当に悔しい。ただ私はスポーツにはおとぎ話のようなハッピーエンドはないと思っている」
7年間の一番思い出に指揮官は『RWC2019』でベスト8進出を決めたスコットランド戦を挙げた。
「自分としての一番の思い出は2019年のスコットランド戦で勝利して準々決勝に進んだこと。たくさん思い出があり、ひとつを選ぶのが難しいが、あの時台風があり試合ができるかわからない中、選手たちは被害に遭われた方々にリスペクトを持って試合に向かったことを覚えている」
今大会一番印象に残っているシーンを問われた姫野と流は?
姫野「これというのは思い浮かばないが、『RWC』は特別な舞台。一つひとつのプレーを全力で戦ったので、これというのを決めるのは難しい。選手としてプレッシャーの中でプレーしたが、今思えば楽しかった」
流「僕もプレーをひとつ選ぶのは難しい。アマト(・ファカタヴァ)のアルゼンチン戦のトライもすごすぎて言葉ができないほど素晴らしかったし、ジャック(・コーネルセン)がなかなか日の当たりないようなハードワークしてくれるからこそ日本代表のラグビーは回っていた。試合に出る出ないに関係なく、33人全員が役割を果たしたからここまで来られたと思う」
姫野は主将の重圧について明かした。
「すごく自分にとっていい経験になったというのが感想。『RWC』は本当にプレッシャーがかかる。プレッシャーに負けそうになることもあったが、僕にはジェイミー、流、仲間がたくさんいる。主将として自分が愛する桜のエンブレムを引っ張れたことは最高に栄誉なことであり光栄なこと」
さらに帝京大のふたつ上の先輩の代表引退を惜しんだ。
「めちゃくちゃ寂しい。やっぱり大学から一緒にやってきて、流大のすごいところを知っているし、悪いところを知っているし、プライベートも知っているし、全部知っている。彼がいたからがんばれた部分もある。怒られることも多かったし、気を病んでいる時は背中叩いて前へ向かせてくれた。いつも先輩後輩というより友達みたいな関係だが、一番尊敬する先輩」
流はふたつ下の主将の頼もしさを口にした。
「姫野が主将として『RWC』を引っ張ったことを誇らしいし、立派な主将だと思う」
また、流は自身のケガで急遽先発に回ったSH齋藤のパフォーマンスに太鼓判を押した。
「本当に素晴らしいプレーをしてくれたと思う。僕がケガをしたのは関係なく、彼が日本の9番としてサモア戦、アルゼンチン戦をリードしてくれた。今年のオールブラックス15とのゲームでは彼の良さである思い切りの良さが出ていないように僕は感じたので、会話を重ねてあまり考え過ぎないようにすることが大事だと話した。サモア戦は直人がこれ以上ないプレーをしてチームを勝たせてくれたのは、昔の僕ならどこかで悔しい気持ちもあったと思うが、心の底からうれしいと思ったので、心置きなく引退できる。これから本当の意味で日本を引っ張っていかないといけない。福田健太という若いSHを含めて3人で引っ張ってきたが、次の大会はふたりが引っ張ってくれることを願っている」
藤井NTDには後任人事について、質問が飛んだ。
「ほかの国のコーチのことをとやかく言うつもりない。次になった人がベストを尽くしてくれればと思う。いろんな報道があり、どこまで本当がわからないが、ただルールの中で気持ちよくHCができる人、選手もその人に付いていかないといけない。人物やふるまい、コーチひとりだけではなく、スタッフを含めてみんなで成長できる人をコンサルの方でしっかり選んでもらえると思う」
『RWC2023』はここから決勝トーナメントに突入する。10月14日(土)にプールC1位・ウエールズ×プールD2位・アルゼンチン、プールA2位・ニュージーランド×プールB1位・アイルランド、15日(日)にプールD1位・イングランド×プールC2位・フィジー、プールB2位・南アフリカ×プールA1位・フランスが激突。14日(土)の2試合は日本テレビ系、15日(日)の2試合はNHK総合にて生中継。
取材・文:碧山緒里摩