【オフィシャルレポート】トランスレーション・マターズ上演プロジェクト 2023『エミリア・ガロッティ/折薔薇』稽古場より
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トランスレーション・マターズ上演プロジェクト 2023『エミリア・ガロッティ/折薔薇』チラシ
戯曲翻訳家たちが集い、2021年に設立されたグループ「トランスレーション・マスターズ」。ディレクター(理事)として、小川絵梨子、小田島創志、木内宏昌、小山ゆうな、髙田曜子、常田景子、広田敦郎が名を連ねる同グループの上演プロジェクト第2弾『エミリア・ガロッティ/折薔薇(おりばら)』が10月14日(土)~26日(木)に上演される。ドイツ古典にして最初の市民悲劇と言われる『エミリア・ガロッティ』を、約130年前の森鴎外による翻訳『折薔薇』と現代語翻訳を融合させた、実験的とも言える台本で上演するという同公演の稽古場レポートが到着した。

『エミリア・ガロッティ/折薔薇』の稽古場見学に伺った。もともと、トランスレーション・マターズの活動、そして平原慎太郎さんのムーヴィングに興味があった。下調べは公演のホームページくらい、森鴎外(+トランスレーション・マターズ)の翻訳で、タイトルがかっこいいなという知識ほぼゼロの状態での参加だ。
稽古場には脚をつけた木材(「椎」と呼ばれていたよう)がいくつか置かれていた。シンプルながら味わい深い存在感。これらがセットの役割を果たす。演出の木内宏昌さんが「では○場をやります」と言うと、キャストの皆さんが全員でヨイショと動かす。場面によって執務室の壁、椅子、ベッドなどのさまざまなものとして見立てられるのが面白い。多分、古材を使っているのだろう。これが噂のグリーンプロダクション(環境に配慮した演劇作品)か! と取り組みに感心してしまう。上手と下手にはキャストたちが座るボックスが並んでいる。
稽古は冒頭の場面から始まった。ゴンザーガ(ガスタッラ公)が書記官ロータとやりとりした後、画工(画家)のコンティがやってくる。ゴンザーガはコンティが持ってきた肖像画の一枚、エミリアの美しさに夢中になり、そこからドラマが大きく展開する。コンザーガ役・村岡哲至の堂々とした品格ある佇まい、コンティ役・関根麻帆の芸術家らしい、しかしお仕えする身でもある振る舞いが見事だ。
コンザーガは「……じゃ」とクラシックな口調で、それが時代、人物の立場や雰囲気を伝えていて何とも耳に心地よい。このあたりは森鴎外訳を生かしているのだろうか? 私は言葉の響きがその時代、物語へと誘ってくれる感じが好きなので、とても楽しく台詞を聞けた。
休憩時間に、木内さんが見学者に「インタビューさせてください。言葉のゴツさは大丈夫ですか?」と、この古めかしい言い回しについて意見を求められた。特に海外物だと翻訳の時点で意味を伝えるのが先か、言葉の情感が先か、悩まれることも多いのだろう。個人的には、理屈以前の訳のわからないことを目撃できるのが演劇の魅力のひとつだと思っている。だが、観客を置いてきぼりにできない気持ちもよくわかる。そのバランスを探りながら、クリエイションは進むのだ。
休憩後は場面は飛んで、ゴンザーガに仕える書記官マリネッリと賊のアンジェロとのシーン。古河耕史さんが演じるマリネッリはゴンザーガの前にいる時とは見え方が全然違い、おやおや? そんな人物の役だったのね? となった。ここで、木内さんがアンジェロ役の荒井正樹さんに、金貨袋を掌で受け取り、それをもう片方の手でつまみながら台詞を喋るようにと新たなリクエスト。「自分と道具の関係を途切れさせないで」とも。その場で初めてやった荒井さんは何度か試みた末、見学者に「ごめんなさい」と謝ることに。芝居では凄みをきかせていた荒井さんのチャーミングな素が垣間見られた。木内さんも「僕が急に言ったから、ごめんね」と言い、場は笑いに包まれた。いやいや、誰も謝る必要ないんです。稽古場は挑戦と失敗の場。逆にナイスチャレンジ! と拍手したい気分だ。
最後は、キャスト全員による長くダイナミックなムービングのある場面。このムービングがあることで、諸々が腑に落ちる仕掛けといえるだろう。予想のつかない驚きがあり、口で言うのは簡単だけど身体で表現するのはかなり複雑に違いない。一通りやった後、木内さんが「キャスト同士でなければわからないことを話し合ってください」と、そんな時間を丁寧にとっていたのが印象的だった。
見学といっても、キャストたちと同じ場、それもかなり近い距離から観ることができる。時には感想を求められたりして参加感もたっぷり。そうか、観客も作品の一部だもの。演劇をより身近に体験できるチャンス、楽しかったし本番への期待がガッツリ高まった。
取材・文:三浦真紀
<公演情報>
トランスレーション・マターズ上演プロジェクト 2023
『エミリア・ガロッティ/折薔薇』
作: ゴットホルム・エフライム・レッシング
翻訳:森鴎外+トランスレーション・マターズ
翻案・演出:木内宏昌
ムーブメント・ディレクター:平原慎太郎
出演:
上原実矩 / 菊池夏野 / 大沼百合子 / 関根麻帆 / 森島美玖 / 高畑こと美 / 齋藤直樹 / 村岡哲至 / 古河耕史 / 荒井正樹 / 近藤隼 / 片岡正二郎
2023年10月14日(土)〜10月26日(木)
会場:東京・すみだパーク シアター倉
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/emilia-galotti-oribara/
公式サイト:
https://translation-matters.or.jp/production_01_rose.html
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