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冨田ラボ印のソウルバラードが生まれる瞬間、DAW画面を肴に美酒を味わう「即興作編曲SHOW」

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冨田ラボ「即興作編曲SHOW ~新曲レコーディング公開ライブ~」の様子。(撮影:高田真希子)

冨田ラボによるライブ「即興作編曲SHOW ~新曲レコーディング公開ライブ~」が10月6日に大阪・Billboard Live OSAKA、10月8日に神奈川・Billboard Live YOKOHAMAで行われた。このライブは冨田恵一が自宅のレコーディング環境に近いセットをステージに持ち込み、即興で楽曲を作り上げていく過程を見せるというもの。全4公演のうち、この記事ではBillboard Live YOKOHAMA公演1stステージの模様をレポートする。

ステージ上にスタジオが出現

2011年のワークスベスト「冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~」発売時に実施されたイベント「補講開放日 ~番外編~」や、2016年発売の5thアルバム「SUPERFINE」の“レコーディング初日”として行われた「冨田ラボ 即興作編曲SHOW -NEW ALBUMレコーディング初日大公開!-」など 、過去にも公の場で“ラボ”の裏側を見せるステージを展開してきた冨田。冨田ラボとしてのデビュー20周年イヤーを締めくくる企画として行われた今回の「即興作編曲SHOW」では、各ステージで新曲を1曲、ゼロから生み出す過程が披露された。ステージの中央には作業用のデスクが鎮座し、Apple製の大きなディスプレイやMac Studioなどが並ぶ。デスクの周囲を囲むようにグランドピアノやベース、ギター、キーボードが設置されており、冨田はそこへ1人で登場。食事やドリンクを味わいながらその不思議な光景を見つめる観客に向けて「どう考えても時間が足りないので、さっそく始めます。僕は何もしゃべんないでずっとやりますが、皆さんは自由に楽しんでください」と話すと、冨田はさっそくグランドピアノのほうを向いて座り、おもむろに音を奏で始めた。

冨田はメロディとコード進行を探るようにハミングしながらしばらくピアノを鳴らし、正面のディスプレイに視線を移すと、パーカッションによるリズムのループを入力。ステージ背後のスクリーンにはLogic ProのDAW画面がPCと連動して表示されており、冨田が行っている作業がリアルタイムで表示されるが、大きなディスプレイがあるため正面から冨田の表情は見えない。ループするパーカッションにキックやハイハット、スネアなどのドラムキットで肉付けし、ほんの少しBPMを落とすと、次はエレクトリックピアノで8小節分のコード付け。冨田がステージに上がってからここまでおよそ10分、ヴァース / コーラスの曲構成のうち、ヴァース部分があっという間にできあがっていく。

冨田ラボの細かすぎる打ち込みドラムプレイ

続いて冨田はマイクに向かって仮歌のレコーディングへ。8小節を行ったり来たりしながら少しずつメロディが固まると、ヴァースから展開するコーラス部分をエレピでなぞり、大まかな全体図が見えてきた様子。複雑で豊かな響きを持つ“冨田ラボ印”のコード展開で楽曲の骨子があれよあれよとできあがっていく工程を、観客はひたすら無言で見守る。コーラス展開の解決部分にたっぷり時間をかけつつ1コーラス分のコードとメロディを作り終えると、冨田は楽曲の先頭に戻り、ここからリズムセクションに細かいアクセントを入れていく。ハイハットのオープン / クローズや細かいベロシティ調整を行う過程が、カチカチと響くマウスのクリック音とともにスクリーンのDAW画面に表示される。MISIAの「Everything」や中島美嘉の「STARS」などのヒット曲でも耳にすることができる、生音さながらのリズムセクションができあがっていくさまはファン垂涎。ヴァースからコーラスへの移行でじわじわと感情を高めるようなシンバルの細かい連打には、神経質なまでにことさらたっぷりと時間がかけられた。

キックやスネア、タムなどの“オカズ”の入力を終えると、次は生演奏によるエレキベースの録音。ドラムの入力とは違い、ベースはほぼ1発OKに近い形でさくさくと進む。数回オーバーダビングを繰り返してベースラインは完成。冨田は再びDAWを操り、今度はストリングスを組み立てていく。打ち込みによる生演奏さながらのストリングスセクションも、冨田サウンドを象徴する特徴の1つ。第1・第2バイオリン、ビオラ、チェロで総勢13人を想定したストリングスセクションは、細かい数値設定で音に強弱が付き、だんだんと生演奏の肌触りに。即興で重ねられていく弦のフレーズで楽曲がどんどん華やかになっていく中、冨田は突然手を止めて立ち上がり、「お時間になりました。こんな感じでいかがでしょうか」とひと言。「これね、本当はここからストリングスがすごくいい感じに積み上がっていくのをやりたいんですけど、お時間なので……」と名残惜しそうにしつつ、「いい曲になったと僕は思うので、きっといずれリリースされるでしょう」とこの1時間強で作り上げた楽曲への自信を覗かせた。最後はこの時間内に作られた1コーラス分の楽曲を通して試聴。行きつ戻りつ重ねられた音が、2小節のイントロから16小節のヴァース、10小節のコーラスからなる美しいソウルバラードとして再生され、1つひとつの音が重ねられていくさまを目撃した観客は感嘆のこもった大きな拍手を送った。

なお今回のライブ各回で制作された楽曲は、冨田が後日さらに手を入れ、本人の解説テキスト付きデモ音源として来場者にプレゼントされる。